【接地・雷保護の設計マニュアル②】接地極と接地抵抗 ― 抵抗値は設計ではなく、土が決める
接地工事でいちばんよく聞く声は、たぶんこれです。「打ったけど、値が落ちない」。
図面には「D種接地 10Ω以下」と書いてある。接地棒を1本打って測ったら、80Ω。もう1本打っても、60Ωにしかならない。3本目を打つ頃には、掘削の手間も日程も、当初の見込みから完全に外れています。
このとき起きていることは、施工の失敗ではありません。接地抵抗というのは、電極の性能ではなく、その土地の性質だからです。第1回で「接地とは電位をそろえること」と書きました。今回は、その電位をそろえる相手である「大地」が、どれくらい言うことを聞かないのかという話をします。
合言葉は「抵抗値は設計ではなく、土が決める」。設計者にできるのは、土が決めた値を受け入れたうえで、どう手を打つかを事前に決めておくことだけです。
接地抵抗の正体は、電極ではなく「土」
接地抵抗計が表示している値は、次の3つの合計です。
- 接地極そのものの金属抵抗(銅・溶融亜鉛めっき鋼)
- 接地極と、それに接する土との接触抵抗
- 接地極のまわりに広がる、大地そのものの抵抗
このうち1番目は、実務上ゼロと思って構いません。2番目も、きちんと打ち込まれていれば大きくはない。値のほとんどすべては、3番目です。
そして、その大地の抵抗には特徴があります。電流は接地極から放射状に広がっていくので、電極のすぐ近くでは電流の通り道の断面積が小さく、遠ざかるほど断面積が大きくなる。断面積が小さいところほど、抵抗は大きい。つまり接地抵抗の大半は、接地極からごく近い範囲の土で発生しているということです。
この図が意味することは、実務的にかなり重要です。接地抵抗を下げたければ、電極のすぐ近くの土をどうにかするしかない。逆に言えば、遠くの土がどれだけ良質でも、電極の周囲が悪ければ値は下がりません。
だから「深さ」は効いて、「本数」は効きにくい
棒状接地極1本の抵抗は、おおよそ次のように表されます(Dwightの式)。
式を覚える必要はありません。読み取ってほしいのは、次の3点だけです。
- ρに比例する。土が悪ければ、何をしても比例して悪い。
- Lにほぼ反比例する。深さを2倍にすれば、抵抗はおおむね半分近くまで下がる。
- aはlnの中にしかいない。つまり太さを2倍にしても、数%〜十数%しか変わらない。
「太い接地棒を使えば下がるのでは」という発想が空振りするのは、このためです。効くのは深さです。
では本数はどうか。2本打てば並列だから半分——にはなりません。近くに打った2本は、お互いの「抵抗を発生させている領域」が重なるからです。この重なりを相互干渉といいます。2本並列で実際に得られるのは、おおむね0.55〜0.65倍程度。3本打っても0.4倍前後で、そこから先はどんどん鈍くなります。
本数で稼ぐなら、離隔をとることが条件になります。目安は接地極の長さの2倍以上。1.5mの接地棒なら3m以上離す。50cm横に並べて打った2本は、電気的にはほとんど1本と同じです。
土壌抵抗率という、設計者が動かせない変数
式のなかで、いちばん大きく効くのに、いちばん手が出せないのがρ(土壌抵抗率)です。単位はΩ・m。ざっくりした目安は次のとおりです。
重要なのは、この値が設計段階で調べられるということです。建築側のボーリング柱状図には、深さごとの土質が書いてあります。地下水位も書いてあります。埋立地なのか、ローム層なのか、途中から礫が出るのか。それを見れば、「1.5mの接地棒1本で10Ωはまず無理だ」という判断は、着工前にできます。
もうひとつ。ρは季節で動きます。土に含まれる水分と、その水に溶けた塩類が電気を運んでいるので、乾期は上がり、雨期は下がる。地表付近ほど振れ幅が大きく、深いところは安定しています。冬に凍結する地域では、凍結深度以下に電極を入れることが前提になります。
値が出ないときの打ち手には、順番がある
現場で困ったときに、思いつく順ではなく、効果とコストの順に手を打つ。順番はおおむね次のとおりです。最後の「目的に戻る」は、等電位ボンディングや漏電遮断器による保護まで含めて、接地に何をさせたいのかを考え直すという意味です。
3番の低減剤について補足します。低減剤は、電極のまわりの土のρを下げるものです。前半で見たとおり抵抗の大半は電極近傍で発生するので、理屈としては正しく効きます。ただし効くのは施工した範囲だけで、雨で流亡したり、経年で効果が薄れたりします。また、種類によっては電極を腐食させます。公的な評価を受けた非公害性のものを、施工要領どおりに使うのが前提です。塩や木炭を埋めるといった昔ながらの方法は、腐食と環境の両面で、今は選択肢になりません。
そして5番。これがいちばん大事です。第1回で書いたとおり、接地の目的は「電位をそろえること」であって「小さい数字を出すこと」ではありません。D種接地の規定値は、電技解釈では100Ω以下。0.5秒以内に動作する漏電遮断器を施設する場合は500Ω以下まで緩和されます。図面に書かれた「10Ω以下」は、多くの場合は法令ではなく、発注者の特記仕様です。どうしても出ないとき、その数字が何に由来しているのかを確認するのは、逃げではなく設計行為です。
構造体接地は、電気工事ではなく工程の話
建物の基礎の鉄筋を接地極として使う方法を、構造体接地(基礎接地)といいます。効く理由は単純で、面積が桁違いに大きいからです。1.5mの接地棒がせいぜい数百cm²の表面積であるのに対し、建物の基礎は数百m²の広がりを持っています。湿ったコンクリートは土壌と大差ない導電性を持つので、鉄筋がそのまま巨大な接地極になる。数Ω、条件が良ければ1Ω以下も現実的です。
問題は、これが電気工事の都合だけでは成立しないことです。鉄筋に端子を溶接して、地上まで引き出す作業は、配筋が終わってコンクリートを打つ前の、ごく短い期間にしかできません。この一点に尽きます。
- 基本設計の段階で、構造設計者に「基礎鉄筋を接地に使う」と伝えて合意を取る
- 引出し位置(受変電室、EPS、避雷設備の引下げ導線位置)を、躯体図に落とす
- 配筋検査の日程を押さえ、その前に溶接と端子出しを終わらせる
- 溶接した鉄筋の位置と本数を写真に残す(あとから確認する手段がなくなるため)
コンクリートが打たれた瞬間に、この選択肢は消えます。「あとで接地棒を打てばいい」で済ませてしまった建物が、竣工間際に値が出なくて大騒ぎになる——という流れを、何度も見ることになるはずです。構造体接地は、着工前に決めるものです。
測るときに、何を測っているのか
接地抵抗計の基本は電位降下法(3極法)です。測りたい接地極Eのほかに、電流を流すための補助極Cと、電位を拾うための補助極Pを打ちます。EとCの間に既知の電流を流し、EとPの間に現れた電圧を測って、割り算する。それだけです。
問題は、Pをどこに置くかです。Eの近くに置けば低く出るし、Cの近くに置けばCの抵抗まで拾ってしまう。正しい位置は、E-C間の約61.8%のところ——というのが、いわゆる61.8%法です。
実務では、補助極を打つ場所がないことのほうが多いはずです。舗装されている、地下に埋設物がある、敷地が狭い。そういうときにクランプ式の接地抵抗計が出てきますが、これには明確な使用条件があります。
もうひとつ、測定時に必ず問題になるのが「接地線を外すかどうか」です。正確に測るには対象の接地極を系統から切り離したいところですが、通電中の設備の接地線を外す行為には危険が伴います。外した瞬間、その機器の外箱は接地を失います。原則として停電させて行う、やむを得ない場合は他の接地が生きていることを確認するなど、手順を決めておくべき作業です。
そして記録。測定値だけでなく、測定日、天候、直近の降雨、測定方法、補助極の配置まで残します。数年後に「値が上がった」と言われたとき、比較できるのは同じ条件で測った記録だけです。
まとめ
- 接地抵抗のほとんどは、電極の性能ではなく電極のすぐ近くの土で発生している
- 効くのは深さ。太さはほとんど効かない。本数は相互干渉があるので、離隔とセットで考える
- 土壌抵抗率は着工前にボーリング柱状図で見当がつく。値が出るかどうかは設計段階で予想できる
- 下がらないときは「深く→離して増やす→低減剤→構造体・メッシュ→目的に戻る」の順に検討する
- 構造体接地は最も確実だが、コンクリート打設前にしか手が出せない。工程の問題であって、電気工事の問題ではない
- 測定は3極法が基本。クランプ式は単独接地では測れない。記録には天候と条件を添える
よくある質問
Q1. 接地抵抗低減剤は、使ってしまってよいのでしょうか?
使ってよい場面はあります。ただし「最初から当てにする」ものではなく、深打ちや離隔増設を検討したうえでの手段です。選定では、非公害性であること、電極を腐食させないこと、施工要領が明確であることを確認してください。効果は電極周囲に限られ、経年で薄れます。低減剤で規定値ぎりぎりに収めた接地は、数年後の点検で規定値を割る可能性があると考えておくのが現実的です。
Q2. 図面の「D種10Ω以下」が、どうしても出ません。
まず、その10Ωの出どころを確認してください。電技解釈が求めるD種接地の値は100Ω以下(0.5秒以内に動作する漏電遮断器を施設する場合は500Ω以下)です。10Ωという数字は、発注者の特記仕様書や社内標準に由来していることが多く、その場合は協議の対象になります。一方で、医用接地や情報通信の基準電位、雷保護など、値そのものに機能上の意味がある接地は緩められません。何のための数字かを切り分けることが先で、値を追いかけるのはそのあとです。
Q3. 接地極は結局、何本打てばよいのですか?
本数から決めるのは順番が逆です。土壌抵抗率の見当をつけ、1本あたりで何Ω出そうかを見積もり、必要な値との差を埋める方法(深さか、本数か、構造体か)を選ぶ。この順で考えると、「とりあえず3本」という見積もりが、現場でどれだけ外れるかが分かります。本数で稼ぐ場合は、接地極長さの2倍以上の離隔を確保できるかどうかを、必ず先に確認してください。
Q4. 測定するたびに値が変わります。計器の故障でしょうか?
まず疑うのは土の状態と補助極です。降雨の直後かどうか、補助極が乾いた砂利や舗装の隙間に打たれていないか、E-P-Cが一直線になっているか、近くに地中埋設の金属体や他の接地極がないか。また、電車軌道や大型設備の近くでは迷走電流の影響を受けます。計器側の設定(補助極抵抗の警告表示)も確認してください。故障を疑うのは、これらを一通り潰したあとで十分です。
次回予告
第3回は「接地の共用と分離」です。強電と弱電の接地は分けるべきなのか。医用接地はどうか。ノイズを嫌って別々に打った接地が、かえって機器を壊すことがあるのはなぜか。第1回・第2回で見てきた「電位をそろえる」「大地の抵抗は下がらない」という2つの事実が、ここで効いてきます。
合言葉は「分けるほど安全ではない」。




