技術図書館火災時のエレベーターは避難階へ帰って休む火災時管制運転の順番、自火報からの信号、非常用とほかの管制運転この資料をスライドで見る資料一覧を見る

「火事のときはエレベーターを使わないでください」。エレベーターホールでよく見る表示です。では、火災が起きた瞬間にすでに乗っている人はどうなるのでしょうか。答えは、エレベーターが自分で避難階へ帰り、戸を開けて降ろしてくれる、です。この動きを火災時管制運転といい、そのきっかけを自火報が出します。この記事では、自動火災報知設備(自火報)とエレベーターの連動について、動く順番、信号の渡し方、非常用エレベーターとの違いまで、図で1つずつ丁寧に解説します。

結論

自火報の信号を受けたエレベーターは、呼びをすべて取り消して避難階へ直行し、乗客を降ろしてから休止します。高さ31mを超える建物の非常用エレベーターは、呼び戻したあと消防隊が使います。

  • 火災のときエレベーターを使わないのは、昇降路が煙突になり、止まると閉じ込められるから
  • 一般のエレベーターの火災時管制運転は、一律の義務ではなく、仕様・指導で採用を決める
  • 信号は受信機の移報接点から、中継リレーで全号機へ。どの段階の信号で動かすかを決める
  • 非常用エレベーターは、呼び戻し装置で避難階へ戻し、消防隊が消防運転で使う
自火報の受信機から移報信号がエレベーター制御盤に渡り、かごが呼びを取り消して避難階へ直行し、戸を開けて降ろしたあと休止する流れと、非常用エレベーターの呼び戻し、防災センターの表示を示した全体像
自火報の信号で、エレベーターは避難階へ帰って休みます。

使わない理由 ― 昇降路は「煙突」

火災のときエレベーターを使わない理由として、昇降路が煙突になること、止まると閉じ込められること、火災の階で戸が開くおそれがあることの3つと、回送バスのたとえを示した図
火災のときにエレベーターを使わない3つの理由。

エレベーターの昇降路は、建物をたてに貫く長いシャフトです。火災の煙は上へのぼるので、昇降路はそのまま煙突になりやすい場所です。さらに、停電や故障でかごが止まれば、乗っている人は閉じ込められてしまいます。火災の階で戸が開けば、煙と炎の中に出てしまうおそれもあります。

そこで、火災の信号を受けたエレベーターは、回送バスのように動きます。乗っている人を終点(避難階)で全員降ろし、「回送」の表示を出して、あとは誰も乗せません。

📘 一般のエレベーターの火災時管制運転は「一律の義務」ではない

高さ31mを超える建物の非常用エレベーター建築基準法で設置が求められますが、一般のエレベーターの火災時管制運転は、法令で一律に義務づけられた機能ではありません。公共建築の標準仕様や所轄の指導、建物の防災計画をふまえて採用を決めるのが一般的です。実際には、多くの建物で自火報と連動させています。

ここまでのポイント
  • 昇降路は煙突になりやすく、止まると閉じ込められる
  • 火災時管制運転は「回送バス」。乗客を避難階で降ろし、あとは休止
  • 一般のエレベーターの火災時管制運転は、仕様・指導で採用を決める

動く順番 ― 避難階へ帰って休むまで

6階建ての建物で3階から出火したとき、5階にいたかごが途中の呼びを取り消して1階の避難階へノンストップで下り、戸を開けて乗客を降ろしたあと戸を閉めて休止し、防災センターに表示されるまでを示した動く図解
動く図解:途中の呼びには止まらず、避難階へまっすぐ帰ります。

火災時管制運転は、次の順番で動きます。細かな動きはメーカーや機種で少しずつ違いますが、流れは共通です。

  1. 自火報が火災を判断:受信機から、エレベーターの制御盤に火災の信号が入る
  2. 呼びをすべて取り消す:乗り場のボタンも、かごの中の行き先ボタンも受け付けなくなる
  3. 避難階へノンストップ:途中の階には止まらずに避難階へ向かう。避難階と反対向きに走っていたかごは、多くの機種で最寄りの階に戸を開けずに止まり、向きを変えて避難階へ向かう
  4. 戸を開けて降ろす:避難階に着いたら戸を開け、乗っている人に降りてもらう
  5. 休止する:一定の時間がたったら戸を閉めて休止する(戸を開けたまま待機する設定もある)
ペン太ペン太
避難階の1階が火事だったら、どうなるんですか?
ハリタハリタ
そのまま1階に帰ったら、かえって危ないですよね。機種によっては、避難階とは別の「第2の帰着階」を設定できるものがあります。どの階を避難階にするか、火災の階が避難階のときにどうするかは、エレベーターのメーカーと設計の段階で決めておきます。
ここまでのポイント
  • 呼びを取り消し、避難階へノンストップ
  • 戸を開けて乗客を降ろし、そのあと休止
  • 避難階の決め方と、避難階が火災のときの扱いを決めておく


信号の渡し方 ― どの信号で、何台に、どう渡すか

自火報の受信機から移報信号を中継リレーで分け、1号機から3号機の制御盤に無電圧接点で渡す構成と、感知器1つの作動・火災の確認後・手動のどの段階で動かすかを比べた図
信号は中継リレーで分けて、すべての号機に渡します。

エレベーターへの信号は、自火報の受信機の移報接点(無電圧の接点)から渡すのが一般的です。号機が複数あるときは、中継リレーで分けて、すべての号機の制御盤に届くようにします。エレベーターのメーカーの資料では、火災のときに閉じる無電圧の接点(DC24V・0.1A程度)を求める例があります。接点の仕様は、メーカーと必ず合わせます。

どの段階で動かすか よいところ 気をつけるところ
感知器1つの作動で 早く避難階へ帰せる 誤報のたびにエレベーターが止まる
火災と確認・断定されてから 誤報で止まりにくい 動き出しが少し遅れる
手動(管制スイッチ) 防災センターの判断で動かせる 人がいないと動かない。自動と併用することが多い
一般的な計画の例。建物の使い方と所轄の指導をふまえて、設計の段階で決める

非常放送の「感知器発報放送」と「火災放送」の切り替えと同じように、どの段階の信号を使うかを決めて、連動表に書いておくことが大切です。

ここまでのポイント
  • 受信機の移報接点から、中継リレーで全号機へ
  • 接点の仕様はエレベーターのメーカーと合わせる
  • 感知器1つか、確認後か、手動か。動かす段階を連動表に書く

非常用エレベーター ― 呼び戻して、消防隊が使う

一般のエレベーターの火災時管制運転と、非常用エレベーターの呼び戻しと消防運転について、目的・動き・きっかけ・法令を左右に比べた図
一般のエレベーターは「降ろして休む」、非常用エレベーターは「呼び戻して消防隊が使う」。

高さ31mを超える建物には、非常用エレベーターの設置が求められます(建築基準法34条、施行令129条の13の2)。はしご車が届かない高さで、消防隊が消火や救助の拠点へ上がるためのエレベーターです。

しくみ 内容
呼び戻し装置 避難階や中央管理室から、かごを避難階へ呼び戻す
消防運転 消防隊がかごの中のスイッチで切り替えて運転する。戸の開け閉めを消防隊が操作できる
乗降ロビー 各階に、煙から守られた乗降ロビーを設ける(1基あたり10m²以上)
連絡と電源 かごの中と中央管理室を結ぶ電話、停電しても動かせる予備電源
建築基準法施行令129条の13の3をもとに作成。細部は機種と所轄の指導で確認する

ふだんは一般のエレベーターとして使われていることが多く、火災のときは、まず避難階へ呼び戻して一般の人を降ろし、それから消防隊に引き渡します。一般の人が避難に使うためのエレベーターではないという点が大切です。

ここまでのポイント
  • 高さ31m超の建物には非常用エレベーター
  • 呼び戻し装置で避難階へ戻し、消防隊が消防運転で使う
  • 一般の人の避難用ではない


ほかの管制運転 ― 地震・停電との関係

エレベーターには、火災のほかにも「いつもと違う運転」をするしくみがあります。どれも「安全な階で降ろす」ことが目的ですが、きっかけと信号の出どころが違います。

管制運転 きっかけ 動き 信号の出どころ
火災時管制運転 火災の信号 避難階へ直行して休止 自火報の受信機・管制スイッチ
地震時管制運転 地震の揺れ 最寄りの階に止めて戸を開ける エレベーターの地震感知器(建基令129条の10)
停電時自家発管制運転 停電して発電機に切り替わった 号機ごとに順番に最寄り階などへ運転する 発電機の運転信号・受変電設備
一般的な機能の例。細部と優先順位は機種で異なる

火災と停電が同時に起きることもあります。そのとき、どの運転を優先するか、発電機の容量でどの号機を動かすかは、機種と設定で決まります。電気設計では、発電機の運転信号と火災の信号の両方がエレベーターに届いているかを確認します。防災センターでの表示と操作は「建築消防|総合操作盤はいつ義務になるか|規則12条1項8号のイ・ロ・ハと2つの告示」で整理しています。

ここまでのポイント
  • 火災・地震・停電で、それぞれ管制運転がある
  • 地震時管制は建基令129条の10、火災は自火報、停電は発電機の信号
  • 同時に起きたときの優先順位は、機種と設定で確認

試験と点検 ― 帰る・止まる・戻るを確かめる

全号機が動くか、呼びの取り消し、帰着と休止、非常用エレベーター、表示、復帰の6つの確認ポイントを並べた図
竣工前の連動試験と定期点検で確かめる6つのポイント。
  • 全号機が動くか:すべての号機に信号が届き、避難階へ帰るか。増設した号機に信号がつながっていないことがある
  • 呼びの取り消し:途中の階の呼びや、かごの中の行き先ボタンに反応しないか
  • 帰着と休止:避難階で戸が開き、設定どおりに閉まって休止するか
  • 非常用エレベーター:呼び戻し装置、消防運転、中央管理室との連絡電話
  • 表示:防災センターに、管制運転中・帰着が表示されるか
  • 復帰:自火報の復旧と、エレベーター側の解除操作の手順がわかっているか

⚠️ 自火報の点検で、エレベーターが止まってしまう

自火報の点検で感知器を作動させると、連動を切っていなければエレベーターが避難階に帰って休止します。点検の前に、エレベーターへの移報を止めておくか、利用者に知らせておきます。終わったら移報を必ず元に戻し、エレベーターを復帰させます。エレベーター自体の定期検査(建築基準法12条)は、自火報の点検とは別に行われます。

ここまでのポイント
  • 全号機に信号が届き、避難階へ帰るか
  • 非常用エレベーターの呼び戻し・消防運転・連絡電話
  • 点検のときは移報を止め、終わったら必ず戻す


よくある質問

エレベーターの火災時管制運転とは何ですか?

自動火災報知設備などから火災の信号を受けると、エレベーターがすべての呼びを取り消して避難階へノンストップで戻り、戸を開けて乗っている人を降ろしたあと、運転を休止する機能です。火災のときにかごが火災の階で止まったり、人が乗ったまま閉じ込められたりするのを防ぎます。

火災時管制運転は法律で義務づけられていますか?

一般のエレベーターの火災時管制運転は、建築基準法で一律に義務づけられた機能ではありません。公共建築の標準仕様や所轄の指導、建物の防災計画をふまえて採用を決めるのが一般的です。一方、高さ31mを超える建物には、消防隊が使う非常用エレベーターの設置が建築基準法で求められています。

自火報からエレベーターへは、どんな信号を送りますか?

受信機の移報接点(無電圧の接点)から、中継リレーを通して各号機の制御盤に火災の信号を送るのが一般的です。感知器1つの作動で動かすか、火災と確認されてから動かすかは、建物ごとに設計の段階で決めて連動表に書いておきます。接点の仕様はエレベーターのメーカーと合わせます。

非常用エレベーターは火災のときどう動きますか?

避難階や中央管理室にある呼び戻し装置でかごを避難階に呼び戻し、そのあと消防隊がかごの中のスイッチで消防運転に切り替えて、消火や救助に使います。一般の人が避難に使うためのエレベーターではありません。

火災時管制運転のあと、エレベーターはどう復帰させますか?

自動火災報知設備の火災信号を復旧させたうえで、エレベーター側でも管制運転を解除する操作が必要になるのが一般的です。安全を確認してから、管理者や保守会社の手順に沿って復帰させます。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。