【照明設備の設計マニュアル⑥・最終回】非常照明・誘導灯 ― 建築基準法と消防法の二本立て
こんにちは、HARITAの設計室です。連載「照明設備の設計マニュアル」もいよいよ最終回、第6回は非常照明・誘導灯。第5回までで、ふだんの明るさは完成しました。残るは電気が止まったときの明るさです。
ここで多くの人が混乱します。非常照明と誘導灯。名前も見た目も似ていますが、根拠になる法律が違い、目的も違います。今回の合言葉は「非常照明は“歩くため”、誘導灯は“向かうため”」。この一言で、2つは二度と混ざりません。
今回の全体像 ― 別の法律の、別の設備
非常照明は建築基準法の設備で、停電した建物のなかを人が歩けるようにするためのもの。誘導灯は消防法の設備で、どちらへ行けば出口かを示すためのものです。前者は光そのものが仕事、後者は見せることが仕事。役割が違うので、片方があればもう片方が要らない、ということにはなりません。
① 非常照明 ― 逃げるための明るさ
非常照明は、居室と避難経路を途切れない一本の道として照らします。居室から廊下へ、廊下から階段へ、階段から屋外へ。どこかが暗いと、そこで人が止まります。
ここで大事なのが「床面での照度」だという点です。第1回で扱った一般照明は机上(作業面)で測りますが、非常照明は床。逃げるときに足元が見えるかどうかの話だからです。求められる照度は光源の種類でも変わり、予備電源で点灯し続ける時間にも決まりがあります。数値と適用範囲は法令・告示で規定されているので、案件ごとに必ず原典と特記仕様書で確認してください。
そして忘れてはいけないのが免除規定です。すべての居室に必要なわけではなく、条件に当てはまれば設置しなくてよい場合があります。最初に効くのが「そもそもここは居室か」という判断。「居室」とは?建築基準法の定義と非居室との違い と 非常用照明の免除規定まとめ をセットで確認するのが早道です。台数と配置の考え方は 非常照明の照度計算と器具配置|必要台数の求め方 にまとめてあります。
② 電源の取り方 ― 電池内蔵形と電源別置形
非常照明は停電時に点かなければ意味がありません。そのための電源をどこに持つかで、2つの方式に分かれます。
電池内蔵形は器具ひとつひとつが電池を持つ方式。配線が単純で、あとから追加するのも容易です。小〜中規模の建物ではこちらが主流でしょう。ただし電池には寿命があり、台数ぶんだけ交換作業が発生します。
電源別置形は蓄電池設備を1か所にまとめ、そこから各器具へ送る方式。電池の管理が一元化できるので、灯数の多い大規模建物で有利です。そのかわり、蓄電池設備から器具までは耐火配線が必要になり、ルート計画が一気に重くなります。
2方式の比較は 非常用照明の「電池内蔵型」と「電源別置型」って何が違うの?、耐火配線を含む大規模建物での配線計画は 電源別置形と耐火配線|大規模建物の非常照明はどう配線する? をどうぞ。選ぶ基準は規模だけでなく、20年後に誰が電池を替えるかまで含めて考えてください。
③ 回路の取り方 ― 消えない位置から取る
ここが実務でいちばん間違えやすいところです。非常照明は「停電時に点くこと」だけでなく、ふだん誰にも消されないことが条件です。
一般照明のスイッチの二次側から電源を取ると、そのスイッチを切った瞬間に非常照明も消えます。停電していなくても消えている状態 ― これでは設備として成立しません。スイッチを通さない専用回路で、分電盤から直接取るのが原則です。
分電盤のどこにつなぐか、NG例も含めた具体は 非常照明の回路は分電盤のどこにつける?取り方とNG例 にまとめてあります。第5回で「屋外灯・非常照明は専用回路にする」と書いたのは、この理由です。
④ 誘導灯 ― 出口の方向を示す
誘導灯は消防法の設備です。緑と白のピクトグラムで、避難口の位置と、そこへ向かう方向を示します。非常照明と違ってふだんから点いているのが特徴です。見えていなければ意味がないからです。
設計上の勘所は「見通し」です。曲がり角の先が見えない、垂れ壁や什器で隠れる、扉を開けると陰に入る ― こうした場所は、図面の上では気づきにくく、現場で気づきます。第2回でやった天井の取り合いと同じで、他の設備や意匠と干渉していないかを平面と断面の両方で確認してください。
区分(大きさの等級)と設置場所は、建物の用途と規模で決まります。判断が分かれる部分もあるので、所轄消防への確認が前提だと考えてください。避難する側から見た誘導灯の読み方は 停電の暗闇であわてない「誘導灯」の見方と逃げ方 が分かりやすく、技術的な補足として施主説明にも使えます。
⑤ 連載の総まとめ ― 照明設計の6ステップ
全6回で歩いてきた道を、1枚に畳んでおきます。次の案件で照明の計画を始めるとき、この順番で手を動かせば抜けは起きません。
各ステップの詳細は、第1回 全体フローと必要照度/第2回 照度計算と器具配置/第3回 器具の選定/第4回 点滅回路とスイッチ計画/第5回 回路分割と分電盤 に戻ってご確認ください。
まとめ
- 非常照明は建築基準法、誘導灯は消防法。根拠も目的も別。どちらかで代替はできない
- 非常照明は居室と避難経路を途切れなく。照度は「床面」で見る
- 免除規定がある。まず「ここは居室か」を確認する
- 電源は電池内蔵形と電源別置形。規模と維持管理の体制で選ぶ
- 回路はスイッチを通さない専用回路で。ふだん消されない位置から取る
- 誘導灯は見通しがすべて。垂れ壁・什器・扉との干渉を平面と断面で確認する
よくある質問
Q1. 誘導灯があれば、非常照明は不要ですか?
A. なりません。目的が違うからです。誘導灯は「出口はあちら」と示すもので、床を照らして歩けるようにするものではありません。方向が分かっても、足元が見えなければ人は進めません。根拠となる法律も別なので、それぞれの基準で判断してください。
Q2. 非常用兼用形の器具を使えば、台数を減らせますか?
A. 天井はすっきりしますし、器具の数としては減ります。ただし兼用形は非常照明としての要件を満たす配置にしなければならないので、一般照明の都合だけで位置を決められなくなります。第3回で触れたとおり、兼用にするなら配置の段階から非常時のことを考えておく必要があります。
Q3. 改修工事で、既存の非常照明はどこまで手を入れるべきですか?
A. 改修範囲と法令の適用がどうなるかで変わるため、一律の答えはありません。ただ実務としては、まず既存の設置状況と電池の状態を確認するのが先です。器具が生きていても電池が寿命を超えていれば、非常時には点きません。図面上は「既存」でも、現地では機能していないことがあります。
連載を終えて
全6回、おつかれさまでした。照明は、建物のなかでいちばん人に近い設備です。使う人が意識しないくらい自然に明るくて、いざというときにちゃんと逃げ道を照らす。そこまで通して考えられる人が、いい照明設計者だと思います。
他の工事項目の計画ステップは、ハブページ 設計・施工マニュアル にまとめてあります。すでに コンセント設備の設計マニュアル(全6回) と 高圧受変電設備の設計マニュアル が完結していますので、次はそちらへ進んでみてください。
今後は、ハブの「(準備中)」に残っている電力会社との協議・申込み、医用接地などの特殊な接地、LAN・テレビ共聴・放送設備を順に埋めていく予定です。次に連載として取り上げてほしいテーマがあれば、ぜひ教えてください。





