本連載は、ふだんは電気設備の設計・施工に携わるプロが、「家の電気の防災」を暮らし目線でやさしく解説するシリーズです。

地震の火事、いちばんの火元は「電気」でした

地震のあとの火事というと、倒れたストーブやガスコンロを思い浮かべる方が多いと思います。ところが実際の統計を見ると、意外な事実がわかります。

内閣官房・内閣府の資料によると、阪神・淡路大震災では、原因が特定できた地震火災139件のうち85件(約6割)が電気に起因する火災でした。東日本大震災でも、108件のうち58件(約5割強)が電気が原因です。

地震のあとの火災の約6割は電気が原因。阪神・淡路大震災では139件中85件(61%)、東日本大震災では108件中58件(54%)が電気に起因した火災であることを示す帯グラフ

ガスは地震を感知すると自動でメーターが止まる仕組み(マイコンメーター)が普及した一方で、電気は長らく「揺れたら自動で止める」仕組みが家庭にありませんでした。その結果、いま大地震の火災対策でいちばん重要なのは「電気の火元」を断つことになっています。

「通電火災」― 停電が復旧した“あと”に起こる火事

電気火災の中でも特に怖いのが通電火災です。流れはこうです。

  1. 大きな地震で停電する。電気ストーブが倒れたり、家具の下敷きでコードが傷ついたりする
  2. 住人は避難所へ。家は無人になる
  3. 数時間〜数日後、電力会社の復旧作業で電気が戻る
  4. 倒れたままのストーブや傷んだ配線に通電し、誰もいない家から出火する

「揺れの直後」ではなく「電気が戻った瞬間」に、しかも留守中に起こる。消火する人がいないため延焼しやすい――これが通電火災の恐ろしさで、阪神・淡路大震災で大きな被害を出した火災の一因とされています。

通電火災が起こるまでの4段階の図解。1 大地震で停電、2 避難して無人に、3 数時間から数日後に電気が復旧、4 誰もいない家から出火

今日からできる対策は、たったひとつ

道具を何も買わなくても、今日からできる対策があります。

避難するときは、ブレーカーを落としてから家を出る。

分電盤(ブレーカーの箱)のいちばん大きなつまみ(アンペアブレーカーまたは主幹ブレーカー)を「切」にするだけです。これで家の中の電気がすべて止まり、通電火災の火元を断てます。家族全員が分電盤の場所と操作を知っているか、一度確認してみてください。

家庭の分電盤の図解。避難するときは主幹ブレーカー(アンペアブレーカー)のいちばん大きなつまみを切にしてから避難する

ただし実際の地震では、揺れの中でブレーカーまでたどり着けない、避難を急いでいて忘れてしまう、ということが十分起こりえます。そこで登場するのが「感震ブレーカー」です。

感震ブレーカー ― 揺れたら自動で電気を止める装置

感震ブレーカーは、強い揺れ(震度5強相当以上が目安)を感知すると、自動的に電気を止めてくれる装置です。「ガスの自動遮断の電気版」と考えるとイメージしやすいと思います。タイプは大きく4つあります。

感震ブレーカーの4タイプの図解。分電盤タイプ内蔵型は約5〜8万円で電気工事が必要、後付型は約2万円で電気工事が必要、コンセントタイプは約5千〜2万円、簡易タイプは約3〜4千円で工事不要
タイプ価格の目安工事特徴
分電盤タイプ(内蔵型)約5〜8万円必要分電盤ごと交換。家全体を確実に遮断
分電盤タイプ(後付型)約2万円必要いまの分電盤に感震機能を追加
コンセントタイプ約5千〜2万円製品による電気ストーブなど特定の機器だけ遮断
簡易タイプ約3〜4千円不要おもり玉やバネでブレーカーを物理的に「切」に

まず手軽に始めるなら、工事不要で数千円の簡易タイプ。確実性を求めるなら分電盤タイプがおすすめです。国の試算では、感震ブレーカーの設置率が100%になれば、大規模地震の火災による焼失棟数を5割減らせるとされています。それほど効果が大きい、費用対効果の高い防災グッズです。

なお、多くの自治体が感震ブレーカーの購入・設置に補助金を出しています(数千円〜数万円程度、自治体により異なります)。「お住まいの市区町村名+感震ブレーカー 補助金」で検索してみてください。

設置するときの注意点

ひとつだけ注意があります。感震ブレーカーは「夜間の地震で照明も消える」「医療機器も止まる」という側面があります。在宅医療機器を使っているご家庭は主治医や機器メーカーに相談を、またどのご家庭も足元灯や懐中電灯とセットで備えるのが基本です。この「停電したあとの明かりと電源」については、次回くわしく解説します。

まとめ ― 第1回の持ち帰りポイント

  • 地震火災の5〜6割は電気が原因。ガスより電気への備えが手薄になりがち
  • 通電火災は停電復旧後、留守中の家から出火する
  • 今日できること:避難時にブレーカーを落とす。家族で分電盤の場所を確認
  • 数千円から備えられる感震ブレーカーを検討。自治体の補助金もチェック

この連載の予定(第2回以降)

  • 第2回:停電に備える「明かりと電源」― モバイルバッテリー・ポータブル電源の選び方
  • 第3回:停電で困るもの第1位、冷蔵庫とスマホをどう守るか
  • 第4回:停電の暗闇であわてない「誘導灯」の見方と逃げ方(外出先編)
  • 第5回:太陽光発電・蓄電池・EVは災害時にどこまで頼れる?
  • 第6回:わが家の分電盤を知ろう ― ブレーカーが落ちる仕組みと復旧のしかた

(内容・順序は変更になる場合があります)

参考資料:内閣官房「大規模地震時における火災の発生状況」/大阪府「密集市街地における感震ブレーカーの設置促進について」/経済産業省「感震ブレーカーの普及啓発」