📚 この記事は連載「図解&会話で学ぶ 電気設備設計の基礎」の1本です。→ 全カリキュラム(目次)はこちら

こんにちは、HARITAの設計室です。前回(第7回)は電柱からコンセントまでの「電気の流れ1枚図」を手に入れました。今回はその旅の最初の関門、①引込 → ②受変電の区間をぐっとズームインします。

主役はあの金属の箱、キュービクル。「開けたら何が入ってるのか」「そもそもなぜ変圧するのか」を、図解と会話で一気に片づけましょう。

ペンタ

先輩、屋上のキュービクルって近くで見ると結構大きいですよね。あの中、何がどう並んでるんですか?
はりた

いい着眼点。実はキュービクルの中身は電気が通る順番に並んでるんだ。だから配置じゃなくて“旅の順路”で覚えるのが正解。図で見てみよう。

キュービクルの中身は「通る順番」で覚える

キュービクル内部の機器を電気が通る順番に紹介するアニメ図
【図1】キュービクルの中身を旅する。黄色い枠が順路どおりに移動していく(GIFアニメ)
ペンタ

PAS…VCT…VCB…。3文字の暗号が多すぎます…。
はりた

最初はみんなそう言う(笑)。役割で訳せば簡単だよ。PAS=門番、VCT=料金メーター、断路器=縁切り用、VCB=本気のスイッチ、変圧器=主役。この5つだけでキュービクルの会話は8割ついていける。
ペンタ

スイッチが2種類あるのはなんでですか?断路器とVCB、どっちかでよくないですか?
はりた

鋭い!役割が違うんだ。断路器は「電気が流れていない状態で」切り離す縁切り専用。点検のとき「確実に切れてます」を目で見せるためのもの。一方VCB(真空遮断器)は短絡事故の大電流でも断ち切れる本気のスイッチ。日常のON/OFFと事故時の遮断はVCBの仕事だよ。

なぜ変圧する?― 高圧受電と低圧受電の分かれ目

「そもそも、なんで6,600Vなんて高い電圧で受け取るの?」。その答えが、契約電力50kWを境にした2つの受電方式です。

高圧受電と低圧受電を左右で色分け比較するアニメ図
【図2】高圧受電と低圧受電。分かれ目は契約電力50kW(GIFアニメ)
ペンタ

うちの実家(戸建て)にキュービクルがないのは、電柱の上の変圧器が代わりにやってくれてるからなんですね。
はりた

その通り。低圧受電は変圧を電力会社まかせにできる“手ぶらプラン”。でも50kW以上使う建物は高圧受電になって、変圧を自前でやるかわりに電力量単価が安くなる。太く仕入れるほど卸値が下がる、と考えると分かりやすいよ。
ペンタ

じゃあ受電方式って、設計の最初のほうで決まっちゃうんですか?
はりた

そう、超重要ポイント。負荷を合計して契約電力を見積もり、50kWを超えそうかを判断するのが受電設計の第一歩。ここで方式が決まると、キュービクルの要否・電気室のスペース・主任技術者の選任まで、建物計画そのものに響くんだ。

💼 実務でこう生きる

📋 実務活用事例:受電方式の一次判断
2階建てクリニックの新築計画。照明・コンセント20kW+空調25kW+医療機器10kW=約55kW。50kWをわずかに超えるため高圧受電が視野に入りますが、キュービクル設置費(数百万円規模)と保安管理費(月数万円)が発生します。
空調の容量を見直して50kW未満に収める案と高圧受電案の2案を比較提示。この「境目の攻防」ができるのは流れを理解している設計者だけです。
📋 実務活用事例:客先からの「電気足りる?」相談
「テナントに厨房機器を入れたい。電気は足りる?」という相談。まず受電方式と契約電力を確認→高圧受電なら変圧器の余裕を、低圧受電なら契約容量の上限(50kWの壁)をチェック。どの階層で詰まるかを順に見るだけで、一次回答が数分でできます。

🐣 いまさら聞けない素朴なギモン

🐣 キュービクルはなんで屋上や駐車場の隅にあるの?
決まりで場所が固定されているわけではなく、①重い機器を搬入できる、②電力会社の引込に近い、③点検スペースが取れる、④浸水しにくい、を満たす場所が選ばれます。屋上・1階外構・電気室が三大定番。設計では搬入経路(クレーンで吊れるか)まで考えるのがプロです。
🐣 変圧器から「ブーン」って音がするのはなぜ?故障?
正常な音です。鉄心が磁化のたびにわずかに伸び縮みする「磁歪(じわい)」などで、電源周波数に応じたうなり音が出ます。ただし「いつもより明らかに大きい・音色が変わった」は異常のサインなので、気づいたら主任技術者に報告しましょう。

🔎 深掘りQ&A ― 会話だから、もっと分かる

先輩への追い質問で、理解をもう一段深めます。

🔎 「PASって門番以外に何をしてるんですか?」と聞いてみた
はりた「一番大事な仕事は波及事故の防止。構内で地絡事故が起きたとき、PASが自動で切れて建物を切り離す。これがないと事故が配電線に波及して、街ごと停電になる。だからPASは“ご近所に迷惑をかけないための装置”とも言えるね」
🔎 「変圧器が2台あるのはなぜですか?」と聞いてみた
はりた「照明・コンセント用(単相3線 105/210V)と、動力用(三相3線 210V)で分けるのが定番構成だから。第2回でやった単相と三相がここで再登場だ。盤の名前も電灯盤・動力盤と分かれていくよ」
🔎 「50kWギリギリのときはどう判断するんですか?」と聞いてみた
はりた「イニシャル(キュービクル設置費)とランニング(単価差・保安管理費)を並べて、何年で逆転するか試算する。それと将来の増設予定。“今ギリギリ低圧”は、増設したら受電方式ごと作り直しになるリスクがあるから、将来計画まで聞くのが正解」

⚠️ 新人がやりがちな注意ポイント

  • キュービクルの扉を開けない・機器に触れない:内部は高圧充電部。点検・操作は電気主任技術者の領域です。
  • 「今の負荷」だけで受電方式を決めない:将来の増設・テナント変更まで確認してから容量を決める癖を。
  • 設置スペースと搬入経路を後回しにしない:変圧器は数百kg〜数トン。図面上は置けても搬入できない事故は実在します。

まとめ ― 今日の1枚

  • キュービクルの中身はPAS→VCT→断路器→VCB→変圧器→低圧側の順路で覚える。
  • 断路器は縁切り専用、VCBは事故電流も切れる本気のスイッチ。役割が違う。
  • 受電方式の分かれ目は契約電力50kW。高圧は単価が安いが設備と保安は自分持ち。
  • PASが責任分界点。構内事故を街に波及させないための門番。

次回・第9回は、変圧された電気の続きの旅。幹線・分電盤・回路のきほんを、盤の中身を展開する“ツリー図”で見ていきます。お楽しみに!