この回は、第三次判断基準の解説記事でほとんど触れられていない話です。「省エネ機に替えたのに、キュービクル内の発熱が増える」。直感に反しますが、メーカーのカタログ値を素直に足し算すると、はっきりそうなる容量帯があります。換気設計をこれまでどおりの前提でやると成立しません。

ペンタ

ペンタ(新人)
省エネ性能が上がったんだから、発熱も減りますよね? 換気扇はそのままでいいはず……
はりた

はりた
そこが罠。省エネの評価は「基準負荷率40%の損失」、換気の設計は「負荷率100%の損失」見ている点がまったく違うんだ。

まず、2つの「損失」を区別する

省エネ性能の評価 E = Wi + (40/100)² × Wc = Wi + 0.16×Wc (500kVA以下の場合)
換気設計の熱源 発熱量 = Wi + 1.00×Wc (負荷率100%で選定するのが実務の標準)

負荷損 Wc の重みが 0.16 対 1.00。同じ変圧器でも、この2つはまったく別の指標です。

つまり、無負荷損 Wi を大きく下げて、負荷損 Wc を増やす設計をすると、省エネ評価は良くなるのに、全負荷時の発熱は増えます。そして第三次では、まさにそういう設計が採用された容量帯があります。

実例|三相500kVA(区分3-3)で起きていること

ダイヘンのカタログ値(三相6kV-210V・50Hz)を並べます。

無負荷損 Wi 負荷損 Wc
第二次(TOP ECO Ⅱ) 580 W 3,915 W
第三次(TOP ECO Ⅲ) 156 W 5,599 W
変化 −73% +43%

表① 三相500kVA・50Hz の損失内訳/出典:ダイヘン TOP ECO Ⅱ/TOP ECO Ⅲ カタログ

無負荷損を約4分の1に激減させる代わりに、負荷損を4割増やしています。この設計が、負荷率によって評価をひっくり返します。

負荷率 第二次の全損失 第三次の全損失
20% 737 W 380 W −357 W(大幅改善)
40%(基準負荷率) 1,206 W 1,052 W −154 W(改善)
約50.2% 1,564 W 1,564 W ±0(損益分岐)
60% 1,989 W 2,172 W +183 W(悪化)
80% 3,086 W 3,739 W +653 W(悪化)
100%(全負荷=発熱) 4,495 W 5,755 W +1,260 W(+28%)

表② 負荷率別の全損失(当サイトによる計算:E=Wi+(m/100)²×Wc にカタログ値を代入)

損益分岐となる負荷率の求め方

Wi₁+m²Wc₁ = Wi₂+m²Wc₂ を m について解くと

m = √{ (Wi₁−Wi₂) / (Wc₂−Wc₁) } = √{ (580−156) / (5599−3915) } = √0.2518 ≒ 0.502

つまり負荷率50.2%を超えると、第三次機のほうが損失が大きくなる。この式は他の容量・他メーカーでも同じように使えます。

ペンタ

ペンタ(新人)
待ってください。それって省エネにならないってことじゃ……
はりた

はりた
負荷率次第、というのが正解。変圧器は年間8,760時間ずっと通電しているから、軽負荷の時間が長い設備では圧倒的に有利。ビルや商業施設のように負荷率20〜40%で回っている物件なら、この設計は大正解なんだ。でも常時60%以上で回る工場なら話は別。JEMAが「使用する負荷率での省エネ計算をお勧めします」と言っているのは、まさにこのことだよ。

なぜこの容量だけ極端なのか|アモルファス鉄心

無負荷損を156Wまで下げられる理由は、鉄心材料です。東芝産業機器システムの2026トップランナー変圧器 油入変圧器Sシリーズのカタログを見ると、三相500kVAの形式記号は HCTR-AM となっており、同カタログの凡例で AM=アモルファス鉄心 と定義されています。

ただし東芝のカタログは「*三相500kVAのみ」と明記しています。Sシリーズ全体がアモルファスというわけではありません。アモルファス鉄心はヒステリシス損・渦電流損が小さく無負荷損を劇的に下げられる一方、飽和磁束密度が低いため鉄心断面が大きくなりやすく、寸法・質量・価格は増える方向です。どの容量に採用されているかは、必ず形式記号とカタログの凡例で確認してください。

換気設計はどう変わるか

キュービクルの換気計算は、一般にJSIA-T1016(日本配電制御システム工業会規格)に基づき、周囲温度31℃・負荷率100%で換気扇を選定します。ここに表②の「+28%」が直撃します。

東和電機工業が公表している、第三次対応の発熱量と換気扇台数の目安(三相200V・油入・4社最大値ベース)を示します。

定格容量 TR発熱量 換気扇 盤 W×D×H (mm) 盤重量
100kVA 1,255 W φ300×1台 1300×2000×2300 1,900 kg
150kVA 1,717 W φ300×1台 1400×2000×2300 2,200 kg
200kVA 2,309 W φ300×1台 1400×2100×2300 2,300 kg
300kVA 4,056 W φ300×2台 (1500+α)×2100×2300 2,800 kg
500kVA 5,880 W φ300×2台 (1700+α)×2300×2300 3,700 kg
750kVA 7,567 W φ350×2台 (2000+α)×2500×2300 4,900 kg
1000kVA 9,498 W φ350×4台 2900×2500×2300 6,300 kg

表③ 第三次対応キュービクルの発熱量と換気扇(三相200V・油入)/αは防振装置設置時の追加寸法/出典:東和電機工業 キュービクル盤概略寸法表

防振装置(防振スプリング4.0Hz)を設置する場合の追加寸法αは、同資料では1φ300kVA=200mm、1φ500kVA=600mm、3φ300kVA=200mm、3φ500kVA=600mm、3φ750kVA=800mmとされています。換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画はさらに苦しくなります。

設計時に必ず確認する4点

  1. その物件の実負荷率はいくつか。20〜40%なら第三次機は大きなメリット。60%以上が常態なら、機種選定を慎重に。
  2. 換気計算をやり直したか。第二次の発熱量で選定した換気扇をそのまま流用しない。Wi+Wc で再計算する。
  3. 汎用品か高性能品か。JEMAは「基準値をクリアした汎用品と、基準値を大幅にクリアした高性能品に大別され、寸法・重量・価格が大きく違う」と注意喚起している。発熱も当然変わる。
  4. 屋内キュービクルか屋外か。屋内設置なら、増えた発熱がそのまま電気室の空調負荷になる。空調側との調整が要る。

⚠️ ここだけ注意

「エネルギー消費効率が下がった=発熱が減った」ではありません。

カタログの「エネルギー消費効率 1,052W」は基準負荷率40%での値であって、換気設計に使う数字ではありません。換気に使うのは Wi+Wc(500kVAなら156+5,599=5,755W)。この2つを取り違えると、換気不足で温度上昇警報が出ます。

💼 この回が実務でこう生きる

  • 機種比較をその物件の実負荷率で行い、「カタログ上は省エネなのに実は不利」を見抜ける。
  • 損益分岐負荷率 m=√{(Wi₁−Wi₂)/(Wc₂−Wc₁)} を使って、2機種の優劣が入れ替わる点を数値で示せる。
  • 換気扇の選定を Wi+Wc でやり直し、温度上昇トラブルを未然に防げる。
  • 屋内電気室の空調負荷の増加を、計画初期に空調側へ申し送りできる。
💬 はりたから現場へ:この回の内容は、正直に言うとメーカーも工業会も声高には言っていない部分です。でもカタログの Wi と Wc を並べれば誰でも確認できる、ただの算数です。「省エネ機だから安心」で思考停止せず、自分の物件の負荷率で足し算し直す――それが設計者の仕事だと思います。

まとめ

  • 省エネ評価は Wi+0.16Wc、換気設計は Wi+1.00Wc見ている点が違う
  • 三相500kVA(区分3-3)では Wi 580→156W(−73%)、Wc 3,915→5,599W(+43%)という設計が採られている。
  • その結果、負荷率50.2%が損益分岐。それ以上では第三次機のほうが損失が大きい。
  • 全負荷時の発熱は 4,495→5,755W(+28%)。換気設計は必ずやり直す。
  • アモルファス鉄心は無負荷損を激減させるが、採用容量は限定的(東芝Sシリーズは三相500kVAのみ)。
  • JEMAも「汎用品と高性能品では寸法・重量・価格が大きく違う」「使用する負荷率での省エネ計算を」と注意喚起している。
  • 換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画がさらに厳しくなる。

📖 連載「2026トップランナー変圧器」全8回

  1. 第1回|2026年4月に何が変わった?|制度の全体像と「ユーザーに交換義務はない」の本当の意味
  2. 第2回|基準エネルギー消費効率の読み方|E=Wi+(m/100)²×Wc を自分で計算する
  3. 第3回|対象範囲と除外機種|「この変圧器はトップランナーの対象?」を判定する
  4. 第4回|キュービクルに入らない|寸法・質量の増加をメーカー公表値で確認する
  5. 第5回|省エネ機なのに発熱が増える|換気設計とアモルファス鉄心の落とし穴 (この記事)
  6. 第6回|電気代はいくら下がる?|損失低減の試算・価格上昇・補助金の使い方
  7. 第7回|仕様書・見積書の書き方|「トップランナー基準適合品」では足りない
  8. 第8回|更新(リプレース)の判断|いつ・どれを・どう替えるか【連載まとめ】

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