トップランナー変圧器で発熱が増えるのはなぜかを解説。無負荷損と負荷損の区別、アモルファス鉄心の落とし穴、換気設計で確認すべき4点。

第5回 省エネ機なのに発熱が増える の全体像

この回は、第三次判断基準の解説記事でほとんど触れられていない話です。「省エネ機に替えたのに、キュービクル内の発熱が増える」。直感に反しますが、メーカーのカタログ値を素直に足し算すると、はっきりそうなる容量帯があります。換気設計をこれまでどおりの前提でやると成立しません。

ペンタ
ペンタ(新人)
省エネ性能が上がったんだから、発熱も減りますよね? 換気扇はそのままでいいはず……
はりた
はりた
そこが罠。省エネの評価は「基準負荷率40%の損失」、換気の設計は「負荷率100%の損失」見ている点がまったく違うんだ。
ペン太ペン太
省エネの変圧器に替えたのに発熱が増えるって、どういうことですか?
ハリタハリタ
省エネ評価はWi+0.16Wc、換気設計はWi+1.00Wcと、使う損失の指標が別物だからです。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 省エネ性能の評価と、換気設計は同じ損失を見ているでしょうか。
  • 省エネ機に替えたのに発熱が増えることはあるでしょうか。
  • カタログのエネルギー消費効率の値を、換気計算に使ってよいでしょうか。

まず、2つの「損失」を区別する

トピック1:まず、2つの「損失」を区別する
省エネ性能の評価 E = Wi + (40/100)² × Wc = Wi + 0.16×Wc (500kVA以下の場合)
換気設計の熱源 発熱量 = Wi + 1.00×Wc (負荷率100%で選定するのが実務の標準)

負荷損 Wc の重みが 0.16 対 1.00。同じ変圧器でも、この2つはまったく別の指標です。

つまり、無負荷損 Wi を大きく下げて、負荷損 Wc を増やす設計をすると、省エネ評価は良くなるのに、全負荷時の発熱は増えます。そして第三次では、まさにそういう設計が採用された容量帯があります。

用途 使う損失 負荷率の扱い 見ている状態
省エネ性能の評価 無負荷損+負荷損の一部 基準負荷率で重み付け ふだんの運転に近い状態
換気設計 無負荷損+負荷損の全部 負荷率100% いちばん熱くなる状態
機種の比較 同じ式に自分の負荷率を入れる 物件の実負荷率 その物件での実力
損益分岐の把握 2機種の損失差 分岐点の負荷率 どちらが有利に転ぶ境目
ここまでのポイント
  • 省エネ性能は基準負荷率で評価し、換気設計は負荷率100%の損失で行うのが実務の標準。
  • 同じ変圧器でも、負荷損にかかる重みがまったく違う指標になる。
  • 無負荷損を大きく下げて負荷損を増やす設計をすると、省エネ評価は良くなるのに全負荷時の発熱は増える。
  • 第三次では、まさにそういう設計が採られた容量帯がある。

実例|三相500kVA(区分3-3)で起きていること

トピック2:実例|三相500kVA(区分3-3)で起きていること

ダイヘンのカタログ値(三相6kV-210V・50Hz)を並べます。

無負荷損 Wi 負荷損 Wc
第二次(TOP ECO Ⅱ) 580 W 3,915 W
第三次(TOP ECO Ⅲ) 156 W 5,599 W
変化 −73% +43%

表① 三相500kVA・50Hz の損失内訳/出典:ダイヘン TOP ECO Ⅱ/TOP ECO Ⅲ カタログ

無負荷損を約4分の1に激減させる代わりに、負荷損を4割増やしています。この設計が、負荷率によって評価をひっくり返します。

負荷率 第二次の全損失 第三次の全損失
20% 737 W 380 W −357 W(大幅改善)
40%(基準負荷率) 1,206 W 1,052 W −154 W(改善)
約50.2% 1,564 W 1,564 W ±0(損益分岐)
60% 1,989 W 2,172 W +183 W(悪化)
80% 3,086 W 3,739 W +653 W(悪化)
100%(全負荷=発熱) 4,495 W 5,755 W +1,260 W(+28%)

表② 負荷率別の全損失(当サイトによる計算:E=Wi+(m/100)²×Wc にカタログ値を代入)

損益分岐となる負荷率の求め方

Wi₁+m²Wc₁ = Wi₂+m²Wc₂ を m について解くと

m = √{ (Wi₁−Wi₂) / (Wc₂−Wc₁) } = √{ (580−156) / (5599−3915) } = √0.2518 ≒ 0.502

つまり負荷率50.2%を超えると、第三次機のほうが損失が大きくなる。この式は他の容量・他メーカーでも同じように使えます。

ペンタ
ペンタ(新人)
待ってください。それって省エネにならないってことじゃ……
はりた
はりた
負荷率次第、というのが正解。変圧器は年間8,760時間ずっと通電しているから、軽負荷の時間が長い設備では圧倒的に有利。ビルや商業施設のように負荷率20〜40%で回っている物件なら、この設計は大正解なんだ。でも常時60%以上で回る工場なら話は別。JEMAが「使用する負荷率での省エネ計算をお勧めします」と言っているのは、まさにこのことだよ。
図① 負荷率と全損失はどこで入れ替わるか(三相500kVA・50Hz)
01,0002,0003,0004,0005,0006,0000%20%40%60%80%100% 50.2% 40% 4,495W 5,755W W20142026
ダイヘン TOP ECO Ⅱ/Ⅲ のカタログ公表値(Wi・Wc)を E=Wi+(負荷率/100)²×Wc に代入して作図。交点より右では第三次のほうが損失が大きくなります。
補足:交点が「グラフの中」に現れるのは500kVAだけ
同じ計算を油入・三相・50Hzの全13容量でやってみると、損益分岐が負荷率0〜100%の範囲に入るのは500kVAだけです。1000kVAは102.7%とほぼ端で、実運用の負荷率では第三次が有利。残る11容量は負荷率100%まで一度も逆転せず、全域で第三次のほうが低損失になります。つまり「第三次のほうが損失が大きくなることがある」という話は、500kVA(と、ほぼ端の1000kVA)に固有の現象だと考えてください。

なぜこの容量だけ極端なのか|アモルファス鉄心

無負荷損を156Wまで下げられる理由は、鉄心材料です。東芝産業機器システムの2026トップランナー変圧器 油入変圧器Sシリーズのカタログを見ると、三相500kVAの形式記号は HCTR-AM となっており、同カタログの凡例で AM=アモルファス鉄心 と定義されています。

ただし東芝のカタログは「*三相500kVAのみ」と明記しています。Sシリーズ全体がアモルファスというわけではありません

アモルファス鉄心はヒステリシス損・渦電流損が小さく無負荷損を劇的に下げられる一方、飽和磁束密度が低いため鉄心断面が大きくなりやすく、寸法・質量・価格は増える方向です。どの容量に採用されているかは、必ず形式記号とカタログの凡例で確認してください。

ペン太ペン太
三相500kVAだと、実際どれくらい発熱が変わるんですか?
ハリタハリタ
無負荷損は580Wから156Wへ73%減ですが、負荷損は43%増。負荷率50.2%を超えると旧機より発熱が増えます。
ここまでのポイント
  • 三相500kVAでは、無負荷損を大きく下げる代わりに負荷損を増やす設計になっている。
  • その結果、ある負荷率を境に第二次機と第三次機の優劣が入れ替わる。
  • 軽負荷の時間が長い設備では有利。ビルや商業施設のように低い負荷率で回る物件なら大正解の設計。
  • 常時高い負荷率で回る工場では話が別。使用する負荷率での省エネ計算が推奨されている。
  • 無負荷損を大きく下げられる理由は鉄心材料にあるが、採用容量は限定的。


換気設計はどう変わるか

トピック3:換気設計はどう変わるか

キュービクルの換気計算は、一般にJSIA-T1016(日本配電制御システム工業会規格)に基づき、周囲温度31℃・負荷率100%で換気扇を選定します。ここに表②の「+28%」が直撃します。

東和電機工業が公表している、第三次対応の発熱量と換気扇台数の目安(三相200V・油入・4社最大値ベース)を示します。

定格容量 TR発熱量 換気扇 盤 W×D×H (mm) 盤重量
100kVA 1,255 W φ300×1台 1300×2000×2300 1,900 kg
150kVA 1,717 W φ300×1台 1400×2000×2300 2,200 kg
200kVA 2,309 W φ300×1台 1400×2100×2300 2,300 kg
300kVA 4,056 W φ300×2台 (1500+α)×2100×2300 2,800 kg
500kVA 5,880 W φ300×2台 (1700+α)×2300×2300 3,700 kg
750kVA 7,567 W φ350×2台 (2000+α)×2500×2300 4,900 kg
1000kVA 9,498 W φ350×4台 2900×2500×2300 6,300 kg

表③ 第三次対応キュービクルの発熱量と換気扇(三相200V・油入)/αは防振装置設置時の追加寸法/出典:東和電機工業 キュービクル盤概略寸法表

防振装置(防振スプリング4.0Hz)を設置する場合の追加寸法αは、同資料では1φ300kVA=200mm、1φ500kVA=600mm、3φ300kVA=200mm、3φ500kVA=600mm、3φ750kVA=800mmとされています。

換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画はさらに苦しくなります。

図② 全負荷時の発熱(Wi+Wc)はどう変わったか
20%10%0%+10%+20%+30%20kVA:469W → 384W(-18.1%)2030kVA:630W → 521W(-17.3%)3050kVA:930W → 754W(-18.9%)5075kVA:1,105W → 890W(-19.5%)75100kVA:1,340W → 1,204W(-10.1%)100150kVA:1,860W → 1,575W(-15.3%)150200kVA:2,350W → 1,862W(-20.8%)200300kVA:2,955W → 2,467W(-16.5%)300500kVA:4,495W → 5,755W(+28.0%)+28.0%500750kVA:6,060W → 4,930W(-18.6%)7501000kVA:7,530W → 7,505W(-0.3%)0.3%10001500kVA:11,345W → 8,980W(-20.8%)15002000kVA:14,525W → 13,595W(-6.4%)2000 kVA50HzWiWc
換気設計に使う負荷率100%での発熱量。13容量のうち増えるのは500kVAだけで、1000kVAはほぼ横ばい、残りはすべて減少します。
ここまでのポイント
  • キュービクルの換気計算は、一般に周囲温度と負荷率100%の条件で換気扇を選定する。
  • ここに全負荷発熱の増加が直撃するため、第二次の発熱量で選んだ換気扇をそのまま流用できない。
  • 容量によっては換気扇の台数や盤の寸法・重量が変わる。
  • 防振装置の設置寸法と換気扇の増設が重なると、盤の平面計画はさらに苦しくなる。


設計時に必ず確認する4点

トピック4:設計時に必ず確認する4点
  1. その物件の実負荷率はいくつか。20〜40%なら第三次機は大きなメリット。60%以上が常態なら、機種選定を慎重に。
  2. 換気計算をやり直したか。第二次の発熱量で選定した換気扇をそのまま流用しない。Wi+Wc で再計算する。
  3. 汎用品か高性能品か。JEMAは「基準値をクリアした汎用品と、基準値を大幅にクリアした高性能品に大別され、寸法・重量・価格が大きく違う」と注意喚起している。発熱も当然変わる。
  4. 屋内キュービクルか屋外か。屋内設置なら、増えた発熱がそのまま電気室の空調負荷になる。空調側との調整が要る。
確認項目 見るところ 放置したときに起きること
負荷率 デマンドや契約電力から実負荷率を出す カタログ上は省エネでも実は不利になる
換気 無負荷損+負荷損で選定し直す 換気不足で温度上昇の警報が出る
機種の性格 汎用品か高性能品か 寸法・重量・価格・発熱の想定が外れる
設置場所 屋内か屋外か 電気室の空調負荷が想定より増える
盤の平面 換気扇の増設と防振スペース 盤が計画どおりに納まらない
ここまでのポイント
  • 実際の負荷率で全損失を計算し直したか。
  • 換気計算をやり直したか。第二次の発熱量で選定した換気扇を流用しない。
  • 汎用品か高性能品か。寸法・重量・価格が大きく違い、発熱も変わる。
  • 屋内キュービクルか屋外か。屋内なら増えた発熱がそのまま電気室の空調負荷になる。

⚠️ ここだけ注意

トピック5:ここだけ注意

「エネルギー消費効率が下がった=発熱が減った」ではありません。

カタログの「エネルギー消費効率 1,052W」は基準負荷率40%での値であって、換気設計に使う数字ではありません。換気に使うのは Wi+Wc(500kVAなら156+5,599=5,755W)。この2つを取り違えると、換気不足で温度上昇警報が出ます。

💼 この回が実務でこう生きる

  • 機種比較をその物件の実負荷率で行い、「カタログ上は省エネなのに実は不利」を見抜ける。
  • 損益分岐負荷率 m=√{(Wi₁−Wi₂)/(Wc₂−Wc₁)} を使って、2機種の優劣が入れ替わる点を数値で示せる。
  • 換気扇の選定を Wi+Wc でやり直し、温度上昇トラブルを未然に防げる。
  • 屋内電気室の空調負荷の増加を、計画初期に空調側へ申し送りできる。
💬 はりたから現場へ:この回の内容は、正直に言うとメーカーも工業会も声高には言っていない部分です。でもカタログの Wi と Wc を並べれば誰でも確認できる、ただの算数です。「省エネ機だから安心」で思考停止せず、自分の物件の負荷率で足し算し直す――それが設計者の仕事だと思います。
ペン太ペン太
換気の再計算、設計時には何を確認すればいいですか?
ハリタハリタ
実際の負荷率で全損失を計算し直すことです。全負荷なら発熱28%増の例もあります。換気量は必ず再検討を。
ここまでのポイント
  • 「エネルギー消費効率が下がった=発熱が減った」ではない。
  • カタログの効率値は基準負荷率での値であって、換気設計に使う数字ではない。
  • 換気に使うのは無負荷損と負荷損の合計。
  • この2つを取り違えると、換気不足で温度上昇の警報が出る。


まとめ

トピック6:まとめ

この回の話は、カタログの足し算で誰でも確認できます。省エネ機だから安心と思考停止せず、自分の物件の負荷率で計算し直すところが分かれ目です。

場面 使う数字 間違えやすい数字
省エネの提案 その物件の負荷率で出した全損失 カタログの効率値をそのまま使う
換気扇の選定 無負荷損+負荷損 エネルギー消費効率の値
機種の優劣 分岐点の負荷率と実負荷率の関係 基準負荷率だけで判断する
空調への申し送り 増えた発熱量 更新前の発熱量のまま

見ている点が違う

  • 省エネ評価は Wi+0.16Wc、換気設計は Wi+1.00Wc見ている点が違う
  • 三相500kVA(区分3-3)では Wi 580→156W(−73%)、Wc 3,915→5,599W(+43%)という設計が採られている。

逆転と発熱

  • その結果、負荷率50.2%が損益分岐。それ以上では第三次機のほうが損失が大きい。
  • 全負荷時の発熱は 4,495→5,755W(+28%)。換気設計は必ずやり直す。
  • アモルファス鉄心は無負荷損を激減させるが、採用容量は限定的(東芝Sシリーズは三相500kVAのみ)。

設計への波及

  • JEMAも「汎用品と高性能品では寸法・重量・価格が大きく違う」「使用する負荷率での省エネ計算を」と注意喚起している。
  • 換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画がさらに厳しくなる。

メーカーも工業会も声高には言っていない部分ですが、数字は公表されています。並べて足すだけで、物件ごとの正しい答えが出ます。

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📖 連載「2026トップランナー変圧器」全8回

  1. 第1回|2026年4月に何が変わった?|制度の全体像と「ユーザーに交換義務はない」の本当の意味
  2. 第2回|基準エネルギー消費効率の読み方|E=Wi+(m/100)²×Wc を自分で計算する
  3. 第3回|対象範囲と除外機種|「この変圧器はトップランナーの対象?」を判定する
  4. 第4回|キュービクルに入らない|寸法・質量の増加をメーカー公表値で確認する
  5. 第5回|省エネ機なのに発熱が増える|換気設計とアモルファス鉄心の落とし穴 (この記事)
  6. 第6回|電気代はいくら下がる?|損失低減の試算・価格上昇・補助金の使い方
  7. 第7回|仕様書・見積書の書き方|「トップランナー基準適合品」では足りない
  8. 第8回|更新(リプレース)の判断|いつ・どれを・どう替えるか【連載まとめ】

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。