【2026トップランナー変圧器 第5回】省エネ機なのに発熱が増える|換気設計とアモルファス鉄心の落とし穴
この回は、第三次判断基準の解説記事でほとんど触れられていない話です。「省エネ機に替えたのに、キュービクル内の発熱が増える」。直感に反しますが、メーカーのカタログ値を素直に足し算すると、はっきりそうなる容量帯があります。換気設計をこれまでどおりの前提でやると成立しません。
省エネ性能が上がったんだから、発熱も減りますよね? 換気扇はそのままでいいはず……
そこが罠。省エネの評価は「基準負荷率40%の損失」、換気の設計は「負荷率100%の損失」。見ている点がまったく違うんだ。
まず、2つの「損失」を区別する
| 省エネ性能の評価 | E = Wi + (40/100)² × Wc = Wi + 0.16×Wc (500kVA以下の場合) |
| 換気設計の熱源 | 発熱量 = Wi + 1.00×Wc (負荷率100%で選定するのが実務の標準) |
負荷損 Wc の重みが 0.16 対 1.00。同じ変圧器でも、この2つはまったく別の指標です。
つまり、無負荷損 Wi を大きく下げて、負荷損 Wc を増やす設計をすると、省エネ評価は良くなるのに、全負荷時の発熱は増えます。そして第三次では、まさにそういう設計が採用された容量帯があります。
実例|三相500kVA(区分3-3)で起きていること
ダイヘンのカタログ値(三相6kV-210V・50Hz)を並べます。
| 無負荷損 Wi | 負荷損 Wc | |
|---|---|---|
| 第二次(TOP ECO Ⅱ) | 580 W | 3,915 W |
| 第三次(TOP ECO Ⅲ) | 156 W | 5,599 W |
| 変化 | −73% | +43% |
表① 三相500kVA・50Hz の損失内訳/出典:ダイヘン TOP ECO Ⅱ/TOP ECO Ⅲ カタログ
無負荷損を約4分の1に激減させる代わりに、負荷損を4割増やしています。この設計が、負荷率によって評価をひっくり返します。
| 負荷率 | 第二次の全損失 | 第三次の全損失 | 差 |
|---|---|---|---|
| 20% | 737 W | 380 W | −357 W(大幅改善) |
| 40%(基準負荷率) | 1,206 W | 1,052 W | −154 W(改善) |
| 約50.2% | 1,564 W | 1,564 W | ±0(損益分岐) |
| 60% | 1,989 W | 2,172 W | +183 W(悪化) |
| 80% | 3,086 W | 3,739 W | +653 W(悪化) |
| 100%(全負荷=発熱) | 4,495 W | 5,755 W | +1,260 W(+28%) |
表② 負荷率別の全損失(当サイトによる計算:E=Wi+(m/100)²×Wc にカタログ値を代入)
損益分岐となる負荷率の求め方
Wi₁+m²Wc₁ = Wi₂+m²Wc₂ を m について解くと
m = √{ (Wi₁−Wi₂) / (Wc₂−Wc₁) } = √{ (580−156) / (5599−3915) } = √0.2518 ≒ 0.502
つまり負荷率50.2%を超えると、第三次機のほうが損失が大きくなる。この式は他の容量・他メーカーでも同じように使えます。
待ってください。それって省エネにならないってことじゃ……
負荷率次第、というのが正解。変圧器は年間8,760時間ずっと通電しているから、軽負荷の時間が長い設備では圧倒的に有利。ビルや商業施設のように負荷率20〜40%で回っている物件なら、この設計は大正解なんだ。でも常時60%以上で回る工場なら話は別。JEMAが「使用する負荷率での省エネ計算をお勧めします」と言っているのは、まさにこのことだよ。
なぜこの容量だけ極端なのか|アモルファス鉄心
無負荷損を156Wまで下げられる理由は、鉄心材料です。東芝産業機器システムの2026トップランナー変圧器 油入変圧器Sシリーズのカタログを見ると、三相500kVAの形式記号は HCTR-AM… となっており、同カタログの凡例で AM=アモルファス鉄心 と定義されています。
ただし東芝のカタログは「*三相500kVAのみ」と明記しています。Sシリーズ全体がアモルファスというわけではありません。アモルファス鉄心はヒステリシス損・渦電流損が小さく無負荷損を劇的に下げられる一方、飽和磁束密度が低いため鉄心断面が大きくなりやすく、寸法・質量・価格は増える方向です。どの容量に採用されているかは、必ず形式記号とカタログの凡例で確認してください。
換気設計はどう変わるか
キュービクルの換気計算は、一般にJSIA-T1016(日本配電制御システム工業会規格)に基づき、周囲温度31℃・負荷率100%で換気扇を選定します。ここに表②の「+28%」が直撃します。
東和電機工業が公表している、第三次対応の発熱量と換気扇台数の目安(三相200V・油入・4社最大値ベース)を示します。
| 定格容量 | TR発熱量 | 換気扇 | 盤 W×D×H (mm) | 盤重量 |
|---|---|---|---|---|
| 100kVA | 1,255 W | φ300×1台 | 1300×2000×2300 | 1,900 kg |
| 150kVA | 1,717 W | φ300×1台 | 1400×2000×2300 | 2,200 kg |
| 200kVA | 2,309 W | φ300×1台 | 1400×2100×2300 | 2,300 kg |
| 300kVA | 4,056 W | φ300×2台 | (1500+α)×2100×2300 | 2,800 kg |
| 500kVA | 5,880 W | φ300×2台 | (1700+α)×2300×2300 | 3,700 kg |
| 750kVA | 7,567 W | φ350×2台 | (2000+α)×2500×2300 | 4,900 kg |
| 1000kVA | 9,498 W | φ350×4台 | 2900×2500×2300 | 6,300 kg |
表③ 第三次対応キュービクルの発熱量と換気扇(三相200V・油入)/αは防振装置設置時の追加寸法/出典:東和電機工業 キュービクル盤概略寸法表
防振装置(防振スプリング4.0Hz)を設置する場合の追加寸法αは、同資料では1φ300kVA=200mm、1φ500kVA=600mm、3φ300kVA=200mm、3φ500kVA=600mm、3φ750kVA=800mmとされています。換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画はさらに苦しくなります。
設計時に必ず確認する4点
- その物件の実負荷率はいくつか。20〜40%なら第三次機は大きなメリット。60%以上が常態なら、機種選定を慎重に。
- 換気計算をやり直したか。第二次の発熱量で選定した換気扇をそのまま流用しない。Wi+Wc で再計算する。
- 汎用品か高性能品か。JEMAは「基準値をクリアした汎用品と、基準値を大幅にクリアした高性能品に大別され、寸法・重量・価格が大きく違う」と注意喚起している。発熱も当然変わる。
- 屋内キュービクルか屋外か。屋内設置なら、増えた発熱がそのまま電気室の空調負荷になる。空調側との調整が要る。
⚠️ ここだけ注意
「エネルギー消費効率が下がった=発熱が減った」ではありません。
カタログの「エネルギー消費効率 1,052W」は基準負荷率40%での値であって、換気設計に使う数字ではありません。換気に使うのは Wi+Wc(500kVAなら156+5,599=5,755W)。この2つを取り違えると、換気不足で温度上昇警報が出ます。
💼 この回が実務でこう生きる
- 機種比較をその物件の実負荷率で行い、「カタログ上は省エネなのに実は不利」を見抜ける。
- 損益分岐負荷率 m=√{(Wi₁−Wi₂)/(Wc₂−Wc₁)} を使って、2機種の優劣が入れ替わる点を数値で示せる。
- 換気扇の選定を Wi+Wc でやり直し、温度上昇トラブルを未然に防げる。
- 屋内電気室の空調負荷の増加を、計画初期に空調側へ申し送りできる。
まとめ
- 省エネ評価は Wi+0.16Wc、換気設計は Wi+1.00Wc。見ている点が違う。
- 三相500kVA(区分3-3)では Wi 580→156W(−73%)、Wc 3,915→5,599W(+43%)という設計が採られている。
- その結果、負荷率50.2%が損益分岐。それ以上では第三次機のほうが損失が大きい。
- 全負荷時の発熱は 4,495→5,755W(+28%)。換気設計は必ずやり直す。
- アモルファス鉄心は無負荷損を激減させるが、採用容量は限定的(東芝Sシリーズは三相500kVAのみ)。
- JEMAも「汎用品と高性能品では寸法・重量・価格が大きく違う」「使用する負荷率での省エネ計算を」と注意喚起している。
- 換気扇の増設と防振スペースが重なると、盤の平面計画がさらに厳しくなる。
📚 出典・参考
📖 連載「2026トップランナー変圧器」全8回
- 第1回|2026年4月に何が変わった?|制度の全体像と「ユーザーに交換義務はない」の本当の意味
- 第2回|基準エネルギー消費効率の読み方|E=Wi+(m/100)²×Wc を自分で計算する
- 第3回|対象範囲と除外機種|「この変圧器はトップランナーの対象?」を判定する
- 第4回|キュービクルに入らない|寸法・質量の増加をメーカー公表値で確認する
- 第5回|省エネ機なのに発熱が増える|換気設計とアモルファス鉄心の落とし穴 (この記事)
- 第6回|電気代はいくら下がる?|損失低減の試算・価格上昇・補助金の使い方
- 第7回|仕様書・見積書の書き方|「トップランナー基準適合品」では足りない
- 第8回|更新(リプレース)の判断|いつ・どれを・どう替えるか【連載まとめ】
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