複雑な計算はしなくてもよい
高調波流出計算を簡単にする方法はないの?
建物用途が”ビル”の場合だと下記の条件を満たせば簡略化が可能となります
- 高圧受電
- ビル
- 進相コンデンサが全て直列リアクトル付
- 換算係数Ki=1.8を超過する機器なし
- 高調波流出電流計算を頼まれたがどうすればいいかわかない方
- 基準値を超えた場合の対策方法を知りたい方など
高調波流出電流計算とは
高調波流出電流計算は、高調波抑制対策技術指針(JEAG9702-2013)に基づいており、指針の目的である””電力系統に接続される機器を保護するため、高圧又は特別高圧で受電する需要家からの高調波電流流出を抑制する。””ための計算方法になります。
指針の適用範囲
- 新設の場合
- 既存の需要家であって、高調波発生機器を新設、増設又は更新する場合
- 既存の需要家であって、契約電力相当値又は受電電圧を更新する場合
(減設による契約電力相当値の変更は除く)
高調波流出電流計算の手順
高調波流出電流計算が必要な場合、計算のフローは、下記図(高調波抑制対策技術指針JEAG9702-2018)より制定されており、手順にそって計算を行い可否の判定を行います。
(1)高調波発生機器の抽出及び換算係数等の確認
(1)高調波発生機器の抽出及び換算係数等の確認
- 高調波発生機器の抽出
- 機器毎の回路種別と換算係数の確認
主な高調波発生機器
- インバータ機器類(空調機、ポンプ、エレベータ、エスカレータなど)
- 医療機器(MRI、CT、X線装置など)
- クレーン・巻上機
- 調光機器(調光盤があるもの)
- 工場用生産機器など
インバータ機器類 | 空調機、ポンプ、エレベータ、エスカレータなど | |
医療機器 | MRI、CT、X線装置など | |
重機関係 | クレーン・巻上機 | |
調光機器 | 調光盤があるもの | |
生産機器関係 | 工場用生産機器など |
高調波の発生する機器は、製造業者がその旨を明記する必要があるため負荷リストから、申請建物における高調波発生機器の抽出を行いましょう。
機器単位で高調波抑制対策がなされている機器(JIS C 61000-3-2第3-2部電磁両立性高調波発生電流限度値1相あたりの入力電流が20A以下)については、適用範囲外となる
仕様書の確認方法(高調波対策の有無を確認しよう!)
エレベーター仕様書の特記事項欄を確認すると高調波抑制リアクトル付と記載されているのが確認できると思います。このように仕様書に記載されている場合もありますので、仕様書を確認して対策の有無を確認しましょう。
(2)検討要否の判定 ←該当すれば計算の必要なし!
- 高圧受電
- ビル
- 進相コンデンサが全て直列リアクトル付
- 換算係数Ki=1.8を超過する機器なし
- 建物の条件および電気設備の仕様等が上記4項目を満足していれば、高調波流出計算の検討終了となります。
- 高圧受電、ビル、コンデンサがリアクトル付の確認は図面にて確認が可能ですが、換算係数については機器のメーカー仕様を確認する必要があります。
換算係数の確認方法について
換算係数は、高調波発生機器の回路種別に応じて定められています。高調波電流の発生量が多くなると係数が大きくなり、少ないと係数が小さくなります。
換算係数表の見方とポイント
- 高調波発生機器は電源回路種別に応じて”換算係数”が決まっています
- この換算係数が大きいほど高調波の流出量が多いということになります
- この換算係数 Kⅰ=1.8【6パルス変換装置リアクトルあり】以下の場合条件に応じ計算しなくてもよいという判断が可能です。
- 機器の換算係数は製造メーカーに確認する必要があります
換算係数の確認結果 ←重要ポイント
検討要否の4項目を確認しすべてに該当すれば、検討終了とすることができます。
- 高圧受電
- ビル
- 進相コンデンサが全て直列リアクトル付
- 換算係数Ki=1.8を超過する機器なし
検討結果の判定
(判定内容により検討終了もしくは、次の検討に移ります)
高圧受電であるか? | 〇 |
ビルであるか? | 〇 |
進相コンデンサが全て直列リアクトル付であるか? | 〇 |
換算係数Ki=1.8を超過する機器はないか? | 〇 |
(3)等価容量の計算
換算係数×定格容量
- 検討要否の項目に該当しない場合、等価容量を集計し限度値以下になるかの計算を行います。等価容量の計算式は下記になり前工程にて調べた機器ごとの換算係数と定格容量を掛け合わせて合計します
上限値との確認
- 受電電圧が6.6kVであれば上限値は50[kVA]となり等価容量は50[kVA]以下となれば検討終了となります
等価容量の計算式
P0 =Σ( Ki × Pi)[ kVA ]
等価容量とは、高調波発生機器毎にその容量を三相ブリッジ6パルス変換装置(6相整流器)の回路構成容量に換算したものの総和をいう。 換算係数Kiとして、例えば12パルス変換装置は0.5倍、三相ブリッジ(コンデンサ平滑、リアクトル有り)は1.8倍など
Ki :換算係数、Pi :定格容量(kVA)、i :回路種別
等価容量の上限値
受電電圧 | 限度値 |
6.6kV | 50kVA |
22/33kV | 300kVA |
66kV以上 | 2,000kVA |
等価容量の計算手順
高調波発生機器の抽出
- インバータ機器類(空調機、ポンプ、エレベータ、エスカレータなど)
- 医療機器(MRI、CT、X線装置など)
- クレーン・巻上機
- 調光機器(調光盤があるもの)
- 工場用生産機器など
機器名称 | 製造業者 | 型式 | 相数 | 定格入力容量[kVA] | 台数 | 定格入力容量(合計)Pi[kVA] |
エレベーター | * | * | 3 | 6.77 | 2 | 3.4 |
ビルマルチエアコン | * | * | 3 | 13.1 | 6 | 78.6 |
換算係数の確認
回路種別№ | 換算係数Ki | 等価容量Ki×Pi[kVA] |
31 | 3.4 | 23.0 |
33 | 1.8 | 141.5 |
計算結果の検証
P0 =Σ( Ki × Pi)[ kVA ]の計算式より表中の数値を合計した値が受電電圧ごとの上限値を超えていない場合、高調波対策不要とし検討終了となります。
- 先ほどの等価容量を集計する
23.0+141.5=164.5[kVA]
- 「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」の場合は、P0×0.9
164.5×0.9=148.05[kVA]
- 受電電圧の限度値の確認
受電電圧 | 限度値 |
6.6kV | 50kVA |
22/33kV | 300kVA |
66kV以上 | 2,000kVA |
受電電圧6.6[kV]=限度値50[kVA]
- 等価容量と限度値の比較
等価容量>限度値
となるため、第2ステップの検討要否判定 [要]となります。
まとめ
計算対象の条件
- 新設の場合
- 既存の需要家であって、高調波発生機器を新設、増設又は更新する場合
- 既存の需要家であって、契約電力相当値又は受電電圧を更新する場合
(減設による契約電力相当値の変更は除く)
高調波発生機器の抽出
- インバータ機器類(空調機、ポンプ、エレベータ、エスカレータなど)
- 医療機器(MRI、CT、X線装置など)
- クレーン・巻上機
- 調光機器(調光盤があるもの)
- 工場用生産機器など
検討要否の条件その1(最重要)
- 高圧受電
- ビル
- 進相コンデンサが全て直列リアクトル付
- 換算係数Ki=1.8を超過する機器なし
検討要否の条件その2
- 上限値>等価容量となる場合