そうだったのか小ネタ 第5回

「東京はドイツから、大阪はアメリカから発電機を買った。だから50Hzと60Hzに分かれた」——この話、電気に関わる人なら一度は聞いたはずです。ところが調べていくと、いちばん肝心な「なぜ買い分けたのか」だけが、どこにも書き残されていません。定説がどこまで確認できて、どこから先が誰も知らない領域なのか。境界線をはっきりさせておきます。

結論

東京と大阪が別々の国から発電機を導入したこと自体は、電力会社の公式解説でも認められている事実です。しかしその選定理由を記録した資料は見つかっていません。学術論文でも「輸入先による偶然の相違」と書かれるにとどまります。

  • 境界は糸魚川と富士川。ただし境界付近には混在地区もある
  • 「1889年に大阪がGE製60Hz」は時期とメーカー名が怪しい
  • 統一は何度も検討されたが、設備交換だけで10兆円と試算された
  • 周波数変換所は210万kW。2027年度に300万kWへ増える予定
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
東日本50Hzと西日本60Hzの境界と周波数変換所を示した図
境界は糸魚川と富士川を結ぶあたり。ただし県境とは一致せず、混在地区もあります。

世界を見渡しても、ひとつの国の中で商用周波数が二つに分かれている例はほとんどありません。日本は、その珍しい国です。しかも100年以上、その状態のまま動いています。

この話が面白いのは、単なる歴史の雑学だからではありません。いま現在も、東西のあいだで融通できる電力量に上限があるという、きわめて実務的な問題につながっているからです。

ペン太
東京がドイツ、大阪がアメリカでしたよね。それで分かれたって習いました。
ハリタハリタ
そこまでは合っています。では、なぜ東京はドイツから買ったんでしょう。
ペン太
えっ。……なんでだろう。考えたことなかったです。
ハリタハリタ
実は、誰も答えられないんです。記録が残っていないので。今回はそこまで一緒に行きましょう。

境界はどこを通っているのか

一般には新潟県の糸魚川と、静岡県の富士川を結んだ線が境界とされます。東が50Hz、西が60Hzです。地質学でいう糸魚川静岡構造線とおおむね重なるため、その名前で説明されることもありますが、両者は別の話です。地質の線に合わせて電気を分けたわけではなく、たまたま近い位置を通っているにすぎません。

そして、ここが実務で効いてきます。県境と一致するわけでもありません。家電メーカーの公式サポートでも、境界付近には50Hzと60Hzの混在地区があると明記されています。「静岡県だから」「長野県だから」という判断は成り立たない場所があるということです。

⚠️ 境界付近では、住所ではなく検針票を見る

周波数専用の機器を扱う場合、境界付近の物件では電力会社の検針票か、供給元への確認で周波数を押さえてください。地図上の線は目安であって、供給系統がどちらに属するかは個別に決まります。設置してから「回らない」「唸る」で気づくと、やり直しになります。

ここまでのポイント
  • 境界は糸魚川〜富士川。東が50Hz、西が60Hz
  • 糸魚川静岡構造線と重なるのは偶然で、因果関係はない
  • 県境とも一致せず、境界付近には混在地区がある

定説を、確認できるところまで確認する

「東京はドイツ製、大阪は米国製」という説明は、電力会社の公式サイトでも使われています。関西電力の解説ページには、東京にドイツ製、大阪にアメリカ製の発電機が輸入された、という記述があります。ここまでは、疑う理由がありません。

ただし、よく流通している「1889年に大阪電燈がGE製の60Hz発電機を導入した」という一文には、少し引っかかるところがあります。

東京電燈と大阪電燈の発電機導入をめぐる年表
資料をたどると、通説の年号とメーカー名には食い違いがあります。

まず、大阪電燈が1889年(明治22年)の開業時に導入したのは、トムソン・ヒューストン社製の発電機です。GE(ゼネラル・エレクトリック)社が設立されたのは1892年——トムソン・ヒューストン社とエジソン・ゼネラル・エレクトリック社が合併したときです。つまり1889年の時点に「GE製」は存在しません。

そして、大阪電燈で60Hzが社内標準として定着したのは、1897年の幸町発電所に入ったGE製150kW発電機(2,300V・60Hz)からだ、とする記述があります。開業時の機器が60Hzだったと明記した資料には、今回たどり着けませんでした。

東京側も、資料によって年が揺れます。浅草発電所のAEG製発電機(265kW・3,000V・50Hz)について、建設開始を1893年とするもの、稼働を1895年とするものがあります。「1890年代の半ば」という粒度なら間違いなく、それより細かい年を断言するのは危うい——というのが実際のところです。

ここまでのポイント
  • 東京=ドイツ製、大阪=米国製という構図自体は公式解説にもある
  • 「1889年にGE製」は成立しない。GE設立は1892年
  • 大阪で60Hzが定着したのは1897年の幸町発電所からとされる
  • 年号は資料により揺れる。断言せず幅を持って扱う

📖 ここからは推し量り

この連載でいちばん深い行き止まりです。ここから先は、記録が残っていません。

では、なぜ東京はドイツから、大阪は米国から買ったのか。

調べていくと、ここで完全に足が止まります。この主題を扱った学術論文にあたっても、「輸入先による偶然の相違」と書かれるにとどまり、選定の経緯そのものを記した資料は示されていません。しかもこの「偶然だった」という見方は、戦前の複数の文献にすでに出てくるものです。つまり100年近く前の時点で、すでに理由は分からなくなっていたことになります。

もっともらしい説明を作ることはできます。担当した技術者の留学先、商社の取引関係、そのとき提示された価格や納期——どれも、そう外れてはいないでしょう。ただしどれも、裏付けのある話ではありません。

毎日使っている電気の、いちばん根っこの性質が、誰の判断だったのか分からない。調べれば分かるはずのことが、調べても分からない。この連載でここまで見てきた中で、いちばん深い行き止まりでした。


なぜ統一されなかったのか

「そんなに不便なら、どこかで揃えればよかったのでは」——当然の疑問です。そして実際、統一の議論は何度も行われています。関西電力の解説にも、約100年前から何度も話し合いが持たれたが、うまくいかなかった、という記述があります。

できなかったわけではない、という証拠もあります。九州では実際に統一工事が行われました。北九州・筑豊地区に残っていた50Hz地域を、1949年12月から1960年6月にかけて60Hzへ切り替えています。10年以上かけた工事です。

では、なぜ東西ではやらなかったのか。規模が違いすぎるからです。

💡 設備交換だけで10兆円

2012年の報道によれば、経済産業省の試算で電力会社の設備交換だけで10兆円という数字が出ています。しかもこれには需要家側の機器を入れ替える費用は含まれていません。工場のモーター、ポンプ、家庭の機器まで数えれば、額はさらに膨らみます。この試算を受けて、経産省は統一を現実的な選択肢とすることは困難と判断し、周波数変換設備を増やす方向へ舵を切りました。

※この数字は報道で伝えられたもので、当サイトでは元となった審議会資料そのものは確認できていません。

九州の工事が成立したのは、切り替える側が地域として限られていたからです。国土の東半分と西半分を、稼働させたまま入れ替えるのは、もはや別の問題になります。

ここまでのポイント
  • 統一の議論は約100年前から繰り返されてきた
  • 九州では1949年〜1960年に実際に60Hzへ統一した実例がある
  • 東西統一は設備交換だけで10兆円と試算され、断念された
  • 方針は「統一」から「変換設備の増強」へ切り替わった

周波数変換所は、いま何万kWあるか

東西のあいだで電力を融通するには、周波数を変換する設備が要ります。これが周波数変換所(FC)です。数はごく限られています。

周波数変換所の合計変換容量の推移を示した棒グラフ
震災当時の約100万kWは原子炉1基ぶんに相当する量でした。3本目(破線)は2027年度の計画値です。
設備 運転開始 変換容量
佐久間周波数変換所 1965年 30万kW
新信濃変電所 1977年・1992年 60万kW(30万kW×2)
東清水変電所 2013年に本格運用 30万kW
飛騨信濃周波数変換設備 2021年3月 90万kW(45万kW×2)
合計210万kW。2027年度には新佐久間の新設と東清水の増強で、300万kWへ拡大する計画です。

この数字が持つ意味は、2011年の東日本大震災ではっきりしました。当時の変換容量は合計およそ100万kW。西日本には余力があったのに、送れる量そのものに上限があったため、東日本の電力不足を解消できませんでした。原子炉1基ぶんに相当する量しか、行き来できなかったということです。

震災後、資源エネルギー庁の研究会が210万kWまでの増強をまとめ、総工費およそ1,300億円をかけて飛騨信濃が造られました。100年以上前の買い物の結果を、いまも数千億円単位で埋め合わせ続けている——そう見ることもできます。

ここまでのポイント
  • 変換所は4か所、合計210万kW(2021年3月時点)
  • 震災当時は約100万kWで、西日本の余力を送りきれなかった
  • 飛騨信濃の総工費は約1,300億円
  • 2027年度に300万kWへ増える計画


周波数が違うと、何が変わるのか

いちばん分かりやすいのは回転数です。誘導電動機の同期回転数は、次の式で決まります。

💡 同期回転数の式

回転数[min-1]= 120 × 周波数 ÷ 極数

4極モーターなら、50Hzで1,500、60Hzで1,800。同じモーターでも、周波数が変わるだけで回転数は2割変わります。実際にはすべりがあるため、これより少し低い値で回ります。

回転数が2割上がるということは、ポンプやファンでは動力が跳ね上がるということです。流体機械の動力は回転数の3乗に比例するため、1.2倍の回転数は約1.7倍の動力になります。50Hz用として選定したモーターを60Hz地域でそのまま回すと、過負荷で焼けます。

逆方向にも注意が要ります。60Hz仕様の変圧器やコイルを50Hzで使う場合、周波数が下がるぶん磁束密度が上がり、磁気飽和を起こしやすくなります。唸り、異常発熱、効率低下として現れます。「周波数が下がるだけなら安全側だろう」という感覚は、この種の機器では成り立ちません。

機器 周波数が変わるとどうなるか
誘導電動機 回転数が比例して変わる。ポンプ・ファンは動力が3乗で効く
変圧器・コイル類 周波数が下がる方向で磁気飽和しやすい。唸り・発熱
インバータ搭載機器 いったん直流にするため、多くは両対応
単機能の電子レンジ 専用機がある。地域をまたぐと使えないことがある
タイマー・時計(同期式) 周波数を基準にしているものは進み・遅れが出る
「50/60Hz共用」と書かれていれば両方で使えます。書かれていなければ、銘板の定格周波数を必ず確認してください。
ここまでのポイント
  • 回転数 = 120 × 周波数 ÷ 極数。4極なら1,500と1,800
  • ポンプ・ファンは動力が回転数の3乗で効く。過負荷に直結
  • 周波数が下がる方向では磁気飽和が問題になる
  • 判断はカタログの印象ではなく、銘板の定格周波数で


現場で気をつけること

  1. 境界付近の物件は、住所で判断しない——検針票か供給元への確認で周波数を押さえてから機器を選定します。
  2. 中古機器・移設機器は銘板を見る——他地域から持ち込まれた盤やポンプは、周波数が合っていないことがあります。
  3. 「50/60Hz」の表記を確認する——共用と書かれていない機器は、片方でしか使えないと考えてください。
  4. 共用でも性能が同じとは限らない——使えることと、カタログ性能が出ることは別です。能力表が周波数別に分かれている機器では、必ず該当する側の欄を見てください。
  5. インバータ盤なら周波数は自由になるが、電源側は別——出力側の周波数を作れても、入力側の仕様は電源に従います。

周波数がふたつある不便さは、100年以上ずっと残っています。誰がどう決めたのかは分からないのに、その結果だけは毎日はっきり効いている——電気の世界には、そういうものがいくつもあります。

ここまでのポイント
  • 境界付近は住所ではなく検針票で確認する
  • 移設・中古機器は銘板の定格周波数を見る
  • 共用表記があっても、性能は周波数別の欄で確認する

よくある質問

なぜ日本だけ周波数が二つに分かれているのですか?

明治期に東京と大阪が別々の国から発電機を導入し、そのまま各地域へ広がったためです。東京にはドイツ製の50Hz機、大阪には米国製の60Hz機が入りました。ただし、なぜ輸入先が分かれたのかを記録した資料は見つかっておらず、学術論文でも「偶然の相違」と書かれるにとどまります。

境界はどこですか?

新潟県の糸魚川と静岡県の富士川を結ぶあたりで、東が50Hz、西が60Hzです。ただし県境と一致するわけではなく、境界付近には混在地区もあります。家電メーカーの公式サポートでも混在地区の存在は明記されているため、住所での判断は避けてください。

なぜ統一しなかったのですか?

費用が理由です。2012年の報道によれば、経済産業省の試算で電力会社の設備交換だけで10兆円とされ、需要家側の機器の入れ替えは含まれていません。九州では1949年から1960年にかけて60Hzへ統一した実例がありますが、東西の規模では現実的でないと判断され、周波数変換設備を増やす方針へ切り替わりました。

東西でやりとりできる電力量はどれくらいですか?

周波数変換所4か所の合計で210万kWです(2021年3月時点)。佐久間30万kW、新信濃60万kW、東清水30万kW、飛騨信濃90万kWという内訳で、2027年度には300万kWへ拡大する計画があります。東日本大震災の当時は約100万kWしかなく、西日本に余力があっても送りきれませんでした。

50Hz用のモーターを60Hz地域で使えますか?

そのまま使うのは危険です。同期回転数は120×周波数÷極数で決まるため、回転数が2割上がります。ポンプやファンは動力が回転数の3乗で効くため、約1.7倍の負荷がかかって過負荷になります。周波数が変わる場合は、機器の選定からやり直してください。

「50/60Hz共用」なら、どちらでも性能は同じですか?

使えることと、同じ性能が出ることは別です。能力表が周波数別に分かれている機器では、地域に該当する側の数値で選定してください。共用と書かれていない機器は、片方でしか使えないと考えるのが安全です。

なぜ50Hzと60Hzという数字なのですか?

これも確かなことは分かっていません。19世紀末には25Hzから133Hzまで多くの周波数が併存しており、そこから絞り込まれていった過程は記録に残っています。ただし、なぜ最終的に50と60だったのかについては、専門機関の解説でさえ「落ち着いたものと考えることができる」という推測の表現が使われています。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。