オフィスビルの通用口や非常口には、カードをかざして開ける電気錠がよく付いています。防犯のためには、扉はしっかり閉めておきたい。でも火災のときに鍵が開かなければ、人は逃げられません。この「防犯」と「避難」のせめぎあいを、火災のときに避難の側へ切り替えるのが、自動火災報知設備(自火報)と電気錠・自動ドアの連動です。この記事では、一斉解錠のしくみ、停電したときの考え方、自動ドアの2つの種類まで、図で1つずつ丁寧に解説します。

結論

自火報の代表信号で避難口の電気錠を一斉に解錠し、避難口の自動ドアは全開にして開けたままにします。停電しても開くことが大前提です。

  • 避難口の扉は、屋内から鍵を使わずに開けられることが基本(建基令125条の2)
  • 電気錠は、自火報連動の自動解錠・停電時の解錠・防災センターからの遠隔解錠をそろえる
  • 通電時解錠の電気錠は、停電すると閉まったまま。避難口なら蓄電池などで解錠できるように
  • 自動ドアは、避難口は「開ける」、防火戸を兼ねるものは「閉める」。連動表で区別する
自火報の代表信号で、電気錠の一斉解錠、避難口の自動ドアの開放、防火戸を兼ねる自動ドアの閉鎖、入退室管理のゲートの開放を行う連動の全体像
同じ火災の信号で「開ける扉」と「閉める扉」があります。

鍵を開ける理由 ― 火災のときは避難が勝つ

ふだんは防犯のために施錠し、火災のときは避難のために解錠するという切り替えと、外からはカードキーがないと入れないが内側からはノブを回すだけで出られるホテルの客室のドアのたとえを示した図
外からは入れない、でも中からはすぐ出られる。ホテルの客室のドアと同じ考え方です。

ホテルの客室のドアは、外からはカードキーがないと開きませんが、内側からはノブを回すだけで出られます。外からの侵入は防ぎ、中からの避難はじゃましない。避難口の扉も、この考え方が基本です。

決まり 内容
建築基準法施行令125条の2 屋外避難階段に屋内から通じる出口、避難階段から屋外に通じる出口、ふだん施錠していて非常時に避難に使う出口などは、屋内から鍵を使わずに開けられるものとし、解錠のしかたを扉の近くに表示する
電気錠を使う場合の考え方 停電しても手で開けられること、自火報と連動して自動で解錠すること、防災センターなどから遠隔で解錠できることを満たすように計画する(「建築物の防火避難規定の解説」などで示される考え方)
火災予防条例 避難口の扉に施錠装置を付けるときは、非常時に自動的に解錠できるものとするよう定めている市町村がある。自火報の代表信号で連動して解錠、常時人がいる場所から一斉解錠、停電時も動作、といった要件を示す例がある
建築基準法施行令125条の2、市町村の火災予防条例の運用基準の例をもとに作成。条番号や細部は市町村ごとに確認する
ここまでのポイント
  • 避難口の扉は、屋内から鍵を使わずに開けられるのが基本
  • 電気錠は、自火報連動・停電時・遠隔の3つで開けられるように
  • 火災予防条例の要件は市町村ごとに確認する

一斉解錠 ― 感知器から扉の鍵まで

感知器が作動し、受信機の代表信号が電気錠制御盤に入り、正面玄関・通用口・階段室の出口・屋上の出口の電気錠が一斉に解錠されるまでを示した動く図解
動く図解:代表信号ひとつで、すべての避難口の鍵が開きます。

電気錠の一斉解錠は、次の順番で動きます。

  1. 感知器・発信機が作動:どこかで火災を見つける
  2. 受信機が代表信号を出す:「どこかで火災の信号が出た」という1本の信号
  3. 電気錠制御盤が一斉解錠:受け持つ避難口の電気錠を、まとめて解錠する
  4. 表示:防災センターに、解錠したことを表示する

ポイントは、火災の確認を待たずに、第一報で開けることです。エレベーターの火災時管制運転では、誤報で止まらないように「確認後」の信号を使うこともありますが、電気錠は逃げ道をつくる設備です。誤報で開いてしまう不便より、本当の火災で開かない危険のほうがずっと大きいからです。エレベーターの信号の考え方は「建築消防|自火報とエレベーターの連動|火災時管制運転のしくみと信号、非常用エレベーターとの違い」で解説しています。

ペン太ペン太
誤報で全部の鍵が開いたら、防犯上まずくないですか?
ハリタハリタ
そこで、防災センターで確認したら、扉ごとに見回って手で再施錠する手順を決めておきます。火災の信号が戻ったら勝手に施錠される、という設定は、まだ中に人がいるかもしれないので避けることが多いんです。
ここまでのポイント
  • 受信機の代表信号で、避難口の電気錠を一斉に解錠
  • 確認を待たずに第一報で開ける
  • 誤報のあとの再施錠は、見回って手で行う


停電したら ― 通電時施錠と通電時解錠

停電すると、通電時施錠の電気錠は鍵が開き、通電時解錠の電気錠は鍵がかかったままになる違いを示した動く図解
動く図解:停電したとき、開く電気錠と、閉まったままの電気錠があります。

火災のときは、停電していることも考えなければなりません。電気錠には、電気の送り方で2つの方式があります。

方式 ふだん 停電したとき 避難口に使うとき
通電時施錠 電気を送っている間だけ鍵がかかる 鍵が開く 停電でも開くので避難には安心。防犯は弱くなる
通電時解錠 電気を送ったときだけ鍵が開く 鍵がかかったまま 蓄電池などで、停電しても解錠できるようにする
一般的な電気錠の方式。製品によって名称や細部が異なる

たとえるなら、通電時施錠は「手を離すと開くドア」、通電時解錠は「ボタンを押している間だけ開くドア」です。停電は「手が離れた」状態なので、前者は開き、後者は閉まったままになります。避難口に通電時解錠の電気錠を使うなら、制御盤に蓄電池を入れる、扉に非常解錠のしかけ(室内側のサムターンやレバーなど)を付ける、といった手当てが欠かせません。

ここまでのポイント
  • 通電時施錠は停電で開く。通電時解錠は停電でも閉まったまま
  • 避難口の通電時解錠には、蓄電池や非常解錠のしかけ
  • 「停電しても中から出られるか」を必ず確認

自動ドア ― 「開ける」ものと「閉める」もの

避難口の自動ドアは火災の信号で全開にして開けたままにするパニックオープン、防火戸を兼ねる自動ドアは火災の信号でゆっくり閉まり手で開けて通れる、という2種類を比べた図
自動ドアには、火災で「開ける」ものと「閉める」ものがあります。

自動ドアは、火災のときの役目で2種類に分かれます。

種類 火災のときの動き 主な場所
避難口の自動ドア 火災の信号で全開にして開けたままにする(パニックオープン)。停電しても手で開けられる エントランス、避難階の出口など
防火戸を兼ねる自動ドア 煙感知器などの信号でゆっくり閉まる。閉まったあとも手で開けて通れ、通ったあとはまた閉まる 防火区画の出入口など
一般的な製品の動きをもとに作成。細部は製品の仕様で確認する

ここで気をつけたいのが、同じ火災の信号で、開ける扉と閉める扉があることです。避難口の自動ドアに防火戸の閉鎖信号をつないでしまうと、逃げ道が閉まってしまいます。防火戸のしくみは「建築消防|自火報と防火戸・防火シャッターの連動|煙感知器の置き方・閉鎖のしくみ・危害防止とくぐり戸」で解説しています。

⚠️ 自動ドアの前で人が立ち止まる

避難する人が一斉に押し寄せると、センサーが反応して開くのを待つあいだに渋滞が起きます。避難口の自動ドアは、火災の信号で最初から全開にしておくのが安全です。停電したときに手で開けられる力の重さも、製品の仕様で確認しておきます。

ここまでのポイント
  • 避難口の自動ドアは、火災の信号で全開のまま
  • 防火戸を兼ねる自動ドアは、火災の信号で閉まる(手で開けて通れる)
  • 開ける扉と閉める扉を、連動表で区別する


取り合いの注意 ― セキュリティ設備とのつなぎ方

電気錠や自動ドアは、多くの場合入退室管理などのセキュリティ設備の一部です。自火報とセキュリティ設備は別々の業者が担当することが多いので、境目の決めごとが大切です。

確認すること 起きがちなこと 対策
解錠する扉の範囲 避難口でない扉まで開いて防犯上困る、または避難口が漏れる 避難経路図と照らし合わせ、解錠する扉を1枚ずつ連動表に書く
ゲート類 フラッパーゲートが閉じたままで、避難の人が詰まる 火災の信号でゲートを開放する
信号の渡し方 セキュリティの制御盤に火災の入力がない 受信機の移報接点から、中継リレーでセキュリティ側の入力へ
停電時の電源 制御盤の蓄電池が劣化して、停電時に解錠できない 蓄電池の点検と交換の時期を決めておく
再施錠 火災の信号が戻ると自動で施錠される設定になっている 見回ってから手で再施錠する手順にする
一般的な計画の例。建物ごとに設計図書の連動表で確認する
ここまでのポイント
  • 解錠する扉を、避難経路図と照らして1枚ずつ決める
  • フラッパーゲートなども火災の信号で開放
  • 蓄電池の劣化と、再施錠の手順に注意

試験と点検 ― 開く・通れる・戻せるを確かめる

一斉解錠、停電時、自動ドア、手動・遠隔、ゲート類、復旧と再施錠の6つの確認ポイントを並べた図
竣工前の連動試験と定期点検で確かめる6つのポイント。
  • 一斉解錠:火災の信号で、すべての避難口の鍵が開くか。実際に扉を押して開くか
  • 停電時:商用電源を切っても開くか。蓄電池は劣化していないか
  • 自動ドア:避難口は全開のままになるか。防火戸を兼ねるものは閉まって、手で開けて通れるか
  • 手動・遠隔:防災センターの一斉解錠ボタンと、扉ごとの非常解錠
  • ゲート類:フラッパーゲートや入退室管理の扉が開くか
  • 復旧と再施錠:火災の信号を戻したあとの施錠の手順がわかっているか

自火報の点検で感知器を作動させると、建物じゅうの鍵が開きます。点検の日時は、建物の管理者やセキュリティの担当者と事前に調整し、終わったら再施錠と連動の復旧を必ず確認します。

ここまでのポイント
  • 信号で開くだけでなく、実際に扉を押して開くかまで確かめる
  • 停電時の解錠と蓄電池の状態を確認
  • 点検の日時はセキュリティ側と調整し、再施錠まで確認


よくある質問

避難口の扉に電気錠を付けてもよいですか?

付けられますが、火災のときに確実に開くようにする必要があります。建築基準法施行令125条の2では、屋外避難階段への出口や避難階段から屋外への出口などは、屋内から鍵を使わずに開けられるものとしています。電気錠を使う場合は、自動火災報知設備と連動して自動で解錠すること、停電しても開けられること、防災センターなどから遠隔で解錠できることを満たすように計画するのが一般的です。

電気錠は自火報のどの信号で解錠しますか?

受信機の代表信号(どこかの感知器や発信機が作動したという信号)で一斉に解錠するのが一般的です。逃げ道をつくる設備なので、火災の確認を待たずに、第一報で開けます。市町村の火災予防条例で、自動火災報知設備の代表信号による連動解錠を求めている例もあります。

通電時施錠と通電時解錠の違いは何ですか?

通電時施錠は、電気を送っている間だけ鍵がかかる方式で、停電すると鍵が開きます。通電時解錠は、電気を送ったときだけ鍵が開く方式で、停電しても鍵がかかったままです。避難口に通電時解錠の電気錠を使うときは、蓄電池などで停電しても解錠できるようにします。

パニックオープンとは何ですか?

火災や地震などの非常時に、自動ドアを全開にして開けたままにする機能です。自動火災報知設備の信号や地震感知器、非常ボタンなどで動きます。避難口の自動ドアで、人がドアの前で立ち止まらずに逃げられるようにするためのものです。

火災のときに自動ドアが閉まることもありますか?

あります。防火戸を兼ねる自動ドアは、火災の信号を受けると、ゆっくり閉まって防火区画をつくります。閉まったあとも手で開けて通れるようになっていて、通ったあとはまた閉まります。同じ火災の信号で「開ける扉」と「閉める扉」があるので、連動表で区別しておきます。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。