【そうだったのか小ネタ①】電線の色は誰が決めたのか ― 赤白黒は法令ではなく、規程だった
電気工事士の試験で「接地側は白、電圧側は黒」と覚えたあの色。決めているのは法律ではありません。どこまでが法令で、どこからが規程なのかを整理します。
結論
屋内配線の「黒=電圧側/白=接地側/赤=もう一方の電圧側」は、法令が直接定めた色ではありません。決めているのは内線規程(JEAC 8001)という民間の自主規格です。法令は電線の色そのものを定めていません。緑を接地専用にするルールも、法令ではなく規格の側にあります。
- 「赤白黒」の根拠は法令ではなく内線規程
- 緑・緑/黄を接地専用にしているのはJIS C 0446。電技解釈に色の規定はない
- 三相の色別は出自が別(JEM 1134)。白が電圧側になることがある
- 国際規格(IEC系)は茶・黒・灰/青/緑・黄。日本の慣行とは一致しない
電気工事士の試験勉強で、「接地側は白」「電圧側は黒」と何度も書いて覚えた方は多いはずです。現場に出てからも、その色を疑うことはほとんどありません。
では、その色を決めているのは何でしょうか。電気事業法でしょうか。電気設備技術基準でしょうか。——実は、どちらでもありません。ここを正確に知っておくと、輸入機器が入る現場や、色が守られていない既設を前にしたときの判断が変わります。
ハリタ
ハリタ「電線の色は法律で決まっている」は、半分だけ正しい
屋内配線の色を実際に定めているのは、内線規程(JEAC 8001)です。これは一般社団法人日本電気協会がまとめた民間の自主規格であり、それ自体は法令ではありません。守らなかったからといって、直ちに罰則が科されるものでもありません。
では、なぜ全国の現場が例外なく従っているのか。理由は単純で、電気事業法や電気設備技術基準が求める「安全」を、具体的な施工方法まで落とし込んだものが内線規程だからです。法令は「感電や火災のおそれがないようにせよ」とまでしか書けません。その先の「では白と黒をどう使い分けるか」を埋めているのが内線規程です。
📖 ここからは推し量り
内線規程は「白を接地側とする」と定めるだけで、なぜ白なのかは書いていません。ここから先は状況証拠からの推測です。
では、その内線規程はなぜ白と黒を選んだのか。ここが、調べても行き止まりになる部分です。規程は「白を接地側とする」と定めているだけで、選定の理由は書かれていません。
手がかりとして挙げられるのは、米国の慣行との一致です。米国の電気工事規格(NEC)でも、接地された電線には白またはグレーを使うと定められています。日本の電気技術が米国から多くを取り入れてきた経緯を考えると、この一致が偶然とは考えにくい——という見方はできます。
ただし、これはあくまで結果が似ていることから逆に辿った推測です。誰がいつ、どういう議論で白に決めたのかを記録した資料には行き着けませんでした。毎日見ている色なのに、決めた人の顔が見えない。電気の世界には、こういう場所がいくつもあります。
内線規程は「法令の下請け」ではない
業界が共有している解釈の集合だと捉えると理解しやすくなります。設計者・施工者・検査員・後々の保守担当者が、同じ前提で図面と現物を読むための共通言語です。法的義務ではないからこそ、破ったときに困るのは罰則ではなく引き継いだ人だ、という点が本質です。
- 屋内配線の赤白黒を定めているのは内線規程(民間規格)
- 法令は「安全であること」までしか書いていない
- 従う理由は罰則ではなく、共通言語として機能させるため
では、「緑」を決めているのは何か
ここで、多くの解説が取り違えているところを先に潰しておきます。電気設備技術基準の解釈にも、電線の色の規定はありません。解釈の条文を最後まで探しても、色を指定した箇所は出てこず、日本電気技術規格委員会が公表している引用規格の一覧にも、色の規格は入っていません。
では緑はどこで決まっているのか。JIS C 0446(色又は数字による電線の識別)です。これは法令が取り込んだものではなく、独立した規格として、次のように示しています。
- 保護導体(接地線)——緑/黄の縞、または緑
- 中性線・接地側電線——ライトブルー、または白
ここで大事なのは、細かい色名そのものよりも、「緑を他の用途に使わない」というルールが広く成立していることです。緑は接地の予約席で、IEC系・日本のJIS C 0446/内線規程・米国のNECのいずれでも、緑(または緑/黄)を通常の相導体に使うことは認められていません。
ただし、これも法令が禁じているわけではありません。たとえば米国のNECには、クラス2/クラス3の低電圧回路など限定用途で緑の非接地導体を認める例外規定があります。「例外なく世界共通」ではなく、「主要な規格が足並みを揃えている」という理解が正確です。
- 法令(電技解釈を含む)に電線の色の規定はない
- 本質は「緑を他の用途に使わない」という一点
- 緑の専用扱いは主要規格で共通。ただし例外規定を持つ国もある
屋内配線の白と、三相の白は出自が違う
ここが実務でいちばん誤解を生むところです。「白=接地側」は屋内配線の話であって、三相回路の白は、まったく別の系譜から来ています。
| 使う場面 | 色の決め方 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 単相2線式・3線式の屋内配線 | 白=接地側、黒・赤=電圧側 | 内線規程(民間規格) |
| 配電盤・制御盤の内部 | R相・S相・T相を色で識別 | JEM 1134(日本電機工業会) |
| 保護導体(接地線) | 緑、または緑/黄 | JIS C 0446(法令ではない) |
| 国際規格に合わせた設備 | 茶・黒・灰/青/緑・黄 | IEC 60445 系 |
「白だから触っていい」は成り立たない
三相回路や制御盤の内部では、白が電圧のかかった相であることがあります。単相の癖で「白は接地側だから大丈夫」と手を出すと、そのまま感電します。色は作業前の見当をつけるための情報であって、安全を保証するものではありません。検電は、色がどうであろうと必ず行ってください。
国際規格とは、色が合わない
日本の慣行と国際規格を並べると、重なっているのは緑系だけだと分かります。
輸入盤や海外設計の図面が入る現場では、日本仕様に読み替えて製作されたものと、原設計の色のまま持ち込まれたものが混在します。同じ盤の中で系統ごとに流儀が違う、ということも起こります。
このとき判断の順序を間違えないでください。①図面と銘板で仕様を確認する → ②実測して確かめる → ③色は最後の補助情報。色から入ると、必ずどこかで足をすくわれます。
- 日本とIECで一致しているのは緑系だけ
- 青の意味が正反対になるのが最大の危険
- 順序は「図面 → 実測 → 色」。色から入らない
なぜ「白=接地側」を守ると安全になるのか
色を揃えること自体は、美観の話でも形式の話でもありません。極性を前提にした安全設計を成立させるための道具です。もっとも分かりやすいのが、電球のソケットです。
- ランプレセプタクル・ソケットの受金(ネジ部)——ここは接地側に接続します。電球を交換するとき、指が金属部に触れても感電しにくくするためです。
- 引掛シーリング——同様に接地側が決まっています。器具側もその前提で作られています。
- コンセント——接地側の差込口が長いのは、内部で接地側と決められているからです。
つまり、白と黒を入れ替えても電気は問題なく通ってしまうのに、器具の安全設計だけが崩れます。動くから正しい、とは限らない典型例です。試験で極性の減点が重いのは、この理由からです。
既設で色が守られていないときの実務
増改築を重ねた建物では、色の流儀が途中で変わっていることが珍しくありません。白が電圧側に使われている、赤と黒が入れ替わっている、といった現場に出くわします。
- やること①:両端にマーキングする——色を信用できない線には、識別テープや線番チューブを両端に付けます。次に触る人が同じ罠にかからないようにするのが目的です。
- やること②:竣工図・引き継ぎ書に残す——「◯階△室の系統は色が反転している」と一行書いておくだけで、将来の事故を防げます。色は現物にしか残りませんが、図面は残ります。
- やること③:更新のときに正す——改修で線を引き直すなら、その範囲は規程どおりに揃えます。
- やってはいけないこと:色から結線を推測して直す——「たぶん白が接地側だろう」で結線し直すのが、最も危険な対処です。必ず追って確かめてください。
引き継ぎで効く一言
色の異常を見つけたら、「どの範囲が」「どう違っていて」「どちらが正か」の3点を書いてください。「色がバラバラです」だけでは、次の人がまた一から追うことになります。範囲が特定できているかどうかが、記録の価値を決めます。
- 色が守られていない既設は珍しくない
- 推測で直さず、マーキングと記録で次に渡す
- 正すのは、線を引き直す機会が来たとき
よくある質問
電線の色を守らないと、法令違反になりますか?
屋内配線の赤・白・黒は内線規程という民間規格の定めなので、色を違えたこと自体が直ちに法令違反となるわけではありません。ただし、電気事業法や電気設備技術基準が求める安全を具体化したものが内線規程であり、事実上の標準です。検査・引き継ぎ・保守のすべてで支障が出るため、守らない理由はありません。
法令がはっきり色を示しているのはどこですか?
実は、法令はどの色も示していません。電気設備技術基準の解釈にも電線の色の規定はなく、日本電気技術規格委員会の引用規格一覧にも色の規格は入っていません。保護導体を緑または緑/黄とし、中性線・接地側電線をライトブルーまたは白とするのは、法令ではなくJIS C 0446と内線規程の側です。要点は「緑を他の用途に使わない」ことで、これは主要な規格で共通しています。
三相回路の白は、接地側ではないのですか?
接地側とは限りません。三相の色別は配電盤・制御盤向けのJEM 1134などが出自で、屋内配線の「白=接地側」とは別系統のルールです。三相では白が電圧のかかった相であることがあります。単相の感覚を持ち込まないでください。
輸入盤の色は、日本の色に読み替えられていますか?
製作元によります。日本仕様に読み替えて作られたものと、原設計のまま持ち込まれたものが混在します。IEC系では相導体が茶・黒・灰、中性線が青なので、日本の慣行で読むと取り違えます。図面と銘板で仕様を確認し、実測してから判断してください。
白と黒を入れ替えても、器具は問題なく動きますか?
動いてしまいます。だからこそ危険です。ランプレセプタクルの受金や引掛シーリングは、接地側に接続される前提で安全が設計されています。極性が逆だと、電球交換時に金属部へ触れたときの感電リスクが上がります。動作するかどうかは、正しさの証明になりません。
既設で色が反転していました。直すべきですか?
その場で推測して結線し直すのは避けてください。まず両端にマーキングして識別できる状態にし、竣工図や引き継ぎ書に「どの範囲がどう違うか」を記録します。改修で線を引き直す機会があれば、その範囲を規程どおりに揃えるのが現実的な進め方です。
色の根拠を調べたいとき、何を見ればいいですか?
色そのものについては、内線規程(JEAC 8001)の該当節とJIS C 0446、盤内であればJEM 1134が出発点になります。国際規格は、JIS C 0446が対応するIEC 60446が2010年にIEC 60445へ統合されている点に注意してください。なお電気設備技術基準やその解釈には色の規定がないため、色の根拠としては当たりません。規格は改正されるので、節番号は必ず最新版で確認してください。
