受変電設備の設計|変圧器の励磁突入電流と有効的な対策方法について詳しく解説
変圧器に電圧を印加した瞬間、定格電流の10倍前後にもなる電流が流れます。これが励磁突入電流(インラッシュ電流)です。短時間で減衰するため変圧器自体が壊れることはまずありませんが、上位の保護機器や配電系統には確実に影響します。
この記事では、発生の条件と大きさを決める要因、機器ごとに出る影響、保護協調図での確認手順、そして対策の選び方までを、設計判断に使える形で整理します。
ペン太
ハリタ結論
- 励磁突入電流とは、変圧器に電圧を印加(再投入)した瞬間に流れる大きな電流のこと。大きさは波高値で定格電流の約10倍(容量が大きいほど倍率は下がる傾向)
- 発生条件は「電源を投入するとき」と「鉄心に大きな残留磁束があるとき」。この2つが重なったときに最大となる
- 主な影響はOCRの誤動作、PASの誤動作、電力ヒューズの劣化・溶断、配電系統の瞬時電圧低下
- 実用的な対策は変圧器の容量分割+順次投入と励磁突入電流抑制機能付の高圧負荷開閉器(エネセーバ)の2つ。後者は容量に関係なく単相16A・三相18Aの一律値になる
この記事の道案内
単線結線図の作成中、変圧器容量の選定中、エネセーバの採用可否を検討中の方を想定しています。
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励磁突入電流の発生原因
励磁突入電流は、変圧器の鉄心が一時的に磁気飽和することで流れます。ポイントは「投入した瞬間の電圧」と「鉄心に残っていた磁束」の関係です。
発生の条件
- 変圧器に電源を投入するとき
- 変圧器の鉄心に大きな残留磁束があるとき
この2つが重なったときに大きな電流が流れる
鉄心に残留磁束が残っている状態で電圧を印加すると、印加電圧がつくる磁束に残留磁束が上乗せされます。磁束が鉄心の飽和点を超えている間、鉄心は磁気的に「空芯コイル」に近い状態となり、励磁インダクタンスが極端に小さくなるため、大きな電流が流れます。
【励磁】とは
励磁(れいじ)とは、磁化していない強磁性体を磁化すること。また、電磁石のコイルに電流を通じて磁束を発生させることをいいます。
受変電設備でいえば、一次側まで受電された状態の変圧器を投入し、二次側へ送電するタイミングを指します。
残留磁束とは
変圧器に電圧を印加すると、鉄心(強磁性体)が磁化されます。その後に変圧器を切り離し、電流を弱めて磁界をゼロに戻しても、鉄心には磁化が残ります。これが残留磁束です。
改修や点検で変圧器の一次側を切り離したあとでも、鉄心内に磁束が残っている状態を指します。だからこそ「再投入」のタイミングが問題になります。
突入電流の大きさを左右する要因
同じ変圧器でも、投入するたびに突入電流の大きさは変わります。最悪条件がどこにあるかを押さえておくと、対策の要否を判断しやすくなります。
| 要因 | 突入電流への効き方 |
|---|---|
| 投入位相 | 電圧の零点付近で投入されると磁束の変化が最大になり、突入電流も最大になる。電圧ピーク付近での投入なら小さい |
| 残留磁束の向き・大きさ | 投入後に生じる磁束と同じ向きに残留していると、鉄心が深く飽和して電流が大きくなる |
| 変圧器容量 | 定格電流に対する波高値の倍率は、容量が小さいほど低くなる。一方で減衰時定数は容量が大きいほど長くなる |
| 電源側インピーダンス | 電源が強い(インピーダンスが小さい)ほど突入電流は大きく、減衰も遅くなる |
| 鉄心の設計・材質 | 飽和磁束密度に対する運転磁束密度が高いほど飽和しやすい |
波形は片極性(半波整流状)で直流分を含むのが特徴で、数サイクルで急激に減衰し、収まるまでは0.数秒程度です。大きさは定格電流の約10倍が目安ですが、これは波高値での話であり、容量が大きい変圧器ほど倍率そのものは小さくなる傾向があります(大容量機では6〜8倍程度とされる例もあります)。
ここまでのポイント
- 発生条件は「電源を投入するとき」と「鉄心に大きな残留磁束があるとき」
- 2つが重なると鉄心が飽和し、励磁インダクタンスが下がって大電流が流れる
- 投入位相・残留磁束の向き・容量・電源インピーダンスで大きさは変わる
- 約10倍という数値は波高値。減衰は数サイクル〜0.数秒
励磁突入電流による影響・問題点
影響が出るのは変圧器そのものではなく、上位の保護機器と配電系統です。どの機器に、なぜ影響が出るのかを分けて押さえておきます。
誤動作 過電流継電器(OCR)
瞬時要素が突入電流を短絡電流と判断して動作し、変圧器を投入するたびに遮断してしまう。整定と突入電流の協調が取れていないと発生する。
誤動作 PAS(区分開閉器)
過電流ロック形のSOG制御装置が突入電流を過電流として検出し、意図しない動作につながる。
劣化・溶断 電力ヒューズ(PF)
溶断特性の短時間域に突入電流が食い込むと、その場で溶断しなくてもエレメントが熱劣化する。投入を繰り返すうちに劣化が蓄積し、あるとき溶断に至る。
系統影響 瞬時電圧低下
大電流が電源側インピーダンスで電圧降下を生み、同じ配電系統につながる他の需要家にも瞬時電圧低下として波及する。JEAC 8011では配電系統の瞬時電圧低下を10%以内に収めることが求められている。
大容量機で比率差動継電器を用いる場合も同様に問題になります。励磁突入電流は第2調波を多く含むため、これを利用した第2調波抑制(ロック)方式で誤動作を防ぐのが一般的です。
▶ 保護機器そのものの選び方は保護継電器と保護協調 ― OCR・DGR・UVRの読み方、主遮断装置と電力ヒューズは受電部② 主遮断装置(CB形・PF・S形)、PASは責任分界点とPAS・UGSで解説しています。
ペン太
ハリタここまでのポイント
- OCR・PASは「誤動作」、電力ヒューズは「劣化の蓄積と溶断」という別の壊れ方をする
- 影響は自家用構内にとどまらず、配電系統の瞬時電圧低下として外へ波及する
- だから対策は「変圧器を守る」ではなく「保護機器と系統との協調を取る」という考え方になる
設計での確認手順|保護協調図でどう扱うか
対策の要否は、感覚ではなく保護協調図(時間‐電流曲線)の上で判断します。設計の流れは次のとおりです。
- 変圧器の容量・台数・バンク構成を決める
- メーカー資料から、その容量の突入電流の波高値(定格電流の何倍か)と減衰時定数を拾う
- 保護協調図に突入電流の点をプロットする。突入電流は片極性で直流分を含むため、波高値をそのまま実効値として扱うと過大評価になる。等価的な実効値への換算方法は社内基準や電力会社の要領で扱いが異なるため、必ず適用する基準を確認する
- OCRの瞬時要素整定、電力ヒューズの溶断特性、PASのOC整定が、そのプロット点より動作しない側にあるかを確認する
- 協調が取れない場合に、はじめて機器や構成での対策を検討する
先に確認しておきたいこと
- 電力会社との協議事項に、励磁突入電流抑制の要求が含まれていないか
- 既設更新なら、現状の投入手順と過去のヒューズ溶断・OCR動作の履歴
- 変圧器の一次側開閉器がLBSかVCBか(採用できる対策が変わる)
ペン太
ハリタ励磁突入電流の対策方法
実務で採用される対策は大きく4つです。まず全体像を並べ、そのうえで中心となる2つを詳しく見ていきます。
| 対策 | 抑制効果 | 主なデメリット | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ① 変圧器を分割し順次投入する | 容量に応じて低減 | バンク増によるコスト増、順次投入という人為的操作のミス | 新設で複数バンク構成が取れる場合 |
| ② 抑制機能付の高圧負荷開閉器(エネセーバ) | 単相16A・三相18Aで一律 | 機器が高価、設置スペースの確保、制御電源と保守の条件 | 単一バンクで容量が大きい、投入頻度が高い場合 |
| ③ 保護整定・保護方式で吸収する | 抑制はしない | 協調が取れる範囲でしか成立しない | 突入電流が想定内で、整定で逃げられる場合 |
| ④ 運用でしのぐ(時間差投入) | 運用次第 | 操作ミスのリスク、手順書と教育が必要 | 既設で当面の暫定対応が必要な場合 |
① 変圧器容量を小さくし順次投入する方法
1バンクあたりの変圧器容量を小さくして分割すれば、時限を分けて投入できます(順次投入)。1バンクにまとめる場合に比べ、1回の投入で流れる突入電流を抑えられます。
メリット
- 励磁突入電流を抑制できる
- 機器の追加購入が不要で、バンク構成の工夫だけで成立する
デメリット
- 変圧器バンク増によるコスト増(盤スペースも増える)
- 順次投入という人為的な動作に依存するため、操作ミスの可能性がある
変圧器の分割が有効な理由
突入電流の最大値は、次の2つの値でおおよそ決まります。
- 変圧器定格電流波高値【 K 】
- 減衰時定数【 t 】
この2つは変圧器容量に応じておおよそ決まっており、容量が小さいほど低くなります。したがって容量を分割すれば1台あたりの突入電流の最大値が下がり、さらに順次投入で時間をずらせば、同時に重なることも避けられます。
▶ バンク構成と台数の決め方は変圧器部 ― 容量・結線・台数の決め方、標準容量の刻みの理由はなぜ50・75・100・150kVAなのかで扱っています。
LBSでの順次投入はどう実現するか
LBSは基本が手動操作の開閉器です。順次投入は機器の機能ではなく、操作手順か制御回路の作り方で実現します。方法は次の3つです。
| 方法 | 実現のしかた | 確認しておくこと |
|---|---|---|
| ① 手動で1台ずつ投入する | 変圧器ごとにPF付LBSを設け、1バンク目を投入し、電圧が回復してから2バンク目を投入する。突入電流は数サイクル〜0.数秒で減衰するため、人の操作速度(数秒以上)なら重ならない | 担保するのは機器ではなく手順。盤面への投入順序の表示と、停復電手順書への明記が前提 |
| ② 電動操作機構付LBS+タイマ | 電動操作機構を付け、復電検出(UVRなど)からオンディレイタイマでT1=1号、T2=2号…と時間差で投入するシーケンスを組む | 制御電源を開閉器の二次側から取れないため、一次側VTなど無停電の電源を別に確保する |
| ③ 一次側をVCBにする | 主遮断装置がCB形なら制御回路を組みやすく、時間差投入も確実に行える | 盤スペースとコストが増える。変圧器ごとにVCBを設けるかどうかで判断が変わる |
いちばん注意したい落とし穴|復電時は順次投入にならない
手動の順次投入は、停電から復電するときには効きません。LBSは投入したまま(ON状態)なので、電力会社側の停電作業明けや瞬停からの復帰では、全バンクが同時に励磁されます。分割したのに突入電流が重なる、という事象はここで起きます。
- 計画停電では、受電用のLBS/VCBを開いてから各変圧器を切り、復電後に順番に入れ直す手順にする
- 瞬停や自動復帰が想定される系統では、手動の順次投入では担保できない。②の自動化か、抑制機能付LBS(エネセーバ)に振る
ペン太
ハリタ投入順序そのものは負荷の重要度で決めて構いません。ただし進相コンデンサは、変圧器の投入が落ち着いたあとに入れてください(コンデンサ自身の突入電流は直列リアクトルで別途対策します)。
② 励磁突入電流抑制機能付を採用する方法
変圧器の一次側にLBSを採用する場合、励磁突入電流抑制機能付のもの(三菱電機製:エネセーバ)を採用すると、突入電流そのものを機器で抑えられます。
どうやって抑えているのか
主接点よりも先に投入抵抗(限流抵抗)の接点を閉じ、抵抗を介して変圧器を励磁します。これにより鉄心の急激な磁化が抑えられ、磁気飽和による大電流が発生しません。その後に主接点が閉じます。
メリット
- 励磁突入電流を抑制できる
- 変圧器容量やバンク構成を変更する必要がない
- 機器による抑制のため、人の操作に依存せず信頼性がある
- 容量に関係なく突入電流が一律になる(単相:16A、三相:18A)
デメリット・確認事項
- 機器自体が高価である
- 設置スペースの確認が必要である
- 制御電源を開閉器の二次側から取れないため、一次側VTなど無停電の電源を別に確保する必要がある
- 投入動作用の部品はメーカー指定の周期で定期交換が必要(保守計画に織り込む)
抑制機能付が有効な理由
抑制機能付を採用すると、変圧器容量に関わらず励磁突入電流を一律にできます。たとえば三相500kVAでは、抑制なしで数百A規模になる突入電流が、抑制機能付では18A程度に収まります。上位のOCR整定や電力ヒューズの選定を、突入電流に引きずられずに決められるのが最大の利点です。
適用できる変圧器容量には機種ごとの範囲があります(概ね300kVA級以上が目安)。採用にあたっては必ずメーカーの技術資料で適用範囲を確認してください。また近年は、配電系統の電圧品質確保の観点から、電力会社側が抑制機能付LBSの設置を求めるケースが増えています。設計初期の協議で要求の有無を確認しておくと手戻りがありません。
まず①の分割+順次投入で成立するかを検討する
②の抑制機能付を前提に、スペースと制御電源を先に押さえる
整定と実測の確認を先に。それでも外れるなら②へ
ここまでのポイント
- 対策の柱は「変圧器を分割し順次投入する」と「抑制機能付の高圧負荷開閉器を採用する」の2つ
- 分割が有効なのは、容量が小さいほど定格電流波高値と減衰時定数が低くなるため
- 抑制機能付は投入抵抗を先に入れる方式で、容量に関係なく単相16A・三相18Aの一律値になる
- 抑制機能付は価格・スペースに加え、制御電源と定期交換の条件を設計段階で確認する
電源を投入
残留磁束
定格電流の約10倍
順次投入(容量を小さく)
(単相16A・三相18Aで一律)
実務で取り違えやすいところ
| 取り違えやすいところ | 正しくは |
|---|---|
| 突入電流は電源投入時なら必ず大きい | 電源投入と残留磁束が重なったときに大きくなる。投入位相によっては小さいこともある |
| 影響は変圧器そのものに限られる | OCR・PAS・電力ヒューズ・配電系統にも及ぶ |
| ヒューズが飛ばなければ問題ない | 溶断しなくてもエレメントは熱劣化する。繰り返しで蓄積し、あるとき溶断する |
| 約10倍は実効値のこと | 約10倍は波高値。保護協調図に載せるときは扱いを社内基準で確認する |
| 対策すればコストは変わらない | 分割はバンク増によるコスト増、抑制機能付は機器が高価 |
| 抑制機能付なら容量ごとに突入電流が変わる | 容量に関係なく単相16A・三相18Aの一律値になる |
| 順次投入は自動で行われる | 人為的な動作のため操作ミスの可能性がある |
よくある質問(FAQ)
Q1. 励磁突入電流とは何ですか?定格電流の何倍になりますか?
変圧器に電圧を印加(再投入)した瞬間に流れる大きな電流のことです。大きさは波高値で定格電流の約10倍程度、場合によっては10倍を超えることもあります。
Q2. どのような条件で発生しますか?
変圧器に電源を投入するときと、鉄心に大きな残留磁束が残っているとき、この2つが重なったときに大きな突入電流が流れます。
Q3. どのくらいの時間で収まりますか?
数サイクルで急激に減衰し、収まるまでは0.数秒程度です。ただし減衰時定数は変圧器容量が大きいほど長くなります。
Q4. 発生するとどのような影響がありますか?
過電流継電器(OCR)の誤動作、PASの誤動作、電力ヒューズの劣化・溶断、配電系統の瞬時電圧低下などが挙げられます。
Q5. 主な対策方法は?
変圧器を分割(容量を小さく)して順次投入する方法と、高圧負荷開閉器に励磁突入電流抑制機能付(エネセーバ)を採用する方法があります。抑制機能付では容量に関わらず励磁突入電流が一律(単相16A・三相18A)になります。
Q6. エネセーバはどんな仕組みで抑えているのですか?
主接点より先に投入抵抗の接点を閉じ、抵抗を介して変圧器を励磁することで鉄心の急激な磁化を抑えます。その後に主接点が閉じます。制御電源を開閉器の二次側から取れない点と、部品の定期交換が必要な点に注意が必要です。
Q7. コンデンサの突入電流とは違うものですか?
別の現象です。変圧器の励磁突入電流は鉄心の磁気飽和によるもので、コンデンサの突入電流は充電電流によるものです。抑制の考え方も異なり、コンデンサでは直列リアクトルによる抑制が基本になります。
まとめ
発生と影響で押さえること
- 発生条件は「電源投入時」と「鉄心の大きな残留磁束」。2つが重なったときに大きくなる
- 大きさは波高値で定格電流の約10倍。投入位相・残留磁束・容量・電源インピーダンスで変わる
- 主な影響はOCRの誤動作、PASの誤動作、電力ヒューズの劣化・溶断、配電系統の瞬時電圧低下
対策で押さえること
- まず保護協調図の上で、整定や溶断特性と協調が取れているかを確認する
- 1バンクの容量を小さく分割すると、時限を分けて投入できる(容量が小さいほど波高値と減衰時定数が低い)
- 抑制機能付を採用すると、容量に関係なく単相16A・三相18Aの一律値になる
- 抑制機能付は価格・設置スペース・制御電源・定期交換までを含めて判断する
投入方式で抑えるか、機器で抑えるか。系統の構成とスペース、コスト、そして電力会社からの要求の有無を並べて判断してください。
ペン太
ハリタ- 日本電気技術者協会「変圧器励磁突入電流(インラッシュ電流)によるトラブルとその対応」
- 三菱電機 励突抑制開閉器(エネセーバ)製品情報
- JEAC 8011(高圧受電設備規程)
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