【引込・受電設備の設計マニュアル④】責任分界点とPAS・UGS ― 分界点の先で起こしたことは、こちらの責任になる
こんにちは、HARITAの設計室です。
引込・受電設備の設計マニュアル、第4回です。前回で引込ルートまで決めました。今回は、そのルートの終点に置く責任分界点の話です。
第1回で「分界点より先で起きた事故は、こちらの責任になる」と書きました。今回はその中身を見ていきます。なぜPASという機器が要るのか。波及事故とは実際に何が起きることなのか。
「分界点」は、ひとつではない
まず用語の整理からです。分界点には性格の違うものがあります。
- 財産分界点:設備の所有が分かれる点。ここまでが電力会社の持ち物、ここから先が需要家の持ち物、という線です。
- 保安上の責任分界点:設備の保安責任が分かれる点。事故が起きたとき誰の責任になるかを分ける線です。
実務では両方が同じ位置になることが多く、まとめて「責任分界点」と呼ばれます。ただし必ず一致するとはかぎりません。所有と保安が別々になっている契約もあります。
新人のうちは「だいたい同じでしょう」で済ませてしまいがちですが、事故が起きたときに効いてくるのはここです。受給契約書・供給条件でどう定義されているかを確認する癖をつけてください。
受変電設備側から見た引込部の整理は 高圧受変電設備の設計マニュアル④ 引込部 にあります。
架空ならPAS、地中ならUGS
高圧受電では、責任分界点に開閉器を置きます。引込方式によって機器が変わります。
PAS(気中負荷開閉器)は架空引込のときに使い、引込柱の上に取り付けます。UGS(地中線用開閉器)は地中引込のときに使い、地上のケースに収めます。
設計上の違いは置き場所と点検のしかたに出ます。PASは柱上なので点検が高所作業になります。UGSは地上に置けるので点検は楽ですが、そのぶん敷地に場所を用意しなければなりません。
前回の話とつながっていることに気づいたでしょうか。引込方式が決まると、分界点に置く機器も決まる。だから引込方式は早く固めたほうがいいのです。
SOGは「無電圧になってから」切る
PAS・UGSにはSOG制御装置が付きます。SOGは Storage(蓄勢)・Over current(過電流)・Ground(地絡)の頭文字です。
ここが新人のうちにいちばん理解しづらいところなのですが、SOGは事故を検出しても、その場では切りません。順番はこうです。
- ① 構内で地絡が起きる
- ② SOGが地絡を検出し、「蓄勢」して待つ
- ③ 配電用変電所の遮断器が動作し、配電線が無電圧になる
- ④ 無電圧になったその瞬間に、PASが開放する
- ⑤ 事故のあった自分の設備だけが切り離され、変電所の再閉路で他の需要家は復電する
なぜ電流が流れているうちに切らないのか。PAS・UGSは負荷開閉器であって、遮断器ではないからです。事故電流を切る能力がありません。無理に切れば機器が壊れ、事故がもっと大きくなります。
だから「電流がなくなるまで待って、その一瞬で切る」。これがSOGのSにあたる蓄勢の意味です。
過電流(短絡)の場合はさらに慎重で、SOGは開放をロックします。短絡電流はPASの手に負えないので、変電所側に遮断させるという考え方です。
波及事故とは、何が起きることか
では、なぜそこまでして「切り離す」必要があるのか。波及事故を防ぐためです。
高圧の配電線には、自分の建物だけでなく、同じ線につながった他の需要家がいます。となりのビル、工場、店舗。自分の構内で地絡が起きたとき、それが系統に伝わると、配電用変電所の遮断器が動作します。
するとその配電線につながっている建物が、丸ごと停電します。自分の設備の事故で、他人の事業を止めてしまう。これが波及事故です。
原因は、ケーブルの絶縁劣化、小動物の侵入、施工不良、点検不足などさまざまです。ただ共通しているのは、いずれも分界点より内側で起きているということです。だから責任はこちらにあります。
PASのSOG制御は、この波及を防ぐための仕組みです。事故を起こした需要家が自分から系統を離れることで、変電所の再閉路によって他の需要家は数十秒で復電できます。
保護の考え方をもう一段深く見るなら、過電流継電器による高圧ケーブルサイズの選定 もあわせてどうぞ。
分界点から主遮断装置までの並び
最後に、分界点から受変電設備までの並びを整理しておきます。
PAS・UGS →(高圧引込ケーブル)→ VCT・電力量計 → 断路器 → 主遮断装置。この順番が、引込・受電の設計で描く範囲です。
VCT(計器用変圧変流器)は計量のための機器で、これと電力量計で使用電力量を測ります。設置場所は電力会社の指定によります。検針や取替えのしやすさも条件になるので、勝手に決めずに協議で確定させてください。
設置基準と場所の検討は VCTの設置基準と設置場所の検討方法 が詳しいです。
主遮断装置から先、つまりキュービクルの中身は 高圧受変電設備の設計マニュアル の担当範囲です。この連載では、そこに入る手前までを固めます。
なお、専用受電設備として引き込む場合、高圧ケーブルに耐火仕様が求められることがあります。【専用受電設備】高圧ケーブルの耐火仕様 を確認してください。
まとめ ― 分界点の先で起こしたことは、こちらの責任になる
- 分界点には財産分界点と保安上の責任分界点がある。多くは一致するが、契約書で確認する
- 架空ならPAS、地中ならUGS。引込方式が決まれば機器も決まる
- SOGは事故電流をその場で切らない。無電圧になった一瞬で開放して、自分を切り離す
- 短絡電流のときは開放をロックし、変電所側に遮断させる
- 波及事故=自分の構内事故で、同じ配電線の他の需要家まで停電させること
- 並びは PAS・UGS →ケーブル→ VCT →断路器→ 主遮断装置。その先は受変電編
PASは自分を守る機器ではなく、まわりを巻き込まないための機器です。
よくある質問
Q1. PASとUGS、どちらを選ぶかは自由に決められますか?
引込方式で決まります。架空引込ならPAS、地中引込ならUGSです。逆に言えば、第3回で扱った架空か地中かの判断が、そのまま機器の選定につながっています。
Q2. 低圧受電でもPASは必要ですか?
必要ありません。PAS・UGSは高圧受電の設備です。低圧受電では引込線取付点が区分点になり、こうした開閉器は設けません。波及事故の心配も、高圧受電のような形では生じません。
Q3. 波及事故を起こすと、どうなりますか?
技術的には、原因の調査と復旧、電力会社への報告が必要になります。加えて、停電した他の需要家に損害が出た場合の扱いが問題になり得ます。ここは法律・契約の領域なので、実際の対応は電気主任技術者と契約内容にもとづく判断になります。設計者としてできるのは、そうならない設備をつくることと、竣工後に点検できる設備にしておくことです。
次回予告
第5回は「電力会社との協議・申込み」です。事前相談から受給契約申込、竣工検査、受電まで。何をいつ相談し、何を決めておく必要があるのか。ハブの目次で「(準備中)」になっていた項目を、ここで埋めます。
合言葉は「受電日から逆算する」。




