住まいづくりは、新築だけではありません。中古住宅を買って直す、いま住んでいる家をリフォームする——このルートを選ぶ方は年々増えています。ところが電気に関する情報は新築向けばかりで、リフォームとなると途端に手がかりが少なくなります。

新築とリフォームでは、決め方の順番がそもそも逆です。この記事では、中古を買う前に見るべき場所から、築年数別の見直しポイント、費用の目安、見積書の読み方までを、電気設備設計の立場で整理します。

この記事でわかること

  • 中古住宅の内見で、電気のどこを見ればいいか
  • 築年数によって、何を見直すべきか
  • リフォームの範囲別に、どこまで手を入れられるか
  • 工事費用の目安と、見積書で確認すべき点
  • 2026年にリフォームで使える補助制度

1. 新築とリフォームは、決め方の順番が逆

まず頭を切り替えるところから始めます。

新築 リフォーム
出発点 理想の暮らし いまある建物の状態
考える順番 やりたいこと → 必要な設備 できること・できないことの把握 → 優先順位づけ
制約 予算と法規 予算・法規に加えて構造と既存配線
調査 不要 現地調査が必須。図面がない家も多い
失敗のしかた 付け忘れる できると思っていたことが、できない

リフォームでいちばん多いトラブルは、「壁を開けてみたら想定と違った」というものです。だからこそ、調べる段階にきちんと時間とお金をかけることが、結果的に最も安く済みます。

2. 中古住宅の内見で見るべき電気の5か所

中古住宅を検討している方向けの、実践的なチェックポイントです。専門家でなくても、スマホで写真を撮ってくるだけで、後の相談が驚くほどスムーズになります。

2-1. 分電盤

ここが最重要です。玄関近くや洗面所の壁、収納の中にあります。次の3点を見て、扉を開けた状態で写真を撮ってきてください。

  • 漏電ブレーカーがあるか:中央にある少し大きめのブレーカー。「漏電」「ELB」などと書かれています。これが無い家は要注意です
  • 回路数(小さいブレーカーの数):10個未満なら、いまの暮らしには足りない可能性が高いです
  • 空き回路があるか:使っていないスペースが残っていれば、増設がしやすい

分電盤の見方そのものは分電盤の見方 完全入門で詳しく解説しています。

2-2. コンセント

  • :1部屋に1〜2か所しかない家は、生活の中で確実に困ります
  • アース端子:洗面所・キッチンに、緑のフタが付いた端子があるか
  • 状態:プレートの焦げ、変色、ぐらつきがないか。焦げ跡があれば、その場で不動産会社に伝えてください
  • 形状:3つ穴(アース付き)か2つ穴か

2-3. 引込線と電力量計

屋外に出て、電線が家に引き込まれている部分を見ます。

  • 引込線が2本か3本か:3本なら単相3線式で、200Vが使えます。2本の場合は単相2線式で、IHやエアコンの200V機器を使うには変更工事が必要です
  • 電力量計がスマートメーターか:デジタル表示ならスマートメーター。円盤がクルクル回るタイプなら旧型です

200Vについては200Vコンセントへの切替工事で詳しく扱っています。

2-4. 天井・壁の点検口

押し入れの天井やユニットバスの天井にある四角いフタです。ここがあるかないかで、後から配線を通せるかどうかが大きく変わります。点検口があれば、天井裏を通して配線を追加できる可能性が高くなります。

2-5. 屋外まわり

  • 屋外コンセントの有無と位置
  • エアコンの配管穴が、使いたい部屋にあるか
  • 駐車場までの距離(将来のEV充電を考えるなら)
  • 太陽光パネルが載っている場合、いつ設置したものか(売電期間の残りを確認)

内見時に不動産会社へ聞く3つの質問

  • 「電気の配線図(竣工図)は残っていますか?」
  • 「過去に電気工事のリフォーム履歴はありますか?」
  • 「契約アンペアは何アンペアですか?」

配線図が残っている物件は、リフォームの計画がぐっと立てやすくなります。無い場合でも、あらかじめ分かっていれば調査費用を見込んでおけます。


3. 築年数で変わる、見直しのポイント

建物の年代によって、電気設備の「常識」が違います。ご自身の家がどこに当てはまるかを確認してください。

年代 起こりやすいこと 優先して見直すもの
〜1980年代 漏電ブレーカーが無い、単相2線式、アース無し、回路数が少ない 分電盤の全面交換、単相3線式化、アース工事
1990年代 回路数不足、アース端子が水まわりのみ、容量30〜40A 分電盤交換、回路増設、契約容量の見直し
2000年代 基本構成は現代と同じ。ただし在宅勤務・EVなど新しい需要に足りない 回路増設、200V化、LAN配線の追加
2010年代〜 設備自体は大きな問題なし 暮らしに合わせたコンセント増設、スマート化

劣化のリスクそのものについては古い家の電気設備リスクで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

4. リフォームの範囲で、できることが決まる

「壁の中に配線を通せるか」が、すべてを分けます。工事の範囲別に整理すると次のとおりです。

工事の範囲 できること できないこと
スケルトン(内装をすべて解体) 配線の全面やり直し、分電盤移設、回路の自由な設計。新築とほぼ同等 建物の構造・引込位置の大きな変更
部分リフォーム(水まわり・部屋単位で壁を開ける) その範囲の配線追加、コンセント・スイッチの移設、回路増設 壁を開けない部屋の配線変更
表面リフォーム(クロス張替え程度) 器具の交換、露出配線での増設、分電盤の交換 壁の中を通す新規配線(原則)

「ついでにやる」がいちばん安い
リフォームの費用は、電気工事そのものより壁や天井を開けて元に戻す手間が大きな割合を占めます。つまり、どうせ壁を開ける工事のときに、電気もまとめてやるのが圧倒的に得です。
キッチンを入れ替えるなら、その壁のコンセントも一緒に。浴室を替えるなら、洗面所の回路も一緒に。「いま開けるところは、どこですか?」と聞いて、その範囲で電気の希望を伝えてください。


5. 費用の目安

あくまで一般的な目安です。建物の状況・地域・施工会社によって大きく変わるため、必ず現地調査のうえで見積を取ってください

工事 費用の目安 備考
コンセント増設(1か所) 1.5万〜3万円 壁を開ける場合は内装補修が別途
コンセントの交換・アース付き化 数千円〜1万円 アース線が来ていれば安い
回路の増設(1回路) 1.5万〜3万円 分電盤に空きがあることが前提
分電盤の交換 5万〜15万円 回路数・設置状況による
200Vコンセントの新設 1.5万〜3万円 単相3線式であることが前提
単相2線式→3線式への変更 5万〜15万円 電力会社側の工事+屋内工事
契約アンペアの変更 基本的に無料のことが多い 電力会社の作業。分電盤交換が要る場合は別途
アース工事 1万〜3万円 アース棒の打ち込みが必要な場合は増
全面配線やり直し(30坪目安) 80万〜150万円 スケルトンリフォーム時
EV充電用コンセント 10万〜20万円 距離・ルートによる。補助制度あり

契約アンペアの考え方は契約アンペアの決め方にまとめています。

6. 進め方とスケジュール

段階 やること 電気で押さえること
①現状把握 建物状況調査(インスペクション)、図面の有無を確認 分電盤・引込方式・回路数・アースの状況
②要望の整理 不満リストと、やりたいことを書き出す 使う家電、置きたい場所、将来の予定
③プラン・概算 工事範囲を決める 「壁を開ける範囲」を確認し、その中で希望を出す
④見積・契約 相見積を取り、内容を精査 電気工事の項目が具体的に書かれているか
⑤着工〜解体 壁・天井を開ける ここで実物を見て最終決定できる。立会いを申し込む
⑥配線工事 壁を閉じる前 位置の最終確認。ここが変更の限界
⑦仕上げ・完了 器具付け・試運転 全コンセントの通電確認、竣工図の受け取り

リフォームだけの特権:解体後に決められる
新築と違い、リフォームには「解体して中身が見えた段階」があります。ここで柱や梁、既存配線の実物を見ながら相談できるのは、大きなメリットです。
逆に言えば、解体後にプランが変わることを前提に、予備費を10〜20%見ておくことをおすすめします。「想定外が出る」のがリフォームの常です。


7. 見積書の見方

電気工事の見積は、施主にとって最も読みにくい部分です。次の4点だけ押さえてください。

7-1. 「一式」が多い見積は要注意

「電気設備工事 一式 ◯◯円」とだけ書かれた見積は、後から「それは含まれていません」というトラブルの元になります。コンセント◯か所、スイッチ◯か所、照明器具取付◯台のように、数量が書かれているかを確認してください。

7-2. 「材工共」かどうか

「材工共(ざいこうとも)」は、材料費と施工費の両方を含むという意味です。器具が別途なのか込みなのかで金額が変わるので、照明器具・コンセント本体が含まれるかを確認しましょう。

7-3. 内装補修が含まれているか

壁を開けて配線を通す工事では、電気工事の後にクロスの補修が必要になります。これが電気工事の見積に入っているのか、内装工事側にあるのか、それとも誰も見ていないのか。ここは高確率で抜けます。

7-4. 相見積は「同じ条件」で

複数社から見積を取るときは、同じ要望書を渡すことが鉄則です。会社によって前提が違うと、金額だけ見ても比べられません。第3回のチェックリストを印刷して同じものを各社に渡すと、比較がしやすくなります。

8. 2026年にリフォームで使える補助制度

省エネ性能を上げるリフォームには、国の補助制度が用意されています。2026年度は「住宅省エネ2026キャンペーン」として複数の事業が動いており、リフォームは「みらいエコ住宅2026事業」が中心です。

項目 内容
補助上限 1戸あたり100万円(世帯や工事内容による区分あり)
申請期間 2026年6月30日〜12月31日(予算上限に達し次第終了)
主な対象工事 開口部・外壁・屋根・床の断熱改修、エコ住宅設備の設置、バリアフリー改修など
条件 登録事業者による工事であること、補助額の合計が5万円以上であること

補助金で必ず確認すべき2点

  • 依頼する会社が登録事業者か:申請するのは施主ではなく事業者です。登録していない会社では使えません
  • 着工時期の条件:制度ごとに「いつ以降の着工が対象か」が決まっています。契約前に確認してください

※本記事の内容は2026年8月時点の情報です。最新の要件は必ず公式サイトでご確認ください。太陽光・蓄電池・EV充電設備については、国の別制度や自治体独自の上乗せがある場合があります。お住まいの市区町村名とあわせて検索してみてください。


9. リフォームでよくある失敗7選

失敗 対策
①壁を閉じてから「ここにも欲しかった」 解体後・配線前に必ず現地で最終確認
②キッチンだけ替えて、回路が足りないまま 設備の入替時は回路も一緒に見直す
③IHにしたかったが単相2線式だった 購入・契約前に引込線の本数を確認
④見積に内装補修が入っておらず追加請求 クロス補修の扱いを契約前に確認
⑤露出配線だらけになって見た目が悪い どこまで隠せるかを事前に確認
⑥補助金が使えない会社と契約していた 契約前に登録事業者かを確認
⑦竣工図をもらわず、次の工事で困る 完了時に配線図を必ず受け取る

10. チェックリスト

  • 分電盤に漏電ブレーカーがあるか確認した
  • 回路数と空き回路を確認した
  • 引込線が2本か3本か(単相2線式/3線式)を確認した
  • アース付きコンセントの有無を確認した
  • コンセントに焦げ・変色がないか見た
  • 点検口の有無を確認した
  • 過去の工事履歴と配線図の有無を聞いた
  • 今回の工事で壁を開ける範囲を確認した
  • その範囲の中で、増設したいコンセント・スイッチを伝えた
  • 見積が「一式」でなく数量表記になっているか確認した
  • 内装補修が見積に含まれるか確認した
  • 依頼先が補助金の登録事業者か確認した
  • 解体後の立会いを申し込んだ
  • 完了時に竣工図をもらう約束をした

よくある質問(FAQ)

Q1. 中古を買う前に、電気の調査だけ頼めますか?

建物状況調査(インスペクション)の一部として、電気設備を見てもらえる場合があります。また、リフォームを依頼する予定の会社に、購入前の内見に同行してもらえることもあります。買ってから「思っていた工事ができない」と分かるのがいちばん痛いので、可能なら購入前の同行を相談してみてください。

Q2. 住みながらのリフォームでも、電気工事はできますか?

できます。ただし工事中は一時的に停電する時間帯が発生します。分電盤の交換なら数時間、部分的な工事なら短時間で済むことが多いです。冷蔵庫や在宅勤務の予定がある場合は、事前に日時を調整してもらいましょう。

Q3. コンセントの増設くらい、自分でできませんか?

できません。屋内配線に手を加える作業は電気工事士の資格が必要で、無資格で行うと法令違反になるうえ、火災や感電の原因になります。テーブルタップを使う、電池式の機器を使うといった範囲にとどめ、配線に関わることは必ず電気工事店に依頼してください。

Q4. 分電盤は何年くらいで交換するものですか?

メーカーは一般に13年程度を交換の目安として案内しています。ただし年数だけで判断するものではなく、漏電ブレーカーが無い、回路が足りない、焦げや異音があるといった状態のほうが重要な判断材料です。リフォームで壁を触るタイミングは、交換を検討する良い機会になります。

Q5. リフォームでLAN配線は入れられますか?

壁を開ける範囲であれば可能です。開けない場合でも、既存の配管を利用する、モールで露出配線する、Wi-Fiのメッシュ機器で補うといった方法があります。まずは「どの部屋に有線が欲しいか」を伝えて、可能な方法を提案してもらってください。

まとめ|リフォームは「調べる」に投資する

新築の電気計画が「理想から引き算する」作業だとすれば、リフォームは「現状から積み上げる」作業です。だからこそ、最初の現状把握がすべてを決めます。

最後に要点をまとめます。

  • 中古の内見では分電盤・コンセント・引込線・点検口・屋外を写真に撮る
  • 漏電ブレーカーの有無と、引込線が2本か3本かは最優先で確認
  • できることは「壁を開ける範囲」で決まる。開けるならまとめてやる
  • 見積は「一式」を避け、数量と内装補修の扱いを確認する
  • 補助金は登録事業者かどうかを契約前に確認する
  • 解体後の立会いは、リフォームならではの最大のチャンス

中古を買って直す住まいづくりは、選択肢が制限される代わりに、実物を見ながら決められるという新築にはない強みがあります。その強みを活かすために、この記事を内見や打ち合わせのお供にしてください。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。