建築消防|消防用設備の3つのルートと令32条特例|仕様規定・性能規定・大臣認定
消防法、消防法施行令、消防用設備等、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、自動火災報知設備、誘導灯、排煙設備、非常電源。設計は基本的に政令の技術基準どおりに納めます。ただし「基準どおりに納まらない」ときの出口は、1つではありません。
消防長・消防署長の判断による令第32条の特例だけを思い浮かべる人が多いのですが、その手前に性能規定という制度があります。ルートA・ルートB・ルートC、そして令32条特例。この4つは根拠条文も判断者も違います。混ぜて考えると、協議の場で話が噛み合いません。
出発点は消防法第17条
消防用設備等の設置義務は消防法第17条にあります。第1項と第3項で、ルートが分かれます。
消防法 第17条 第1項(抜粋)
…政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。
「必要とされる性能を有するように」という文言が入っているのがポイントです。これは平成15年法律第84号(公布 平成15年6月18日)による改正で入り、平成16年6月1日から施行されました。それまでの消防法令は、材料・寸法・構造を具体的に定める仕様規定一本でした。
消防法 第17条 第3項(抜粋)
…消防用設備等に代えて、特殊の消防用設備等その他の設備等(以下「特殊消防用設備等」という。)であつて、当該消防用設備等と同等以上の性能を有し、かつ、当該関係者が総務省令で定めるところにより作成する特殊消防用設備等の設置及び維持に関する計画(以下「設備等設置維持計画」という。)に従つて設置し、及び維持するものとして、総務大臣の認定を受けたものを用いる場合には、当該消防用設備等については、前二項の規定は、適用しない。
「ルートA/ルートB/ルートC」という呼び方は法令用語ではありません。ただし業界だけの通称でもなく、消防庁の検討会資料でも使われています(「ルートA(現行の仕様規定)、ルートB(性能規定)、ルートC(大臣認定)の3ルートに多様化」)。協議の場で通じる言葉です。
ルートB ― 令第29条の4という条文
ルートBの根拠は消防法施行令 第29条の4です。第2章第3節の第七款という、目立たない場所にあります。
消防法施行令 第29条の4 第1項(抜粋)
…設置し、及び維持しなければならない…消防用設備等(以下この条において「通常用いられる消防用設備等」という。)に代えて、総務省令で定めるところにより消防長又は消防署長が、その防火安全性能(火災の拡大を初期に抑制する性能、火災時に安全に避難することを支援する性能又は消防隊による活動を支援する性能をいう。)が当該通常用いられる消防用設備等の防火安全性能と同等以上であると認める消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設…を用いることができる。
ここに出てくる3つの性能が、いわゆる初期拡大抑制性能・避難安全支援性能・消火活動支援性能です。前回の記事で扱った特定共同住宅等の省令が、まさにこの3性能で組み立てられているのは、根拠がこの条文だからです。
この枠組みの省令は現在6本あります。「パッケージ型消火設備・パッケージ型自動消火設備・加圧防排煙設備の3つだけ」と書いてある解説を見かけますが、それは平成16年総務省令第92号と平成21年総務省令第88号の3設備を数えたもので、特定共同住宅等(平成17年総務省令第40号)も、特定小規模施設も、複合型居住施設も、特定駐車場も、同じ令第29条の4に基づく省令です。
設計者として押さえておきたいのは、ルートBは「申請して認めてもらう」ものではなく、省令の要件を満たせば使えるという点です。判断者は消防長・消防署長ですが、判断の基準は省令に書かれています。
ルートC ― 総務大臣認定(特殊消防用設備等)
省令にも書かれていない、まったく新しい技術を使う場合がルートCです。手順は2段階になります。
まず日本消防検定協会、または総務大臣の登録を受けた法人の性能評価を受けます(消防法第17条の2)。その評価結果を記載した書面と設備等設置維持計画を添えて、総務大臣に認定を申請します(同法第17条の2の2)。認定されると、その設備については第17条第1項・第2項が適用されなくなります。
設備等設置維持計画に書くこと(消防法施行規則 第31条の3の2)
- 防火対象物の概要
- 消防用設備等の概要
- 特殊消防用設備等の性能
- 設置方法
- 試験の実施
- 点検の基準・期間・報告期間
- 維持管理
- 工事・整備・点検に従事する者
- その他必要な事項
総務大臣が自ら性能評価を行う場合の手数料は55万7,100円(令第33条の2)。認定件数は令和4年3月31日現在で75件です(令和4年版消防白書)。件数を見ればわかるとおり、ルートCは一般的な建物設計で日常的に使う道ではありません。メーカーが新製品を市場に出すためのルート、と捉えるのが実務感覚に近いと思います。
用語の注意点です。消防法第17条の2は「日本消防検定協会」と「法人であつて総務大臣の登録を受けたもの」と書いており、「登録検定機関」という語は使っていません。「登録検定機関」は消防法第21条の3以下の検定制度側の用語です。性能評価の文脈でこの語を使っている解説は、用語として正確ではありません。
令第32条の特例 ― これだけは性能規定ではない
ここまでの3ルートは、いずれも「性能が同等以上であること」を何らかの形で示す仕組みでした。令32条は違います。
消防法施行令 第32条(全文)
この節の規定は、消防用設備等について、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して、この節の規定による消防用設備等の基準によらなくとも、火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、かつ、火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めるときにおいては、適用しない。
条文が短いのは、判断を消防長・消防署長に委ねているからです。性能を検証する手続きも、評価機関も出てきません。純粋な緩和規定です。
「この節」はどこからどこまでか
令32条の「この節」は消防法施行令 第2章第3節「設置及び維持の技術上の基準」を指し、その範囲は第8条から第33条の2までです。令8区画(第8条)も、消火設備も、警報設備も、避難設備も、消火活動上必要な施設も、全部この節の中にあります。だから令32条は、そのすべてに対して適用の余地がある、ということになります。
「令8条から令32条の2まで」と書いてある資料がありますが、令第32条の2という条は存在しません。第3節の末尾は第33条の2(総務大臣の行う性能評価の手数料)です。
平成16年に、条件が「かつ」から「又は」に緩んでいる
見落とされやすい改正です。令32条の要件は、以前は「火災の発生のおそれが著しく少なく」かつ「延焼のおそれが著しく少ない」でした。これが「火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく」に改められています。性能規定化と同じ平成16年6月1日施行で、運用上の留意事項が消防予第90号(平成16年5月31日)として通知されています。
判断は各消防本部、ただし国が基準を示している
特例を適用するかどうかを判断するのは消防長・消防署長です。市町村ごとにバラバラに運用されると影響が大きいので、全国的に影響を及ぼすと予想されるものについては国が特例適用の基準を示し、通知として出しています。基本になるのが自消丙予発第59号(昭和38年9月30日、令和6年3月29日改正)「消防法施行令第32条の特例基準等について」です。
電気設備に近いところでは、消防予第37号(昭和51年7月20日、令和6年3月29日改正)「電気設備が設置されている部分等における消火設備の取扱いについて」があります。電気室・EPS・機械室まわりの消火設備をどう扱うかは、この通知が出発点になります。
電気設備設計としての使いどころ
誘導灯は、まず規則第28条の2を見る
ここは実務で最も混同されるところです。誘導灯の設置免除の多くは、令32条ではなく消防法施行規則第28条の2という法定の免除規定です。避難口が容易に見通せて識別できる、歩行距離が短い、といった条件が規則側に書かれています。
そのうえで、規則で拾いきれないケースに令32条が使われます。ある消防組合の審査基準では、規則第28条の2による免除と「政令第32条の規定を適用して避難口誘導灯の設置を免除することができる」場合とを、条文レベルで書き分けています。免除の根拠がどちらなのかを図面の凡例や特記に書き分けられると、協議が早くなります。
自動火災報知設備・非常電源の特例は、消防本部で扱いが違う
自火報については令32条の特例基準を整備している消防本部が多い一方、誘導灯や非常電源については特例基準を設けていない消防本部もあります。公開されている審査基準を見比べると、この差はかなりはっきりしています。
つまり「よその現場で通った」は根拠になりません。所轄の審査基準を先に確認して、載っていなければ事前協議で拾う。この順番を崩さないことです。
ルートBは、選べるなら早めに決める
ルートBの省令を使うかどうかは、電気設備の中身を大きく変えます。特定共同住宅等なら受信機も感知器も戸外表示器も別物になりますし、加圧防排煙設備を選べば制御盤と非常電源の考え方が変わります。基本設計の段階で建築・消防と方針を合わせておかないと、実施設計で盤の仕様からやり直しになります。
解説書と条文で食い違った点
- 「ルートBで性能を確認できるのは今のところ3つ」は誤り。令第29条の4に基づく省令は現在6本あります。
- 「令8条から令32条の2」は誤り。令第32条の2という条は存在せず、第3節は第8条から第33条の2までです。
- 「登録検定機関=日本消防設備安全センター」は用語として不正確。消防法第17条の2の文言は「法人であつて総務大臣の登録を受けたもの」です。
- 「平成15年の法改正」は公布年としては正しい。ただし施行は平成16年6月1日です。
まとめ
基準どおりに納まらないときの出口は4つ。ルートA(仕様規定)、ルートB(令第29条の4の性能規定)、ルートC(総務大臣認定)、そして令第32条の特例です。前の3つは性能が同等以上であることを示す仕組みで、令32条だけが消防長・消防署長の判断による緩和規定です。
実務で使う頻度は、ルートA ≫ 令32条 > ルートB ≫ ルートC。ルートBは選べる場面が意外に広く、しかも電気設備の中身を大きく変えます。令32条に頼る前に、使える省令がないかを一度確認する。それだけで通し方が変わることがあります。
参考・根拠
- 消防法 第17条・第17条の2・第17条の2の2(e-Gov法令検索)
- 消防法施行令 第2章第3節(第8条〜第33条の2)、第29条の4、第32条、第33条の2
- 消防法施行規則 第28条の2、第31条の3の2
- 消防組織法及び消防法の一部を改正する法律(平成15年法律第84号、公布 平成15年6月18日/性能規定関係 平成16年6月1日施行)
- 消防予第86号(平成16年5月31日)/消防予第90号(平成16年5月31日)令32条の改正に伴う運用上の留意事項
- 自消丙予発第59号(昭和38年9月30日、令和6年3月29日改正)消防法施行令第32条の特例基準等について
- 消防予第37号(昭和51年7月20日、令和6年3月29日改正)電気設備が設置されている部分等における消火設備の取扱いについて
- 消防予第158号(令和6年3月29日)消防用設備等に係る通知の改正について
- 総務省消防庁 検討会資料(ルートA・B・Cの整理)/令和4年版消防白書
- 令第29条の4に基づく省令:平成16年総務省令第92号/平成17年総務省令第40号/平成20年総務省令第156号/平成21年総務省令第88号/平成22年総務省令第7号/平成26年総務省令第23号
法令・通知は改正されることがあります。特例の運用は所轄消防本部によって差があります。実際の設計にあたっては、必ず最新の条文と所轄の審査基準をご確認ください。




