避雷設備の基準は2025年4月1日に新JIS(JIS Z 9290-3:2019)へ変わりました。旧JISでつくった既存建物の避雷設備は、そのまま使う限り違法ではありません。では、どんな工事をすると新JISに合わせる必要が出てくるのか。この記事では、建築基準法の条文をたどりながら、遡及がかかる工事・かからない工事と、避雷設備に緩和がない理由を整理します。

結論

高さ20mを超える既存建物で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、建物全体の避雷設備が現行の基準(JIS Z 9290-3:2019)の対象になります。避雷設備には増築などの緩和がありません

  • 引き金は建築基準法第3条第3項第3号。工事に係る建物全体の既存不適格が外れる
  • 緩和を定めた第86条の7に、避雷設備(第33条)は入っていない。小さな増築でも全体が対象
  • 用途変更・範囲内の移転・避雷設備だけの更新は、遡及の引き金にならない
  • 遡及がかかっても、旧JISの設備が新JISを満たしていれば改修は不要
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
高さ20m超かどうか、これからの工事の種類、旧JISの設備が新JISを満たすかの3つの問いで、遡及と対応を判定するフロー図
遡及の判定フロー。増築・改築・大規模の修繕・模様替をするときは、旧JISの設備が新JISを満たすかを確認します。
この記事で読めるようになる用語:受雷部 引下げ導線 接地抵抗

既存不適格 ― 基準が変わっても、既存建物は違法にならない

法令が変わって、すでに建っている建物が新しい基準に合わなくなっても、その建物には新しい基準は適用されません(建築基準法第3条第2項)。これを既存不適格といいます。旧JIS(JIS A 4201:2003 や1992年版)でつくった避雷設備も、当時の基準に合っていれば、この扱いになります。

ただし、既存不適格はずっと続くわけではありません。第3条第3項に、既存不適格が外れる場合が書かれています。避雷設備で問題になるのは次の号です。

📘 建築基準法 第3条第3項第3号(要約)

基準の施行後に工事に着手する増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替に係る建築物には、第3条第2項(既存不適格)は適用しない。

つまり、こうした工事をすると、その建物は新しい基準に合わせる必要が出てきます。対象は工事した部分だけではなく、「工事に係る建築物」です。

避雷設備の基準(平成12年建設省告示第1425号)が JIS Z 9290-3:2019 を引用するようになったのは2025年4月1日です。したがって、2025年4月1日以降に着工する増築などが遡及の引き金になります。なお、告示の経過措置(2026年3月31日までに着工した建物は旧JISで可)は新築などに向けたもので、すでに終わっています。

ここまでのポイント
  • 旧JISでつくった避雷設備は、既存不適格として直ちに違法ではない
  • 第3条第3項第3号:施行後の増築・改築・移転・大規模の修繕・模様替で既存不適格が外れる
  • 避雷設備では2025年4月1日以降に着工する工事が対象

遡及がかかる工事 ― 増築・改築・大規模の修繕・模様替

遡及の引き金になる工事を整理します。

工事 意味 避雷設備の遡及
増築 既存の建物の床面積を増やす工事 かかる(規模によらない)
改築 建物の全部または一部を取り壊して、用途・規模・構造が著しく変わらない建物を建てる工事 かかる
大規模の修繕 主要構造部の一種以上について行う過半の修繕 かかる
大規模の模様替 主要構造部の一種以上について行う過半の模様替 かかる
移転 建物を別の位置に移す工事 政令で定める範囲内ならかからない(第86条の7第4項)
建築基準法 第2条第13号〜第15号・第3条第3項・第86条の7をもとに作成
主要構造部の6種類(壁・柱・床・はり・屋根・階段)と、屋根の全面葺き替え、屋上防水の全面改修、設備の更新だけ、の3つの例が大規模の修繕・模様替に当たるかを示した図
大規模の修繕・模様替は、主要構造部のどれか1種類について、その過半を工事することです。

実務で迷いやすいのが大規模の修繕・模様替です。屋根の全面的な葺き替えや外壁の全面改修は該当しやすい一方、屋上防水の全面改修が「屋根の過半の修繕」に当たるかは、工事の内容によって特定行政庁や確認検査機関の判断が分かれます。改修計画の早い段階で協議してください。

⚠️ 確認申請が要らない工事でも、遡及は別の話

第3条第3項は、確認申請が必要かどうかとは関係なく働きます。「確認申請が不要な規模だから、避雷設備は今のままでいい」とはなりません。

ここまでのポイント
  • 増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替が引き金
  • 大規模の修繕・模様替=主要構造部の一種以上について過半
  • 屋上防水の全面改修などは判断が分かれる。早めに協議


緩和がない ― 法86条の7に避雷設備は入っていない

既存不適格の建物を増築するとき、すべての規定を建物全体に当てはめると負担が大きすぎます。そこで第86条の7に緩和が用意されています。ところが、避雷設備はこのどれにも入っていません。

法86条の7の第1項から第4項までの緩和について、避雷設備に使えるかを×と○で示した図。第1項から第3項は×、第4項の移転だけ○
第86条の7の緩和。避雷設備に使えるのは、範囲内の移転(第4項)だけです。
  • 第1項(政令で定める範囲内の増築等なら、その規定を適用しない):構造(第20条)や防火などが並んでいますが、第33条は入っていません
  • 第2項(独立部分が2以上ある建物は、増築等をしない独立部分に適用しない):ここにも第33条はありません。エキスパンションジョイントで分けても、避雷設備では使えません
  • 第3項(増築等をする部分以外には適用しない):第36条は挙がっていますが、「防火壁、防火床、防火区画、消火設備及び避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く」と明記されています
  • 第4項(政令で定める範囲内の移転なら適用しない):移転だけは対象外になります

つまり、既存の建物に数㎡の増築をするだけでも、建物全体の避雷設備が現行の基準の対象になります。避雷設備は、雷を建物のどこで受けても安全に地中へ流すための建物全体でひとつのシステムです。増築部分だけ新しい基準にしても意味がない、という考え方が背景にあると読めます。

ペン太ペン太
増築部分だけ新JISにして、既存部分は旧JISのまま…はだめなんですか?
ハリタハリタ
条文上は、避雷設備にその緩和がないんです。第86条の7第3項で「避雷設備を除く」とわざわざ書いてある。増築の打合せで最初に聞かれるのはここなので、既存の避雷設備の図面と竣工時の測定記録は早めに探しておきましょう。
ここまでのポイント
  • 第86条の7の第1項・第2項に第33条はない
  • 第3項は第36条のうち避雷設備を明確に除外
  • 小さな増築でも、EXP.Jで分けても、建物全体が対象


遡及がかからない場合 ― 用途変更・移転・設備の更新だけ

反対に、次のような場合は遡及の引き金になりません。

ケース 理由
高さ20m以下の建物 もともと第33条の対象外
用途変更だけ 用途変更で準用される規定(第87条)に第33条が入っていない
政令で定める範囲内の移転 第86条の7第4項で建築基準法令の規定を適用しない
避雷設備だけの更新・修理 避雷設備は主要構造部ではなく、大規模の修繕・模様替に当たらない
屋上に設備を追加するだけ 建物の増築に当たらなければ引き金にならない
建築基準法 第3条・第33条・第86条の7・第87条をもとに作成

ただし、遡及しない=何もしなくていいではありません。避雷設備を更新するなら、新しくつくる部分は JIS Z 9290-3:2019 で設計するのが普通です。屋上に室外機や太陽光パネルを増やしたときは、規格の新旧に関係なく、保護範囲に入っているか、受雷部にボンディングするかを見直します。

ここまでのポイント
  • 20m以下・用途変更・範囲内の移転は遡及しない
  • 避雷設備だけの更新は、法律上の引き金にならない
  • 遡及しなくても、新しい部分は新JISで設計し、屋上設備の追加時は保護範囲を見直す

遡及がかかったら ― まず「今の設備が新JISを満たすか」を確認

遡及がかかっても、すぐに避雷設備を全部つくり直すわけではありません。旧JISでつくった設備でも、新JISの要件を満たしていれば、そもそも不適格ではないからです。次の順番で進めます。

  1. 既存の資料を集める:避雷設備の図面、竣工時と直近の接地抵抗の測定記録、構造体利用の有無
  2. LPSクラスを決める:一般の建物はクラスⅣ以上。危険物を扱うならクラスⅠ(合理的な理由があればⅡ)
  3. 現状と新JISを照合する:受雷部の配置(回転球体法など)、突角部、引下げ導線の本数と間隔、接地極
  4. 不足分の改修を設計する:JIS Z 9290-3:2019 の既設建築物の規定を使う
  5. 確認検査機関と協議する:照合の結果と改修の範囲を、確認申請の図書で示す

JIS Z 9290-3:2019 には、既設の建築物に当てはめるときの規定があります。たとえば、屋上の突角部を強化すれば側壁の受雷部を省略できること、既設の引下げ導線の間隔は50m以下とすることなどです。新築と同じ配置をそのまま求めているわけではないので、改修の設計ではこの部分を必ず確認してください。

💡 危険物施設(消防法)は仕組みが別

危険物施設の避雷設備は消防法の技術基準(危険物の規制に関する規則 第13条の2の3)で決まり、変更は変更許可の手続きの中で扱われます。建築基準法の遡及の考え方とは別なので、既存施設の扱いは所轄の消防機関に確認してください。

ここまでのポイント
  • 遡及がかかっても、新JISを満たしていれば改修は不要
  • 資料集め → クラス決定 → 照合 → 不足分の改修設計 → 協議の順
  • 既設建築物の規定(突角部の強化、引下げ導線50m以下など)を使う


よくある質問

既存建物の避雷設備に、新JISへの遡及がかかるのはどんなときですか?

高さ20mを超える既存建物で、2025年4月1日以降に着工する増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をするときです(建築基準法第3条第3項第3号)。このとき既存不適格の扱いが外れ、建物全体の避雷設備が現行の告示(JIS Z 9290-3:2019)に適合している必要があります。

小さな増築なら、避雷設備は既存のままで済みませんか?

済みません。増築などの緩和を定めた建築基準法第86条の7に、避雷設備(第33条)は入っていません。第3項は第36条を挙げていますが、「避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く」と明記しています。規模が小さくても、建物全体が対象です。

エキスパンションジョイントで分けた増築でも遡及しますか?

します。第86条の7第2項の「独立部分」の緩和にも第33条は入っていないため、エキスパンションジョイントで構造的に分けても、法律上ひとつの建物であれば全体が対象になります。

避雷設備だけを更新する工事でも遡及しますか?

法律上の引き金にはなりません。避雷設備は主要構造部ではないため、それだけの工事は大規模の修繕・模様替に当たらないからです。ただし、新しくつくる部分を旧JISで設計する理由はないので、実務では JIS Z 9290-3:2019 で設計するのが普通です。

用途変更をすると避雷設備も新JISにしなければいけませんか?

用途変更だけなら必要ありません。用途変更のときに準用される規定(建築基準法第87条)に、第33条は入っていません。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。