強電設備の設計|建築物の避雷設備|2025年の規格切替と保護レベルの決め方
高さ20mを超える建物には避雷設備が要る ― ここまでは誰でも知っています。ところが2025年4月1日、建築基準法の告示が引用する規格が入れ替わりました。JIS A 4201:2003 から JIS Z 9290-3:2019 へ。経過措置は2026年3月31日着工分までで、すでに終わっています。
つまりいま設計している物件は、もう2003年版では通りません。しかも2003年版で造られた既存の避雷設備は、条件によっては改修が必要になります。この記事では、何がどう変わったのかを軸に、避雷設備の設計を一通り整理します。
1. 避雷設備が必要になるのはどこか
根拠は建築基準法 第33条です。「高さ二十メートルをこえる建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない」。ただし書きで「周囲の状況によつて安全上支障がない場合」は免除されます。
施行令第129条の14は、保護すべき範囲を「高さ20mをこえる部分」と定めています。建物全体ではなく、20mを超えた部分を雷撃から守る、という書き方です。
高さの数え方に落とし穴があります
建物の高さを算定するとき、塔屋や昇降機塔は「水平投影面積が建築面積の1/8以内なら12mまで不算入」という緩和がよく使われます。ところがこの緩和は、法第33条の高さ算定では適用されません。施行令第2条の条文に、法第33条を「除く」と明記されているためです。
したがって塔屋込みで20mを超えれば、避雷設備は必要になります。「軒高は19mだから不要」と判断して、屋上のエレベーター機械室を数え忘れる ― これが最も多い見落としです。一方で、棟飾や防火壁の屋上突出部は除外規定がないため、こちらは不算入のままです。
工作物も対象です。法第88条第1項が第33条を準用しているため、施行令第138条の指定工作物(高さ6mを超える煙突、15mを超える鉄柱、4mを超える広告塔、8mを超える高架水槽など)も、20mを超えれば避雷設備が要ります。
そして高さ20m以下でも必要になる建物があります。危険物施設です。製造所・屋内貯蔵所・屋外タンク貯蔵所は、指定数量の倍数が10以上であれば高さに関係なく避雷設備が必要になります(危険物の規制に関する政令)。火薬類の危険工室・火薬庫に至っては、高さの要件そのものがありません。
2. 2025年、引用する規格が変わった
ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。
避雷設備の構造方法は、国土交通省の告示で定められています。その告示が引用する規格が、令和6年国土交通省告示第151号によって JIS A 4201:2003 から JIS Z 9290-3:2019 へ改められました。公布は令和6年3月8日、施行は令和7年(2025年)4月1日。経過措置は令和8年(2026年)3月31日に着工する工事まででした。
あわせて、JIS A 4201:1992 を2003年版適合とみなす附則も廃止されています。1992年版も、もう告示に適合しません。
なぜ変わったのか
国土交通省は改正の理由をこう説明しています。近年の落雷被害は、建物屋上の突角部分によるものが大半を占めている。だから突角部への保護方法が規定された JIS Z 9290-3:2019 へ改めた、と。
つまりこの改正は、細かな数値の見直しではなく「どこに落ちているか」という実態に規格を合わせたものです。後述する金属製笠木の規定は、その象徴といえます。
既存の避雷設備はどうなるか
2026年4月1日以降、JIS A 4201:2003 に基づいて造られた既存の避雷設備は、建築基準法第3条第2項の既存不適格という扱いになります。
そのまま使い続けるぶんには問題ありません。ただし高さ20mを超える建物で、増築・改築・大規模の修繕または大規模の模様替えを行う場合は、JIS Z 9290-3:2019 適合への改修が必要になります。改修案件の初期段階で、既存の避雷設備がいつの規格で造られたかを確認しておくべきです。
なお消防法(危険物)も同じ日付で切り替わっています。火薬類取締法も追随する予定です。
3. 保護レベルを決める
設計の出発点は保護レベル(LPSのクラス)です。I〜IVの4段階があり、これを決めると回転球体半径・メッシュ幅・保護角がすべて連動して決まります。
JIS Z 9290-3:2019 は、建築物等に対しては雷保護レベルIV以上とし、危険物施設及び爆発の危険を伴う建築物等に対してはレベルIとする、と定めています。一般の建物はIVが下限で、重要度に応じて上げていく、という考え方です。
保護角は、2003年版と2019年版で微妙に違います。高さ20mの場合、クラスIVは55°から53°へ、クラスIIは35°から37°へと、上下どちらにも動いています。単純に厳しくなったわけではありません。
保護角の表そのものが細かくなりました
2003年版の保護角表は、建物高さ h=20/30/45/60m の4点だけの離散的な表でした。2019年版はh=2〜60mを1m刻みで規定しています。実際の建物高さで直接読めるようになったぶん、根拠が明確になりました。
4. 3つの保護方法 ― 回転球体法・メッシュ法・保護角法
受雷部システムの配置を決める方法は3つあります。回転球体法、メッシュ法、保護角法。どれか1つを選ぶこともあれば、組み合わせることもあります。
回転球体法は、保護レベルごとに決まった半径の球を建物の上で転がし、球が触れない部分が保護されていると考える方法です。直感的で、どんな形状の建物にも使えます。メッシュ法は、屋上に網目状の導体を敷く方法で、陸屋根の建物に向いています。
問題は保護角法です。保護角法には高さの制限があります。クラスIなら20mまで、IIなら30mまで、IIIなら45mまで、IVなら60mまで。それを超える高さでは使えません。
なぜ高い建物では保護角法が使えないのか
規格の解説にはこう書かれています。回転球体半径より高い建築物等では、建築物等の側壁へ落雷が発生することがある。高層建築物では頂部・突角部・出隅に多く落雷し、側壁への落雷は全体の数%である ― と。
数%とはいえ、側壁に落ちれば頂部の突針は無力です。そのため高さ60mを超える建築物等では、上部20%の側壁にも受雷部システムを配置しなければならないと規定されています。「頂部に突針を立てれば下は全部守られる」という保護角法の前提が、高い建物では成り立たないわけです。
「特殊な機能」は認められません
規格の受雷部システムの条項には、はっきりこう書かれています。この規格は、雷の捕捉範囲及び受雷部の保護範囲が拡大する機能、又は雷の遮蔽機能等、特殊な機能を認めない。
早期ストリーマ放出型や消雷型をうたう製品の性能主張は、JIS上は認められないということです。採用を検討する場面があっても、告示適合の説明はできないと理解しておいてください。
5. 突角部と金属製笠木 ― 2019年版で加わった規定
今回の告示改正の直接の理由になったのが、この規定です。
JIS Z 9290-3:2019 の附属書には、IEC 62305-3 にはない日本独自の条項が追加されています。縁部に沿って設置する受雷部導体は外壁の縁部の直近に沿って配置するか、外周部を覆う金属製かさ木を利用する。そして突角部には受雷部を施設するが、突角部を金属製かさ木で覆う場合は保護されているものとする ― と。
実務上のインパクトは小さくありません。パラペットにアルミ笠木を回すのは意匠上ごく普通の納まりですが、それが受雷部として認められるのであれば、突角部の突針や導体が不要になるケースが出てきます。
笠木を受雷部として使うには条件があります
金属製笠木を利用する場合、材料としての要件を満たす必要があります。業界資料では、断面積はアルミ合金で50mm²以上・純アルミで70mm²以上、肉厚は0.65mm以上といった数値が示されています。陽極酸化皮膜は「薄い塗装」として扱われ、剥離処理は不要とされています。
注意が必要なのは接続部です。接着で組まれたコーナー部材は電気的に導通しないため、ジョイントコネクターによるボルトやねじでの締結が必要になります。意匠側が選んだ笠木が、そのまま使えるとは限りません。早い段階で意匠担当と仕様をすり合わせておくべき項目です。
6. 引下げ導線と接地 ― 「総合10Ω・単独50Ω」はもう規格要求ではない
引下げ導線は、受雷部で捕らえた雷電流を大地へ導く経路です。最低2条(水平投影面積が25m²以下の場合は1条)で、建物の外周に沿ってできるだけ均等に配置します。
平均間隔は保護レベルごとに決まっていて、2019年版でクラスII〜IVが厳しくなりました。IIは15m→10m、IIIは20m→15m、IVは25m→20m。改修設計で既存の引下げ導線をそのまま使おうとすると、本数が足りないという判定になり得ます。
間隔を守れば、離隔距離の検討を省ける
規格には、表の推奨距離を維持していれば、離隔距離の規定を考慮しなくてよいという趣旨の記述があります。引下げ導線を規定どおり配置しておけば、後述する離隔距離の計算を省けるということです。設計を簡単にする実務的なメリットがあります。
ここからが、この記事でいちばん誤解を正したい部分です。
接地抵抗の「総合10Ω・単独50Ω」は、2003年版以降の規格要求ではありません
避雷設備の接地抵抗といえば「総合10Ω以下、各引下げ導線ごとに単独50Ω以下」という数値が今でも広く語られています。これはJIS A 4201:1992 の規定です。
2003年版で、この数値規定は削除されました。2019年版も同じで、数値としての要求はありません。書かれているのは「一般に、低い接地抵抗値(低周波測定で10Ω未満)を推奨する」という程度で、しかもその位置づけは「10Ω未満なら接地極の最小長さの規定によらなくてよい」という緩和条件です。
背景には明確な思想の転換があります。2003年版は「接地極の抵抗値より、接地システムの形状及び寸法のほうが重要」という考え方を採りました。雷は高周波なので、定常状態の抵抗値だけでは性能を語れない ― という理屈です。
実務では、発注者や監理者から「10Ωを満たしているか」を問われる場面が今もあります。そのとき「現行規格では数値要求ではない。ただし10Ω未満なら接地極長さの規定を省略できるので、目標値としては意味がある」と説明できるかどうかが、設計者の力量になります。
接地極にはA形(各引下げ導線ごとに設ける放射状・垂直極)とB形(環状・基礎・網状の一体型)があります。規格は、岩盤が露出する敷地、大規模な電子システムを収容する建物、火災や爆発の危険がある施設・危険物施設ではB形を推奨しています。大地抵抗率が3,000Ω・mを超える場合も、B形または接地抵抗低減剤の使用が求められます。
構造体を使うなら、0.2Ωを測る
鉄骨や鉄筋を引下げ導線・接地極として使う「構造体利用」は一般的な手法ですが、2019年版で判定基準が具体的になりました。
接続状態が明確でない場合、鉄筋の電気的連続性を最上階から地上レベル間の電気的測定で確認し、その抵抗値は0.2Ω以下が望ましいとされています。これを満たさなければ、構造体利用引下げ導線としては使えません。2003年版が「相互接続部の約50%」という定性的な判定だったのに比べ、はるかに明確です。
溶接で接続する場合は構造設計者の同意が前提になります。電気設備側だけで決められる話ではないので、早めに構造担当へ相談してください。
7. 離隔距離と等電位ボンディング
雷電流が引下げ導線を流れると、その周囲に高い電位が生じます。近くに金属体や電気配線があると、そこへ火花が飛ぶ(せん絡する)おそれがあります。これを防ぐために必要な距離が離隔距離 s です。
計算式は s = ki × kc × l / km。ki は保護レベルによる係数(クラスIで0.08、IIで0.06、III・IVで0.04)、kc は引下げ導線の条数による分流係数(1条で1.0、2条で0.66、3条以上で0.44)、km は材料による係数(空気で1、コンクリート・れんが・木材で0.5)、l は離隔を検討する点から等電位ボンディング点までの長さです。
条数が増えるほど kc が小さくなり、必要な離隔距離も短くなります。引下げ導線を増やすことは、離隔の問題も同時に緩和するということです。
鉄筋コンクリート造なら離隔距離は不要
規格には「金属製の壁(下地)又は電気的連続性をもった鉄筋コンクリート造等の建築物内では、離隔距離は必要ない」と明記されています。構造体全体が一体の等電位面として働くためです。
離隔距離の検討が本当に必要になるのは、木造や、金属の連続性がない構造の場合ということになります。
離隔距離を確保できない場合は、等電位ボンディングで解決します。金属体を導体で接続して電位差そのものをなくす考え方です。電源線や通信線のように直接接続できないものには、SPD(サージ保護デバイス)を介してボンディングします。ここで外部雷保護と内部雷保護がつながります。
8. 維持管理 ― 点検の周期はあるが、定期報告の義務はない
避雷設備は、竣工後に点検の周期が定められています。保護レベルI・IIなら目視点検が1年ごと・総合点検が2年ごと、III・IVなら目視2年・総合4年。重要施設の総合点検は1年ごと、爆発の危険がある施設は目視6か月ごと・電気的点検が年1回です。
ただし、建築基準法上の定期報告義務はありません
建築基準法施行令が定める「特定建築設備等」として定期報告の対象になっているのは昇降機と防火設備で、避雷設備は列挙されていません。
つまり点検の周期は規格が推奨するもので、法的な報告義務を伴いません。結果として竣工後にほとんど点検されない設備になりがちです。引渡し時に点検周期を申し送りしておくと、建物所有者にとって実質的な価値があります。
9. 設計チェックリスト
- 塔屋・昇降機塔を含めた高さで、20m超かどうかを判定したか
- 危険物の指定数量の倍数が10以上になっていないか(高さに関係なく必要)
- 依拠する規格を JIS Z 9290-3:2019 にしているか(改修なら既存が何年版かも確認)
- 保護レベルを決めたか。危険物・爆発の危険がある建物はレベルI
- 建物高さに対して保護角法が使える範囲か。60m超なら上部20%の側壁を検討したか
- 突角部の保護をどうするか決めたか。金属製笠木を使うなら断面積・肉厚・接続方法を意匠と調整したか
- 引下げ導線の平均間隔は2019年版の値(II:10m/III:15m/IV:20m)を満たしているか
- 構造体利用なら、最上階〜地上の測定で0.2Ω以下を確認する計画になっているか。溶接は構造設計者の同意を得たか
- 接地極はA形かB形か。岩盤・危険物・大規模電子システムならB形を検討したか
- 離隔距離の検討が必要な構造か。鉄筋コンクリート造なら不要
- 屋上の太陽光パネルや設備機器を保護範囲に入れたか
- 防水との取り合い(アンカー・貫通部)を建築と調整したか
- 点検周期を引渡し書類に記載したか
よくある質問(FAQ)
Q. 接地抵抗は10Ω以下にしなければいけませんか。
現行のJIS Z 9290-3:2019 に、接地抵抗の数値要求はありません。「10Ω未満なら接地極の最小長さの規定によらなくてよい」という緩和条件として登場するだけです。10Ωは目標値としては有効ですが、それ自体が合否の基準ではありません。「総合10Ω・単独50Ω」は1992年版の規定です。
Q. 軒高は19mですが、屋上の機械室を入れると21mになります。避雷設備は必要ですか。
必要です。塔屋・昇降機塔の高さ不算入の緩和は、法第33条の高さ算定には適用されません。
Q. 既存建物の避雷設備は、すぐに改修が必要ですか。
使い続けるだけなら不要です。既存不適格として扱われます。ただし増築・改築・大規模の修繕または模様替えを行う場合は、現行規格への適合が求められます。
Q. アルミ笠木があれば突針は要りませんか。
条件を満たせば、突角部は保護されているものとして扱えます。ただし断面積・肉厚・接続方法の要件があり、接着で組まれたコーナー部材はそのままでは導通しません。意匠が選定した既製品がそのまま使えるとは限らないので、仕様を確認してください。
Q. 受変電設備の避雷器(LA)とは違うものですか。
まったく別のものです。避雷設備は建物への直撃雷から人と建物を守る設備で、根拠は建築基準法。避雷器(LA)は高圧の受電線路に侵入した雷サージから機器を守るもので、根拠は電気設備技術基準です。名前が似ているだけで、目的も設置場所も異なります。
まとめ
- 根拠は建築基準法第33条。高さ20m超が原則だが、塔屋の高さ不算入の緩和は使えない
- 危険物施設は高さに関係なく必要になる場合がある(指定数量の倍数10以上)
- 2025年4月1日、告示の引用規格が JIS Z 9290-3:2019 に切り替わった。経過措置は2026年3月末で終了
- 2003年版で造った既存設備は既存不適格。増改築・大規模修繕の際は改修の検討が要る
- 改正の理由は「落雷被害は屋上の突角部が大半」という実態。突角部の保護が明文化された
- 金属製笠木で突角部を覆えば保護されているとみなせる。ただし断面積・肉厚・接続方法に条件がある
- 保護角法には高さ制限がある。60m超は上部20%の側壁にも受雷部が要る
- 引下げ導線の間隔はクラスII〜IVで厳しくなった(II:10m/III:15m/IV:20m)
- 「総合10Ω・単独50Ω」はもう規格要求ではない。大事なのは抵抗値より接地システムの形状と寸法
- 構造体利用は最上階〜地上で0.2Ω以下が判定基準。溶接は構造設計者の同意が前提
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