非常コンセント設備と無線通信補助設備という消防隊が使う2つの設備を解説。設置義務の違い、水平距離50m、コンセントの規格と回路構成。
技術図書館非常コンセント・無線通信補助|対象になる建物が違う無線通信補助設備の義務は地下街1,000㎡以上だけ。水平距離50m・取付高さ1.0〜1.5m・各階2回路以上まで全6枚のスライドで整理この資料をスライドで見る資料一覧を見る
この記事の全体像:非常コンセント設備と無線通信補助設備。設置義務の違い、規則第31条の2の細目、漏えい同軸ケーブル、着工届と設置届

非常コンセント設備と無線通信補助設備は、消防用設備等のなかでも性格が変わっています。建物の利用者が使う設備ではなく、駆けつけた消防隊が使う設備だからです。避難のためでも初期消火のためでもなく、消防隊が破壊器具や照明を使い、無線で連絡を取るための「足場」を建物側に用意しておく、という発想の設備です。

どちらも工事の中身はほぼ電気工事です。ところがこの2つは消防設備士でなければ行ってはならない工事に指定されていません。着工届も不要です(設置届は必要)。この非対称を知らないまま進めると、届出の段取りで慌てることになります。

この記事では、消防法施行令第29条の2・第29条の3と施行規則第31条の2・第31条の2の2をe-Gov法令APIで確認しながら、義務判定・設置位置・回路構成・非常電源・届出までを電気設計の視点で整理します。実務でよく言われる「階段の出入口から5m以内」が国の政省令には存在しないことも、条文で確認したうえで説明します。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 11階建てのビルに、無線通信補助設備は要りますか
  • 非常コンセントの位置は「階段の出入口から5m以内」ですか
  • この2つの工事に、着工届は要りますか
ペン太ペン太
非常コンセントが要るビルなら、無線通信補助設備もセットですよね。
はりたはりた
そこが違うんだ。無線通信補助設備の義務は、地下街1,000㎡以上だけだよ。
ペン太ペン太
え、11階以上のビルは……。
はりたはりた
対象外。名前が並んで語られるだけで、対象になる建物はまったく違う。
この記事でわかること
  1. 誰のための設備か ― 消火活動上必要な施設
  2. 設置義務|対象になる建物がまったく違う
  3. 規則第31条の2の全10号を、順に押さえる
  4. 漏えい同軸ケーブルで電波を届ける
  5. 非常電源の供給時間|設備ごとの早見表
  6. 着工届は不要、設置届は必要
  7. 電気設計での実務ポイント5つ
消防法施行令第29条の2・第29条の3、施行規則第31条の2・第31条の2の2を条文で確認しながら、義務判定から届出までを電気設計の視点で整理します。

この2つは「消防隊のための設備」

トピック1:誰のための設備か

非常コンセント設備は、高層建築物や地階で消火活動を行うときに、消防隊が現地で扉や窓を破壊する器具の電源、あるいは排煙機や照明の電源を取るための設備です。無線通信補助設備は、地階や地下街のように電波の通りが悪い場所で、消防隊が無線機を使って連絡を取れるようにするための設備です。

どちらも建物の利用者は触りません。消防用設備等の分類でいうと「消火活動上必要な施設」で、排煙設備連結散水設備連結送水管・消防用水と同じグループです。設計するときは「誰が、どんな状況で使うのか」を先にイメージしておくと、位置決めの判断がぶれません。

設置義務|対象になる建物がまったく違う

トピック2:対象になる建物が、まったく違う

この2設備はセットで語られがちですが、設置対象は大きく違います。

229211 11 1,000 50m 293 1,000 1112 使HARITA
図1:非常コンセント設備は11階以上の建築物と地下街、無線通信補助設備は地下街のみが対象
設備根拠設置対象
非常コンセント設備令第29条の2第1項第1号令別表第一に掲げる建築物で、地階を除く階数が11以上のもの(設置するのは11階以上の階)
令第29条の2第1項第2号令別表第一(十六の二)項=地下街で、延べ面積1,000㎡以上のもの(設置するのは地階)
無線通信補助設備令第29条の3第1項令別表第一(十六の二)項=地下街で、延べ面積1,000㎡以上のもののみ

無線通信補助設備は地下街だけが対象です。11階以上の高層ビルは対象になりません。高層ビルで無線が入りにくいという問題は現実にありますが、それは消防法上の義務ではなく、施主要望や自治体の指導によって設ける話になります。

「非常コンセントがあるなら無線通信補助設備もあるはず」という思い込みで積算すると外します。

水平距離50m|連結送水管と同じ考え方

非常コンセントの配置は、令第29条の2第2項第1号でその階の各部分から一の非常コンセントまでの水平距離が50m以下と定められています。11階以上の階も地下街の地階も、どちらも50mです。

この50mという数字と「階段室、非常用エレベーターの乗降ロビーその他これらに類する場所」という位置指定は、連結送水管の放水口とほぼ同じ考え方です。

消防隊はホースを持って階段を上がってくるので、縦動線の脇にまとめて置くのが理にかなっています。実際の設計でも、連結送水管の放水口と非常コンセントを同じ階段室・同じ乗降ロビーに並べる例がほとんどです。

なお、建築基準法側にも対応する規定があります。建築基準法施行令第129条の13の3第3項第8号は、非常用エレベーターの乗降ロビーの構造として「屋内消火栓、連結送水管の放水口、非常コンセント設備等の消火設備を設置できるものとすること」と定めています。

乗降ロビーは耐火構造の床・壁で囲まれ、特定防火設備で区画され、予備電源付きの照明を備え、非常用エレベーター1基につき10㎡以上の面積を確保する空間です。消防隊の活動拠点として設計された部屋だからこそ、そこに電源を置く構成になっています。

ここまでのポイント
  • 非常コンセント設備=地階を除く階数11以上の建築物(設置は11階以上の階)と、地下街1,000㎡以上(設置は地階)。
  • 無線通信補助設備=地下街1,000㎡以上のみ。11階以上の建築物は対象外。
  • 配置はその階の各部分から水平距離50m以下。階段室・非常用エレベーターの乗降ロビーなどに置く。

非常コンセント設備の細目|規則第31条の2の全10号

トピック3:10の号を、順に押さえる

規則第31条の2は10号構成で、数字がはっきり書かれている条文です。図面と施工要領に直結するので、そのまま押さえておく価値があります。

FLFL1.01.5m 11.5312131229JIS C 8303 15A125V  312341001529222312921111031267HARITA
図2:非常コンセントは床面から1.0〜1.5mの埋込式保護箱内に設け、上部に赤色の灯火を設ける

コンセントの規格|「接地形二極・15A125V」

第3号は日本産業規格C8303の接地形二極コンセントのうち定格が15アンペア125ボルトのものと指定しています。いわゆる2P+E(アース付きの3極)です。第4号で刃受の接地極に接地工事を施すことも求められています。

古い建物では、保護箱の中に照明用の接地形二極コンセントと動力用の三相コンセントが並んでいる例を見かけます。

市販の解説書でもそうした設置例図が載っていることがありますが、現行の規則第31条の2第3号が規定しているのは接地形二極コンセント(15A125V)だけです。既存建物の改修で図面と現物が食い違う場合は、設置年と当時の基準を確認してください。

回路|「各階2回路以上」「1回路10個以下」

第6号は非常コンセントに電気を供給する電源からの回路は、各階において2以上となるように設けることとしています。ただし階ごとの非常コンセントの数が1個のときは1回路でかまいません。第7号は1回路に接続する非常コンセントの数は10以下です。

この2つの号は、幹線計画とEPSの盤スペースに直接効いてきます。各階2回路が原則なので、たとえば11〜20階の10層に非常コンセントを設ける建物では、最低でも20回路分を非常電源側から供給する計画になります。「非常コンセントは各階1個だから回路も1本」と早合点しないことです。

電源と非常電源

第5号は電源を規則第24条第3号の規定の例により設けるとしています。すなわち「蓄電池又は交流低圧屋内幹線から他の配線を分岐させずにとる」「電源の開閉器にその旨を表示する」という専用回路の要求です。

第8号は非常電源を規則第12条第1項第4号の規定に準じて設けるとしています。ここが少し込み入っているので分けて書きます。

  • 種別は非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備。ただし特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上のものは非常電源専用受電設備が使えず、自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備に限られます
  • 容量は有効に30分間以上
  • 非常電源からの配線は、耐火構造とした主要構造部に埋設するなど耐火配線とすること(MIケーブル又は消防庁長官が定める基準に適合する電線を使用する場合を除く)

令第29条の2第1項第2号の地下街は令別表第一(十六の二)項=特定防火対象物で、しかも延べ面積1,000㎡以上が要件です。つまり地下街の非常コンセント設備では、非常電源専用受電設備は必ず使えません

11階以上の建築物のほうは、その建築物が特定防火対象物かどうか・延べ面積がいくらかで分かれます。消防用設備の非常電源|4種類の違いと選び方もあわせてご覧ください。

表示灯の配線は耐熱配線

第9号ロの赤色の灯火について、ハで「灯火の回路の配線は、第12条第1項第5号の規定の例による」とされています。

規則第12条第1項第5号は、600V二種ビニル絶縁電線又はこれと同等以上の耐熱性を有する電線を使い、金属管工事・可とう電線管工事・金属ダクト工事又はケーブル工事により設ける、という耐熱配線の規定です。

非常電源からの本体回路は耐火配線、表示灯回路は耐熱配線。同じ盤から出る2種類の配線で要求が違うので、電線種別の指定を図面に明記しておくと現場で迷いません。

総合操作盤の準用

第10号は規則第12条第1項第8号の規定を非常コンセント設備について準用しています。総合操作盤が義務になる規模の建物では、非常コンセント設備も総合操作盤に載ります。詳しくは総合操作盤はいつ義務になるかをご覧ください。

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図3:非常電源から耐火配線で立ち上げ、各階2回路以上・1回路10個以下で分ける

実務でよく言われる「階段室の出入口から5m以内」は、国の政省令には存在しません。令第29条の2・規則第31条の2を通して条文上の距離要件は「その階の各部分から一の非常コンセントまでの水平距離50m以下」だけです。

5mや3mといった数値は、各消防本部の審査基準・指導基準に書かれているものです。所轄が変わると数字も変わりうるので、根拠を「政省令」と「審査基準」で分けて持っておいてください。

ここまでのポイント
  • コンセントは接地形二極 15A125V(2P+E)。刃受の接地極に接地工事を施す。
  • 回路は各階2回路以上(その階が1個なら1回路可)、1回路10個以下
  • 非常電源は有効に30分以上。本体回路は耐火配線、表示灯回路は耐熱配線。
  • 「階段の出入口から5m以内」は政省令になく、各消防本部の審査基準の数値。

無線通信補助設備|漏えい同軸ケーブルで電波を届ける

トピック4:電波を、ケーブルで運ぶ

無線通信補助設備は、地階や地下街のように電波の通りが悪い場所で、消防隊が無線機を使えるようにするための設備です。構成は同軸ケーブル、漏えい同軸ケーブル、分配器、混合器、分波器、無線機接続端子、増幅器です。

GL12 30LCXLCX50湿JIS C 5411C010.8m1.5mHARITA
図4:地上と防災センター等の無線機接続端子から同軸ケーブルで分配器へ、そこから漏えい同軸ケーブルを地階に敷設する

漏えい同軸ケーブル(LCX)とは

同軸ケーブルは、テレビのアンテナ引込にも使われる丸い断面のケーブルで、外側にアルミの外部導体があり、その内側に絶縁体に包まれた芯線が入っています。通常はこの構造のおかげで電波が外に漏れません。

漏えい同軸ケーブル(LCX:Leaky Coaxial Cable)は、このアルミ外部導体にスロットと呼ばれる切れ目を規則的に入れたものです。

このスロットから電波が外に放射され、また外の電波を拾うことができるため、ケーブル自体が細長いアンテナのように働きます。地下通路の天井に沿って敷設すれば、通路全体で無線が通じるという仕組みです。

図4のように、電波の放射が必要な区間だけをLCXにして、それ以外の区間は通常の同軸ケーブルでつなぐのが基本的な組み方です。LCXの末端には終端抵抗器を設けて反射を抑えます。

規則第31条の2の2の主な要件

項目内容
方式漏えい同軸ケーブル、漏えい同軸ケーブルとこれに接続する空中線、又は同軸ケーブルとこれに接続する空中線。周波数帯は消防長又は消防署長が指定第1号
インピーダンス公称インピーダンスは50オーム。接続する空中線・分配器等も整合させる第2号
ケーブルの性能難燃性を有し、かつ湿気により電気的特性が劣化しないもの第3号
設置方法耐熱性を有するように、かつ金属板等により電波の輻射特性が低下しないように設置。支持金具等で堅固に固定第4号・第5号
増幅器電源は規則第24条第3号の例(専用回路)。非常電源を附置し、容量は有効に30分間以上。防火上有効な措置を講じた場所に設ける第7号
無線機接続端子地上で消防隊が有効に活動できる場所及び防災センター等に設ける。JIS C 5411のC01形コネクター。床面又は地盤面から0.8m以上1.5m以下。保護箱は堅ろうでみだりに開閉できない構造とし、防塵・防水措置。保護箱の表面は赤色に塗色し「無線機接続端子」と表示第8号
共用警察の無線通信その他の用途と共用する場合は、消防隊相互の無線連絡に支障のない措置を講じる第10号

「保護箱を赤く塗る」のは無線通信補助設備のほうです。非常コンセント設備の規則第31条の2には保護箱の色の規定がなく、あるのは「埋込式」「表面に『非常コンセント』と表示」「上部に赤色の灯火」だけです。

一方、無線通信補助設備の無線機接続端子は規則第31条の2の2第8号ニ(ロ)で保護箱の表面を赤色に塗色することが明記されています。混同しやすいところです。

高さも違います。非常コンセントは1.0m以上1.5m以下、無線機接続端子は0.8m以上1.5m以下。数十cmの差ですが、どちらも条文の数値なので図面の姿図には正しく書き分けてください。

ここまでのポイント
  • LCXは外部導体にスロットを入れ、ケーブル自体がアンテナのように働く。
  • 公称インピーダンス50オーム。難燃性で、湿気により電気的特性が劣化しないもの。
  • 金属板等で輻射特性が落ちないように設置。増幅器の非常電源も30分以上

非常電源の供給時間|設備ごとの早見表

トピック5:30分か、それ以外か

非常コンセント設備も無線通信補助設備も非常電源が必要です。どちらも30分ですが、使える非常電源の種類は設備ごとに違います。全体を並べると位置づけが見えやすくなります。

設備の種類供給時間専用受電自家発電蓄電池燃料電池
屋内消火栓設備30分
スプリンクラー設備30分
水噴霧消火設備30分
泡消火設備30分
不活性ガス消火設備1時間×
ハロゲン化物消火設備1時間×
粉末消火設備1時間×
屋外消火栓設備30分
自動火災報知設備10分××
ガス漏れ火災警報設備10分×※1※1
非常警報設備10分××
誘導灯20分 ※2×××
排煙設備30分
連結送水管2時間
非常コンセント設備30分
無線通信補助設備30分××
非常用進入口赤色灯 ※330分
非常用の照明装置 ※330分

※1 1分間蓄電池設備又は予備電源で補完できる場合に限る。/※2 大規模・高層建築物の主要な避難経路に設置する場合は60分。/※3 非常用進入口赤色灯・非常用の照明装置は建築基準法により設置するもの。

この表は各設備の技術基準を横断してまとめた早見表です。表で「専用受電○」となっている設備でも、特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上のものは非常電源専用受電設備が使えないという共通の制限(規則第12条第1項第4号の柱書)がかかります。

非常コンセント設備の場合、地下街(十六の二項=特定防火対象物)で1,000㎡以上が対象なので、地下街では必ず自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかになります。

ここまでのポイント
  • 非常コンセント設備・無線通信補助設備とも供給時間は30分
  • ただし無線通信補助設備は、非常電源に自家発電設備・燃料電池設備が使えない
  • 不活性ガス等の消火設備は1時間、自火報・非常警報は10分。設備ごとに違う。

消防設備士の独占業務ではない|着工届は不要、設置届は必要

トピック6:着工届は不要、設置届は必要

ここは段取りに直結する話です。消防法施行令第36条の2は、消防設備士でなければ行ってはならない工事・整備の対象設備を号で列挙しています。

  • 工事(第1項)屋内消火栓設備/スプリンクラー設備/水噴霧消火設備/泡消火設備/不活性ガス消火設備/ハロゲン化物消火設備/粉末消火設備/屋外消火栓設備/自動火災報知設備/ガス漏れ火災警報設備/消防機関へ通報する火災報知設備/金属製避難はしご(固定式)/救助袋/緩降機
  • 整備(第2項):上記に加えて消火器、漏電火災警報器

非常コンセント設備と無線通信補助設備は、この列挙のどこにも出てきません(連結送水管・排煙設備も同様です)。したがって消防設備士の独占業務ではありません。

手続非常コンセント設備・無線通信補助設備根拠
着工届(工事着手の10日前まで)不要法第17条の14の対象は令第36条の2第1項の工事。この2設備は不掲載
設置届・検査必要法第17条の3の2。令第35条第2項で除外されるのは簡易消火用具と非常警報器具だけ
消防設備士による工事・整備義務ではない令第36条の2に不掲載

「着工届は不要だが設置届は必要」という非対称になります。工事の段取りとしては、着工届の10日前ルールに縛られない一方で、竣工前の設置届と消防検査には確実に間に合わせる必要があるということです。

もっとも、実際の工事では自動火災報知設備など着工届が必要な設備と同時に進むことがほとんどなので、全体の届出スケジュールのなかで扱うことになります。

ここまでのポイント
  • 令第36条の2の列挙にこの2設備は入っていない=消防設備士の独占業務ではない。
  • 着工届は不要(法第17条の14の対象は令第36条の2第1項の工事)。
  • 設置届と検査は必要(法第17条の3の2)。この非対称が段取りに効く。

共同住宅用非常コンセント設備という選択肢

トピック7:タワーマンションという選択肢

共同住宅には、通常の非常コンセント設備に代えて使える共同住宅用非常コンセント設備があります。根拠は平成17年総務省令第40号と関係告示で、特定共同住宅等として構造類型が定められた建物で、通常用いられる消防用設備等(非常コンセント設備)に代えて用いることができるものです。

11階以上の共同住宅は非常コンセント設備の対象になるので、タワーマンションの設計ではこの選択肢が現実的な検討対象になります。

構造類型と設置できる設備の対応は特定共同住宅等の消防用設備|構造類型と階数で決まる早見表で整理しています。省令40号そのものの位置づけについては消防用設備の3つのルートと令32条特例もあわせてご覧ください。

電気設計での実務ポイント

トピック8:現場で効く5つ

1. 縦動線に「3点セット」でまとめる

非常コンセント・連結送水管の放水口・非常用エレベーター乗降ロビーは、いずれも消防隊の活動拠点に集まります。階段室と乗降ロビーの平面を早い段階で機械設備・建築と共有し、3点セットの配置を固めておくと、後から壁の埋込位置でもめることが減ります。埋込式の保護箱なので、壁厚と下地の確認も同時に必要です。

2. 回路数を早めに数える

各階2回路以上・1回路10個以下という制約から、回路数は「対象階数×2」が下限になります。この回路が全部非常電源から耐火配線で立ち上がるので、EPSの断面と非常電源盤の主幹容量に効きます。11階以上が20層あれば40回路です。基本設計の段階で概算しておかないと、あとで幹線ルートの見直しになります。

3. 耐火配線と耐熱配線を図面で書き分ける

本体回路は耐火配線、表示灯回路は耐熱配線。同じ保護箱に入る2系統で要求が違います。凡例と電線種別表に明記し、施工要領書でも分けて書いてください。

4. 無線通信補助設備は「地下街だけ」を前提に確認する

義務は地下街1,000㎡以上だけです。高層ビルや地下駐車場で「電波が入らないので何とかしてほしい」という要望が出ることはありますが、それは消防法上の義務とは別枠の話になります。施主要望として設ける場合、機器選定も設置基準も自由度が高くなる代わりに、性能をどう担保するかを別途決める必要があります。

5. LCXは建築の仕上げと干渉しやすい

規則第31条の2の2第4号は「金属板等により電波の輻射特性が低下することのないように設置すること」としています。金属天井や金属ダクトの直近を通すと性能が落ちます。天井内のルートは、ダクト・ケーブルラック・スプリンクラー配管と競合しやすいので、総合図での調整項目に必ず挙げておいてください。

ここまでのポイント
  • 非常コンセント・連結送水管の放水口・非常用エレベーター乗降ロビーは3点セットで縦動線にまとめる。
  • 回路数の下限は対象階数×2。EPSの断面と非常電源盤の主幹容量に効く。
  • 耐火配線と耐熱配線を凡例で書き分ける。LCXは金属天井・ダクトとの干渉を総合図で調整。
ペン太ペン太
着工届が要らないなら、段取りは楽ですね。
はりたはりた
減るのは着工届だけだよ。設置届と消防検査は必要だし、着工届がない分うっかり抜けやすいところでもある。

まとめ

トピック9:今日のまとめ

この2つは、消防隊のための足場です。非常コンセントは電源の足場、無線通信補助設備は電波の足場。名前が並んで語られますが、義務の判定も、図面での置き場所も、別の話になります。

要否は「地下街かどうか」で決まる

分かれ目はここだけです。

  • 地下街1,000㎡以上 → 非常コンセント設備(地階)と無線通信補助設備の両方
  • 地階を除く階数11以上の建築物 → 非常コンセント設備だけ(設置は11階以上の階)
  • それ以外 → どちらも消防法上の義務ではない

注意したいのは「地下街」の読み方です。ビルの地階も地下駐車場も、地下街ではありません。ここを読み違えると、設備の要否そのものを外します。

並べると、違いがはっきりする

項目非常コンセント設備無線通信補助設備
対象地階を除く階数11以上の建築物(11階以上の階)と地下街1,000㎡以上(地階)地下街1,000㎡以上のみ
置く場所階段室・非常用エレベーターの乗降ロビー等。水平距離50m以下地下の通路等に漏えい同軸ケーブルを敷設
高さ床面から1.0m以上1.5m以下無線機接続端子は0.8m以上1.5m以下
赤いのはどこか保護箱の色の規定はなく、赤いのは上部の灯火保護箱の表面を赤色に塗色
非常電源30分以上。地下街では専用受電設備は不可30分以上。自家発電設備・燃料電池設備は不可
届出着工届は不要、設置届と検査は必要着工届は不要、設置届と検査は必要

図面に落とす数字

  • 非常コンセントはその階の各部分から水平距離50m以下で、階段室・非常用エレベーターの乗降ロビー等に設ける
  • 高さは1.0m以上1.5m以下埋込式の保護箱、JIS C 8303の接地形二極コンセント(15A125V)、刃受の接地極に接地工事
  • 供給電力は単相交流100Vで15A以上。回路は各階2以上1回路10個以下
  • 本体回路は耐火配線、表示灯回路は耐熱配線
  • 無線機接続端子は0.8m以上1.5m以下保護箱の表面は赤色に塗色
  • 「階段の出入口から5m以内」は国の政省令にはない。各消防本部の審査基準による

最後に、段取りをもう一度

どちらも消防設備士の独占業務ではなく、着工届も不要です。ただし設置届と検査は必要。届出が1つ減るぶん、他の設備のスケジュールに紛れて抜けやすい設備でもあります。竣工前の設置届と消防検査は、最初から工程表に載せておいてください。

関連記事

トピック10:あわせて読みたい

参考・根拠

トピック11:条文と出典
  • 消防法施行令 第29条の2(非常コンセント設備)、第29条の3(無線通信補助設備)、第35条(設置届の対象)、第36条の2(消防設備士でなければ行つてはならない工事又は整備) ― e-Gov法令検索
  • 消防法施行規則 第31条の2(非常コンセント設備の細目)、第31条の2の2(無線通信補助設備の細目)、第12条第1項第4号(非常電源)・第5号(耐熱配線)・第8号(総合操作盤)、第24条第3号(電源) ― e-Gov法令検索
  • 消防法 第17条の3の2(設置届)、第17条の5、第17条の14(着工届) ― e-Gov法令検索
  • 建築基準法施行令 第129条の13の3第3項第8号(非常用エレベーターの乗降ロビーの構造) ― e-Gov法令検索
  • 平成17年総務省令第40号及び関係告示(共同住宅用非常コンセント設備)
  • 防災研究会AFRI『図解入門ビジネス 最新消防法と設備がよ〜くわかる本』秀和システム(2024年)

条文の引用は趣旨を要約した箇所を含みます。非常電源供給時間の早見表は各設備の技術基準を横断して整理したもので、個々の適用には各条文と所轄消防本部の運用の確認が必要です。設計・申請にあたっては必ず最新の法令原文をご確認ください。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。