こんにちは、HARITAの設計室です。今回から新しい連載、「照明設備の設計マニュアル」が始まります。コンセント設備の設計マニュアルと同じく、手順と判断基準だけを一本道でたどる構成です。全6回でお付き合いください。

第1回は全体フローと必要照度。照明設計でいちばん最初にやることは、器具を選ぶことでも、計算することでもありません。「どこを、何ルクスにするか」を決めることです。ここが決まらないうちに器具カタログを開くと、たいてい遠回りになります。

今回の合言葉は「明るさは撒くものではなく、置くもの」。部屋全体をなんとなく明るくするのではなく、必要な面に、必要な分だけ置く。それが照明設計です。

照明設計の全体像 ― 6つのステップ

照明設計は6ステップで進む1用途を知る何をする部屋か2照度を決める目標のlxを置く3照度計算必要台数と配置4器具を選ぶ配光・色温度5点滅と回路スイッチと分電盤6非常照明停電時の備え今回は①と② ― ここを外すと、後ろの4つが全部ずれるHARITAの設計室

この6ステップが、そのまま連載の6回に対応します。①用途を知る②照度を決めるが今回。③照度計算と配置、④器具の選定、⑤点滅回路と分電盤、⑥非常照明・誘導灯と続きます。

順番には意味があります。①②が決まっていないと、③の計算に入れません。③が終わらないと④の器具数が確定しません。前が決まらないと後ろが動かない。だから最初のふたつが、いちばん大事なのです。

そもそも図面の種類や記号があやふやな人は、新人講座 第4回 電気設備図面の種類新人講座 第5回 電気図記号の読み方 を先に読んでおくと、この連載がぐっと読みやすくなります。

① まず決めるのは「どこを、何ルクスにするか」

照度の目標値は、部屋の広さではなく「そこで何をするか」で決まります。同じ30㎡でも、製図をする部屋と物を置くだけの倉庫では、必要な明るさが10倍近く違います。だから最初にやるのは、平面図の各室に「この部屋は何をする部屋か」を書き込むことです。

室用途別 ― 照度の目安製図室・精密作業750〜1,000lx細かい線を追う事務室・設計室750lx一般的なオフィス作業会議室・応接室500lx資料が読める明るさ教室・実習室300〜500lx用途で振れ幅がある廊下・階段・便所100〜200lx安全に移動できる倉庫・機械室100〜200lx保守作業時は別途数値はあくまで目安。最終判断は特記仕様書と施主基準が優先HARITAの設計室

実務では、JIS Z 9110(照明基準総則)の推奨照度を出発点にします。ただしこれは基準であって規定ではありません。施主が「事務室は500lxで十分」と言えばそれが答えですし、逆に検査工程を持つ工場なら1,000lxを超える指定が来ることもあります。数値は必ず特記仕様書と施主基準を確認してください。

もうひとつ、法規の側からも照度が効いてくる場面があります。居室かどうかです。建築基準法上の「居室」に当たる部屋は、非常用照明の設置対象になります。第6回で扱いますが、用途を書き込む段階で 「居室」とは?建築基準法の定義と非居室との違い を横に置いておくと、あとで慌てません。

② 照度は「どこの面」の話か ― 作業面と保守率

「事務室750lx」と言うとき、その750lxはどこで測った値でしょうか。床ではありません。天井でもありません。作業をする面です。事務室なら机の上、つまり床から800mm前後の高さ。廊下なら床面。ここを取り違えると、計算がまるごとずれます。

照度は「作業面」で測る値天井照明器具作業面(机上)FL(床仕上げ面)800目安保守率M ― 明るさは必ず落ちる① 光源そのものの光束が下がる② 器具とカバーにホコリが積もる③ 清掃と交換で、また戻る設計は「落ちたあと」で成立させる清浄な屋内のLEDなら0.7前後が目安HARITAの設計室

もうひとつ、初学者がつまずくのが保守率(M)です。照明器具は、取り付けた瞬間がいちばん明るく、あとは下がる一方です。光源そのものの光束が落ち、カバーにホコリが積もる。だから設計では「何年か経って落ちた状態でも目標照度を満たす」ように、あらかじめ割り引いて計算します。

保守率は環境と清掃頻度で変わりますが、清浄な屋内のLED器具なら0.7前後が目安としてよく使われます。粉じんの多い工場や、清掃が届かない高天井では、もっと厳しい値を取ります。ここを1.0で計算してしまうと、竣工直後は合格でも数年後には暗い建物になります

③ 明るければ良い、ではない ― 3つの制約

目標照度が決まったら、あとは器具をたくさん並べれば達成できます。でもそれでは設計になりません。照度と同時に、次の3つを成り立たせる必要があります。

照度と同時に成り立たせる3つ均斉度明るい所と暗い所の差ムラがあると目が疲れる効くのは:器具の間隔と配置の規則性グレア視界に入るまぶしさ不快で、作業精度も落ちる効くのは:配光・ルーバ・取付高さW省エネ消費電力にも上限がある明るすぎは、ただの無駄効くのは:器具効率と点滅・調光の制御照度・均斉度・グレア・省エネ ― 4つが同時に立つ点を探すのが設計HARITAの設計室

この3つは、第2回の照度計算・器具配置と、第3回の器具選定で具体的に効いてきます。今の段階では「明るさだけを追ってはいけない」とだけ覚えておいてください。

まとめ

  • 照明設計は6ステップ。用途→照度→計算→器具→点滅と回路→非常照明の順で決まる
  • 照度は広さではなく「そこで何をするか」で決まる。まず平面図に用途を書き込む
  • 推奨照度はJIS Z 9110などの目安。特記仕様書と施主基準が優先
  • 照度は作業面で測る値。事務室ならFL+800mm前後、廊下なら床面
  • 保守率を見込んで「落ちたあと」で成立させる。清浄な屋内のLEDで0.7前後が目安
  • 照度だけでなく、均斉度・グレア・省エネを同時に成り立たせる

よくある質問

Q1. 施主から「明るくしてほしい」とだけ言われたら、どうしますか?
A. 「どの部屋の、何をする面が暗いですか」と聞き返すところから始めます。全体を一律に上げると省エネの制約に当たりますし、そもそも原因が照度不足ではなく均斉度やグレアのこともあります。面を特定すれば、打ち手はほぼ決まります

Q2. 保守率は必ず0.7で計算していいですか?
A. 目安であって固定値ではありません。粉じんの多い環境、清掃が届かない高天井、屋外に近い場所では、もっと低い値を取ります。逆にクリーンルームのような環境ではもう少し高く取れます。環境と清掃頻度で決める値だと覚えてください。

Q3. LEDになってから、照度計算は不要になったのでは?
A. むしろ必要です。LEDは配光の自由度が高く、器具ごとに光の広がり方がまったく違います。同じ消費電力でも、狭角と広角では机上の照度が何倍も変わります。器具の個性が強くなった分、計算で確かめる価値が上がりました

次回予告

第2回は「照度計算と器具配置」。光束法で必要台数を出し、逐点法で一点を確かめ、格子配置で間隔を最大化する。今回決めた目標照度を、実際の台数と位置に変換していきます。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第2回 照度計算と器具配置 ― 光束法・逐点法・格子配置

次に読むならこれ【照明設備の設計マニュアル④】点滅回路とスイッチ計画 ― 誰が・どこで・どう消すか設計マニュアル