【EV充電・再エネ設備の設計マニュアル⑤】保護と施工 ― 電気が両方向に流れる
ここまでの4回で、EV充電・太陽光・蓄電池を建物につないできました。今回は、つないだあとを安全側から見直します。
発電設備が入ると、電気設備の前提がひとつ崩れます。電気は受電点から入って、負荷に向かって流れていく。この一方通行を前提に組まれてきた保護が、そのままでは成り立たなくなる。
合言葉は「電気が両方向に流れる」。
事故電流の供給元が、2つになる
従来の保護協調は単純でした。どこかで短絡や地絡が起きたら、その事故点より上流にある遮断器が切れる。上流を切れば供給が止まり、事故電流は消えます。
発電設備があると、これが崩れます。事故点の下流側からも電流が供給されるからです。上流の遮断器を切っても、建物の中の発電設備が事故点へ電流を送り続ける。
だから系統連系では、系統側の異常を検知したら発電設備も自分を切り離すことが必須になります。第3回で扱った保護継電器と単独運転検出は、この役割を担っています。
もうひとつ、見落とされやすい影響があります。短絡電流が増えることです。発電設備は事故時に電流を供給するので、その分だけ事故点の短絡電流が大きくなる。既存の遮断器の遮断容量が足りているかどうか、後付けのときは必ず確認してください。
直流側は、電気工事の常識が通じない
太陽光と蓄電池には、これまでの電気設備になかった領域があります。直流側です。ここは交流の感覚のまま触ると危険です。
違いは2つあります。
ひとつめ。直流はアークが消えない。交流は1秒間に100回か120回、電流がゼロを通ります。開閉器を開いてアークが出ても、このゼロ点で自然に消える。直流にはゼロ点がないので、いったん生じたアークは伸びながら燃え続けます。交流用の開閉器やヒューズを直流回路に使ってはいけないのは、このためです。
ふたつめ。太陽光パネルは、日射があるかぎり電圧を出し続けます。系統のブレーカーを切っても、PCSを止めても、パネルからPCSまでの直流ケーブルは生きている。スイッチで止められる電源ではなく、光が当たっている間ずっと通電している電源です。
この2つが重なると、施工と保守の手順が変わります。直流側の作業は、遮光するか、日射のない時間帯に行うか、開放できる箇所を設けておくか。「主幹を切ったから安全」が成り立たないことを、関係者全員が理解している必要があります。
屋根の上は、雷を受けやすい
太陽光発電は、屋外にあって、高いところにあって、面積が広い。雷から見れば、これ以上ないほど受けやすい条件が揃っています。しかも直撃しなくても、近くへの落雷による誘導で、配線に電圧が誘起されます。
接地・雷保護編で扱った内容が、そのままここに効いてきます。
- 架台と建物の等電位化:金属製の架台は建物の接地系とボンディングする。架台だけが孤立していると、雷時に架台と建物のあいだに電位差が生まれる
- 直流側のSPD:パネルからPCSまでの直流回路に入れる。直流用のSPDを使う(交流用は使えない)
- 交流側のSPD:PCSから盤までの交流回路に入れる。第6回で扱うSPDの考え方がそのまま当てはまる
- 接続線は短く:SPDの接続線が長ければ、そのぶんの電圧が上乗せされる。往復0.5m以内が原則
- 配線のループを小さく:直流ケーブルを大きく回すと、誘導を受ける面積が広がる。往復の線を近づけて配線する
とくに最後の項目は、屋根の上では守られにくい点です。パネルの配置に合わせてケーブルを引き回すうちに、意図せず大きなループができる。施工要領に「往復線は近接させる」と明記しておかないと、現場では意識されません。
屋外にあるものは、10年で劣化する
太陽光もEV充電設備も、屋外に置かれます。竣工時に問題がなくても、10年20年の単位で見ると別の設備です。
- ケーブルの日射劣化:直流ケーブルは屋外用でも、直射日光と紫外線で被覆が劣化する。屋根の上で宙吊りになっている配線は、支持と保護を丁寧に
- 金属部の腐食:架台のボルト、接地端子、コネクタ。海岸部では進行が速い。異種金属の接触は接地編第4回で扱ったとおり
- 屋根の防水:架台の固定部からの浸水は、電気の問題ではないが、電気工事が原因とされやすい。防水の責任区分を書面で明確にする
- 小動物と植物:屋外盤への鳥や虫の侵入、地上設置なら草の繁茂。開口部の処理と、点検通路の確保
- 耐風:架台の設計は建築側の領域だが、風で動いたときに配線が引っ張られない納まりになっているかは電気側で見る
この一覧は、竣工時のチェックリストではなく10年後を想像するためのリストです。点検できない場所に、点検が必要なものを置かない。それだけで維持のしやすさが変わります。
竣工検査で、何を確かめるか
最後に検査です。発電設備が入ると、従来の絶縁抵抗測定と接地抵抗測定だけでは足りません。
- 直流側の絶縁抵抗:測定には電圧を止める必要があるので、遮光するか、日射のない時間帯に行う。日中そのまま測ろうとして測れない、というのは現場でよくある
- 開放電圧と極性:ストリングごとに測る。極性の逆接続は、PCSを壊すか、最悪の場合は発火につながる
- 保護継電器の動作試験:整定値どおりに動くか。第3回で扱った各継電器を、実際に模擬入力で動かす
- 単独運転の試験:系統側を模擬的に切り離して、規定の時間内に停止するかを確認する。連系時に電力会社の立会いで行うことが多い
- 切替試験(蓄電池):停電を模擬して、非常時用回路に切り替わるか。切替時間も記録する
そして、これらの結果を残す。接地編の最終回で「完成すると見えなくなる設備は、図面に残してはじめて設計が終わる」と書きました。発電設備も同じです。整定値、試験結果、ストリング構成、SPDの位置。これがないと、次に触る人は最初から測り直すことになります。
まとめ
- 発電設備が入ると、事故電流が両側から供給される。上流を切っても消えないので、発電側も切り離す
- 発電設備の寄与で短絡電流が増える。既存遮断器の遮断容量を再確認する
- 直流はアークが消えない。交流用の開閉器・ヒューズは使えない
- 日射があればパネルは常時電圧を出している。「主幹を切ったから安全」が成り立たない
- コネクタは同一メーカー・同一型式で。混用は数年後の発熱・発火につながる
- 屋根の上は雷を受けやすい。直流側と交流側の両方にSPD、接続線は短く、配線のループは小さく
- 架台は建物の接地系とボンディングする。避雷設備があるなら離隔かボンディング
- 屋外設備は10年で劣化する。点検できない場所に、点検が必要なものを置かない
- 竣工検査は、直流側の絶縁抵抗・開放電圧と極性・保護継電器・単独運転・切替試験が追加になる
よくある質問
Q1. 既存の遮断器の遮断容量は、どう確認しますか?
受電点の短絡電流に、発電設備が供給しうる分を加えて評価します。太陽光のPCSは短絡電流の寄与が比較的小さい一方、蓄電池のPCSや回転機は大きくなることがあります。機器メーカーから短絡電流の寄与値を取り寄せるのが確実です。既存の盤の銘板と、当時の短絡電流計算書があれば、それを起点に見直してください。
Q2. 直流側の絶縁抵抗が測れないと言われました。
日射があるとパネルが電圧を出し続けるため、測定器が正しく動作しません。夜明け前・日没後に測るか、パネルを遮光シートで覆います。工程上どうしても日中に測るなら、遮光の手間を見込んでおく必要があります。検査計画の段階で時間帯を決めておくと、当日の混乱がなくなります。
Q3. 架台の接地は、どこまでやればよいですか?
架台の金属部が電気的に連続していること、そしてそれが建物の接地系につながっていることが基本です。塗装やアルマイト処理の上から締めても導通しないので、接触面の処理は接地編の第4回と同じ注意が要ります。架台メーカーの標準納まりが導通を保証しているかは、製品ごとに違うので確認してください。
Q4. SPDは直流側と交流側の両方に本当に必要ですか?
侵入経路が2つあるからです。屋根の上で誘導を受けたサージは直流側から入り、系統側から来たサージは交流側から入ります。片方だけ守ると、空いているほうから入ってきます。接地編の最終回で扱った「電源側だけSPDを付けて通信線が素通し」と同じ構図です。
次回予告
最終回となる第6回は「申請と図面化」です。系統連系の申請と法令上の届出をいつ・何を出すのか、単線結線図に何を描くのか。そして、この連載で扱ってきたEV充電・太陽光・蓄電池を、1枚の図面としてどう引き継ぐか。
合言葉は「申請が設計の締切を決める」。→ 第6回・最終回 申請と図面化 を公開しました。




