こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」第3回はLAN・電話第2回で経路が決まりました。ここからは設備ごとの話に入ります。

LANの設計でいちばん効いてくるのは距離です。今回の合言葉は「LANは“距離”で場所が決まる」幹線編の第4回で電圧降下がこう長で決まったのと、同じ構図です。

今回の全体像 ― LANの配線は3階層

LANの配線は3階層でできている幹線系MDF ⇔ IDF光ファイバが主役建物の背骨水平系IDF ⇔ 情報コンセントUTPケーブル距離に制限がある機器系情報コンセント ⇔ 端末パッチコードPC・AP・カメラ設計者が主に決めるのは、真ん中の「水平系」HARITAの設計室

建物のLANは、大きく3つの層でできています。MDFとIDFを結ぶ幹線系、IDFから情報コンセントまでの水平系、そして情報コンセントから端末までの機器系

このうち、電気設備の設計者が主に決めるのは真ん中の水平系です。幹線系は光が主役で通信事業者やシステム業者が絡みますし、機器系はパッチコードで利用者が挿すだけ。建物に埋め込まれるのは水平系なので、ここを外すと後戻りできません。

① 水平配線の距離 ― IDFの位置が決まる

水平配線には長さの上限があります。目安としては90m程度。両端のパッチコードを足して、機器から機器まで合計100m程度に収める、という考え方です。具体の値は規格とカテゴリで変わるので、案件ごとに確認してください

距離で、IDFを置く場所が決まるIDFこの円の中に収まるように置く水平配線は90m程度が目安両端のパッチコードを足して合計100m程度規格・カテゴリで異なるので必ず確認する直線距離ではなく、通る長さ立ち上がり・迂回・余長を足して考える届かないならIDFを増やすケーブルを伸ばすのではなく、盤を分ける幹線編④の電圧降下と同じ ― 距離が計画を決めるHARITAの設計室

この制限があるので、IDFを中心にした「届く範囲」の円を描いて、その中にすべての情報コンセントが収まるように配置します。収まらなければ、ケーブルを伸ばすのではなくIDFを増やす。これがLAN設計の基本動作です。

注意点は幹線編の第4回とまったく同じで、直線距離ではなく実際に通る長さで見ること。天井裏を這い、立ち上がり、梁を避け、盤内で余長を取る。図面の上で70mでも、実長は90mを超えることがあります。

② 情報コンセント ― 席ではなくエリアに配る

次に、どこに何口置くか。ここで新人がやりがちなのが「席の数だけ置く」です。

情報コンセントはどこに要るか執務エリア島ごとにOAフロアから席数より「島の数」で考える会議室壁とテーブル両方に有線が要る場面はまだ多い天井(無線AP)電源とセットで天井へカバー範囲は建築の間仕切り次第機器まわり複合機・入退室・サイネージ担当が他社でも配線は要るレイアウトは必ず変わる。席に付けるのではなく、エリアに配るHARITAの設計室

オフィスのレイアウトは必ず変わります。竣工時の席割りに合わせて配線すると、最初の席替えで足りなくなる。だから席ではなくエリアに配る ― 島単位、ゾーン単位で余裕を持って置きます。コンセント編の第2回でやった「家具は動く」という話と同じです。

忘れられやすいのが天井の無線AP機器まわりです。複合機、入退室の制御盤、サイネージ、受付端末。担当が他社でも配線は要ります ― 第1回の工事区分表がここで効いてきます。

住戸の場合の考え方は マンションの電気設計① 住戸内(専有部)の計画の進め方、住宅で先に仕込んでおく配線は スマートホーム配線の基礎 が参考になります。

③ PoE ― 1本で情報と電気を運ぶ

近年の弱電設計を大きく変えたのがPoEです。LANケーブル1本で、情報と一緒に電気も送れます。

PoE ― 1本で情報と電気を運ぶ給電HUBここには電源が要る情報電気無線APカメラIP電話機器側にコンセントが要らなくなる ― ただし給電HUB側の電源は必要第1回で書いた「機器は他社、電源は電気工事」がここで効いてくる給電できる電力には上限がある。機器の消費電力を確認するHARITAの設計室

天井の無線AP、防犯カメラ、IP電話。これらは機器側にコンセントが要らなくなります。天井にコンセントを付けずに済むのは、意匠にも施工にも大きな利点です。

ただし電気が消えるわけではありません。給電するHUB側に、そのぶんの電源が要ります。しかも給電できる電力には上限があるので、機器の消費電力を確認したうえでHUBを選びます。第1回の「機器は他社、電源は電気工事」というパターンが、ここでも顔を出します。

④ 電話と光の引込 ― MDFの中身

最後に上流側です。いまは光での引込が主流で、電話もIP化が進んでいます。

引込からMDFの中身まで引込ONUルータ主装置(電話)HUB通信事業者ここから先はテナント/利用者側になることが多い電話もIP化が進み、LANと同じ配線に載る。ただし主装置と電源は残るMDFに置く機器の数だけ、電源と発熱と設置スペースが要るHARITAの設計室

電話がLANと同じ配線に載るようになったので、配線の種類は減りました。ただし主装置は残りますし、ONU・ルータ・HUB・主装置と、MDFに置く機器は意外に多い。

設計者として押さえるべきは「機器の数だけ、電源と発熱と設置スペースが要る」ことです。MDF室が狭い、コンセントが足りない、夏に熱がこもる ― これは全部、設計段階で防げます。

まとめ

  • LANは幹線系・水平系・機器系の3階層。設計者が決めるのは水平系
  • 水平配線は90m程度が目安。規格・カテゴリで変わるので必ず確認する
  • IDFを中心にした「届く範囲」に情報コンセントを収める。届かなければIDFを増やす
  • 距離は直線ではなく実長。立ち上がり・迂回・余長を足す
  • 情報コンセントは席ではなくエリアに配る。天井APと機器まわりを忘れない
  • PoEは機器側の電源を不要にするが、給電HUB側には電源が要る
  • MDFに置く機器の数だけ、電源・発熱・スペースが要る

よくある質問

Q1. ケーブルのカテゴリは、どこまで上げればいいですか?
A. 上げるほど性能は上がりますが、太くなって曲げにくくなり、配管も大きくなります。判断材料は「その建物で何年使うか」。更新しにくい経路(躯体内)ほど上のカテゴリを、更新しやすい経路(OAフロア)は必要十分で、という配分が現実的です。第2回の空配管とセットで考えてください。

Q2. 無線があるので、有線は減らしていいですか?
A. 端末側は減りますが、APまでの有線は増えます。しかも無線の品質はAPの数と配置で決まるので、天井への配線計画はむしろ重要になります。会議室のように「確実につながってほしい」場所には、有線も残しておくのが無難です。

Q3. IDFはどのくらいの広さが要りますか?
A. 機器の数と、前面の作業スペースで決まります。ラックの奥行きだけで考えると、扉が開かない・後ろに回れない、という盤室ができあがります。幹線編の第6回と同じで、保守する人が立てるかどうかで判断してください。

次回予告

第4回は「テレビ共聴」。アンテナで受けた電波を、どうやって各戸まで届けるか。分配と分岐、そして末端で必要なレベルを確保するという考え方を扱います。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

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