この記事は連載「EV充電・再エネ設備の設計マニュアル」(全5回)の1本です。
「何kWh必要ですか」には、そのままでは答えられません。kWとkWhの違い、特定負荷と全負荷、切替の数秒をUPSで埋める判断、重量と温度で決まる置き場所、そして非常用とピークカットの両立しにくさを整理します。
「何kWh必要ですか」には、そのままでは答えられません。kWとkWhの違い、特定負荷と全負荷、切替の数秒をUPSで埋める判断、重量と温度で決まる置き場所、そして非常用とピークカットの両立しにくさを整理します。
「蓄電池は何kWh入れればいいですか」。この質問には、そのままでは答えられません。
容量は結果であって、出発点ではないからです。停電したときに何を動かし続けたいのか。それが決まらないと、必要な出力も時間も決まらない。
合言葉は「容量ではなく、何を止めないか」。
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。

ペン太
「蓄電池は何kWh入れればいいですか」と聞かれたんですが、どう答えたらいいんでしょう。

はりた
その質問には、そのままでは答えられないんだ。容量は結果であって、出発点じゃない。

ペン太

はりた
「停電したとき、これだけは止めたくないもの」を挙げてもらう。そこから出力が決まって、もたせたい時間を掛ければ容量が出る。順番を逆にすると、話が抽象論から抜け出せないよ。
kWとkWhは、別のことを表している
つまずきやすいところを、先に押さえておきます。
蓄電池のカタログには2つの数字が並びます。混同されやすいので、最初に整理します。
- kW(出力):同時にどれだけの電力を出せるか。何を動かせるかを決める
- kWh(容量):ためられる電力量。どれだけ長く動かせるかを決める
たとえば冷蔵庫・最低限の照明・通信機器を合わせて0.5kW、これを12時間動かしたいなら必要な容量は6kWh。出力は0.5kWで足ります。
ところが同じ建物でも、動かしたいものにエレベーターや空調が入った瞬間、必要な出力は十数kWに跳ね上がります。容量が同じでも、出力が足りなければ起動しません。とくにモーター負荷は始動時に定格の数倍の電流を要求するので、ここを見落とすと「容量は十分なのに動かない」という結果になります。
聞き取りは「何時間」より「何を」から
施主に「何時間もたせたいですか」と聞くと、たいてい「できるだけ長く」と返ってきます。そうではなく、「停電したとき、これだけは止めたくないものを挙げてください」から入る。挙がったものの消費電力を積み上げれば出力が決まり、必要な時間を掛ければ容量が出ます。順番を逆にすると、話が抽象論から抜け出せません。
ここまでのポイント
- kWは「何を動かせるか」、kWhは「どれだけ長く動かせるか」
- 容量が足りていても、出力が足りなければ起動しない
- 聞き取りは「何時間」ではなく「何を止めたくないか」から入る
特定負荷か、全負荷か
つまずきやすいところを、先に押さえておきます。
動かす対象が決まったら、次はそれをどう回路として切り出すかです。方式は2つあります。
- 特定負荷方式:停電時に生かす回路をあらかじめ決めておき、専用の分電盤(非常時用分電盤)にまとめる。蓄電池はその盤にだけ電気を送る
- 全負荷方式:建物側の主幹を切り替えて、建物全体を蓄電池につなぐ。どのコンセントも使える
「全部使える」ではありません
全負荷のほうが自由に見えますが、注意点があります。全負荷でも、蓄電池の出力を超える使い方はできません。停電中に何も考えずに使えば、あっという間に出力上限に達して停止します。「全部使える」ではなく「どのコンセントからでも使えるが、合計には上限がある」というのが正確な理解です。
方式が違っても、やることは同じ
設計としてやることは、どちらの方式でも本質的に同じです。停電時に生かす回路を決め、それを図面と盤の中で識別できるようにする。特定負荷なら盤を分け、全負荷なら「この回路は非常時も使える/使わないでほしい」を表示や運用で伝える。
非常時用分電盤は、あとから切り出すのが難しい
既存建物に蓄電池を追加するとき、いちばん手間がかかるのがこの回路の切り出しです。生かしたい負荷が複数の分電盤に散らばっていると、配線を引き直すことになります。新築で蓄電池の予定があるなら、非常時用分電盤を最初から分けておくだけで、後の工事がまったく違います。
ここまでのポイント
- 特定負荷でも全負荷でも、出力の上限からは逃げられない
- 全負荷は「どこからでも使えるが、合計に上限がある」
- 非常時用分電盤は新築時に分けておく。後付けは配線の引き直しになる
切替時間 ― 瞬断を許せるかどうか
つまずきやすいところを、先に押さえておきます。
もうひとつ、カタログの隅に小さく書かれているのに設計を左右する項目があります。停電を検知してから、蓄電池からの供給に切り替わるまでの時間です。
多くの蓄電池システムでは、この切替に数秒かかります。系統が止まったことを確認し、単独運転でないことを判断し、切り替える。安全のために必要な時間です。
数秒の停止が、分かれ目になる
つまり停電の瞬間、建物の電気は一度落ちます。照明が消え、パソコンが落ち、機器が再起動する。数秒後に復帰しますが、その数秒で困るものがあるかどうかが分かれ目です。
- 瞬断してよいもの:照明、冷蔵庫、コンセント、換気。数秒消えても実害は小さい
- 瞬断が致命的なもの:サーバ、ネットワーク機器、医療機器、生産設備、制御装置。落ちると復旧に時間がかかったり、データやワークが失われたりする
後者がある場合、蓄電池だけでは足りません。無停電電源装置(UPS)を機器の直前に置き、その先を蓄電池が支えるという二段構えになります。UPSが数秒をつなぎ、蓄電池が数時間を支える。役割が違うので、どちらかで代替はできません。

ペン太

はりた
建物の電気は一度落ちる。照明や冷蔵庫なら実害は小さいけど、サーバや制御装置は落ちると復旧に時間がかかるし、データを失うこともある。

ペン太

はりた
そう。UPSが数秒をつなぎ、蓄電池が数時間を支える。役割が違うから、どちらかで代替はできないんだ。
ここまでのポイント
- 停電を検知してから切り替わるまで、数秒かかる
- 照明・冷蔵庫・換気は瞬断してよい。サーバ・制御装置は致命的
- 瞬断が許せない機器にはUPSを併用する。役割が違うので代替できない
置く場所が決まらないと、機種も決まらない
つまずきやすいところを、先に押さえておきます。
蓄電池は、決めた容量をそのまま置ける設備ではありません。場所の条件で選べる機種が絞られます。
- 重量:容量が大きくなるほど重くなる。屋上や中間階に置くなら構造の確認が要る。建築側との調整は早いほどよい
- 温度:リチウムイオン電池は高温に弱く、寿命が縮む。直射日光の当たる屋外や、熱がこもる機械室は避けるか、換気・空調を計画する
- 換気と離隔:機器の発熱を逃がす経路と、周囲に確保すべき保守スペース。壁に寄せて置けない製品が多い
- 法令上の扱い:一定容量以上の蓄電池設備は、自治体の火災予防条例により消防機関への届出が必要になる。設置場所の構造や離隔にも条件が付くことがあるので、容量が大きい計画では所轄への事前確認を組み込む
- 避難経路:廊下や階段に張り出す設置は避ける。増設のたびに通路が狭くなっている建物は珍しくない
置き場所は、容量と同じくらい早く
とくに重量と温度は、あとから変えられません。「屋外に置けばいい」と考えていたら日射で寿命が縮む、「機械室が空いている」と思ったら熱がこもる。置き場所は、容量を決めるのと同じくらい早い段階で押さえてください。
ここまでのポイント
- 重量と温度は、あとから変えられない
- 高温は寿命に直結。直射日光の屋外や熱がこもる機械室は避ける
- 一定容量以上は消防機関への届出が必要。所轄への事前確認を工程に入れる
非常用だけではない、もうひとつの使い方
つまずきやすいところを、先に押さえておきます。
ここまで停電時の話をしてきましたが、蓄電池にはもうひとつ役割があります。平常時のピークカットです。
契約電力は、その月の最大需要で決まります。1日のうち数十分だけ跳ね上がる時間帯があるために、契約全体が高くなっている建物は珍しくありません。その山の部分だけ蓄電池から出せば、契約電力を下げられます。
第1回で「太陽光を載せてもEVの分は相殺できない」と書き、「重ねるには蓄電池が要る」と付け加えました。それがこの働きです。日中に発電した電気を蓄えて、夕方以降の充電需要に回す。時間をずらすことで、はじめて2つが重なります。
ただしトレードオフがあります。ピークカットで毎日充放電すれば、そのぶん電池は消耗します。非常用として温存すれば長持ちしますが、平常時の効果はゼロです。どちらを主目的にするかで、容量も制御の設定も変わります。両方を欲張るなら、非常用に残す容量を決めておく設計が要ります。
「BCP対策で蓄電池」と言われたら、まず用途を分ける
非常用を主目的にするのか、電気料金の低減を主目的にするのか。前者なら出力と回路の切り出しが設計の中心になり、後者ならデマンドの実績データが出発点になります。同じ機器でも、決め方がまったく違います。最初にどちらかを聞くだけで、その後の検討が真っ直ぐ進みます。
ここまでのポイント
- 蓄電池には、平常時のピークカットという役割もある
- 非常用として温存するか毎日充放電するかで、容量も制御も変わる
- 「BCP対策で」と言われたら、まず主目的がどちらかを聞く
ケース別|こんなとき、どうするか
ここまでの内容を、現場でよく出てくる相談の形にして並べます。上から順に読む必要はありません。当てはまるものだけ拾ってください。
ケース別|こんなとき、どうするか
CASE 1施主から「停電時もエアコンを使いたい」と言われた
容量ではなく、まず出力を確認する。
エアコンは起動時に大きな電流が流れます。蓄電池の定格出力を超えれば、そもそも起動しません。動かせたとしても消費電力が大きく、容量の減りが速いので他の負荷にしわ寄せがきます。「エアコンを動かすと、他は何時間もつか」を数字で示し、選んでもらうところまでが設計の仕事です。
CASE 2サーバやネットワーク機器がある建物
蓄電池だけでは足りない。UPSと二段構えにする。
停電を検知して切り替わるまで数秒かかり、その間は落ちます。照明や冷蔵庫なら実害は小さいですが、サーバ・制御装置・医療機器は復旧に時間がかかったり、データを失ったりします。UPSが数秒をつなぎ、蓄電池が数時間を支える。役割が違うので、どちらかで代替はできません。
CASE 3既存建物に、あとから蓄電池を入れたい
いちばん手間がかかるのは、機器ではなく回路の切り出し。
生かしたい負荷が複数の分電盤に散らばっていると、配線を引き直すことになります。天井を開ける範囲と工期がここで決まるので、機種選定より先に既設の回路構成を確認してください。新築で予定があるなら、非常時用分電盤を最初から分けておくだけで後の工事がまったく違います。
CASE 4「BCP対策で蓄電池を」とだけ言われた
非常用か、電気料金の低減か。主目的を先に聞く。
非常用が主目的なら、出力と非常時用回路の切り出しが設計の中心になります。料金低減が主目的なら、デマンドの実績データが出発点です。同じ機器でも決め方がまったく違うので、最初にどちらかを確かめるだけで、その後の検討が真っ直ぐ進みます。
CASE 5「屋上に置けばいい」と言われた
重量と温度は、あとから変えられない。
容量が大きくなるほど重くなるので、屋上や中間階なら構造の確認が要ります。リチウムイオン電池は高温に弱く、直射日光の当たる屋外や熱がこもる機械室では寿命が縮みます。さらに一定容量以上は消防機関への届出が必要です。置き場所は、容量を決めるのと同じくらい早い段階で押さえてください。
打ち合わせと、図面への記載
ケースの判断を実際に形にするのは、打ち合わせでの確認と、図面への記載です。誰と何を決め、どこに何を書くかを並べておきます。
打ち合わせで確認すること
- 施主・管理者と
- 停電時に止めたくない負荷を、機器名で挙げてもらう(「何時間」ではなく「何を」)
- 非常用が主目的か、電気料金の低減が主目的か
- 数秒の停止で困る機器(サーバ・制御装置・医療機器など)の有無
- 停電時に使えるコンセントの場所と、使い方の周知をどうするか
- 建築・構造と
- 設置階と機器重量。屋上や中間階なら早い段階で
- 搬入経路と、将来の更新時の搬出経路
- 設備・意匠と
- 置き場所の温度環境と換気の経路
- 保守スペースと離隔。避難経路に張り出さないか
- 所轄消防と
- 容量に応じた届出の要否と、設置場所に付く条件
- 既存改修のとき
- 生かしたい負荷が、どの分電盤に散っているか
- 天井を開ける範囲と、引き直しになる配線の量
図面・書類への書き方
- 単線結線図
- 蓄電池とPCSの定格(kWとkWhを併記)
- 連系位置と、非常時に生かす回路の系統
- 特定負荷方式なら非常時用分電盤、全負荷方式なら主幹の切替位置
- 分電盤図・負荷一覧
- 回路ごとに「非常時に生かす/生かさない」の区分
- 生かす回路の合計出力(定格出力に収まっているか)
- 起動電流の大きい負荷に注記
- 平面図
- 機器の設置位置と離隔寸法、換気の経路
- 搬入経路と、扉・通路の有効幅
- 特記仕様
- 切替時間と、自立運転で使える範囲
- UPSを併用する場合はその対象機器
- 接地の方式と、消防への届出の扱い
- 盤・現場の表示
- 使う人が見て分かる「非常時も使える/使えない」の表示
様式は案件によって変わります。ここに挙げたのは、抜けると後戻りしやすい項目です。

ペン太
ケースを並べてみると、結局いつも同じところに戻ってきますね。

はりた
そう。「何を止めないか」が決まれば、出力も容量も、回路の切り出しも、順番に落ちていく。

ペン太
打ち合わせで聞くことも、図面に書くことも、そこから逆算するんですね。

はりた
そういうこと。逆に、そこが決まらないまま機種の話を始めると、あとで全部やり直しになる。
まとめ
この順番でたどれば、容量は自然に出てきます。
- 容量は結果。出発点は「停電したとき何を止めたくないか」
- kWは何を動かせるか、kWhはどれだけ長く動かせるか。容量が足りても出力が足りなければ起動しない
- モーター負荷は始動時に定格の数倍を要求する。出力の見積もりで見落としやすい
- 特定負荷でも全負荷でも、出力の上限からは逃げられない。全負荷は「どこからでも使えるが合計に上限がある」
- 非常時用分電盤は新築時に分けておく。既存に後付けすると配線の引き直しになる
- 切替には数秒かかり、その間は停電する。瞬断が致命的な機器にはUPSを併用する
- 重量と温度はあとから変えられない。置き場所は容量と同じくらい早く押さえる
- 一定容量以上は消防機関への届出が必要。所轄への事前確認を工程に組み込む
- 非常用とピークカットは両立しにくい。どちらが主目的かを最初に聞く
よくある質問
Q1. 停電時にエアコンを使いたいと言われました。
出力の確認から入ってください。エアコン1台でも起動時には大きな電流が流れます。蓄電池の定格出力を超えれば、そもそも起動しません。動かせたとしても消費電力が大きいため、容量の減りが速く、他の負荷にしわ寄せがきます。「エアコンを動かすと、他は何時間もたなくなるか」を数字で示すと、優先順位の話に戻せます。
Q2. 太陽光があれば、蓄電池は小さくても大丈夫ですか?
日中に晴れていれば、その通りです。ただし停電が夜間に始まった場合、翌朝までは太陽光の助けがありません。また雨天が続けば充電できません。最悪の条件(夜間開始・曇天)で何時間もたせたいかを基準に容量を決め、太陽光による延長は上積みとして考えるのが安全です。
Q3. 既存建物に入れる場合、いちばん手間がかかるのはどこですか?
多くの場合、非常時用回路の切り出しです。生かしたい負荷が複数の分電盤に分かれていると、配線の引き直しが発生します。次に設置場所で、重量と換気の条件を満たす場所が空いていないことがある。この2点を先に現地で確認してから、容量と機種の検討に入ってください。
Q4. ピークカット目的の場合、効果はどう見積もりますか?
まずデマンドの実績データを取ります。1年ぶんの30分デマンドを見て、年間の最大がいつ・どれだけの高さで・何分続いているかを把握する。その山を削るのに必要な出力と容量が見えてきます。データがないまま容量を決めると、効いていないか、過大かのどちらかになります。
次回予告
第5回は「保護と施工」です。発電設備が入ると、電気は両方向に流れるようになります。そのとき保護協調はどう変わるのか、直流側にどんな危険があるのか、そして接地とSPDをどう考えるか。第1回から第4回までで置いてきた設備を、安全側から見直します。
合言葉は「電気が両方向に流れる」。→ 第5回 保護と施工 を公開しました。
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