こんにちは、HARITAの設計室です。今回から新しい連載、幹線設備の設計マニュアル」が始まります。コンセント編照明編と同じく、手順と判断基準だけを一本道でたどる全6回です。

第1回は全体フローと系統計画。幹線の設計というと、いきなりケーブルサイズの計算を思い浮かべる人が多いのですが、その前にやることがあります。盤をどこに置き、系統をどう分けるか。ここが決まらないと、計算する対象そのものが定まりません。

今回の合言葉は「幹線は短く・太く・分けすぎない」。3つとも、盤の置き方で決まります。

今回の全体像 ― 幹線設計の6ステップ

幹線設計は6ステップで進む1系統計画盤の位置と分け方2負荷の集計需要率・不等率3サイズ選定許容電流4電圧降下こう長の検証5保護と分岐ブレーカーの決定6分電盤盤の構成と系統図今回は① ― 盤の位置が決まると、残りの5つが動きだすHARITAの設計室

この6ステップが、そのまま連載の6回に対応します。①系統計画が今回。②負荷の集計、③サイズ選定、④電圧降下、⑤保護と分岐、⑥分電盤と続きます。

順番には強い意味があります。盤の位置が変われば、こう長が変わり、こう長が変われば電圧降下が変わり、ケーブルサイズが変わり、保護の設計まで変わります。①をやり直すと、②〜⑥が全部やり直しになる ― だから最初がいちばん重いのです。

① 幹線とは何か ― 建物の大動脈

まず言葉の整理から。建物の電気は、上流から下流へ、太いものから細いものへと流れていきます。

幹線は建物の大動脈受変電設備電気を受けて低圧にする幹線盤まで届ける大動脈分電盤行き先ごとに分ける分岐回路部屋・器具へ帯の太さは「電気の量」のイメージ。下流へ行くほど細かく分かれていく幹線が止まれば、その先は全部止まるHARITAの設計室

幹線は、受変電設備(または引込口)から各分電盤・動力盤までを結ぶ部分です。コンセント編・照明編で扱ってきたのは、この図でいういちばん右の「分岐回路」でした。今回はその上流側を設計します。

幹線の怖いところは、止まったときの影響範囲です。分岐回路が1つ落ちても部屋がひとつ暗くなるだけですが、幹線が落ちればその先の盤ごと全部が止まります。だから幹線は、余裕を持って、確実に。ケチるところではありません

幹線・分電盤・回路の関係をもう少し丁寧に追いたい人は 新人講座 第9回 幹線・分電盤・回路のきほん を、図面のどこにこれが描かれるかは 新人講座 第4回 電気設備図面の種類 をどうぞ。

② 系統計画 ― 盤をどこに置くか

系統計画の第一歩は、盤の位置です。そしてこれは、電気の理屈から言えば答えがはっきりしています。負荷の重心に置く。それだけです。

盤の位置で、幹線の半分は決まる○ 負荷の重心に置く分岐が短く、電圧降下も抑えられる✕ 端に寄せて置く同じ台数でも配線が長く、太くなるまず負荷の重心を探す。盤は「電気の近く」に置くHARITAの設計室

同じ建物、同じ負荷でも、盤を端に置くだけで配線の総延長は大きく伸びます。伸びれば電圧降下が増え、ケーブルを太くすることになり、材料費も施工手間も増えます。しかもあとから盤は動かせません

もっとも、現実には理屈どおりにいかないことのほうが多いはずです。盤を置ける場所は建築が決めますし、意匠の都合で「そこは見せたくない」と言われます。それでも「電気としてはここが最適です」と言えることが大事です。理由を持って提案すれば、折り合いの付け方が変わります。

あわせて考えるのが幹線ルートです。EPS(電気シャフト)の位置、ケーブルラックの経路、他設備との交差。盤の位置とルートはセットで決めます。

③ 系統の分け方 ― 3つの軸

次に、系統をいくつに分けるか。分け方には3つの軸があります。

系統は3つの軸で分ける1用途で分ける電灯系統と動力系統性質の違う負荷は混ぜない2階・エリアで分けるEPSで縦にまとめる工事も改修も範囲が閉じる3重要度で分ける常用系統と非常用系統止めていいものと悪いもの分けるほど安全。ただし分けすぎると盤もケーブルも増えるHARITAの設計室

用途で分けるのが基本です。電灯系統と動力系統は、電圧も負荷の性質も違います。動力の始動電流が電灯側に影響すると、照明がちらつきます。

階・エリアで分けるのは、工事と改修のためです。EPSで縦にまとめておけば、テナント入替えのときに工事範囲がその階で閉じます。重要度で分けるのは、非常時のため。非常照明や防災設備は、一般の系統が止まっても生きていなければなりません。

ただし、分けすぎには注意です。系統をひとつ増やすたびに、盤が増え、幹線が増え、EPSのスペースが要ります。「分けたほうが安全だから」と際限なく分けると、こんどは物理的に納まらなくなります。分ける理由を1つずつ言葉にできるかどうかが判断基準です。

盤そのものの構成(主幹・分岐・予備の考え方)は 分電盤の構成と計画指針 にまとめてあります。最終回で改めて扱いますが、系統を分ける段階で盤の中身をぼんやり思い浮かべておくと、判断が早くなります。

まとめ

  • 幹線は受変電から各盤までの大動脈。止まればその先が全部止まる
  • 設計は6ステップ。系統計画→負荷集計→サイズ選定→電圧降下→保護と分岐→分電盤
  • 盤は負荷の重心に置く。位置が変わると、後ろの計算が全部変わる
  • 盤の位置と幹線ルート(EPS・ケーブルラック)はセットで決める
  • 系統は用途・階/エリア・重要度の3軸で分ける。ただし分けすぎない

よくある質問

Q1. 盤の位置は、建築が決めてしまうのでは?
A. 最終的にはそうなることが多いです。ただ、電気として最適な位置を先に示せるかどうかで結果は変わります。「ここに置ければ幹線が○m短くなり、ケーブルが1サイズ落ちます」と数字で言えれば、検討してもらえる可能性は上がります。何も言わなければ、余った場所に決まります。

Q2. 系統はいくつくらいに分けるのが普通ですか?
A. 建物の規模と用途で変わるので、標準の数はありません。判断の仕方はシンプルで、「なぜこの系統を分けたのか」を1つずつ説明できるか。説明できない分割は、たいてい増やしすぎです。

Q3. 幹線の余裕は、どのくらい見ておけばいいですか?
A. 次回の需要率・不等率の話とセットになります。ここでは「あとからケーブルは太くできない」とだけ覚えておいてください。盤の分岐は増設できますが、幹線の入替えは大工事です。将来の増設が想定される建物ほど、上流に余裕を持たせます。

次回予告

第2回は「負荷容量の集計」。建物にある機器の容量を全部足すと、実際に必要な容量よりずっと大きな数字になります。そこで登場するのが需要率・不等率という「割引」の考え方です。集合住宅の幹線計算にも触れます。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第2回 負荷容量の集計 ― 需要率・不等率という「割引」

次に読むならこれ【幹線設備の設計マニュアル③】幹線サイズの選定 ― 許容電流は「発熱の限界」で決まる設計マニュアル