【EV充電・再エネ設備の設計マニュアル⑥・最終回】申請と図面化 ― 申請が設計の締切を決める
設計が終わっても、申請が終わらなければ設備は動きません。
この連載でくり返し出てきたのが、この構造でした。第1回で「接続点を決めると手続きが決まる」と書き、第3回で「協議期間が工程の締切になる」と書きました。最終回は、その手続きの全体像と、そこから逆算した工程の引き方、そしてすべてを1枚の図面に残すところまでを扱います。
合言葉は「申請が設計の締切を決める」。
3種類の手続きが、別々に走る
再エネ・EV充電の案件で発生する手続きは、大きく3系統あります。相手も期限も別で、ひとつが通ったから他も通る、という関係にはありません。
- 系統連系(電力会社):技術的に接続してよいかどうか。第3回で扱った流れ。ここが通らないと、そもそも発電できない
- 法令上の届出(電気事業法・消防・建築):設備を設置し、保安体制を整えるための手続き。出力や容量によって要否が変わる
- 事業性の手続き(補助金・売電制度):あれば。交付決定前の着工が認められないなど、工程を強く縛る条件が付くことがある
3つ目が曲者です。補助金には申請期限があり、交付決定の時期も読めない。一方で系統連系の協議には時間がかかる。この2つのスケジュールが噛み合わないと、「補助金は取れたが連系が間に合わない」という事態になります。
どこから「発電所」になるか
法令上の届出でいちばん影響が大きいのが、電気事業法上の区分です。発電設備の出力によって、その建物の電気設備の扱いそのものが変わります。
大きな考え方はこうです。
- 小さい規模:住宅の屋根に載せる程度なら、一般用電気工作物として扱われ、特別な保安体制は求められない
- 中間の規模:一定の出力を超えると、小規模な事業用の設備として、基礎情報の届出や使用前の自己確認といった手続きが必要になる
- 大きい規模:さらに超えると自家用電気工作物となり、保安規程の届出と電気主任技術者の選任が必要になる。すでに高圧受電している建物なら体制はあるが、低圧受電の建物に大きな太陽光を載せる場合は、新たに体制を作ることになる
ここで重要なのは、これが設計判断で動かせるという点です。出力を区分の境界より下に抑えれば、保安体制の負担は軽くなる。逆に、発電量を優先して境界を超えるなら、その体制まで含めて提案する必要があります。
「あと少しで境界を超える」という計画に出会ったら、超えた場合に何が増えるのかを整理して施主に示してください。技術的な最適と、運用の負担は別です。
消防と建築にも、確認する先がある
電気事業法だけではありません。設備の種類ごとに、別の窓口があります。
- 蓄電池:一定容量を超えると、自治体の火災予防条例により消防機関への届出が必要になる。設置場所の構造や離隔にも条件が付くことがある。第4回で扱ったとおり、容量と置き場所を決める前に所轄へ相談するのが確実
- 太陽光:屋根への設置か地上設置か、構造への固定方法によって、建築側の手続きが必要になる場合がある。屋根の防水と構造の責任区分もここで整理する
- EV充電設備:一般の駐車場では特別な届出を要さないことが多いが、地下駐車場や機械式駐車場では換気や区画の扱いが絡む。計画段階で建築・消防と条件を確認しておく
これらは電気の設計と並行して進む話で、しかも所轄によって運用が違うことがあります。「前の物件では不要だった」が通用しない領域なので、案件ごとに事前相談を組み込んでください。
竣工日から逆算して、線を引く
ここまでの手続きを踏まえて、工程を引きます。順番は逆算です。
- 竣工日が決まる
- そこから連系希望日が決まる(竣工検査と立会いの日程を含む)
- 連系希望日から、協議に要する期間を引いて申込日が決まる
- 申込には図書が要るので、そこから設計完了日が決まる
- 補助金があれば、その申請期限と交付決定の時期を、この線の上に重ねる
申込に必要になるのは、おおむね単線結線図、機器の仕様、保護継電器の整定値、設置場所の図面です。つまり基本設計が固まっていないと申し込めません。「詳細は後で詰める」が効かない部分がここにあります。
単線結線図に、何を描くか
最後は図面です。この連載で扱ってきたことを、1枚に落とします。
接地・雷保護編の最終回で「完成すると見えなくなる設備は、図面に残してはじめて設計が終わる」と書きました。再エネとEV充電も同じで、しかもこちらは設備が増え続けるぶん、引き継ぎの重要性がさらに高くなります。
- 接続点と系統構成:どこに、どの方式で連系しているか。逆潮流の有無(第1回・第3回)
- EV充電設備:台数、1台あたりの出力、同時使用率とその根拠、負荷率制御の有無と設定(第2回)
- 太陽光:パネル容量とPCS容量、ストリング構成、保護継電器の種類と整定値(第3回)
- 蓄電池:出力と容量、特定負荷か全負荷か、非常時に生かす回路、切替時間(第4回)
- 保護:短絡電流の検討結果、既存遮断器との協調、SPDの位置と種類(第5回)
- 将来計画:予備の管路と盤スペース、幹線の余裕、増設可能な台数(第2回)
- 竣工時の記録:各種試験の結果と実施日
この7項目が1枚にまとまっていれば、数年後に増設を検討する人が、どこまで余裕があって、どこを触ってはいけないかを読み取れます。
まとめ
- 手続きは系統連系・法令上の届出・事業性の3系統。相手も期限も別で、ひとつ通っても他は通らない
- 補助金の期限と系統連系の期間がかみ合わないと、「補助金は取れたが連系が間に合わない」になる
- 電気事業法上の区分は出力の境界で変わる。境界のどちら側に置くかは設計判断で動かせる
- 蓄電池は消防、太陽光は建築、EV充電は地下・機械式で別の確認先がある。所轄によって運用が違う
- 工程は逆算。竣工日 → 連系希望日 → 申込日 → 設計完了日。工程表に2番目に書き込むのが申込日
- 申込には基本設計が固まっている必要がある。「詳細は後で」が効かない
- 単線結線図に7項目を残す。増え続ける設備だからこそ、引き継ぎが効く
- 制度は数年単位で変わる。数値と手続きは案件ごとに最新の規定で確認する
よくある質問
Q1. 補助金の締切が近く、先に機器を発注したいと言われました。
補助金には「交付決定前に着工・発注したものは対象外」という条件が付くことがあります。まず要件を確認してください。そのうえで、系統連系の見通しが立っていない段階での発注は、連系できなかった場合に機器だけが残るリスクがあります。少なくとも事前相談で接続の可否の感触を得てから、というのが安全な進め方です。
Q2. 出力を境界の少し下に抑えるのは、逃げでしょうか?
逃げではなく設計判断です。保安体制を作る負担、その維持費用、点検の手間まで含めて、施主にとってどちらが有利かを比較した結果ならば、正当な選択です。比較した形跡を残すことが大事で、比較せずに「面倒だから下げた」だと説明できません。増やした場合に何が増えるのかを、数字と一緒に示してください。
Q3. 既存建物への後付けで、いちばん時間がかかるのはどこですか?
多くの場合、系統連系の協議です。次に、既存の受変電設備の調査と保護協調の見直し(第5回)。この2つは並行して進められるので、現地調査を早く済ませて、その結果で申込図書を作るという順番にすると全体が短くなります。機器の選定は、この2つが見えてからでも間に合います。
Q4. 図面はどこまで詳しく描けばよいですか?
基準は「次に触る人が、調べ直さずに判断できるか」です。整定値、同時使用率の根拠、予備管路の位置、非常時に生かす回路。これらは現物を見ても分からないものばかりで、書いていなければ最初から検討し直すことになります。逆に、カタログを見れば分かることは書かなくて構いません。
連載を終えて
全6回で、EV充電・太陽光・蓄電池を扱ってきました。通して読むと、製品の話がほとんど出てこなかったことに気づくと思います。
この3つは、いずれも既存の電気設備の上に載る設備です。だから設計の中心にあるのは、機器の性能ではなく、受電容量と幹線と接続点。そして、それを決めたあとに待っているのは、電力会社と所轄との手続きでした。
発電も充電も、最後は幹線の話になる。第1回に置いた合言葉が、そのまま6回分の結論です。




