この記事は連載「接地・雷保護の設計マニュアル」(全5回)の1本です。

「避雷針が付いているのに、雷でパソコンとネットワーク機器が壊れた」。設備担当者からいちばんよく出てくる不満のひとつです。

これは避雷設備の不良ではありません。避雷設備は、そもそも中の機器を守るための設備ではないからです。守る対象が違うものに、守れなかったと文句を言っている状態になっています。

雷保護は、大きく2つに分かれます。外部雷保護は建物と人を守り、内部雷保護は中の機器を守る。この2つは目的も手段も別物で、片方があればもう片方が要らないという関係にはなりません。

合言葉は「外部と内部は別の話」。

雷の被害は、直撃だけではない

雷が機器を壊す経路は3つあります。

  • 直撃雷:建物や設備に直接落ちる。エネルギーは最大だが、頻度は低い
  • 誘導雷:近くに落ちた雷の電磁界が、建物内外の配線に電圧を誘起する。落雷地点から数百m離れていても起きる
  • 侵入雷(逆流雷):他の場所に落ちた雷電流が、電力線・通信線・接地系を伝って建物に入ってくる

実務で問題になる機器被害の大半は、後ろの2つです。直撃していないのに壊れる。だから「うちには落ちていないから大丈夫」という判断が外れます。

3 m

外部雷保護システム ― 建物と人を守る

外部雷保護システムは、3つの部分でできています。

  • 受雷部:雷を受け止める。避雷針(突針)、棟上導体、メッシュ導体など
  • 引下げ導線:受けた電流を地面まで運ぶ。専用の導体のほか、鉄骨や鉄筋を利用する方法もある
  • 接地極:電流を大地へ放出する

この構成が目指すのは、雷電流を建物の外郭に沿って安全に地面まで導くことです。建物に穴を開けさせない、火災を起こさせない、人を感電させない。ここまでが仕事です。

受雷部をどこに配置するかは、JIS A 4201で3つの方法が示されています。保護角法(避雷針の先端から一定の角度の内側を保護範囲とする)、回転球体法(ある半径の球を建物の上で転がして、球が触れない部分を保護範囲とする)、メッシュ法(屋上に格子状に導体を張る)。高い建物や複雑な形状では回転球体法が基本になります。

建築基準法で必要になるのは「高さ20mを超える建築物」
法令上の設置義務はここが起点です。ただし、これは建物と人を守るための規定であって、機器を守るための規定ではありません。20mを超えていなくても、危険物施設のように別の法令で求められる場合もあります。
3 沿

内部雷保護システム ― 中の機器を守る

外部雷保護がうまく働いて、雷電流が引下げ導線を通って地面に流れた。そのとき建物の中で何が起きているか。

第2回で見たとおり、接地抵抗はゼロにはなりません。数万アンペアの雷電流が数Ωの接地抵抗を流れれば、接地点の電位は数万Vから数十万Vの単位で持ち上がります。建物全体がその電位に乗る。同時に、引下げ導線のまわりには強い電磁界が生まれ、近くを走る配線に電圧を誘起します。

つまり外部雷保護は、雷の物理的な破壊を防ぐと同時に、建物の中に巨大な電位上昇と電磁界を持ち込みます。これに対処するのが内部雷保護です。手段は3つ。

  • 等電位ボンディング:第4回でやったこと。全体が一緒に持ち上がれば、機器間に差は出ない
  • 安全離隔距離:引下げ導線と、建物内の金属体・配線とのあいだに距離をとる。近すぎると空気を破って放電(側撃)する
  • SPD(サージ防護デバイス):それでも配線から入ってくるサージを、機器の手前で逃がす

この3つは並列ではなく、順番があります。まず等電位化で差を消し、離隔で放電を防ぎ、それでも残るものをSPDで受ける。SPDだけ付けても、等電位化ができていなければ効きません

沿 SPD SPD

保護レベルという考え方

雷保護の設計は「付けるか付けないか」ではなく、どのくらい厳しく守るかを選ぶ形になっています。これが保護レベル(LPL)で、IからIVの4段階。Iがいちばん厳しい。

保護レベルが変わると、受雷部の配置密度が変わります。回転球体法なら球の半径が、メッシュ法なら格子の間隔が変わる。厳しいレベルほど小さい球・細かい格子になり、受雷部が増えます。

どのレベルを選ぶかは、本来はリスクアセスメントで決めるものです。建物の用途、立地(山間部か市街地か、周囲に高い建物があるか)、雷の多い地域か、被害が出たときの影響の大きさ。実務では特記仕様で「保護レベルII」などと指定されることが多いのですが、その根拠を誰も説明できない案件も珍しくありません。

レベルを上げるより、内部保護を足すほうが効くことがある
機器被害を減らしたいという要望に対して、外部雷保護のレベルを上げても効果は限定的です。外部雷保護が守るのは建物だからです。予算をどちらに割くかを決めるとき、この違いを説明できるかどうかで提案の質が変わります。
I 20m 5m II 30m 10m III 45m 15m IV 60m 20m

20mを超えない建物こそ、判断が要る

避雷設備の設置義務がない低層の建物は、雷保護を考えなくてよいのか。答えは「建物と人については、法令が要らないと言っている」までです。機器については、誰も何も言っていません

次の条件が重なる建物では、20m以下でも機器被害が起きます。

  • 周囲に高い建物がない(田畑の中、郊外の工場、山の上の施設)
  • 屋外に設備がある(受変電設備、太陽光、屋外カメラ、アンテナ、街灯)
  • 長い配線が外部から引き込まれている(構内の長い電力線、光でない通信線、遠くの子局との制御線)
  • 雷の多い地域にある
  • 止まると困る設備が入っている(サーバ、監視盤、生産設備、医療機器)

ここで必要なのは、避雷針ではありません。引込口でのSPDと、等電位ボンディングです。外部雷保護の話と切り離して、内部雷保護だけを設計する。これができると、低層建物の提案の幅が変わります。

20m 20mSPD

まとめ

  • 雷保護は外部(建物・人を守る)内部(機器を守る)の二本立て。片方では足りない
  • 機器被害の多くは直撃ではなく、誘導雷と侵入雷で起きる。「落ちていないから大丈夫」は成り立たない
  • 外部雷保護は受雷部・引下げ導線・接地極の3要素。受雷部の配置は保護角法・回転球体法・メッシュ法
  • 外部雷保護は、副作用として巨大な電位上昇と電磁界を建物内に持ち込む。これを受けるのが内部雷保護
  • 内部雷保護は「等電位ボンディング → 安全離隔距離 → SPD」の順。SPDだけでは効かない
  • 保護レベルI〜IVは受雷部の密度を決める。ただしレベルを上げても守られるのは建物
  • 20m以下で設置義務がなくても、立地と機器によっては内部雷保護だけを設計する判断がある

よくある質問

Q1. 避雷針があれば、その下は全部安全ですか?

保護範囲の中にあれば、直撃を受ける確率は下がります。ただしそれは建物の話で、中の機器は保護範囲の概念の外です。また、保護範囲は「絶対に落ちない範囲」ではなく「落ちる確率が十分低い範囲」であり、保護レベルによって範囲そのものが変わります。

Q2. 鉄骨や鉄筋を引下げ導線に使ってよいのですか?

構造体利用は認められている方法で、むしろ導体本数が実質的に多くなるため電流が分散し、電磁界も小さくなります。ただし、上下の電気的連続性が確保されていること、受雷部と接地極への接続が確実であることが前提です。これは第2回の構造体接地と同じで、着工前に構造側と合意しておく必要がある話になります。

Q3. 誘導雷対策に、配線をシールドすれば足りますか?

シールドは有効ですが、それだけでは足りません。シールドが効くのは電磁界による誘起を減らすところまでで、電力線や通信線を伝わって入ってくる侵入雷は止められません。また、シールドの両端をどこに接続するかを誤ると、かえってサージの通り道になります。等電位ボンディングとSPDが基礎にあって、その上でシールドが効きます。

Q4. 保護レベルは、どう決めればよいですか?

本来はリスクアセスメントで決めます。実務では特記仕様に従うことがほとんどですが、根拠が示されていない場合は確認する価値があります。特に、機器被害を減らしたいという要望から保護レベルの引き上げが指定されているなら、それは目的と手段がずれています。同じ予算なら内部雷保護に回したほうが効く、という説明ができるようにしておいてください。

次回予告

最終回となる第6回は「SPDと図面化」です。SPDのクラス(I・II・III)の使い分け、設置場所、接続線の長さがなぜ効くのか。そして、この連載で扱ってきた接地と雷保護を、どうやって図面に残して次の人へ引き継ぐか。

合言葉は「図面に残して引き継ぐ」。→ 第6回・最終回 SPDと図面化 を公開しました。

連載「接地・雷保護の設計マニュアル」を読み進める
次に読むならこれ【接地・雷保護の設計マニュアル⑥・最終回】SPDと図面化 ― 図面に残して引き継ぐ設計マニュアル
ABOUT ME
HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。