【引込・受電設備の設計マニュアル⑥・最終回】工事区分と図面化 ― 境界は、言葉ではなく図面で決める
こんにちは、HARITAの設計室です。
引込・受電設備の設計マニュアル、最終回です。
ここまでの5回で、受電方式・契約電力・引込ルート・責任分界点・電力会社との協議が決まりました。最後は、それを図面に落とす作業です。
図面化は「決まったことを描くだけ」に見えますが、そうではありません。協議で口頭で決まったこと、なんとなく共有されていること――それを図面に落とした瞬間に、はじめて関係者全員が同じものを見られるようになります。
誰が発注し、誰が払うかで分かれる ― A・B・C工事
テナントビルでは、工事をA・B・C工事に区分します。分ける軸は「誰が発注し、誰が費用を持つか」です。
- A工事:ビルのオーナーが発注し、費用も持つ。建物本体の設備です。
- B工事:テナントが費用を持ちますが、オーナー指定の業者が施工します。建物本体に影響する工事だからです。
- C工事:テナントが発注し、費用も持つ。専有部の内装や什器まわりです。
引込・受電設備は、基本的にA工事です。建物に電気を入れる設備そのものなので、オーナー側の責任範囲になります。
ただし「基本的に」であって、絶対ではありません。テナントが大きな電力を使う場合、その分の増設をどちらが持つかは契約次第です。思い込みで決めず、契約でどうなっているかを確認してください。
区分の考え方は テナント電気設備のA・B・C工事の違いと分電盤の区分 が詳しいです。
3つの図面は、答える質問が違う
引込・受電まわりは、複数の図面に登場します。同じことを何度も描いているように見えますが、それぞれ別の問いに答えています。
- 配置図:「どこにあるか」に答えます。引込位置、管路ルート、ハンドホール、受電設備の位置。
- 引込図:「どう引くか」に答えます。分界点、工事区分、埋設の考え方、建物への貫通位置。
- 単線結線図:「どうつながるか」に答えます。PAS・VCT・断路器・主遮断装置の順序と機器仕様。
新人のうちは「配置図に描いたから単線結線図はいらないのでは」と思うことがありますが、答えている質問が違うので両方必要です。位置がわかっても接続がわからない、接続がわかっても場所がわからない、では現場は動けません。
図面の種類と役割の整理は 【新人講座 第4回】電気設備図面の種類 にまとまっています。
図面に、必ず描き込んでおく5点
引込・受電の図面で、これだけは落とさないでほしいという5点です。
- 責任分界点 PAS・UGSの位置と記号。第4回で決めたものです。
- 工事区分の線 どこから先が誰の工事か。第3回・第5回の協議結果を線で表します。
- 引込ルート 架空か地中か、どこを通るか。
- 管路とハンドホール 本数・サイズ・位置。
- 受電設備の位置 本体だけでなく、保守通路と離隔も含めて。
この5点が描いてあれば、あとから案件に入った人でも工事区分がわかります。逆にこれが抜けていると、着工後に「そこは誰の工事ですか」という確認が何度も発生します。
拾い方は、3つの単位に分かれる
最後に積算です。引込・受電まわりは、拾う単位が3つに分かれます。
- 長さで拾う 高圧ケーブル(m)、管路・保護管(m)
- 個数で拾う PAS・UGS、VCT、ハンドホール
- 箇所で拾う ケーブルの端末処理、建物への貫通部
見落としやすいのが3つめです。端末処理は本数ではなく「箇所」で数えます。ケーブル1条でも、両端で2箇所です。貫通部の処理も同じで、図面に描いていないと拾い漏れます。
これは連載の他編でも繰り返し出てくる話ですが――図面に描いていないものは、拾えません。
部位別の拾い方は 【新人講座 積算編①】部位別の拾い方、コンセント編の 第6回 図面化と拾い・積算 もあわせてどうぞ。
この連載が終わるところ、次が始まる
この連載が扱ったのは、配電線から受電点を経て、主遮断装置の手前までです。
その先――主遮断装置から変圧器、そして低圧の幹線へ――は 高圧受変電設備の設計マニュアル(全14回) が担当します。キュービクルの中身、機器の選定、単線結線図の作図まで、そちらで詳しく扱っています。
さらにその先は 幹線設備の設計マニュアル へ、そして 照明設備 や コンセント設備 へとつながります。建物の電気は、こうして入口から末端までひとつながりになっています。
連載のまとめ ― 引込・受電の設計、全6回
全6回を、合言葉で振り返ります。
- 第1回 全体フローと受電方式の判断 ― 50kWは、料金表ではなく設計の分岐点
- 第2回 契約電力の想定 ― 契約電力は、設備容量の合計ではない
- 第3回 引込方式とルート ― 引込は、敷地の入口ではなく建物の入口で決まる
- 第4回 責任分界点とPAS・UGS ― 分界点の先で起こしたことは、こちらの責任になる
- 第5回 電力会社との協議・申込み ― 受電日から逆算する
- 第6回 工事区分と図面化 ― 境界は、言葉ではなく図面で決める
この6つは順番に並んでいます。前が決まらないと次に進めず、飛ばすとどこかで戻ることになる。引込・受電がとくにそういう領域なのは、相手のある工程が最後に控えているからです。
「そう聞いています」で進めた境界は、着工後に必ず揉めます。
よくある質問
Q1. 引込・受電はA工事だと聞きましたが、例外はありますか?
あります。テナントの需要が大きくて増設が必要になる場合や、後から入居したテナントのために引込を増やす場合などは、費用負担の考え方が変わることがあります。一般論ではなく、その建物の契約と協議結果で判断してください。
Q2. 引込図は、どの段階で描き始めればいいですか?
第5回で書いたとおり、事前相談には引込希望位置を持っていく必要があります。つまり基本設計の段階でラフでも描いておくことになります。完成度を上げるのは協議の結果が出てからで構いませんが、「協議が終わってから描き始める」では順番が逆です。
Q3. 図面に埋設深さや離隔の数値まで書くべきですか?
書く場合は、根拠のある数値だけにしてください。法令・内線規程・電力会社の基準・特記仕様書のいずれかに基づいているか確認したうえで記載します。根拠が確認できていないものは、数値を書かずに「別途協議」「特記による」としておくほうが安全です。間違った数値が図面に載ると、それが正として現場に伝わってしまいます。
おわりに
6回おつきあいいただき、ありがとうございました。
引込・受電の設計は、計算より調整の比重が大きい領域です。電力会社、建築、構造、施主。相手のいる仕事だからこそ、決まったことを図面という共通の言語に落とすことに意味があります。
全体の目次は 設計・施工マニュアル にあります。他の連載とあわせてご覧ください。




