工事区分と図面化の全体像:A・B・C工事、3つの図面、必ず描き込む5点、拾いは3つの単位

こんにちは、HARITAの設計室です。

引込・受電設備の設計マニュアル、最終回です。

ここまでの5回で、受電方式・契約電力・引込ルート・責任分界点・電力会社との協議が決まりました。最後は、それを図面に落とす作業です。

図面化は「決まったことを描くだけ」に見えますが、そうではありません。協議で口頭で決まったこと、なんとなく共有されていること――それを図面に落とした瞬間に、はじめて関係者全員が同じものを見られるようになります

この3つ、すぐ答えられますか

  • テナントビルの引込・受電は、A・B・Cのどの工事か
  • 配置図に描いたのに、なぜ単線結線図も要るのか
  • ケーブル1条の端末処理は、いくつで拾うか
ペン太ペン太
協議で決まったんだから、図面に描かなくても伝わりますよね。
はりたはりた
その場にいた人には伝わる。でも人は異動するし、忘れる。図面は「決まったことを、担当者が変わっても伝えるための道具」なんだ。
ペン太ペン太
なるほど…。
はりたはりた
だから自分にとって自明なことほど、描いておく価値がある。境界は言葉ではなく、図面で決まる。
この記事でわかること
引込・受電設備の設計マニュアル 全6回の最終回。前回までの内容は本文中のリンクから戻れます。

誰が発注し、誰が払うかで分かれる ― A・B・C工事

トピック1:A・B・C工事
HARITA
図1:A・B・C工事の区分

テナントビルでは、工事をA・B・C工事に区分します。分ける軸は「誰が発注し、誰が費用を持つか」です。

  • A工事:ビルのオーナーが発注し、費用も持つ。建物本体の設備です。
  • B工事:テナントが費用を持ちますが、オーナー指定の業者が施工します。建物本体に影響する工事だからです。
  • C工事:テナントが発注し、費用も持つ。専有部の内装や什器まわりです。

引込・受電設備は、基本的にA工事です。建物に電気を入れる設備そのものなので、オーナー側の責任範囲になります。

ただし「基本的に」であって、絶対ではありません。テナントが大きな電力を使う場合、その分の増設をどちらが持つかは契約次第です。思い込みで決めず、契約でどうなっているかを確認してください。

区分の考え方は テナント電気設備のA・B・C工事の違いと分電盤の区分 が詳しいです。

ここまでのポイント
  • 分ける軸は「誰が発注し、誰が費用を持つか」
  • A=オーナー発注・オーナー負担/B=テナント負担・オーナー指定業者/C=テナント発注・テナント負担
  • 引込・受電設備は基本的にA工事。ただしテナント増設分の負担は契約次第

3つの図面は、答える質問が違う

トピック2:3つの図面
3PASVCTDS3HARITA
図2:3つの図面は、答える質問が違う

引込・受電まわりは、複数の図面に登場します。同じことを何度も描いているように見えますが、それぞれ別の問いに答えています

  • 配置図:「どこにあるか」に答えます。引込位置、管路ルート、ハンドホール、受電設備の位置。
  • 引込図:「どう引くか」に答えます。分界点、工事区分、埋設の考え方、建物への貫通位置。
  • 単線結線図:「どうつながるか」に答えます。PAS・VCT・断路器・主遮断装置の順序と機器仕様。

新人のうちは「配置図に描いたから単線結線図はいらないのでは」と思うことがありますが、答えている質問が違うので両方必要です。位置がわかっても接続がわからない、接続がわかっても場所がわからない、では現場は動けません。

図面の種類と役割の整理は 【新人講座 第4回】電気設備図面の種類 にまとまっています。

ここまでのポイント
  • 配置図=どこにあるか(引込位置・管路ルート・ハンドホール・受電設備の位置)
  • 引込図=どう引くか(分界点・工事区分・埋設・建物への貫通位置)
  • 単線結線図=どうつながるか(PAS・UGS・断路器・主遮断装置の順序と機器仕様)

図面に、必ず描き込んでおく5点

トピック3:描き込む5点
51PASUGS2345HARITA
図3:図面に必ず描き込む5点

引込・受電の図面で、これだけは落とさないでほしいという5点です。

  • 責任分界点 PAS・UGSの位置と記号。第4回で決めたものです。
  • 工事区分の線 どこから先が誰の工事か。第3回・第5回の協議結果を線で表します。
  • 引込ルート 架空か地中か、どこを通るか。
  • 管路とハンドホール 本数・サイズ・位置。
  • 受電設備の位置 本体だけでなく、保守通路と離隔も含めて。

この5点が描いてあれば、あとから案件に入った人でも工事区分がわかります。逆にこれが抜けていると、着工後に「そこは誰の工事ですか」という確認が何度も発生します。

図面は、記憶の代わりではない
協議に出た人の頭の中には全部入っています。ですが人は異動しますし、忘れます。図面は「決まったことを、担当者が変わっても伝えるための道具」です。だから自分にとって自明なことほど、描いておく価値があります
引込図の作図イメージと、必ず描き込む5点、3つの図面の役割
図4:引込図の作図イメージと、描き込む5点
ここまでのポイント
  • ①責任分界点 ②工事区分の線 ③引込ルート ④管路とハンドホール ⑤受電設備の位置
  • この5点があれば、あとから案件に入った人でも工事区分がわかる
  • 抜けていると、着工後に「そこは誰の工事ですか」が何度も発生する

拾い方は、3つの単位に分かれる

トピック4:拾いの3単位
3mmPASUGSVCTHARITA
図5:引込・受電まわりの拾い方

最後に積算です。引込・受電まわりは、拾う単位が3つに分かれます。

  • 長さで拾う 高圧ケーブル(m)、管路・保護管(m)
  • 個数で拾う PAS・UGS、VCT、ハンドホール
  • 箇所で拾う ケーブルの端末処理、建物への貫通部

見落としやすいのが3つめです。端末処理は本数ではなく「箇所」で数えます。ケーブル1条でも、両端で2箇所です。貫通部の処理も同じで、図面に描いていないと拾い漏れます。

これは連載の他編でも繰り返し出てくる話ですが――図面に描いていないものは、拾えません

部位別の拾い方は 【新人講座 積算編①】部位別の拾い方コンセント編の 第6回 図面化と拾い・積算 もあわせてどうぞ。

拾う単位対象注意
長さ(m)高圧ケーブル、管路・保護管ルートが決まらないと拾えない
個数PAS・UGS、キュービクル、ハンドホール図面上の記号を数える
箇所ケーブルの端末処理、建物への貫通部1条でも両端で2箇所。図面になければ拾い漏れる
ここまでのポイント
  • 長さで拾う=高圧ケーブル、管路・保護管
  • 個数で拾う=PAS・UGS、キュービクル、ハンドホール
  • 箇所で拾う=ケーブルの端末処理、建物への貫通部。1条でも両端で2箇所

この連載が終わるところ、次が始まる

トピック5:この先へつながる
VCT 6 14HARITA
図6:引込・受電編から受変電編へ

この連載が扱ったのは、配電線から受電点を経て、主遮断装置の手前までです。

その先――主遮断装置から変圧器、そして低圧の幹線へ――は 高圧受変電設備の設計マニュアル(全14回) が担当します。キュービクルの中身、機器の選定、単線結線図の作図まで、そちらで詳しく扱っています。

さらにその先は 幹線設備の設計マニュアル へ、そして 照明設備コンセント設備 へとつながります。建物の電気は、こうして入口から末端までひとつながりになっています。

ペン太ペン太
この連載の次は?
はりたはりた
ここで扱ったのは主遮断装置の手前まで。その先はキュービクルの中身になるので、高圧受変電設備の設計マニュアルへ続く。建物の電気は、入口から末端までひとつながりになっている。

連載のまとめ ― 引込・受電の設計、全6回

トピック6:連載のまとめ
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図7:引込・受電設備の設計マニュアル 全6回のまとめ

全6回を、合言葉で振り返ります。

この6つは順番に並んでいます。前が決まらないと次に進めず、飛ばすとどこかで戻ることになる。引込・受電がとくにそういう領域なのは、相手のある工程が最後に控えているからです。

最終回の合言葉
境界は、言葉ではなく図面で決める。
「そう聞いています」で進めた境界は、着工後に必ず揉めます。

よくある質問

トピック7:よくある質問

Q1. 引込・受電はA工事だと聞きましたが、例外はありますか?

あります。テナントの需要が大きくて増設が必要になる場合や、後から入居したテナントのために引込を増やす場合などは、費用負担の考え方が変わることがあります。一般論ではなく、その建物の契約と協議結果で判断してください。

Q2. 引込図は、どの段階で描き始めればいいですか?

第5回で書いたとおり、事前相談には引込希望位置を持っていく必要があります。つまり基本設計の段階でラフでも描いておくことになります。完成度を上げるのは協議の結果が出てからで構いませんが、「協議が終わってから描き始める」では順番が逆です。

Q3. 図面に埋設深さや離隔の数値まで書くべきですか?

書く場合は、根拠のある数値だけにしてください。法令・内線規程・電力会社の基準・特記仕様書のいずれかに基づいているか確認したうえで記載します。

根拠が確認できていないものは、数値を書かずに「別途協議」「特記による」としておくほうが安全です。間違った数値が図面に載ると、それが正として現場に伝わってしまいます。

おわりに

トピック8:おわりに

6回おつきあいいただき、ありがとうございました。

引込・受電の設計は、計算より調整の比重が大きい領域です。電力会社、建築、構造、施主。相手のいる仕事だからこそ、決まったことを図面という共通の言語に落とすことに意味があります。

全体の目次は 設計・施工マニュアル にあります。他の連載とあわせてご覧ください。

📈 資材の値上げと納期を確認する

引込・受電まわりの機器は値上げ幅が大きく、納期も長い分野です。工事区分を固めたら、発注時期も併せて確認しておくと安全です。

2026年の資材値上げを読む →メーカー49社の一覧 →

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。