技術図書館弱電の配管ルート|通し直せるように弱電は更新周期が短い。経路は近さではなく更新のしやすさで選び、躯体内には空配管という保険をかけるこの資料をスライドで見る資料一覧を見る
この記事は連載「弱電設備の設計マニュアル」(全5回)の1本です。
この記事の全体像:弱電の配管・配線ルート。強電との離隔、空配管、更新のしやすさで経路を選ぶ

こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」第2回は配管・配線ルート第1回工事区分が決まり、自分の設計範囲がはっきりしました。次はどこを通すかです。

ここで思い出してほしいのが、第1回で書いた「弱電は更新周期が短い」という性質です。今回の合言葉は「弱電は“通す”より“通し直せる”ように」。10年後にケーブルを引き替える人のことを考えながら経路を決めます。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 強電と弱電、離隔で効いてくるのは「距離」と「並走の長さ」のどちらですか。
  • 空配管に、呼び線のほかに何を残しますか。
  • 4つの経路のうち、いちばん更新しにくいのはどこですか。
ペン太ペン太
経路って、いちばん近いところを通せばいいんじゃないんですか。
はりたはりた
強電ならね。でも弱電は更新周期が短いんだ。10年後にケーブルを引き替える人のことを考えながら決める。
ペン太ペン太
通すより、通し直せるように……ですか。
はりたはりた
そう。今回の合言葉はそれ。だから経路を選ぶ判断軸は「近いか」じゃなくて「あとから触れるか」になる。
この記事でわかること
MDF・IDFの位置から情報コンセントまでの経路を、強電との離隔・空配管・更新のしやすさという3つの軸で整理します。

今回の全体像 ― 弱電が通る道

トピック1:弱電が、通る道
3F2F1FMDFEPSIDFIDFEPS使MDFIDF3OAHARITA
図1:弱電が通る道 ― 引込からMDF・IDF、情報コンセントまで

基本の形はこうです。引込からMDF(主配線盤)へ入り、EPSを縦に上がって各階のIDF(中間配線盤)へ。そこから天井内やラックを横に走って、情報コンセントへ降りる。床側はOAフロアで配ります。

幹線編の第1回で「盤を負荷の重心に置く」と書きましたが、弱電も同じです。MDFとIDFの位置で、後ろの計画がほぼ決まります。配線長には制限があるので、この話は第3回で詳しく扱います。

機器の配置をプロット図に落とす感覚は 【電気設備標準図】マンション:プロット図 が参考になります。

ここまでのポイント
  • 基本の道は引込 → MDF(主配線盤)→ EPSを縦に上がって各階のIDF(中間配線盤)→ 天井内・ラックを横に → 情報コンセント
  • 床側はOAフロアで配る
  • 幹線編の第1回と同じで盤を負荷の重心に置くMDFとIDFの位置で、後ろの計画がほぼ決まる
  • 配線長には制限があり、その話は第3回で扱う

① 強電との離隔 ― ノイズを避ける

トピック2:並走を避け、交差は直角に

弱電が運ぶのは情報です。そして情報はノイズに弱い。強電のケーブルには電流が流れていて、そのまわりには磁界ができます。近くを平行に走る弱電ケーブルは、そこから誘導を受けます。

HARITA
図2:強電との離隔 ― 並走を避け、交差は直角に

効いてくるのは距離平行に走る長さです。少し離れているだけで影響は大きく減りますし、交差するだけならほとんど問題になりません。だから並走を避け、交差は直角にが原則になります。

同じケーブルラックに載せざるを得ないときは、仕切り(セパレータ)を立てるか、段を分けます。同一の配管に混在させるのは避けてください ― 弱電の多くは小勢力回路として扱われ、施設のルールが別に定められています。

根拠は 内線規程【098】小勢力回路の施設、高周波によるノイズ対策の考え方は 内線規程【018】高周波電流の漏えい防止 をご覧ください。

ここまでのポイント
  • 弱電が運ぶのは情報で、情報はノイズに弱い。強電ケーブルのまわりには磁界ができ、平行に走る弱電ケーブルが誘導を受ける
  • 効いてくるのは距離と、平行に走る長さ。少し離れているだけで影響は大きく減る
  • 交差するだけならほとんど問題にならない。だから並走を避け、交差は直角にが原則
  • 同じケーブルラックに載せざるを得ないときは、セパレータを立てるか段を分ける
  • 同一の配管に混在させるのは避ける。弱電の多くは小勢力回路として扱われ、施設のルールが別に定められている

② 空配管 ― いちばん安い保険

トピック3:いちばん安い、保険

弱電の設計で、もっとも費用対効果が高い判断がこれです。今は使わない配管を、空のまま入れておく

5HARITA
図3:空配管という保険

竣工の時点では、これは「何も入っていない配管」です。予算の話になれば真っ先に削られる候補でもあります。でも数年後、規格が変わって配線を引き替えることになったとき ― 壁も天井も壊さずに更新できるかどうかが、ここで決まります。

コンセント編の第5回で「壁の中はタイムカプセル」と書きました。躯体に埋まるものは、あとから足せません。足せないものだけ、先に入れておく。これが空配管の考え方です。住宅での具体的な仕込み方は スマートホーム配線の基礎|設計段階で仕込むLAN・空配管 にまとめてあります。

入れるときのコツをひとつ。呼び線(通線ワイヤ)を入れておくことと、両端の位置を図面に残すこと。空配管があっても、どこに出ているか分からなければ使えません。

ここまでのポイント
  • 今は使わない配管を、空のまま入れておく。弱電の設計でもっとも費用対効果が高い判断
  • 竣工時点では「何も入っていない配管」で、予算の話になれば真っ先に削られる候補
  • 数年後に規格が変わって配線を引き替えるとき、壁も天井も壊さずに更新できるかどうかがここで決まる
  • 躯体に埋まるものは、あとから足せない。足せないものだけ、先に入れておく
  • 入れるときのコツは呼び線(通線ワイヤ)を入れることと、両端の位置を図面に残すこと
  • 空配管があっても、どこに出ているか分からなければ使えない
ペン太ペン太
空配管、いい話だと思うんですけど、予算会議で真っ先に削られませんか。
はりたはりた
削られる。「将来のために」だけでは通らないからね。
ペン太ペン太
じゃあ、どう言えば……。
はりたはりた
削ったときに何が起きるかを金額で示すんだ。「いま配管を入れれば◯万円、あとから壁を開けて通すなら◯十万円」。第1回の区分表と同じで、判断材料を文書にして渡すと話が変わる。

③ 経路の選び方 ― 更新できる建物にする

トピック4:更新できる建物にする

経路には性格の違いがあります。判断軸は「更新のしやすさ」です。

EPSOAHARITA
図4:経路4種の比較

EPSとOAフロアは、扉やパネルを開ければ触れるので更新が楽です。天井内は点検口の位置しだい。躯体内の配管がいちばん厳しい ― だからこそ、そこには空配管という保険をかけます。

もうひとつ、幹線編の第2回でやった容量の余裕と同じ話がここにもあります。EPSやラックは、竣工時にぴったり埋まっていると次の1本が通りません。「あと何本入るか」を、図面上ではなく実際の空き寸法で確認してください。

経路触れ方更新のしやすさ設計での扱い
OAフロアパネルを開ければ触れる空配管はほぼ不要
EPS扉を開ければ触れる竣工時に埋めない。空き寸法を実寸で確認
天井内点検口の位置しだい点検口の位置とセットで考える
躯体内の配管壊さないと触れないいちばん厳しい空配管を厚めに。呼び線と両端の位置を図面に残す
作図イメージ:経路を更新のしやすさで並べること、そして強電との離隔で減らすもの
図5:作図イメージ ― 更新のしやすさで並べた経路と、離隔で減らすもの
ここまでのポイント
  • 判断軸は「更新のしやすさ」
  • EPSとOAフロアは扉やパネルを開ければ触れるので更新が楽。天井内は点検口の位置しだい
  • 躯体内の配管がいちばん厳しい ― だからこそ、そこに空配管という保険をかける
  • 幹線編の第2回と同じで、EPSやラックが竣工時にぴったり埋まっていると次の1本が通らない
  • 「あと何本入るか」を、図面上ではなく実際の空き寸法で確認する

まとめ

トピック5:今日のまとめ

弱電の経路は、近さではなく「あとから触れるか」で選びます通すより、通し直せるように ― 10年後にケーブルを引き替える人のことを考えながら決める、というのがこの回の合言葉でした。

決めることと、判断の軸

配管・配線ルートで設計者が決めるのは、この5つです。それぞれに、はまりやすい落とし穴があります。

決めること判断の軸落とし穴
MDF・IDFの位置盤を負荷の重心に置く(幹線編①と同じ)ここで後ろの計画がほぼ決まる。配線長の制限は第3回で
強電との関係「何mm離すか」より「何m並走するか」を減らす同一の配管に混在させる(小勢力回路の施設ルールがある)
空配管の量そこがあとから触れる場所かどうかOAフロア内はほぼ不要、躯体に埋まる縦の経路は厚めに
空配管の残し方呼び線両端の位置を図面にどこに出ているか分からなければ、あっても使えない
EPS・ラックの余裕「あと何本入るか」を実際の空き寸法で確認図面上で判断する。竣工時にぴったり埋まると次の1本が通らない

道と、離隔

  • 基本の道は 引込→MDF→EPS→IDF→天井内・ラック→情報コンセント
  • MDFとIDFの位置で後ろの計画がほぼ決まる(配線長は第3回)
  • 強電とは並走を避け、交差は直角に。同一ラックならセパレート
  • 同一配管に混在させない。小勢力回路の施設ルールを確認する

保険と、余裕

  • 躯体に埋まる部分は空配管を入れておく。呼び線と両端の位置を図面に残す
  • 経路は更新のしやすさで選ぶ。しにくい経路ほど余裕を厚く

最後に ― 足せないものだけ、先に入れておく

空配管は、竣工の時点では「何も入っていない配管」です。だから予算の話になれば真っ先に削られます。それでも入れる理由は一つで、躯体に埋まるものは、あとから足せないからです。

足せるものは、あとで足せばいい。足せないものだけを先に入れておく ― この線引きができていれば、どこにいくつ入れるかの判断はそれほど難しくありません。

よくある質問

トピック6:よくある質問

Q1. 空配管は、どのくらい入れておけばいいですか?
A. 一律の数字はありませんが、判断材料は「そこがあとから触れる場所かどうか」です。OAフロアの中なら空配管はほぼ不要ですし、躯体に埋まる縦の経路なら厚めに。コストは配管とボックスの分だけなので、更新工事の費用と比べれば安い保険です。

Q2. 強電と弱電は、何mm離せばいいですか?
A. 数値は設備の種類と条件で変わるので、案件ごとに仕様書と規程を確認してください。ただし設計の判断としては、「何mm離すか」より「何m並走するか」を減らすほうが効きます。ルート計画の段階で交差だけにできれば、離隔の議論はほとんど不要になります。

Q3. 空配管を提案しても、予算で削られてしまいます。
A. 「将来のために」だけでは通りません。削ったときに何が起きるかを金額で示すのが効きます ― 「いま配管を入れれば◯万円、あとから壁を開けて通すなら◯十万円」。第1回で書いた区分表と同じで、判断材料を文書にして渡すと話が変わります。

次回予告

トピック7:次回予告

第3回は「LAN・電話」。MDF・IDFをどこに置くか、水平配線の距離制限、情報コンセントの数と位置、そしてPoEで機器に給電する話まで。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第3回 LAN・電話 ― 情報コンセントとMDF/IDF

30秒アンケートこの記事は役に立ちましたか?

タップするだけで完了します。あなたの声でこのサイトは育ちます。

次に読むならこれ【EV充電・再エネ設備の設計マニュアル⑥・最終回】申請と図面化 ― 申請が設計の締切を決める設計マニュアル
ABOUT ME
HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。