こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」第2回は配管・配線ルート第1回で工事区分が決まり、自分の設計範囲がはっきりしました。次はどこを通すかです。

ここで思い出してほしいのが、第1回で書いた「弱電は更新周期が短い」という性質です。今回の合言葉は「弱電は“通す”より“通し直せる”ように」。10年後にケーブルを引き替える人のことを考えながら経路を決めます。

今回の全体像 ― 弱電が通る道

弱電が通る道3F2F1FMDFEPSIDFIDF天井内・ラック情報コンセント縦はEPS、横は天井内強電と同じ経路を使うことが多いMDFとIDFの位置が要配線長の制限は第3回で扱う床側はOAフロア机の位置が変わる前提で計画する弱電は「通す」より「通し直せる」ように計画するHARITAの設計室

基本の形はこうです。引込からMDF(主配線盤)へ入り、EPSを縦に上がって各階のIDF(中間配線盤)へ。そこから天井内やラックを横に走って、情報コンセントへ降りる。床側はOAフロアで配ります。

幹線編の第1回で「盤を負荷の重心に置く」と書きましたが、弱電も同じです。MDFとIDFの位置で、後ろの計画がほぼ決まります。配線長には制限があるので、この話は第3回で詳しく扱います。

機器の配置をプロット図に落とす感覚は 【電気設備標準図】マンション:プロット図 が参考になります。

① 強電との離隔 ― ノイズを避ける

弱電が運ぶのは情報です。そして情報はノイズに弱い。強電のケーブルには電流が流れていて、そのまわりには磁界ができます。近くを平行に走る弱電ケーブルは、そこから誘導を受けます。

強電と弱電は、離す平行に長く走らせない強電と弱電が並走すると誘導を受ける離して敷く/交差は直角に同じラックならセパレート仕切りを立てて物理的に分ける段を分けるのも有効同一配管に混在させない小勢力回路の施設ルールがある根拠は内線規程で確認ノイズは「距離」と「平行に走る長さ」で効いてくるHARITAの設計室

効いてくるのは距離平行に走る長さです。少し離れているだけで影響は大きく減りますし、交差するだけならほとんど問題になりません。だから並走を避け、交差は直角にが原則になります。

同じケーブルラックに載せざるを得ないときは、仕切り(セパレータ)を立てるか、段を分けます。同一の配管に混在させるのは避けてください ― 弱電の多くは小勢力回路として扱われ、施設のルールが別に定められています。根拠は 内線規程【098】小勢力回路の施設、高周波によるノイズ対策の考え方は 内線規程【018】高周波電流の漏えい防止 をご覧ください。

② 空配管 ― いちばん安い保険

弱電の設計で、もっとも費用対効果が高い判断がこれです。今は使わない配管を、空のまま入れておく

空配管 ― いちばん安い保険竣工時:空のまま(何も入っていない)コストは配管とボックスの分だけこの時点では「無駄」に見える5年後:通せる壁も天井も壊さずに更新できるここで効いてくる躯体に埋まるものは、あとから足せない。だから空でも入れておくHARITAの設計室

竣工の時点では、これは「何も入っていない配管」です。予算の話になれば真っ先に削られる候補でもあります。でも数年後、規格が変わって配線を引き替えることになったとき ― 壁も天井も壊さずに更新できるかどうかが、ここで決まります。

コンセント編の第5回で「壁の中はタイムカプセル」と書きました。躯体に埋まるものは、あとから足せません。足せないものだけ、先に入れておく。これが空配管の考え方です。住宅での具体的な仕込み方は スマートホーム配線の基礎|設計段階で仕込むLAN・空配管 にまとめてあります。

入れるときのコツをひとつ。呼び線(通線ワイヤ)を入れておくことと、両端の位置を図面に残すこと。空配管があっても、どこに出ているか分からなければ使えません。

③ 経路の選び方 ― 更新できる建物にする

経路には性格の違いがあります。判断軸は「更新のしやすさ」です。

経路は「更新のしやすさ」で選ぶEPS(縦)更新のしやすさ更新しやすい扉を開ければ触れる容量の余裕が要る天井内ラック更新のしやすさ比較的しやすい点検口の位置が命他設備と取り合いOAフロア更新のしやすさとてもしやすいパネルを外すだけ荷重と段差に注意躯体内配管更新のしやすさしにくいあとから足せない空配管で保険をかける更新しにくい経路ほど、余裕と空配管を厚くするHARITAの設計室

EPSとOAフロアは、扉やパネルを開ければ触れるので更新が楽です。天井内は点検口の位置しだい。躯体内の配管がいちばん厳しい ― だからこそ、そこには空配管という保険をかけます。

もうひとつ、幹線編の第2回でやった容量の余裕と同じ話がここにもあります。EPSやラックは、竣工時にぴったり埋まっていると次の1本が通りません。「あと何本入るか」を、図面上ではなく実際の空き寸法で確認してください。

まとめ

  • 基本の道は 引込→MDF→EPS→IDF→天井内・ラック→情報コンセント
  • MDFとIDFの位置で後ろの計画がほぼ決まる(配線長は第3回)
  • 強電とは並走を避け、交差は直角に。同一ラックならセパレート
  • 同一配管に混在させない。小勢力回路の施設ルールを確認する
  • 躯体に埋まる部分は空配管を入れておく。呼び線と両端の位置を図面に残す
  • 経路は更新のしやすさで選ぶ。しにくい経路ほど余裕を厚く

よくある質問

Q1. 空配管は、どのくらい入れておけばいいですか?
A. 一律の数字はありませんが、判断材料は「そこがあとから触れる場所かどうか」です。OAフロアの中なら空配管はほぼ不要ですし、躯体に埋まる縦の経路なら厚めに。コストは配管とボックスの分だけなので、更新工事の費用と比べれば安い保険です。

Q2. 強電と弱電は、何mm離せばいいですか?
A. 数値は設備の種類と条件で変わるので、案件ごとに仕様書と規程を確認してください。ただし設計の判断としては、「何mm離すか」より「何m並走するか」を減らすほうが効きます。ルート計画の段階で交差だけにできれば、離隔の議論はほとんど不要になります。

Q3. 空配管を提案しても、予算で削られてしまいます。
A. 「将来のために」だけでは通りません。削ったときに何が起きるかを金額で示すのが効きます ― 「いま配管を入れれば◯万円、あとから壁を開けて通すなら◯十万円」。第1回で書いた区分表と同じで、判断材料を文書にして渡すと話が変わります。

次回予告

第3回は「LAN・電話」。MDF・IDFをどこに置くか、水平配線の距離制限、情報コンセントの数と位置、そしてPoEで機器に給電する話まで。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第3回 LAN・電話 ― 情報コンセントとMDF/IDF

次に読むならこれ【弱電設備の設計マニュアル③】LAN・電話 ― 情報コンセントとMDF/IDF設計マニュアル