【幹線設備の設計マニュアル③】幹線サイズの選定 ― 許容電流は「発熱の限界」で決まる
こんにちは、HARITAの設計室です。連載「幹線設備の設計マニュアル」第3回は幹線サイズの選定。第2回で必要な容量が出ました。いよいよケーブルの太さを決めます。
ここで鍵になるのが許容電流という値です。「このケーブルには何アンペアまで流していいか」を示す数字ですが、その正体は発熱の限界です。今回の合言葉は「電線は電気で切れるのではなく、熱で傷む」。
今回の全体像 ― 3つの電流の関係
サイズ選定は、この不等式をひとつ満たすだけの話です。負荷電流IB ≦ 保護装置の定格In ≦ ケーブルの許容電流Iw。
意味を言葉にすると、「実際に流れる電流よりブレーカーの定格が大きく、ブレーカーの定格よりケーブルが耐えられる電流が大きい」。この順番が崩れると、ブレーカーが落ちる前にケーブルが傷みます。守るべきものを守れなくなる、というのがコンセント編の第5回でも出てきた話です。
許容電流の考え方そのものは 新人講座 第12回 幹線・ケーブルサイズの選び方 で図解しています。今回はそれを実務の手順に落とします。
① 負荷電流IBを出す ― 容量から電流へ
第2回で出したのは容量でした。ケーブルを選ぶには電流が要ります。ここは単純な換算です。
皮相電力S[kVA]を持っていれば、電圧で割るだけです。三相の場合は√3が入ります。つまずくのは、kWで持っているとき。kWは有効電力なので、力率で割ってkVAに直してから電流を出します。第2回で「kWとkVAを混ぜない」と書いたのは、この換算でつまずかないためです。
なお、簡略計算式(直流式)を使う場面もあります。使ってよい条件と、その式がどこから来ているのかは 簡略計算式(直流式)の根拠と計算方法 にまとめてあります。根拠を知らずに式だけ使うと、適用範囲を外れたときに気づけません。
② 許容電流Iw ― 発熱と放熱がつり合う点
ケーブルに電流が流れると、導体が発熱します。その熱は絶縁体・シースを通って外へ逃げます。発熱と放熱がつり合ったところで温度が決まる ― 許容電流とは、その温度が絶縁体の耐えられる限界に達する電流のことです。
だから、限界を決めているのは導体ではなくまわりの絶縁体です。銅が溶ける前に、絶縁が劣化します。しかもこの劣化はゆっくり進みます。許容電流を少し超えたくらいでは、その日には何も起きません。数年たって絶縁が弱り、あるとき地絡する。気づきにくいから怖いのです。
許容電流からサイズを引く実務手順は 許容電流によるケーブルサイズ選定方法 に、全体の流れは 幹線サイズの選定手順と計算方法 にまとめてあります。
③ 布設条件による低減 ― 同じケーブルでも変わる
ここが実務でいちばん抜けやすいところです。カタログに載っている許容電流は「決められた基準の条件」での値です。現場の条件が違えば、その値はそのまま使えません。
理屈はすべて同じで、放熱しにくくなると許容電流は下がる。周囲が暑ければ熱が逃げませんし、ケーブルを束ねればとなりの熱で互いに温まります。電線管の中は、さらに熱がこもります。
低減率は条件ごとに表で与えられているので、それを使って補正します。「ラックにまとめて敷いたら足りなくなった」は、設計段階で防げる話です。ケーブルラックの選定は ケーブルラックのサイズ選定方法、電線管に入れる場合は ケーブル別の電線管サイズ早見表 をあわせてご覧ください。
④ サイズを決める手順
ここまでを手順として並べます。
大事なのは最後の⑥です。許容電流で決まったサイズは、まだ「仮決め」にすぎません。次回やる電圧降下の検証で足りなければ、さらに太くすることになります。逆に言えば、許容電流だけで確定させて図面を描き始めると、あとで全部描き直しになります。
まとめ
- 選定の骨格は IB ≦ In ≦ Iw。崩れるとブレーカーより先に電線が傷む
- 容量から電流へは単純な換算。kWで持っているなら力率でkVAに直す
- 許容電流は発熱と放熱がつり合う点。限界を決めるのは絶縁体の温度
- 劣化はゆっくり進むので気づきにくい。だから設計で守る
- 周囲温度・多条布設・電線管で許容電流は下がる。必ず補正する
- ここで決まるのは仮決め。電圧降下の検証まで終えて確定
よくある質問
Q1. 許容電流を少し超えるくらいなら、大丈夫ではありませんか?
A. すぐには何も起きません。それがこの問題の厄介なところです。絶縁体の劣化は温度と時間の積み重ねで進むので、症状が出るころには原因の特定が難しくなっています。設計で守るべき値であって、現場で削るところではありません。
Q2. 低減率は、どこまで厳しく見ればいいですか?
A. 条件が確定していれば表どおりに、確定していなければ厳しい側で見ておくのが安全です。ラックの敷き方は施工段階で変わることがありますし、電気室の周囲温度も運用で変わります。設計時点で条件を固定できないものは、余裕を持たせておくほうが結果的に安く付きます。
Q3. 電圧降下も許容電流も満たしていれば、太いほうがいいですか?
A. 電気的には安全側ですが、太くするとケーブルの価格・曲げ半径・端子・ラック幅・管サイズまで連鎖して大きくなります。おさまらなくなって現場で困るのは、たいてい太くしすぎたときです。1サイズ上げる判断には、理由が要ります。
次回予告
第4回は「電圧降下の検証」。今回仮決めしたサイズが、こう長に耐えられるかを確かめます。許容範囲の考え方と、足りないときの3つの打ち手、そして幹線ルートの取り方まで。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。
→ 公開しました:第4回 電圧降下の検証 ― こう長は「図面の直線距離」ではない





