この記事は連載「幹線設備の設計マニュアル」(全5回)の1本です。
幹線設備の設計マニュアル第3回。IB≦In≦Iwの関係、容量から電流への換算、許容電流の正体である発熱と放熱、そして周囲温度・多条布設・電線管による低減まで。
技術図書館許容電流とサイズ|切れるのではなく傷むIB ≦ In ≦ Iw。許容電流の限界を決めているのは導体ではなく絶縁体。カタログ値は基準条件で、布設条件で低減するこの資料をスライドで見る資料一覧を見る
この記事の全体像:IB≦In≦Iwの関係、容量から電流への換算、許容電流の正体、布設条件による低減

こんにちは、HARITAの設計室です。連載「幹線設備の設計マニュアル」第3回は幹線サイズの選定第2回で必要な容量が出ました。いよいよケーブルの太さを決めます。

ここで鍵になるのが許容電流という値です。「このケーブルには何アンペアまで流していいか」を示す数字ですが、その正体は発熱の限界です。今回の合言葉は「電線は電気で切れるのではなく、熱で傷む」

この3つ、すぐ答えられますか

  • IB ≦ In ≦ Iw が崩れると、何が先に傷みますか。
  • 許容電流の限界を決めているのは、導体と絶縁体のどちらですか。
  • 許容電流だけでケーブルサイズは確定しますか。
ペン太ペン太
ケーブルの太さって、電流を流しすぎると電線が切れるから決めるんですよね。
はりたはりた
切れるんじゃないんだ。傷むんだよ、熱で。
ペン太ペン太
熱……ですか。
はりたはりた
導体が発熱して、その熱が絶縁体を通って逃げる。つり合った温度が絶縁体の限界に達する電流が許容電流だ。今回の合言葉は「電線は電気で切れるのではなく、熱で傷む」。
この記事でわかること
第2回で出した容量から、ケーブルの太さを決めます。許容電流の正体と、現場条件による低減までを順に整理します。

今回の全体像 ― 3つの電流の関係

トピック1:3つの電流の、関係
3IBInIwHARITA
図1:負荷電流・保護装置定格・許容電流の関係

サイズ選定は、この不等式をひとつ満たすだけの話です。負荷電流IB ≦ 保護装置の定格In ≦ ケーブルの許容電流Iw

意味を言葉にすると、「実際に流れる電流よりブレーカーの定格が大きく、ブレーカーの定格よりケーブルが耐えられる電流が大きい」。この順番が崩れると、ブレーカーが落ちる前にケーブルが傷みます。守るべきものを守れなくなる、というのがコンセント編の第5回でも出てきた話です。

許容電流の考え方そのものは 新人講座 第12回 幹線・ケーブルサイズの選び方 で図解しています。今回はそれを実務の手順に落とします。

記号何の電流か決まり方
IB負荷電流 ― 実際に流れる電流第2回で出した容量から換算する
In保護装置(ブレーカー)の定格ブレーカーの定格値から選ぶ
Iwケーブルの許容電流発熱と放熱がつり合う点。布設条件で低減する
ここまでのポイント
  • サイズ選定は、この不等式をひとつ満たすだけの話 ― IB ≦ In ≦ Iw
  • 言葉にすると「実際に流れる電流よりブレーカーの定格が大きく、ブレーカーの定格よりケーブルが耐えられる電流が大きい
  • この順番が崩れると、ブレーカーが落ちる前にケーブルが傷む
  • 鍵になる許容電流は「何アンペアまで流していいか」を示す数字だが、その正体は発熱の限界

① 負荷電流IBを出す ― 容量から電流へ

トピック2:容量から、電流へ

第2回で出したのは容量でした。ケーブルを選ぶには電流が要ります。ここは単純な換算です。

kVAA2I S × 1000 ÷ V100V200VSkVA3I S × 1000 ÷ V1SkVA3I S × 1000 ÷ (3 × V)SkVAkWkVAHARITA
図2:容量から電流を求める式

皮相電力S[kVA]を持っていれば、電圧で割るだけです。三相の場合は√3が入ります。つまずくのは、kWで持っているとき。kWは有効電力なので、力率で割ってkVAに直してから電流を出します。第2回で「kWとkVAを混ぜない」と書いたのは、この換算でつまずかないためです。

なお、簡略計算式(直流式)を使う場面もあります。使ってよい条件と、その式がどこから来ているのかは 簡略計算式(直流式)の根拠と計算方法 にまとめてあります。根拠を知らずに式だけ使うと、適用範囲を外れたときに気づけません

ここまでのポイント
  • 第2回で出したのは容量。ケーブルを選ぶには電流が要る
  • 皮相電力 S[kVA]を持っていれば、電圧で割るだけ。三相の場合は√3が入る
  • つまずくのはkWで持っているとき。kWは有効電力なので、力率で割ってkVAに直してから電流を出す
  • 第2回の「kWとkVAを混ぜない」は、この換算でつまずかないため
  • 簡略計算式(直流式)を使う場面もあるが、根拠を知らずに式だけ使うと、適用範囲を外れたときに気づけない

② 許容電流Iw ― 発熱と放熱がつり合う点

トピック3:発熱と放熱が、つり合う点

ケーブルに電流が流れると、導体が発熱します。その熱は絶縁体・シースを通って外へ逃げます。発熱と放熱がつり合ったところで温度が決まる ― 許容電流とは、その温度が絶縁体の耐えられる限界に達する電流のことです。

HARITA
図3:許容電流は発熱の限界で決まる

だから、限界を決めているのは導体ではなくまわりの絶縁体です。銅が溶ける前に、絶縁が劣化します。しかもこの劣化はゆっくり進みます。許容電流を少し超えたくらいでは、その日には何も起きません。数年たって絶縁が弱り、あるとき地絡する。気づきにくいから怖いのです。

許容電流からサイズを引く実務手順は 許容電流によるケーブルサイズ選定方法 に、全体の流れは 幹線サイズの選定手順と計算方法 にまとめてあります。

作図イメージ:許容電流が発熱と放熱で決まる仕組みと、布設条件による低減
図4:作図イメージ ― 発熱と放熱のつり合い、そして布設条件の低減
ここまでのポイント
  • ケーブルに電流が流れると導体が発熱し、その熱は絶縁体・シースを通って外へ逃げる
  • 発熱と放熱がつり合ったところで温度が決まる。許容電流とは、その温度が絶縁体の耐えられる限界に達する電流
  • 限界を決めているのは導体ではなく、まわりの絶縁体。銅が溶ける前に、絶縁が劣化する
  • しかも劣化はゆっくり進む。少し超えたくらいでは、その日には何も起きない
  • 数年たって絶縁が弱り、あるとき地絡する。気づきにくいから怖い
ペン太ペン太
許容電流を少し超えるくらいなら、大丈夫ですよね。その日は何も起きないですし。
はりたはりた
そこがこの問題の厄介なところなんだ。すぐには何も起きない。
ペン太ペン太
じゃあ、いつ……。
はりたはりた
数年たって絶縁が弱り、あるとき地絡する。症状が出るころには原因の特定が難しい。だから設計で守る値であって、現場で削るところじゃないんだ。

③ 布設条件による低減 ― 同じケーブルでも変わる

トピック4:同じケーブルでも、変わる

ここが実務でいちばん抜けやすいところです。カタログに載っている許容電流は「決められた基準の条件」での値です。現場の条件が違えば、その値はそのまま使えません。

HARITA
図5:許容電流を下げる布設条件

理屈はすべて同じで、放熱しにくくなると許容電流は下がる。周囲が暑ければ熱が逃げませんし、ケーブルを束ねればとなりの熱で互いに温まります。電線管の中は、さらに熱がこもります。

低減率は条件ごとに表で与えられているので、それを使って補正します。「ラックにまとめて敷いたら足りなくなった」は、設計段階で防げる話です。ケーブルラックの選定は ケーブルラックのサイズ選定方法、電線管に入れる場合は ケーブル別の電線管サイズ早見表 をあわせてご覧ください。

ここまでのポイント
  • ここが実務でいちばん抜けやすい。カタログの許容電流は「決められた基準の条件」での値
  • 現場の条件が違えば、その値はそのまま使えない
  • 理屈はすべて同じで、放熱しにくくなると許容電流は下がる
  • 周囲が暑ければ熱が逃げない/ケーブルを束ねればとなりの熱で互いに温まる/電線管の中はさらに熱がこもる
  • 低減率は条件ごとに表で与えられているので、それを使って補正する
  • 「ラックにまとめて敷いたら足りなくなった」は、設計段階で防げる話

④ サイズを決める手順

トピック5:ここでは、まだ仮決め

ここまでを手順として並べます。

6 IB2 InIB In 4HARITA
図6:幹線サイズを決める手順

大事なのは最後の⑥です。許容電流で決まったサイズは、まだ「仮決め」にすぎません。次回やる電圧降下の検証で足りなければ、さらに太くすることになります。逆に言えば、許容電流だけで確定させて図面を描き始めると、あとで全部描き直しになります。

ここまでのポイント
  • 許容電流で決まったサイズは、まだ「仮決め」にすぎない
  • 次回の電圧降下の検証で足りなければ、さらに太くすることになる
  • 許容電流だけで確定させて図面を描き始めると、あとで全部描き直しになる

まとめ

トピック6:今日のまとめ

ケーブルサイズの選定は、ひとつの不等式を満たすだけの話です。IB ≦ In ≦ Iw ― そして最後の Iw、許容電流の正体は発熱の限界でした。電線は電気で切れるのではなく、熱で傷みます。

段階ごとに、外すと何が起きるか

手順そのものは短いのですが、それぞれに抜けやすい落とし穴があります。

段階やること外すと
IB を出す容量から電流へ換算。kWなら力率でkVAに直すkWとkVAを混ぜると、電流が合わない
Iw を見るカタログの許容電流は「基準の条件」での値現場の条件が違えば、そのまま使えない
低減の補正周囲温度・多条布設・電線管で補正する「ラックにまとめて敷いたら足りなくなった」
サイズ確定電圧降下の検証まで終えて確定許容電流だけで図面を描き始めると、あとで全部描き直し
太さの判断1サイズ上げる判断には、理由が要る太くしすぎると、価格・曲げ半径・端子・ラック幅・管サイズまで連鎖する

不等式と、換算

  • 選定の骨格は IB ≦ In ≦ Iw。崩れるとブレーカーより先に電線が傷む
  • 容量から電流へは単純な換算。kWで持っているなら力率でkVAに直す

熱 ― 許容電流の正体

  • 許容電流は発熱と放熱がつり合う点。限界を決めるのは絶縁体の温度
  • 劣化はゆっくり進むので気づきにくい。だから設計で守る
  • 周囲温度・多条布設・電線管で許容電流は下がる。必ず補正する

最後に ― ここで決まるのは、仮決め

  • ここで決まるのは仮決め電圧降下の検証まで終えて確定

許容電流を少し超えるくらいなら、と思いたくなる場面はあります。けれどすぐには何も起きない、というのがこの問題のいちばん厄介なところです。症状が出るころには、原因の特定が難しくなっています。

逆に、迷ったからと太くしすぎるのも手ではありません。価格・曲げ半径・端子・ラック幅・管サイズまで連鎖して大きくなり、おさまらなくなって現場で困ります。1サイズ上げる判断には、理由が要ります。

よくある質問

トピック7:よくある質問

Q1. 許容電流を少し超えるくらいなら、大丈夫ではありませんか?
A. すぐには何も起きません。それがこの問題の厄介なところです。絶縁体の劣化は温度と時間の積み重ねで進むので、症状が出るころには原因の特定が難しくなっています。設計で守るべき値であって、現場で削るところではありません。

Q2. 低減率は、どこまで厳しく見ればいいですか?
A. 条件が確定していれば表どおりに、確定していなければ厳しい側で見ておくのが安全です。

ラックの敷き方は施工段階で変わることがありますし、電気室の周囲温度も運用で変わります。設計時点で条件を固定できないものは、余裕を持たせておくほうが結果的に安く付きます。

Q3. 電圧降下も許容電流も満たしていれば、太いほうがいいですか?
A. 電気的には安全側ですが、太くするとケーブルの価格・曲げ半径・端子・ラック幅・管サイズまで連鎖して大きくなります。おさまらなくなって現場で困るのは、たいてい太くしすぎたときです。1サイズ上げる判断には、理由が要ります。

次回予告

トピック8:次回予告

第4回は「電圧降下の検証」。今回仮決めしたサイズが、こう長に耐えられるかを確かめます。許容範囲の考え方と、足りないときの3つの打ち手、そして幹線ルートの取り方まで。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第4回 電圧降下の検証 ― こう長は「図面の直線距離」ではない

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。