【動力設備の設計マニュアル⑤】動力盤の構成 ― 主幹は、切る単位を決める
こんにちは、HARITAの設計室です。
動力設備の設計マニュアル、第5回です。前回でブレーカーとケーブルを決めました。ここまでで「機器1台に何を使うか」は出そろっています。
今回は、それを盤にまとめるところです。
動力盤の設計でいちばん質問が多いのが主幹の要否です。図面によって付いていたり付いていなかったりして、先輩に「これ外していいよ」と言われて不安になる ― よくある場面だと思います。
先に結論を言うと、主幹は必ず付けるものではありません。ただし、省略していいかどうかには、はっきりした判断の起点があります。
同じ「盤」でも、中身の考え方が違う
動力盤を電灯分電盤と同じ感覚で描くと、どこかでずれます。まず前提の違いを押さえます。
電灯分電盤 単相3線式が基本で、1つの回路に照明やコンセントを複数つなぎます。回路は「場所」で分けます。主幹で盤全体を切ります。
動力盤 三相3線式が基本で、1つの回路に機器1台が基本です。回路は「機器」で分けます。主幹は無いこともあります。
大事なのは1回路=1台という点です。電灯で切るのは「この部屋の照明」ですが、動力で切るのは「このポンプ」です。つまり動力盤では、切る単位が回路そのものになっています。
だから主幹の意味も変わります。電灯分電盤の主幹は「盤全体を切る」ために当然のように置きますが、動力盤は回路ごとに切れるので、盤全体を切る必要が本当にあるのかを毎回考えることになります。盤の基本的な構成そのものは 分電盤の構成と計画指針 が扱っています。
主幹は「必ず付けるもの」ではない
内線規程では、分電盤の主開閉器は引込口装置になるものを除き、特に必要がある場合以外は取り付けなくてもよいとされています。動力盤も同じ考え方です。
では「特に必要がある場合」とは何か。低圧開閉器を必要とする箇所として挙げられているのが、次の3つです。
- 入切する箇所 負荷電流を通じたり止めたりする必要がある
- 閉鎖する箇所 故障・点検・測定・修理などで電路を閉鎖する必要がある
- ヒューズの電源側 ヒューズに近接して開閉器を設ける
この3つのどれにも当てはまらず、引込口装置でもなければ、省略できます。
注意したいのは、「なんとなく付ける」も「なんとなく外す」も同じくらい危ないということです。前者は盤の寸法とコストに効き、後者は保守の段取りに効きます。どちらも判断の理由を残しておくべきところです。この論点だけを詳しく追いたい方は 動力盤主幹の設置基準と有無の判断方法 が正面から扱っています。
停電する範囲で考えると、答えが出る
実務でいちばん効いてくるのは2つ目(電路を閉鎖する必要があるか)です。改修や点検のとき、どこまで止めることになるかで考えると判断がはっきりします。
例1 幹線が1対1 供給元と動力盤がケーブル1本でつながっている場合。盤を更新するとき供給元のブレーカーを切っても、止まるのはこの盤の負荷だけです。メンテナンス上の支障がないので、主幹は省略できます。
例2 幹線が分岐している 1本の幹線から分岐して複数の動力盤へ供給している場合。この盤に主幹がないと、更新のたびに供給元を切ることになり、分岐した先の他の盤まで停電します。この場合は主幹が要ります。
つまり主幹の要否は、盤の大きさでも回路数でもなく、系統をどこで切れるようにしておくかで決まります。
同じ系統に24時間動く設備(冷凍機、排水ポンプ、テナントの空調など)がぶら下がっていないかは、必ず確認してください。また、将来の増設で分岐が増える計画があるなら、いまは1対1でも主幹を置いておくという判断はあり得ます。ただしその理由は図面か設計メモに残してください。幹線側の分岐の考え方は 幹線編 第5回 保護と幹線分岐 と合わせて読むと整理しやすいと思います。
盤の中に、何を並べるか
主幹の要否が決まったら、中身に入ります。
分岐回路 機器1台に1回路が基本です。予備回路を見込むかどうかは、増設の可能性と盤のスペースで決めます。予備は「入れておけば安心」ではなく、幹線と主幹の容量にも効いてくるので、何を想定した予備なのかまで決めておきたいところです。
電磁開閉器・サーマル 運転の入切と過負荷保護です。前回のとおり、過負荷保護は機器側が担当します。問題はそれが動力盤の中にあるのか、機械設備側の制御盤にあるのかです。ここは取り合いでいちばん揉めるところなので、早めに確認します。
表示灯 動作状況を示すためのものです。消費電力の小さいものを使うのが原則とされています。
電流計 最大使用電流に対して余裕のある目盛を選びます。電動機用は始動があるぶん、さらに余裕を見た目盛が求められます。
表示灯や電流計、断路用器具の扱いには規程の定めがあります。具体的な数値は 内線規程【066】低圧電動機・各装置類への電路に施設する機器類 にまとめてありますが、版によって変わり得るので原典で確認してください。
負荷表そのものを作る作業は、動力分電盤負荷表作成ツール で機械的に処理できます。
盤だけでは、動力設備は完結しない
動力盤を描き終えても、まだ終わりではありません。盤の外に3つあります。
手元開閉器 機器のそばで電源を切れるようにするものです。点検や修理のとき、盤まで戻らずに切れる場所をつくります。省略できる条件は規程に定めがあります(手元開閉器とは?設置基準と省略できる条件)。
現場操作盤 運転・停止を現場で操作するためのものです。誰がどこで操作するかは運用側と機械設備側で決まることが多いので、電気側だけで決めきらないようにします。
制御回路 盤を作るのは盤屋でも、仕様を決めて図面を承認するのは設計者です。自己保持・インターロック・タイマーの3つが読めれば、シーケンス図の大半は追えます(シーケンス制御の基本回路|自己保持・インターロック・タイマーの読み方)。
取り合いとして、少なくとも次の4点は早い段階で決めておきたいところです。
- 電磁開閉器は電気側の動力盤に入れるのか、機械側の制御盤に入るのか
- 現場操作盤はどちらの支給か
- 制御電源をどこから取るか
- 運転信号・故障信号を中央監視へ出すか
ここが決まらないと、盤の大きさもケーブルの本数も確定しません。機器表が固まる前に確認しておくのが結局いちばん早い、というのが実感です。
盤を置く場所を、最後に確認する
動力盤は機器の近くに置くことが多いので、機械室・屋上・ピット周りなど、条件の悪い場所になりがちです。
- 扉の開き代と、前面の作業スペースが取れるか
- 水がかかる場所か、粉じんの多い場所か(盤の仕様が変わります)
- 温度と湿度(機械室は想像より高温になります)
- ケーブルの引き込み方向と、余長を取れるか
- 更新のとき、その盤を搬入・搬出できる経路があるか
設置場所が決まらないと、盤の仕様も決まりません。屋内か屋外か、防じん・防水をどこまで見るか。ここを後回しにすると、盤の見積が最後にひっくり返ります。
まとめ ― 主幹は、切る単位を決める
- 動力盤は1回路=1台。切る単位が回路そのものになる
- 主幹は必ず付けるものではない。引込口装置になるものを除き、特に必要がある場合以外は省略できる
- 「特に必要がある場合」は、負荷電流の入切/電路の閉鎖/ヒューズの電源側で判断する
- 実務の決め手は幹線が分岐しているかどうか。停電範囲で考える
- 盤の中身(分岐・予備・電磁開閉器・表示灯・電流計)は、切る単位が決まってから
- 手元開閉器・現場操作盤・制御回路は盤の外。取り合いを早めに確認する
付けるか外すかではなく、どこで切りたいかを先に決めます。
よくある質問
Q1. 主幹がない動力盤は、規程違反になりませんか?
引込口装置になるものを除き、特に必要がある場合以外は取り付けなくてもよいとされています。該当しなければ省略しても差し支えありません。ただし「該当しないことを確認したうえで省略する」という順番が大事です。条文の番号は版で変わることがあるので、採用している版で確認してください。
Q2. 主幹を付けるかどうかは、誰が決めるのですか?
決めるのは電気設計です。ただし判断の材料 ― 改修時にどこまで止めてよいか、24時間動く設備が同じ系統にあるか ― は運用側と機械設備側が持っています。一人で決めきらず、「停電範囲の話」として確認すると話が早いです。
Q3. 予備回路はいくつ見込めばいいですか?
決まった数はありません。増設の可能性、盤のスペース、幹線と主幹の容量への影響で決めます。「とりあえず2回路」ではなく、何を想定した予備なのかを書き残しておくと、次の担当者が判断できます。
Q4. 電磁開閉器は動力盤に入れますか、機械側の制御盤に入れますか?
案件によります。どちらでも成立しますが、決めるのが遅いほど手戻りが大きくなります。盤の大きさ、ケーブルの本数、制御電源の取り方がすべて変わるので、機器表が固まる前に取り合いを確認してください。
次回予告
第6回・最終回は「図面化と拾い」です。動力設備で描く図面(配置図・動力幹線系統図・機器表・制御回路図)の役割分担と、拾いの進め方。そして動力設備の情報が、なぜ最後に機器表へ集まるのか。
合言葉は「動力は、機器表で決まる」。
→ 第6回・最終回 図面化と拾い ― 動力は、機器表で決まる を公開しました。これで連載は完結です。




