【動力設備の設計マニュアル⑥・最終回】図面化と拾い ― 動力は、機器表で決まる
こんにちは、HARITAの設計室です。
動力設備の設計マニュアル、いよいよ最終回です。前回で動力盤の構成まで決まりました。残るのは、それを他人が読める形にして、数えられる形にすることです。
動力設備の図面化には、電灯やコンセントとはっきり違う点がひとつあります。設計の起点が、自分の手元にないということです。
動力の情報は、機械設備から降りてきます。その受け皿になるのが機器表です。
今回の全体像 ― 動力の情報は、最後に機器表へ集まる
動力設備で電気側が自分だけで決められることは、思っているより多くありません。
機器の名前も、出力も、台数も、始動方式も、決めるのは機械設備です。機械室の位置とスペースを決めるのは建築です。運転時間や将来の増設は発注者・運用側の話です。
それらが1か所に集まる場所が機器表です。そして機器表から、動力盤の負荷表・幹線とブレーカーの選定・図面と拾いが順に出てきます。
だから動力の図面は、機器表が固まってから描き始めるのが原則になります。逆に言えば、機器表が動いているうちに図面を仕上げにいくと、まず間違いなくやり直しになります。
① 4つの図面は、答える質問が違う
動力設備で描くものは、大きく4つです。それぞれが答えている質問が違います。
配置図 「どこに何があるか」に答えます。機器と盤の位置が分かり、ケーブルの経路の見当がつきます。
動力幹線系統図 「どこから電気が来るか」に答えます。盤とケーブルと容量が並び、系統をどこで切れるかが読み取れます。前回の主幹の話は、この図の上で議論することになります。
機器表 「何が何台あるか」に答えます。出力・始動方式・回路番号が並びます。図面と図面をつなぐのは、たいてい回路番号です。
制御回路図 「どう動くか」に答えます。作るのは盤屋でも、承認するのは設計者です。
1枚で全部を説明しようとすると、どれも読みにくい図面になります。図面の種類ごとの役割は 電気設備図面の種類 ― 配置図・単線結線図・幹線系統図は「答える質問」が違う でも整理しています。
② 機器表は、電気と機械の共通言語
機器表は、電気だけの書類でも機械だけの書類でもありません。両者が同じ表を埋めていくものです。
機械設備が埋める欄 機器の名称・記号、出力(kW)と台数、始動方式、運転時間や同時に動くかどうか。
電気設計が埋める欄 電源の相と電圧、回路番号と盤の名前、ブレーカーの定格、ケーブルの種類とこう長。
この順番が大事です。左が埋まらないと、右は書けません。「とりあえず仮で入れておく」をやると、仮の数字がそのまま図面に残ります。
kW から電流への換算そのものは、第2回で扱いました。表として引きたい場合は 動力(電動機)の負荷容量換算表 を、機械的に処理したい場合は 三相誘導電動機の分岐回路サイズ選定ツール や 幹線の太さ・ブレーカーサイズ自動選定ツール が使えます。
③ 拾いは、台数ではなく経路で数える
動力の拾いでよくある失敗が、機器の台数だけを数えて終わることです。それでは金額になりません。
盤 面数と形式。屋内か屋外か、防じん・防水の仕様がここで効いてきます。
回路 機器1台に1回路が基本なので、台数がそのまま回路数になります。ここは動力の分かりやすいところです。
ケーブル 種類とサイズごとにm数を出します。動力は1回路が長くなりがちなので、ここの精度が金額に直結します。
付属品 手元開閉器、現場操作盤、制御線。ここがいちばん落ちます。機器表に欄がなくても、現場には必要です。
つまり数えるのは「台数」ではなく、盤から機器までの経路です。1本ずつ追っていけば、付属品は自然と拾えます。部位別の数え方の考え方は 積算編① 部位別の拾い方 にまとめてあります。
なお「あとで拾える図面にする」という論点そのものは、コンセント編 第6回で正面から扱っています。動力にもそのまま当てはまります。
④ 機器表は、途中で必ず変わる
ここは経験の話です。機器表は動きます。動かない前提で組み立てると、動いたときに全部やり直しになります。
よく起きるのは次の5つです。
- kWが変わる 機種変更で出力が上下し、ブレーカーとケーブルが動く
- 台数が変わる 回路数が変わり、盤の面数まで動くことがある
- 始動方式が決まっていない 直入れ前提で進めると、あとで盤が納まらない
- 制御が後追い 現場操作盤や信号線が、図面に載らないまま工事に入る
- 機器の位置が動く こう長が変わり、電圧降下の検討がやり直しになる
対策は単純で、機器表を「版」で管理することです。日付と版が入っていない機器表で図面を描かない。これだけで揉め方がかなり変わります。
そして、変わったときに何が連動して動くのかを知っておくことです。kWが変われば電流が変わり、電流が変わればブレーカーとケーブルが変わり、ケーブルが変われば盤の端子とラックの寸法まで動きます。この連鎖が見えていれば、機械設備からの一報に対して「では、ここまで影響します」と即答できます。
⑤ 連載の総まとめ ― 動力設計の6ステップ
全6回を1枚に並べると、こうなります。
①電灯と動力で負荷の性格から分け、②容量の換算で kW を電流に直し、③始動電流で動く瞬間の顔を見て、④保護の選定でブレーカーとケーブルを決め、⑤動力盤の構成で切る単位を決め、⑥図面化と拾いで他人が読める形にする。
こうして並べると、動力設計の特徴がはっきりします。上の段は「電流を出す」まで、下の段は「形にする」までです。そして上の段の入口も、下の段の出口も、どちらも機器表につながっています。
動力が電灯と違って見えるのは、計算が難しいからではありません。決めるべきことの半分が、電気側の外にあるからです。
まとめ
- 動力の情報は機器表に集まる。図面は機器表が固まってから描き始める
- 図面は4種類(配置図・幹線系統図・機器表・制御回路図)。答える質問が違うので分けて描く
- 機器表は電気と機械の共通言語。左(機械)が埋まらないと右(電気)は書けない
- 仮の値を入れるなら、仮だと分かる形で入れる
- 拾いは台数ではなく経路で数える。手元開閉器・現場操作盤・制御線が落ちやすい
- 機器表は必ず変わる。版で管理し、何が連動して動くかを知っておく
図面は機器表の写しであって、その逆ではありません。
よくある質問
Q1. 機器表がいつまでも出てきません。どう進めればいいですか?
待っていても出てこないことが多いので、こちらから枠を出すのが現実的です。空欄の機器表を先に作って「この欄を埋めてください」と渡すと、話が進みやすくなります。並行して、盤の位置と幹線ルートなど機器表が変わっても動きにくい部分から手をつけておきます。
Q2. 制御回路図は、設計者が描くものですか?
描くのは盤屋やメーカーであることがほとんどです。ただし承認するのは設計者です。自己保持・インターロック・タイマーの3つが読めれば、「動くけれど安全ではない」回路は止められます。
Q3. 拾いで、制御線はどう数えればいいですか?
動力盤から現場操作盤まで、現場操作盤から機器まで、という区間ごとに追うのが確実です。機器表には制御線の欄が無いことが多いので、系統図か配置図の上で経路を引いてから数えます。取り合い(どちらの工事か)も同時に確認してください。
Q4. 機械設備からの変更に、どこまで付き合うべきですか?
技術的にはどこまでも付き合えますが、影響範囲を示したうえで判断してもらうのが健全です。「この変更でブレーカーとケーブルと盤の面数が動きます」と伝えると、変更するかどうかの判断が相手側でも変わります。黙って吸収すると、次も同じことが起きます。
連載を終えて ― 次はどこへ
全6回、おつかれさまでした。
動力設備は、計算そのものは難しくありません。難しいのは情報が自分の手元にないまま進めることです。機器表という1枚の表を軸に置いて、そこに何が入ってくるか・そこから何が出ていくかを整理できれば、動力の設計はかなり見通しがよくなります。
他の工事項目の計画ステップは、ハブページの 設計・施工マニュアル にまとめてあります。引込・受変電・幹線・電灯・コンセント・弱電・消防まで、工事項目ごとに「何を・どの順番で決めるか」を並べてあるので、次の案件の入口としてお使いください。
連載として次に取り上げてほしいテーマがあれば、ぜひ教えてください。
動力設備の設計マニュアル(全6回)
①動力とは何か/②負荷容量の換算/③始動電流という別の顔/④ブレーカーとケーブルの選定/⑤動力盤の構成/⑥図面化と拾い(この記事)




