技術図書館席の数では足りない|距離で場所が決まる水平配線は90m程度が目安。届かなければケーブルを伸ばさずIDFを増やし、盤室の電源と広さも見るこの資料をスライドで見る資料一覧を見る
この記事は連載「弱電設備の設計マニュアル」(全5回)の1本です。
この記事の全体像:LAN・電話の設計。配線の3階層、水平配線の距離とIDFの位置、情報コンセントの配り方、PoE、MDFの中身

こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」第3回はLAN・電話第2回で経路が決まりました。ここからは設備ごとの話に入ります。

LANの設計でいちばん効いてくるのは距離です。今回の合言葉は「LANは“距離”で場所が決まる」幹線編の第4回で電圧降下こう長で決まったのと、同じ構図です。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 水平配線の長さの目安は、何mですか。
  • 情報コンセントが「届かない」とき、まず何を増やしますか。
  • PoEにすると、電源はどこからも要らなくなりますか。
ペン太ペン太
LANの配線って、要は情報コンセントを席の数だけ置けばいいんですよね。
はりたはりた
2つ落とし穴があるよ。ひとつは「席の数」で置くこと。オフィスのレイアウトは必ず変わるから、最初の席替えで足りなくなる。
ペン太ペン太
もうひとつは?
はりたはりた
距離だ。LANの設計でいちばん効いてくるのは距離で、そこからIDFの位置が決まる。幹線編の第4回で、電圧降下がこう長で決まったのと同じ構図なんだ。
この記事でわかること
水平配線の距離制限からIDFの位置を決め、情報コンセントの配り方、PoE、そしてMDFに置く機器と電源まで、LAN・電話の設計を順に整理します。

今回の全体像 ― LANの配線は3階層

トピック1:配線は、3階層でできている
LAN3MDF IDFIDF UTP PCAPHARITA
図1:LAN配線の3階層 ― 設計者が決めるのは、真ん中の水平系

建物のLANは、大きく3つの層でできています。MDFとIDFを結ぶ幹線系、IDFから情報コンセントまでの水平系、そして情報コンセントから端末までの機器系

このうち、電気設備の設計者が主に決めるのは真ん中の水平系です。幹線系は光が主役で通信事業者やシステム業者が絡みますし、機器系はパッチコードで利用者が挿すだけ。建物に埋め込まれるのは水平系なので、ここを外すと後戻りできません。

区間主に誰が決めるか押さえどころ
幹線系MDF ⇔ IDF光が主役。通信事業者やシステム業者が絡む
水平系IDF ⇔ 情報コンセント電気設備の設計者建物に埋め込まれる層。ここを外すと後戻りできない
機器系情報コンセント ⇔ 端末パッチコードで利用者が挿すだけ
ここまでのポイント
  • 建物のLANは幹線系(MDF⇔IDF)・水平系(IDF⇔情報コンセント)・機器系(情報コンセント⇔端末)の3階層
  • 電気設備の設計者が主に決めるのは真ん中の水平系
  • 幹線系は光が主役で通信事業者やシステム業者が絡み、機器系はパッチコードで利用者が挿すだけ
  • 建物に埋め込まれるのは水平系。ここを外すと後戻りできない

① 水平配線の距離 ― IDFの位置が決まる

トピック2:距離が、IDFの位置を決める

水平配線には長さの上限があります。目安としては90m程度。両端のパッチコードを足して、機器から機器まで合計100m程度に収める、という考え方です。具体の値は規格とカテゴリで変わるので、案件ごとに確認してください

IDFIDF90m100mIDF HARITA
図2:水平配線の距離制限とIDFのカバー範囲

この制限があるので、IDFを中心にした「届く範囲」の円を描いて、その中にすべての情報コンセントが収まるように配置します。収まらなければ、ケーブルを伸ばすのではなくIDFを増やす。これがLAN設計の基本動作です。

注意点は幹線編の第4回とまったく同じで、直線距離ではなく実際に通る長さで見ること。天井裏を這い、立ち上がり、梁を避け、盤内で余長を取る。図面の上で70mでも、実長は90mを超えることがあります。

ペン太ペン太
図面の上で70mなら、余裕ですよね。
はりたはりた
そこが危ないところ。天井裏を這い、立ち上がり、梁を避け、盤内で余長を取る。それを足すと90mを超えることがある。
ペン太ペン太
じゃあ足りないときは、ケーブルを太くするとか……。
はりたはりた
いや、伸ばすんじゃなくてIDFを増やす。これがLAN設計の基本動作だ。そしてIDFを増やすなら、その盤室に電源と作業スペースが要る ― 話はそこにつながっていく。
作図イメージ:水平配線を実長で見ること、そしてMDF・IDFに要る電源とスペース
図3:作図イメージ ― 実長で見る水平配線と、盤室に要る電源・スペース
ここまでのポイント
  • 水平配線の長さの目安は90m程度。両端のパッチコードを足して、機器から機器まで合計100m程度に収める
  • 具体の値は規格とカテゴリで変わるので、案件ごとに確認する
  • IDFを中心にした「届く範囲」の円を描き、その中にすべての情報コンセントが収まるように配置する
  • 収まらなければケーブルを伸ばすのではなくIDFを増やす。これがLAN設計の基本動作
  • 距離は直線距離ではなく実際に通る長さで見る。天井裏を這い、立ち上がり、梁を避け、盤内で余長を取る
  • 図面の上で70mでも、実長は90mを超えることがある

② 情報コンセント ― 席ではなくエリアに配る

トピック3:席ではなく、エリアに配る

次に、どこに何口置くか。ここで新人がやりがちなのが「席の数だけ置く」です。

OAAP退HARITA
図4:情報コンセントを置く場所 ― 席ではなく、エリアに

オフィスのレイアウトは必ず変わります。竣工時の席割りに合わせて配線すると、最初の席替えで足りなくなる。だから席ではなくエリアに配る ― 島単位、ゾーン単位で余裕を持って置きます。コンセント編の第2回でやった「家具は動く」という話と同じです。

忘れられやすいのが天井の無線AP機器まわりです。複合機、入退室の制御盤、サイネージ、受付端末。担当が他社でも配線は要ります ― 第1回の工事区分表がここで効いてきます。

住戸の場合の考え方は マンションの電気設計① 住戸内(専有部)の計画の進め方、住宅で先に仕込んでおく配線は スマートホーム配線の基礎 が参考になります。

ここまでのポイント
  • 新人がやりがちなのが「席の数だけ置く」。オフィスのレイアウトは必ず変わる
  • 竣工時の席割りに合わせて配線すると、最初の席替えで足りなくなる
  • だから席ではなくエリアに配る ― 島単位、ゾーン単位で余裕を持って置く
  • 忘れられやすいのが天井の無線APと機器まわり。複合機、入退室の制御盤、サイネージ、受付端末
  • 担当が他社でも配線は要る。第1回の工事区分表がここで効いてくる

③ PoE ― 1本で情報と電気を運ぶ

トピック4:1本で、情報と電気を運ぶ

近年の弱電設計を大きく変えたのがPoEです。LANケーブル1本で、情報と一緒に電気も送れます。

PoE 1HUBAPIP HUB1HARITA
図5:PoEのしくみ ― 1本で情報と電気を運ぶ

天井の無線AP、防犯カメラ、IP電話。これらは機器側にコンセントが要らなくなります。天井にコンセントを付けずに済むのは、意匠にも施工にも大きな利点です。

ただし電気が消えるわけではありません。給電するHUB側に、そのぶんの電源が要ります。しかも給電できる電力には上限があるので、機器の消費電力を確認したうえでHUBを選びます。第1回の「機器は他社、電源は電気工事」というパターンが、ここでも顔を出します。

ここまでのポイント
  • PoEはLANケーブル1本で、情報と一緒に電気も送れる
  • 天井の無線AP、防犯カメラ、IP電話は機器側にコンセントが要らなくなる
  • 天井にコンセントを付けずに済むのは、意匠にも施工にも大きな利点
  • ただし電気が消えるわけではない。給電するHUB側に、そのぶんの電源が要る
  • 給電できる電力には上限があるので、機器の消費電力を確認したうえでHUBを選ぶ

④ 電話と光の引込 ― MDFの中身

トピック5:機器の数だけ、電源が要る

最後に上流側です。いまは光での引込が主流で、電話もIP化が進んでいます。

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図6:光の引込とMDFの中身

電話がLANと同じ配線に載るようになったので、配線の種類は減りました。ただし主装置は残りますし、ONU・ルータ・HUB・主装置と、MDFに置く機器は意外に多い。

設計者として押さえるべきは「機器の数だけ、電源と発熱と設置スペースが要る」ことです。MDF室が狭い、コンセントが足りない、夏に熱がこもる ― これは全部、設計段階で防げます。

ここまでのポイント
  • いまは光での引込が主流で、電話もIP化が進んでいる
  • 電話がLANと同じ配線に載るようになり、配線の種類は減った
  • ただし主装置は残る。ONU・ルータ・HUB・主装置と、MDFに置く機器は意外に多い
  • 押さえるべきは「機器の数だけ、電源と発熱と設置スペースが要る」こと
  • MDF室が狭い、コンセントが足りない、夏に熱がこもる ― これは全部、設計段階で防げる

まとめ

トピック6:今日のまとめ

LANの設計は、距離から場所が決まる設備です。水平配線の届く範囲を描き、その中に情報コンセントを収める。収まらなければIDFを増やす ― この基本動作さえ外さなければ、あとは配り方と電源の話になります。

決めることと、決め方

LAN・電話で設計者が決めるのは、結局この5つです。落とし穴のほうも並べておきます。

決めること決め方落とし穴
IDFの位置水平配線90m程度の「届く範囲」に、情報コンセントが収まるように置く直線距離で見てしまう。実長は立ち上がり・迂回・余長で伸びる
IDFの数収まらなければケーブルを伸ばさず、IDFを増やすケーブル側で解決しようとする
情報コンセントの位置と口数島単位・ゾーン単位で余裕を持って配る席の数だけ置く。天井APと機器まわりを忘れる
HUBの選定機器の消費電力を確認したうえで選ぶPoEで機器側の電源は不要でも、給電HUB側には電源が要る
MDF・IDFの広さ機器の数+前面の作業スペースで決めるラックの奥行きだけで考え、扉が開かない・後ろに回れない盤室になる

距離 ― IDFの位置と数

  • LANは幹線系・水平系・機器系の3階層。設計者が決めるのは水平系
  • 水平配線は90m程度が目安。規格・カテゴリで変わるので必ず確認する
  • IDFを中心にした「届く範囲」に情報コンセントを収める。届かなければIDFを増やす
  • 距離は直線ではなく実長。立ち上がり・迂回・余長を足す

配り方と、電源

  • 情報コンセントは席ではなくエリアに配る。天井APと機器まわりを忘れない
  • PoEは機器側の電源を不要にするが、給電HUB側には電源が要る
  • MDFに置く機器の数だけ、電源・発熱・スペースが要る

最後に ― 埋め込まれる層だから

水平系は建物に埋め込まれる層です。幹線系は事業者が、機器系は利用者が後から触れますが、天井裏と壁の中だけは、竣工したら簡単には変えられません

だからこの回は、距離とスペースの話に終始しました。IDFをどこに置くか、MDF室に何が入るか。図面に線を引く前に決まっているものが、あとの自由度をほとんど決めてしまいます。

よくある質問

トピック7:よくある質問

Q1. ケーブルのカテゴリは、どこまで上げればいいですか?
A. 上げるほど性能は上がりますが、太くなって曲げにくくなり、配管も大きくなります。判断材料は「その建物で何年使うか」

更新しにくい経路(躯体内)ほど上のカテゴリを、更新しやすい経路(OAフロア)は必要十分で、という配分が現実的です。第2回の空配管とセットで考えてください。

Q2. 無線があるので、有線は減らしていいですか?
A. 端末側は減りますが、APまでの有線は増えます。しかも無線の品質はAPの数と配置で決まるので、天井への配線計画はむしろ重要になります。会議室のように「確実につながってほしい」場所には、有線も残しておくのが無難です。

Q3. IDFはどのくらいの広さが要りますか?
A. 機器の数と、前面の作業スペースで決まります。ラックの奥行きだけで考えると、扉が開かない・後ろに回れない、という盤室ができあがります。幹線編の第6回と同じで、保守する人が立てるかどうかで判断してください。

次回予告

トピック8:次回予告

第4回は「テレビ共聴」。アンテナで受けた電波を、どうやって各戸まで届けるか。分配と分岐、そして末端で必要なレベルを確保するという考え方を扱います。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第4回 テレビ共聴 ― 電波は分けるたびに弱くなる

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。