【接地・雷保護の設計マニュアル⑥・最終回】SPDと図面化 ― 図面に残して引き継ぐ
第5回の最後に「SPDだけ付けても、等電位化ができていなければ効きません」と書きました。最終回は、その理由から始めます。
SPD(サージ防護デバイス)は、ふだんは絶縁体として振る舞い、規定を超えた電圧がかかった瞬間だけ導通して、サージ電流を接地側へ逃がす部品です。逃がすという言葉が示すとおり、行き先が要る。行き先の電位が上がってしまえば、逃がしたことにはなりません。
合言葉は「図面に残して引き継ぐ」。最終回なので、SPDの実務と、連載6回分をどう1枚の図面にまとめるかを扱います。
SPDが効く条件は、逃がした先にある
SPDが動作すると、電源線と接地側のあいだが短絡状態になります。このとき機器から見ると、電源線の電位と接地側の電位が引き寄せられて、その差が小さくなる。SPDがやっているのは電圧を消すことではなく、2点間の差を詰めることです。
だから、機器の接地端子とSPDの接地端子が別々の場所につながっていると、詰めたはずの差が別のところで開きます。SPDの接地側と、守りたい機器の接地は、同じ等電位の輪の中になければなりません。第4回の等電位ボンディングが土台にあって、はじめてSPDが仕事をします。
クラスI・II・III ― 一段では受けきれない
SPDは試験クラスで分類されています。分類の背景にあるのは、受け止めるサージの大きさと、置く場所の違いです。
- クラスI:直撃雷相当の大きなエネルギーを受ける。引込口や受電盤に置く。10/350µsという、長く尾を引く波形で試験される
- クラスII:誘導雷相当を受ける。分電盤に置く。8/20µsの波形で試験される
- クラスIII:機器の直前に置く。コンセント一体型や機器内蔵型。残ったぶんを最後に削る
この3つは選択肢ではなく、段階です。引込口で大きく削り、分電盤で削り、機器の前で仕上げる。これをカスケード(段階的保護)といいます。
注意が要るのは段どうしの間隔です。近すぎると、上流のSPDが動作する前に下流のSPDが先に動いてしまい、下流が大電流を受けて壊れます。目安として10m程度の配線長を確保するか、確保できない場合はデカップリング(分離用コイル)を入れるか、段間協調が確認された組み合わせを使います。
接続線を短くする ― ここでいちばん差が出る
SPDの施工でもっとも効くのに、もっとも軽く扱われがちなのが接続線の長さです。
サージは非常に速い現象です。電流が急激に変化するとき、導体は単なる電線ではなくコイルとして振る舞います。電線1mあたりのインダクタンスはおよそ1マイクロヘンリー。ここに毎マイクロ秒あたり数キロアンペアという勢いで電流が流れると、1mあたり数百Vから1kVを超える電圧が上乗せされます。
つまり、SPD本体がどれだけ優秀でも、そこへ行くまでの線と、そこから接地へ戻る線が長ければ、その分の電圧がまるごと機器にかかります。カタログのUp(電圧防護レベル)が1.5kVでも、接続線で1kV足されれば2.5kVです。
- 接続線は往復合計で0.5m以内を原則にする
- やむを得ず長くなるなら、V字結線(主回路をSPDの端子で折り返す配線)にして、接続線の電圧降下が機器にかからないようにする
- 接続線は太くするより短くするほうが効く。インダクタンスは太さではあまり下がらない
- 接続線どうしを長い距離で並走させない。ループ面積を小さくする
選定で見る値は、4つでほぼ足りる
カタログには多くの記号が並びますが、設計判断で使うのはだいたい次の4つです。
- Uc(最大連続使用電圧):ふだんかかる電圧に耐えられるか。系統電圧より低いものを選ぶと、通常運転で発熱・焼損する
- Up(電圧防護レベル):動作したとき、下流に残す電圧。これが守りたい機器の耐サージ電圧より低いこと。ここに接続線ぶんが上乗せされることを忘れない
- Iimp / In / Imax(放電電流):どれだけのサージを受け止められるか。クラスIはIimp、クラスIIはIn・Imaxで表される
- 劣化表示と交換性:SPDは消耗品。動作するたびに劣化し、いずれ機能を失う。窓表示や接点出力で分かるか、活線で交換できるか
最後の項目は見落とされがちです。SPDは付けて終わりではなく、点検して交換する設備です。劣化表示が盤の内部にあって扉を開けないと見えない、という設置では誰も見ません。竣工後の運用まで含めて位置を決めてください。
あわせて、上流の遮断器との協調も確認が要ります。SPDが短絡故障で終わったとき、その回路を切り離せなければ停電します。製品が指定するバックアップ用の遮断器・ヒューズを、指定どおりに入れることが前提です。
図面に残す ― 連載6回分を1枚にする
接地と雷保護がやっかいなのは、完成すると見えなくなることです。埋まっている、隠蔽されている、盤の中にある。だから、判断の結果を図面に残せていない建物は、次の改修で必ず同じ検討をやり直します。
この連載で扱ってきたことを、接地系統図に落とすとこうなります。
- 接地極:種別・位置・本数・埋設深さ、構造体接地の範囲(第2回)
- 接地端子盤:どこに集めているか、測定用に開放できる箇所(第3回)
- ボンディング箇所:何と何を結んでいるか。意図的に分離した箇所は、その理由も併記(第3回・第4回)
- 主等電位ボンディングの範囲:引込口でつないだ金属体の一覧(第4回)
- 外部雷保護:受雷部の配置と保護レベル、引下げ導線の経路、構造体利用の有無(第5回)
- SPD:クラス・設置位置・段間の距離・バックアップ遮断器(第6回)
- 竣工時の測定値:接地抵抗値と、測定日・天候・測定方法(第2回)
この7項目が1枚にまとまっていれば、10年後に入った人が、なぜこの構成なのかを読み取れます。逆に言えば、ここまで書いて設計が終わりです。
まとめ
- SPDは電圧を消す装置ではなく、2点間の差を詰める装置。逃がした先が等電位でなければ効かない
- クラスI・II・IIIは選択肢ではなく段階。引込口→分電盤→機器直前で削っていく
- 段どうしが近すぎると下流が壊れる。10m程度の距離かデカップリング、または協調確認済みの組み合わせを使う
- 接続線は往復0.5m以内。1mで数百V〜1kV超が上乗せされる。太くするより短くする
- 選定で見るのはUc・Up・放電電流・劣化表示の4点。Upに接続線ぶんが足されることを忘れない
- SPDは消耗品。見える位置に付け、交換手順とバックアップ遮断器まで決めておく
- 接地と雷保護は完成すると見えなくなる。接地系統図に7項目を残して、はじめて設計が終わる
よくある質問
Q1. 分電盤にSPDを付ければ、コンセントに挿す機器も守れますか?
多くの場合は改善しますが、完全ではありません。分電盤から機器までの配線が長いと、その区間で誘導を受け直すためです。特に、屋外配線を経由する回路や、長い構内配線の先にある機器は、機器側にもう一段(クラスIII)を検討する価値があります。
Q2. SPDを付けたのに機器が壊れました。
確認する順番は3つです。ひとつめ、SPDの接地側と機器の接地が同じ等電位の輪に入っているか。ふたつめ、接続線が長くないか。みっつめ、侵入経路が電源線だけだったか——通信線やアンテナ、屋外センサの線から入った可能性はないか。電源側だけSPDを付けて、通信線が素通しになっているのは、非常によくある構成です。
Q3. 通信線用のSPDも要りますか?
屋外を経由する通信線、長い構内配線、屋外カメラやアンテナがつながる回線には検討します。ここを空けたまま電源側だけ対策すると、サージは空いているほうから入ってきます。ただし通信用SPDは伝送特性に影響するので、通信規格と速度に適合した製品を選ぶ必要があります。
Q4. 既存建物にあとからSPDを付けるとき、どこから手を付けますか?
引込口(受電盤・主分電盤)が最優先です。ここに一段入れるだけで、建物全体に入ってくるサージの大きさが変わります。次に、守りたい機器が集まっている分電盤。機器直前は最後です。ただしこの順番は、等電位ボンディングが成立していることが前提です。既存で分離接地のままなら、SPDより先にそちらを直してください。
連載を終えて
全6回で、接地と雷保護をひととおり扱いました。通して読むと、同じことを角度を変えて繰り返していたことに気づくと思います。
接地は、電位をそろえるための手段である。抵抗値を下げることは目的ではなく、土の都合でどうせ下がりきらない。だから分けずにつなぎ、建物の中の差を消す。雷はその差を最大の規模で作りにいくので、外部と内部を分けて考え、SPDで残りを削る。そして、それらの判断を図面に残す。
この連載が、次に接地図を描くときの手がかりになれば幸いです。
第2回 接地極と接地抵抗 ― 抵抗値は設計ではなく、土が決める
第3回 接地の共用と分離 ― 分けるほど安全ではない
第4回 等電位ボンディング ― つながっていれば、差は生まれない
第5回 雷保護の全体像 ― 外部と内部は別の話
第6回 SPDと図面化 ― 図面に残して引き継ぐ(この回)




