【接地・雷保護の設計マニュアル③】接地の共用と分離 ― 分けるほど安全ではない
「弱電の接地は、強電と分けてください」。設計でも現場でも、いまだによく聞く一言です。理由を聞くと、たいてい「ノイズが乗るから」と返ってきます。
ところが、分けた建物のほうが、雷のあとで機器が壊れていることがあります。監視盤とカメラ、受信機と感知器、サーバとネットワークスイッチ。別々の接地につながっていた2台の機器が、そのあいだの通信線ごと壊れる。これは偶然ではなく、分けたことの結果です。
第1回で「接地とは電位をそろえること」、第2回で「大地の抵抗は思うようには下がらない」と見てきました。この2つを重ねると、今回の結論はほとんど自動的に出てきます。
合言葉は「分けるほど安全ではない」。
接地を「分ける」と、何が起きるのか
離れた場所に打った2本の接地極を考えます。どちらも大地につながっているのだから、電位は同じ——ではありません。第2回で見たとおり、大地には抵抗があります。電流が流れれば、そこに電圧が生まれます。
雷サージや地絡電流が片方の接地極に流れ込むと、その接地極の電位はいっきに持ち上がります。もう片方は、離れているぶんだけ持ち上がりません。結果として、2つの接地のあいだに電位差ができる。
そして、その2つの接地につながった機器どうしが通信線でつながっていたら、その電位差はまるごと通信線の両端にかかります。数百Vから、雷なら数kVという単位です。通信回路の絶縁がそれに耐えられる保証は、どこにもありません。
共用すれば、差は生まれない
では、2つの接地を太い導体でつないでしまったらどうなるか。片方にサージが流れ込むと、つながっている全体が、いっしょに持ち上がります。
大事なのはここです。建物全体の電位が対地で数kV持ち上がっても、その建物の中にいる機器どうしのあいだに差がなければ、機器は壊れません。人も、その空間の中では同じ電位の上に乗っているので危険は生じない。問題なのは絶対的な高さではなく、相対的な差です。
これが、接地を「分離」から「共用+等電位化」へと切り替えてきた理由です。地面に対して電位を下げきることは、第2回で見たとおり土の都合でできない。ならば、下げることをあきらめて、そろえるほうに設計の力点を移す。
では、なぜ「分けろ」と言われてきたのか
この考え方が広まる前、分離を求める理由はノイズでした。強電系の接地線には、漏れ電流や高調波、インバータのスイッチングによる電流が常時流れています。弱電の基準電位をそこに乗せると、その電流がつくる電圧が信号にそのまま混ざる——という理屈です。
この理屈自体は、いまでも間違っていません。変わったのは前提のほうです。
- 信号が平衡伝送やデジタルになり、コモンモードの電位変動に強くなった
- 機器側に絶縁(アイソレーション)や光ファイバが入り、接地電位を共有しない構成が選べるようになった
- 一方で、機器の耐サージ電圧は下がり続けている。半導体が小さくなるほど、電位差に弱くなる
つまり、ノイズのリスクは下がり、電位差のリスクは上がった。天秤の傾きが逆になったわけです。国際規格の系統でも建築設備の実務でも、いまは「共用接地+等電位ボンディング」を基本に置き、ノイズ対策は接地を分けることではなく、絶縁・シールド・配線ルートで解くのが主流になっています。
それでも、扱いが違うものがある
「全部つなげばいい」で終わらないのが、この話のややこしいところです。接地の種類ごとに、判断の理由が違います。
雷保護用の接地は、迷う余地がありません。避雷設備の接地を建物の他の接地から離して設置しても、雷電流が流れた瞬間に生じる電位差は、離した距離では吸収しきれません。むしろ間で放電します。現在の考え方では、避雷設備の接地は建物の接地系と等電位ボンディングするのが原則です。
医用接地も、値ではなく等電位が主題です。患者に触れる機器どうしのあいだに電位差を作らないことが目的なので、そもそも思想が「分離」ではなく「等電位接地」でできています。
弱電・通信の接地は、原則として共用し、必要なノイズ対策は絶縁・シールド・配線ルートで解きます。どうしても基準電位を分けたい機器がある場合でも、接地を分離するのではなく、信号側を絶縁するのが筋です。
扱いが違うのがB種接地です。B種は、高圧と低圧が混触したときに低圧側の電位上昇を抑えるためのもので、事故時にはここに大きな電流が流れます。他の接地と共用すると、その電位上昇が建物側にも及びます。共用してよいかどうかは、高圧側の1線地絡電流と接地抵抗から生じる電位上昇を見て判断することになり、実務では分離して施工することが多いのが実情です。同じ「共用が原則」という言葉で片づけないほうが安全です。
図面に、どう書き残すか
共用にするか分離にするかは、竣工後に見ただけでは分かりません。埋まっているからです。だからこの回の結論は、最後は図面の話になります。
必要なのは接地系統図です。平面図に接地極の位置を落とすだけでは足りません。どの接地が、どこで、何とつながっているのか。その1枚があるかどうかで、10年後の改修や増設の難易度が変わります。
- 接地極の種別・位置・本数と、構造体接地を使っている場合はその範囲
- 接地端子箱(接地端子盤)の位置と、そこに集まる接地の一覧
- ボンディングしている箇所と、意図的に分離している箇所(分離には理由を併記する)
- 測定のために開放できる箇所(端子で切り離せるようにしておく)
- 竣工時の測定値と、測定日・天候
まとめ
- 分離した2つの接地は、サージや地絡のときに電位差を生む。その差は両者をまたぐ通信線にかかる
- 共用(等電位)にすれば全体がいっしょに持ち上がり、機器間の差はゼロになる。危険なのは高さではなく差
- 「分けろ」が正解だった時代の前提(アナログ・不平衡・頑丈な機器)は、いまはほぼ逆転している
- 雷保護の接地は必ずボンディングする。離しても電位差は消えない
- B種接地だけは別扱い。共用の可否は地絡電流と電位上昇から個別に判断し、分離が選ばれることも多い
- 結論は図面に残す。ボンディング箇所、分離箇所とその理由、測定用に開放できる端子を接地系統図に描く
よくある質問
Q1. 弱電メーカーから「専用接地にしてほしい」と指定されました。
まず、その指定が「専用の接地極を打て」なのか「専用の接地線を引け」なのかを確認してください。後者であれば、他の機器と接地線を共用せず端子盤まで独立して引く、という意味であり、等電位化とは矛盾しません。多くの指定は実はこちらです。本当に接地極から分離せよという指定の場合は、雷サージ時の電位差リスクを説明したうえで、絶縁による解決に置き換えられないかを協議する価値があります。
Q2. 共用にすると、地絡のときに全部の機器の外箱が充電されませんか?
対地に対しては、そのとおり電位が上がります。ただし全体が同じだけ上がるので、建物内の機器どうし、機器と床・壁のあいだには差が生じません。人が感電するのは電位差に触れたときなので、等電位化された空間の中では危険が生じにくくなります。むしろ危ないのは、等電位化されていない金属体が一つだけ残っている状態です。
Q3. 避雷設備の接地は、昔は他の接地から離すよう指導されました。
かつては離隔をとる考え方がありました。現在は、離隔では電位差を防ぎきれず、間で放電(側撃)が起きるという理解に立って、等電位ボンディングを行うのが原則です。既存建物の改修で分離されたままの避雷接地を見つけたら、ボンディングの追加を検討対象に挙げてください。
Q4. B種接地を共用してよいかは、どう確かめますか?
高圧側の1線地絡電流とB種接地抵抗から、事故時にB種接地点に生じる電位上昇を求めます。その電位が建物側に及んだときに問題になるかどうかが判断の軸です。電気事業者から提示される地絡電流の値や、変圧器容量・系統条件によって変わるため、案件ごとの確認が必要です。判断の結果は、共用でも分離でも、必ず図面と計算書に残してください。
次回予告
第4回は「等電位ボンディング」です。今回は「そろえたほうがよい」という結論まででした。次回は、では実際に何と何を、どの太さの導体で、どこでつなぐのか。主等電位ボンディングと補助等電位ボンディング、金属製の水道管やガス管、鉄骨、そして浴室のような局所の話まで、具体的な施工の中身に入ります。
合言葉は「つながっていれば、差は生まれない」。




