こんにちは、HARITAの設計室です。第3回までで、図面の構造と記号の読み方を押さえました。ここからは単線結線図を上から順に読んでいく「見方編」に入ります。
最初は引込部。図面のいちばん上、電力会社との境目です。機器の数は少ないのに、受変電設備の中でいちばん責任が重い場所でもあります。
引込部って、電柱から線が来てるだけですよね。機器も1個か2個しか描いてないし…。
その1個が壊れると、近所の会社や住宅まで停電させるんだ。受変電で「絶対に手を抜けない場所」を1つ挙げろと言われたら、僕はここを挙げるよ。
引込部とは、どこからどこまでか
引込部は、電力会社の配電線から分岐して、キュービクルの入口までの区間です。単線結線図では図面のいちばん上に描かれます。
引込方式は大きく2つあります。
引込方式は2つ
① 架空引込…電柱から空中を通して引き込む。安価で工期が短い。敷地内に建てた最初の柱を第1号柱(引込柱)と呼び、その上に区分開閉器(PAS)を付ける。
② 地中引込…道路の地中から引き込む。景観がよく、風雨・飛来物に強い。道路境界付近に高圧キャビネットを設け、その中に区分開閉器(UGS)を納める。
責任分界点 ― どこからが自分の持ち物か
引込部を理解する鍵が責任分界点です。電力会社の設備と、需要家(お客さん)の設備を分ける境界のことで、ここから内側は、保守も事故の責任もすべて需要家が負います。
📐 責任分界点はどこにあるか
① 架空引込の場合
電力会社の配電線
│
│ ←ここまで電力会社
━━━━━━━━━━━━ 責任分界点
│ ←ここから需要家
▣ PAS(第1号柱の上)
│
│ 高圧引込ケーブル CVT
▼
キュービクル
敷地内に建てた最初の柱(第1号柱)の上にPASを付け、そこを分界点にするのが一般的。
② 地中引込の場合
電力会社の配電線
│(地中)
┌───────────┐
│ 高圧キャビネット │
│ 分岐装置 │ ←電力会社
│ ━━━━━━━━ 分界点
│ UGS │ ←需要家
└───────────┘
│ 高圧引込ケーブル
▼
キュービクル
高圧キャビネットの中で分かれる。箱は同じでも、中で持ち主が変わるのがポイント。
ポイント:分界点の位置は電力会社との協議で決まります。図面を渡されたら、まず「どこが分界点か」を指させるかを確認してください。停電作業の範囲も、事故時の責任も、すべてここが基準になります。
用語:財産分界点と保安上の責任分界点
財産分界点…設備の所有権が変わる点
保安上の責任分界点…保守・保安の責任が変わる点
多くの場合この2つは同じ位置ですが、電力会社の供給規程や契約によってずれることがあります。実務では供給側との協議書類でどちらの意味か確認するのが確実です。
なぜPAS・UGSが必要なのか ― 波及事故を出さないため
第1回でも触れた波及事故を、ここで詳しく見ます。引込部の機器は、ほぼこれ1点のために存在しています。
⚡ 区分開閉器がないと、こうなる
① 自社のキュービクルで地絡事故が発生
↓
② 敷地内で切り離せない
↓
③ 配電用変電所の遮断器が動作(配電線ごと停電)
↓
④ 同じ配電線につながる近隣一帯が停電 ← 波及事故
↓
⑤ 原因調査・復旧まで自社が対応。信用も費用も失う
PAS・UGSがあれば、①のあと自分の敷地の中だけで切り離せるので、③から先は起こりません。
これが「引込部にお金と手間をかける理由」です。
SOG制御装置 ― 地絡は即時、短絡は待ってから切る
PAS・UGSは「開閉器」であって、遮断器ではありません。短絡電流を切る能力がないのです。ではどうやって短絡事故に対応するのか。そこで登場するのがSOG制御装置です。
SOGは Storage(蓄勢)+ Over current(過電流)+ Ground(地絡)の頭文字。動作は事故の種類で変わります。
| 事故の種類 |
SOGの動き |
なぜそうするのか |
| 地絡 |
ZCTが零相電流を検出 → その場ですぐPASを開放 |
地絡電流は小さいので、PASでも切れる。配電線が停電する前に切り離せる。 |
| 短絡 |
過電流を検出してもすぐには開かず「切る」と記憶(蓄勢) → 変電所が遮断して無電圧になった瞬間に開放 |
短絡電流はPASでは切れない。無理に開くと開閉器が破損する。電流が止まってから開く。 |
配電線は「再閉路」する
配電用変電所は、事故で遮断したあと自動でもう一度入れ直す(自動再閉路)仕組みを持っています。雷などの一時的な事故なら、これで復旧するからです。
SOGはこの無電圧の間にPASを開くので、再閉路したときには自社が切り離されている状態になります。近隣は再閉路で復旧し、事故を起こした自社だけが停電する。よくできた仕組みです。
「切れないなら待つ」って発想、すごいですね。開閉器なのに短絡にも対応できてるんだ…。
そう。だからPASを遮断器と混同しないこと。「切る力があるもの」と「切るタイミングを選ぶもの」は別物なんだ。
PASとUGS、どう使い分けるか
| 項目 |
PAS |
UGS |
| 引込方式 |
架空引込 |
地中引込 |
| 設置場所 |
第1号柱の上(高所) |
高圧キャビネット内(地上) |
| 絶縁方式 |
気中(Air) |
ガス(Gas) |
| 点検のしやすさ |
高所作業車が必要になりがち |
地上で扉を開けて点検できる |
| 風雨・塩害・飛来物 |
受けやすい(屋外露出) |
受けにくい(箱の中) |
| コスト |
安い(柱と開閉器のみ) |
高い(掘削・管路・キャビネット) |
| 景観 |
柱と電線が見える |
すっきりする |
どちらを選ぶかは、前面道路が架空か地中かでほぼ決まります。設計者が自由に選べる場面はそれほど多くありません。まずは電力会社との事前協議で確認してください。
GR付か、DGR付か ― 「もらい事故」を防ぐ
PAS・UGSには、地絡を検出する継電装置が組み込まれています。ここに2種類あります。
GR付とDGR付のちがい
GR付(無方向)…ZCTがとらえた
零相電流の大きさだけで判断する。構造が簡単で安価。
DGR付(方向性)…ZCTの零相電流に加えて
ZPDの零相電圧も見て、事故が
構内か構外かを判別する。
構内の高圧ケーブルが長くなると対地静電容量が大きくなり、構外の事故でもGRが動いてしまうことがあります。これがもらい事故。自分は無事なのに自分だけ停電する、という理不尽な事態です。
そのため現在はDGR付(方向性)を採用するのが基本です。ケーブルこう長が長い物件では必須と考えてください。
単線結線図では、こう描かれる
引込部に登場する要素は多くありません。次の6つを押さえれば、ほとんどの図面が読めます。
引込部の記載要素
① 受電条件…3φ3W 6.6kV 50/60Hz(図面の最上部に書く)
② 区分開閉器…PAS または UGS。定格(7.2kV 200A など)を併記
③ ZCT…開閉器に内蔵。地絡電流の検出用
④ ZPD+DGR…方向性の場合。零相電圧の検出と方向判別
⑤ 避雷器(LA)…PAS内蔵形が主流。雷サージから設備を守る
⑥ 高圧引込ケーブル…CVTなど。サイズとこう長を記入。両端にケーブルヘッド(CH)
設計・施工でおさえるポイント
① 整定値は電力会社との協議で決める
地絡の整定電流・整定時間は、勝手に決めるものではありません。上位(配電用変電所)の保護と協調が取れていないと、事故のたびに配電線ごと停電します。受電協議の中で確認してください。
② 引込ケーブルは「サイズ」より先に「経路」
許容電流だけで太さを決めると、曲げ半径や管路の占積率で入らないことがあります。
経路・管路・ハンドホールを先に決めてからサイズを詰めるのが結局は早道です。
③ 更新時期を「設計時に」考えておく
PAS・UGSは屋外で常に電圧がかかっている機器です。メーカーの推奨更新時期はおおむね10〜15年とされています。第1号柱の位置を決めるときに高所作業車が寄り付けるかまで見ておくと、10年後の自分(と保安管理者)が助かります。
新人がやりがちなミス 3選
① PASを遮断器だと思う
PAS・UGSは短絡電流を切れません。「事故が起きたらPASが切ってくれる」ではなく、「地絡はすぐ切る/短絡は無電圧になってから切る」が正しい理解です。
② ケーブルが長いのにGR付を選ぶ
構内ケーブルが長い=対地静電容量が大きい=もらい事故のリスクが高い。安いからとGR付を選ぶと、毎年のように原因不明の停電に悩まされます。
③ 責任分界点を図面で確認しないまま停電作業を計画する
分界点より外側は電力会社の設備で、需要家側では操作できません。停電範囲の計画は、必ず分界点の位置を確認してから立ててください。
まとめ
第4回のまとめ
・引込部は配電線からキュービクル入口まで。架空引込ならPAS、地中引込ならUGS
・責任分界点から内側は需要家の資産。保守も事故の責任もこちら側
・区分開閉器の目的はただ1つ、波及事故を出さないこと
・SOGは地絡なら即時、短絡なら無電圧を待って開放する
・ケーブルが長い物件はDGR付(方向性)を選び、もらい事故を防ぐ
・整定値は電力会社との協議で決める。単独では決められない
よくある質問
Q. PASは需要家の持ち物ですか?
責任分界点に設置する区分開閉器は、原則として需要家の資産です。つまり点検も更新も需要家の費用と責任で行います。「電柱の上にあるから電力会社のもの」と誤解されやすい代表格です。
Q. 避雷器はPASに内蔵されていれば別に付けなくていい?
引込部の保護としては内蔵形で足りることが多いですが、キュービクル内にも避雷器を設ける構成は一般的です。雷の多い地域や重要負荷がある物件では二重に設けることもあります。第5回で避雷器そのものを扱います。
Q. 高圧キャビネットは誰が用意するのですか?
電力会社の分岐装置と需要家のUGSが同じ箱に入るため、取り扱いは電力会社ごとに異なります。設置は需要家、内部の分岐装置は電力会社、という分担が多いですが、必ず供給規程と事前協議で確認してください。
Q. 波及事故を起こすと、どうなりますか?
近隣一帯を停電させるため、原因調査への対応、電力会社への報告、場合によっては近隣への補償が発生します。金額よりも信用の損失が大きいのが実情です。だからこそ、引込部の保護は設計・施工・保安のどの段階でも手を抜けません。
次回予告
第5回:受電部① ― 計量装置(VCT・Wh)、断路器DS、避雷器LA
キュービクルの中に入ります。電気を「測る」ための取引用計量装置、点検のために「切り離す」断路器、雷から「守る」避雷器。3つの役割がなぜこの順に並ぶのかを読み解きます。
参考:高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025(日本電気協会)/電気設備の技術基準の解釈/各電力会社の電気供給約款・受電設備に関する協議資料
次に読むならこれ【コンセント設備の設計マニュアル①】計画の全体フローと負荷の想定 ― 「何個つける」より先に「何が挿さるか」設計マニュアル
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