単線結線図の作図手順とセルフチェック 設計マニュアル ⑭ ① 描き始める前に、この6つを集める 受電条件 電圧・相数・契約電力 負荷一覧 用途・容量・電圧 建物用途 非常電源が要るか 電力会社協議 分界点・引込方式 設置場所 屋内外・搬入経路 将来計画 増設の余地をどこに ② 作図は「上から下へ」8ステップ 1 用紙と表題欄 2 引込〜責任分界点 3 受電部 4 変成器と継電器 5 高圧母線 6 変圧器部・力率改善 7 低圧配電部と負荷名称 8 接地・凡例・注記 ③ レイアウトの作法 電気の流れは 上 → 下 重要な系統ほど 左 に置く 線は直交させ、交差はできるだけ避ける 機器名と定格は線の右側にそろえる 余白を残す ― 後から追記できるように ④ 描き終わったら、この順に点検 記号と文字記号が対応しているか 定格の記入漏れ(電圧・電流・遮断容量) 接地種別が全機器に書いてあるか 継電器の器具番号が入っているか 負荷名称が「どこの何か」になっているか 描く順番を決めておけば、迷いも描き漏れも減る。手が覚えるまで、同じ順番で描くのがいちばんの近道です。 図解まとめ:描き始める前に集める6つの情報、作図の8ステップ、レイアウトの作法、そして描き終わったあとの点検項目を1枚に整理しました。 こんにちは、HARITAの設計室 です。最終回は書き方編 。ここまで13回かけて読んできた単線結線図 を、白紙から自分で描く ところまで持っていきます。
第1回で「読む力と描く力を1本の連載でつなげる」と書きました。読めるようになった人は、実はもう描けます 。足りないのは順番と作法だけです。
読むのはだいぶ慣れました。でもいざ白紙を前にすると、どこから線を引けばいいのか固まっちゃって…。
固まるのは情報が足りていないとき 。描けないんじゃなくて、まだ決まっていないことがあるだけなんだ。まずは集めるものから いこう。
描き始める前に集める6つの情報
これが揃えば、単線結線図は描ける
① 建物の用途と規模 …延床面積、階数、テナントの有無、将来計画(第1回・第9回)
② 負荷リスト …電灯・
動力 ・非常用に分けた設備容量(第9回・第10回)
③ 受電方式 …架空引込か地中引込か。前面道路の状況で決まる(第4回)
④ 受電設備容量 …主遮断装置の形式を決める基準(第6回)
⑤ 電力会社との協議結果 …短絡容量、1線地絡電流 Ig、保護の整定方針(第6回・第8回・第12回)
⑥ 特殊条件 …非常電源の要求、系統連系の有無、塩害・雷害などの立地条件(第13回)
⑤が抜けたまま描き始めると、必ず描き直しになります。 電力協議は早めに動いてください。
📐 図1 8ステップで、図面はこう育っていく
ステップ 1〜2 用紙・表題欄・引込 表題欄 分界点 ステップ 3〜4 受電部と保護 表題欄 分界点 51 ステップ 5〜6 母線・変圧器・SC 表題欄 分界点 51 ステップ 7〜8 低圧・接地・凡例 表題欄 分界点 51 凡例 図1:用紙と表題欄から始めて、引込 → 受電部 → 母線 → 変圧器・力率改善 → 低圧配電部 → 接地・凡例の順に描き足していきます。順番が決まっていれば、描き漏れは起きにくくなります。 作図の8ステップ
📐 白紙から完成まで
① 表題欄と受電条件を書く 3φ3W 6.6kV 60Hz ↓ ② 引込部 PAS / UGS、CH ↓ ③ 受電部 VCT・Wh → DS → LA → 主遮断装置(VCB / PF・LBS) ↓ ④ 計測と保護 VT・CT・ZCT・ZPD → 51・67・27 ↓ ⑤ 高圧母線を引く ↓ ⑥ 母線からぶら下げる 変圧器バンク/コンデンサ回路 ↓ ⑦ 低圧配電部 主幹 → 分岐 → 負荷名称 ↓ ⑧ 仕上げ 接地・凡例・注記・予備
上から下へ、一度だけ通る 電気の流れる順に描けば、行ったり来たりしません。第1回の6ブロックがそのまま作図順 です。
③と④は分けて考える まず主回路(電気が通る道) だけを描き切る。計測・保護は後から枝として足す。同時にやると混乱します。
⑧を軽視しない 接地・凡例・注記が抜けた図面は、読み手が判断できない図面 です。ここまでが作図。
💡 コツ:まず「骨」だけ描いて全体を通す
いきなり定格や整定値を書き込もうとすると、途中で止まります。1周目は機器記号と接続だけ で最後まで通す。2周目で定格を入れる 。3周目で名称・注記・凡例 。 この3周方式なら、途中で情報が足りなくても手が止まりません。
レイアウトの作法
読みやすい図面にするための約束
① 電気の流れは上から下へ …受電が上、負荷が下② 線はできるだけ曲げない …折れ曲がりが少ないほど追いやすい③ 交差を減らす …やむを得ず交差するときは、見誤らない表現にする④ 同種の機器は高さを揃える …変圧器バンクの記号は横一線に並べる⑤ 相の配置をそろえる …三相回路は、左右なら左から第1相・第2相・第3相・中性相(JEM 1134を準用)⑥ 凡例は決まった位置に …その図面で使う記号を必ず一覧に⑦ 余白を残す …将来の増設を描き足せる余地を残しておく ③〜⑤は、三線結線図・展開接続図でより効いてきます。
📐 図2 単線 → 三線 → 展開接続図 の読み替え
① 単線結線図 1本で3相を代表 VCB CT 51 個数・相は描かない ② 三線結線図 相ごとに実際の本数 R S T VCB 3極 CT 51 CTは通常2個で足りる ③ 展開接続図 制御の動く順に横へ P N 51 52T 52a 入 主回路は描かず、動作だけを描く 展開のルール 単線 → 三線 1本を相の数だけ増やす。CTは通常 R相・T相の2個、変圧器は結線まで描く 三線 → 展開 主回路と制御回路を分け、制御回路は「動作する順」に左から右へ並べる 共通 器具番号(51・52T・52a など)は3つの図で同じものを指す ― ここが読み替えの鍵
図2:同じ VCB まわりを3つの図で描き分けたものです。単線は1本で3相を代表し、三線は相ごとの実際の本数を、展開接続図は主回路を省いて「動作の順番」だけを描きます。器具番号が3つの図をつなぐ鍵です。
三線結線図へ展開する
単線結線図が固まったら、必要に応じて三線結線図に展開します。やることは「1本の線を3本に戻す」 ――ただしその過程で、単線では省略していた情報を決める必要があります。
展開のときに決めること
① 変成器の個数 …CTは2個か3個か。VTはV-V結線か(第7回)② 極性 …CT・VTの一次と二次の向き。方向性のあるDGRでは死活問題 (第8回)③ 変圧器の結線 …Δ-Δ、Δ-Y、V-Vのどれか。中性点の扱い(第9回)④ 相の配置 …どの相をどこに描くか。JEM 1134を準用してそろえる⑤ 接地の位置 …B種をどの端子に落とすか(第12回)単線結線図で「書いていなかったこと」が、そのまま三線結線図で決めるべき項目になります。 第2回の「わからないことの列」が、ここで効いてきます。
展開接続図へ展開する
主回路から制御回路へ
展開接続図は、制御電源の一方から他方へ、動作の順に横へ並べて 描きます。① 保護の流れ …51 → 52T(引外し)② 表示の流れ …52a → 表示灯(入)、52b → 表示灯(切)③ 警報の流れ …52b や 86 → ブザー・警報接点④ 操作の流れ …操作スイッチ(3)→ 52C(投入)⑤ インタロック …相手の 52b を直列に入れる(第13回) 第3回で覚えた器具番号と補助記号(52a・52b・52T・52C) が、ここで全部使われます。展開接続図が読めれば、設備の動きが読める ということです。
セルフチェックリスト ― 描き終わったら自分で点検する
提出前に自分で見つけられるミスは、自分で見つけましょう。各回で扱ってきた項目を、作図の観点でまとめました。
📐 図3 連載14回の地図 ― 単線結線図のどこを、どの回で扱ったか
単線結線図のどこを、どの回で扱ったか ① 引込部 責任分界点・PAS・UGS 第4回 ▼ ② 受電部 計量・断路・遮断・計測・保護 第5〜8回 ▼ ③ 高圧母線 分ける ― ▼ ④ 変圧器部 容量・結線・台数 第9回 ▼ ⑤ 力率改善部 SC・SR・高調波 第11回 ▼ ⑥ 低圧配電部 幹線・MCCB・負荷名称 第10回 接地(第12回)/予備電源・系統連系(第13回) 全体にかかるテーマ 導入編(第1〜3回)/書き方編(第14回) 読む前と、描くときの土台 連載 14回の地図 1 高圧受変電設備とは何か 導入 2 設計図書の種類と役割 導入 3 図記号・文字記号・器具番号 導入 4 引込部 ― 責任分界点とPAS・UGS 見方 5 受電部① ― VCT・DS・LA 見方 6 受電部② ― 主遮断装置 見方 7 計器用変成器 ― VT・CT・ZCT・ZPD 見方 8 保護継電器と保護協調 見方 9 変圧器部 ― 容量・結線・台数 見方 10 低圧配電部 ― 幹線・MCCB 見方 11 力率改善設備 ― SC・SR 見方 12 接地 ― A種〜D種 見方 13 非常用発電設備と系統連系 見方 14 作図手順とセルフチェック 書き方
図3:この連載は、単線結線図の6つのブロックをそのまま順番に歩いてきました。わからない機器に出会ったら、この地図から該当回に戻ってください。
連載を終えて ― 14回の地図
ここまでたどってきた道のりを、1枚に整理します。図面を読むときに立ち返る場所として使ってください。
回 テーマ この回の核
第1回 目的と用途 受ける/測る/守る/変える/整える/備えるの6つの役割
第2回 図面の種類と役割 4つの図面は「答えてくれる質問」が違う。竣工図で判断する
第3回 記号の読み方 図記号=なにモノか/文字記号=なんて呼ぶか/器具番号=なにをするか
第4回 引込部 責任分界点と、波及事故を出さないためのPAS・UGS
第5回 受電部① 測る→切り離す→守るの順に並ぶ理由
第6回 主遮断装置 CB形とPF・S形。定格電流ではなく定格遮断電流で選ぶ
第7回 計器用変成器 高圧を「測れる大きさ」に落とす。CT二次開放は厳禁
第8回 保護継電器と協調 検出→判断→実行。保護は速さの競争でなく順番の設計
第9回 変圧器部 電灯と動力を分ける理由。容量は需要率・不等率で絞る
第10回 低圧配電部 ブレーカーは電線を守る。負荷名称が図面の質を決める
第11回 力率改善 SRの6%は、第5調波を誘導性側に追い出すための値
第12回 接地 B種だけ目的が違う。速く切れるなら抵抗値は緩めてよい
第13回 予備電源・系統連系 逆充電と単独運転。構外に迷惑をかけないという思想
第14回 作図とセルフチェック 6ブロックがそのまま作図順。3周方式で描き切る
最初は暗号にしか見えなかった1枚が、いまは「ここは守る場所」「ここは配る場所」って読めます。…なんか、感慨深いです。
ここからが本番だよ。図面は、10年後の誰かへの手紙 だ。自分が書いた1枚が、いつか誰かの停電作業を助ける。そう思って描けば、粒度も注記も自然に決まってくる。おつかれさま。
まとめ
第14回のまとめ
・描く前に6つの情報 を集める。とくに電力協議の結果 がないと描き直しになる ・作図順は第1回の6ブロックそのまま 。上から下へ一度だけ通る ・3周方式 …1周目は骨(記号と接続)、2周目は定格、3周目は名称・注記・凡例 ・主回路を描き切ってから、計測・保護を枝として足す ・三線結線図への展開では、単線で省略していた情報を決める (個数・極性・結線・相配置) ・展開接続図では器具番号と補助記号 がすべて使われる ・提出前にセルフチェック20項目 で自分の図面を点検する
📝 理解度チェック(全3問クイズ)
Q1. 単線結線図を描き始める前に、まず確定させるべきものは?
A. 図面の線の太さと文字の大きさB. 受電電圧・契約電力・主遮断装置の形式など、設備の条件C. 図枠のロゴと社名
答えと解説を見る 正解:B 条件が決まっていないまま描き始めると、あとから主遮断装置の形式や変圧器容量が変わって描き直しになります。まず6つの情報を集めるのが近道です。
Q2. 単線結線図のレイアウトの原則として正しいものは?
A. 電源を上、負荷を下にして、上から下・左から右へ流れを揃えるB. 空いたところに機器を配置していくC. 負荷側から電源側へ向かって描く
答えと解説を見る 正解:A 電気の流れと図面の流れを一致させると、誰が見ても系統をたどれます。分岐は左から順に、同じ種類の回路は同じ高さに揃えるのが読みやすさのコツです。
Q3. 描き終わったあとのセルフチェック項目として、適切でないものは?
A. 機器の容量・定格が計算書と一致しているかB. 接地の種別と接地記号が正しいかC. 図面の枚数が偶数になっているか
答えと解説を見る 正解:C 枚数は品質と無関係です。容量・定格の整合、接地種別、器具番号、負荷名称、保護協調など、「間違えると手戻りが大きいところ」から順に点検します。
※ まず自分で答えを考えてから「答えと解説を見る」を開いてみてください。
よくある質問
Q. 手描きとCAD、どちらで練習すべきですか?
最初の数枚は手描きをおすすめします 。CADはコピー&ペーストができるぶん、意味を考えずに配置できてしまうからです。手で描くと「なぜここにこれを置くのか」を毎回考えることになります。構造がつかめたらCADへ移ってください。
Q. 過去図の流用はよくないことですか?
流用そのものは実務では当たり前です。問題は「なぜそうなっているか」を確認せずに流用すること 。容量も、受電方式も、協議結果も物件ごとに違います。流用するなら、この連載のセルフチェック20項目で全部見直す ——それが安全な流用の仕方です。
Q. この連載の次は何を勉強すればいいですか?
3方向あります。
①計算を深める (短絡電流、保護協調、変圧器容量、
幹線 サイズ)。
②法令を体系で押さえる (電技解釈・
内線規程 ・高圧受電設備規程)。
③現場を見る (年次点検に同行し、図面と実物を突き合わせる)。
とくに③は効きます。
図面で読んだものを実物で見た瞬間、知識が経験に変わります。
Q. 全部は覚えきれません…
覚えなくて大丈夫です。この連載は
手元に置いて引くためのマニュアル として作りました。
機器別 目的早見表 と、この回のセルフチェック20項目をブックマークしておいてください。
必要なときに引ければ、それで仕事はできます。
参考:高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025(日本電気協会)/内線規程 JEAC 8001/電気設備の技術基準の解釈/JIS C 0617 電気用図記号/JEM 1090 制御器具番号/JEM 1134 交流の相及び直流の極性による器具及び導体の配置と色別/JIS C 4620 キュービクル 式高圧受電設備
次に読むならこれ 【引込・受電設備の設計マニュアル②】契約電力の想定 ― 契約電力は、設備容量の合計ではない 設計マニュアル
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