【幹線設備の設計マニュアル②】負荷容量の集計 ― 需要率・不等率という「割引」
こんにちは、HARITAの設計室です。連載「幹線設備の設計マニュアル」第2回は負荷容量の集計。第1回で盤の位置と系統が決まりました。次は「その盤に、どれだけの電気を送るか」です。
ここで初学者がつまずくのが、足した数字をそのまま使ってはいけないという点です。建物にある機器の容量を全部足すと、実際に流れる電流よりずっと大きな値になります。そこで登場するのが需要率と不等率という「割引」の考え方。今回の合言葉は「全部足してから、正しく割り引く」です。
今回の全体像 ― 設備容量から幹線容量まで
順番はこうです。設備容量を全部足す → 需要率を掛けて最大需要電力を出す → 不等率で割ってピークのずれを見込む → 余裕を足して幹線容量を決める。
大事なのは、足すのは機械的に、割り引くのは根拠を持ってという姿勢です。足し忘れは取り返しがつきませんが、割引は「なぜその値を使ったか」を説明できれば議論できます。基礎の考え方は 新人講座 第11回 負荷容量と需要率・不等率 にまとめてあります。
① 設備容量を積み上げる ― まず全部足す
最初の作業は単純です。その盤にぶら下がる負荷を、種類ごとに拾って足す。電灯、コンセント、動力、空調、その他。この段階では一切割り引きません。
気をつけたいのが3点。ひとつめは拾い漏れ。あとから「この機器が抜けていました」となっても、幹線の入替えでは吸収できません。コンセント編の第6回でやった拾い出しと同じで、数える順番を決めて、閉じながら進めるのがコツです。
ふたつめは単位。kWとkVAを混ぜると、あとで力率の扱いがわからなくなります。集計表のどの列が何の単位かを最初に決めてください。みっつめは将来の増設。「予備」という行を最初から立てておくと、あとから説明しやすくなります。
積み上げの実作業には 単相3線式 盤図作成用 容量積み上げツール が使えます。表計算で毎回組み直していた人は、一度試してみてください。
② 需要率 ― 「全部同時には使わない」
10台のエアコンがある建物で、10台が同時にフル運転することはまずありません。この「実際に同時に使われる割合」が需要率です。
式にすると需要率=最大需要電力÷設備容量。1以下の値になります。注意したいのは、これは設計者が勘で決める値ではないということ。建物の用途や規模ごとに目安が示されているので、それを根拠として使います。特記仕様書や施主基準に指定があれば、当然そちらが優先です。
需要率を小さく取れば幹線は細くなり、コストは下がります。でも読み違えれば、竣工後に容量不足で泣くことになります。攻めるところではありません。
③ 不等率 ― ピークの時間はずれている
需要率が「1つのグループの中での割引」だとすれば、不等率はグループ同士の割引です。照明のピークと空調のピークは、同じ時刻には来ません。
それぞれの最大値を単純に足すと、実際には起きない大きさになります。不等率=各負荷の最大需要電力の和÷合成した最大需要電力。1以上の値になり、和をこの値で割ると、上流に必要な容量が出ます。
この効果は上流の盤ほど大きく効きます。分電盤1面ぶんではあまり差が出ませんが、複数の盤を束ねる幹線や、受変電設備の容量では無視できない差になります。使う場面を取り違えないでください ― 需要率はグループの中、不等率はグループ同士です。
④ 集合住宅の幹線計算 ― 戸数で効いてくる
集合住宅は、この考え方がいちばんきれいに現れる建物です。住戸が増えるほど、生活のばらつきが平均化されて、1戸あたりに見込む容量は小さくできます。
4戸のアパートと100戸のマンションでは、1戸あたりの見込みがまったく違います。実務では住戸数に応じた計算方法が整理されているので、それに沿って求めます。具体的な計算手順は 集合住宅の幹線需要率と幹線計算方法 に例つきでまとめてあります。
ここでも注意点はひとつ。住戸の設備水準が変われば前提が変わります。オール電化かガス併用か、EV充電を各戸に用意するのか。近年はここが大きく動いているので、「前の物件と同じ」で流さないでください。
まとめ
- 順番は 設備容量 →×需要率→ 最大需要電力 →÷不等率→ 合成最大 →+余裕→ 幹線容量
- 足すのは機械的に。拾い漏れは幹線の入替えでは吸収できない
- kWとkVAを混ぜない。「予備」の行を最初から立てる
- 需要率は1つのグループの中での割引。用途ごとの目安を根拠に使う
- 不等率はグループ同士の割引。上流の盤ほど効いてくる
- 集合住宅は戸数で効く。設備水準が変われば前提も変わる
よくある質問
Q1. 需要率と不等率、どちらを先に使うのですか?
A. 需要率が先です。まず各グループの中で「同時に使う割合」を掛けて最大需要電力を出し、そのうえで複数グループを束ねるときに不等率で割ります。下流から上流へ、順に積み上げていくと覚えてください。
Q2. 余裕はどのくらい持たせればいいですか?
A. 一律の数字はありません。判断材料は「その建物で増設が起きそうか」です。テナントビルや工場は用途変更が前提なので厚めに、専用住宅は薄めに。ただし幹線はあとから太くできないので、迷ったら上流ほど厚く取るのが安全側です。
Q3. 需要率の根拠を求められたら、どう答えますか?
A. 「用途◯◯の建物なので、この目安を採用しました」と出典と用途区分をセットで示すのが正解です。数字だけを答えると必ず追加質問が来ますし、あとから設計変更が入ったときに再検討できません。集計表に根拠の列を作っておくと、この質問に一瞬で答えられます。
次回予告
第3回は「幹線サイズの選定」。今回出した容量から電流を求め、ケーブルの太さを決めます。鍵になるのは許容電流 ― これは発熱の限界で決まる値です。布設条件による低減まで扱います。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。
→ 公開しました:第3回 幹線サイズの選定 ― 許容電流は「発熱の限界」で決まる





