こんにちは、HARITAの設計室です。今回から新しい連載、「弱電設備の設計マニュアル」が始まります。コンセント編照明編幹線編と同じく、手順と判断基準だけを一本道でたどる全6回です。

第1回は全体フローと工事区分。弱電の設計でいちばん最初にやることは、機器を選ぶことでも配線を考えることでもありません。「どこまでが自分の工事か」を決めることです。今回の合言葉は「弱電は“誰が引くか”から始まる」

今回の全体像 ― 弱電設計の6ステップ

弱電設計は6ステップで進む1工事区分誰が引くか2配管ルート空配管という保険3LAN・電話情報コンセント4テレビ共聴受信から各戸へ5放送・IP音と呼び出し6図面化と拾い系統図と数量今回は① ― まず「どこまでが自分の工事か」を確定させるHARITAの設計室

この6ステップが連載の6回に対応します。①工事区分が今回。②配管ルート、③LAN・電話、④テレビ共聴、⑤放送・インターホン、⑥図面化と拾い、と続きます。

① 強電と弱電 ― 運ぶものが違う

まず前提の整理から。ここまでの3連載で扱ってきたのは、すべて強電 ― 電力を運ぶ設備でした。弱電が運ぶのは情報です。

運ぶものが違う強電運ぶのは「電力」太さは電流で決まる止まると設備が動かない更新周期は長い(数十年)弱電運ぶのは「情報」太さより距離とノイズ止まると業務が止まる更新周期が短い(数年〜)弱電は「あとで替わる」前提で計画する ― ここが強電といちばん違うHARITAの設計室

設計の勘所も変わります。強電では電流から太さを決めましたが、弱電で効いてくるのは距離とノイズです。そして決定的に違うのが更新周期幹線は数十年そのままですが、LANの規格は数年で世代が変わります。

つまり弱電は、「あとで替わる」前提で計画する設備です。第2回で扱う空配管の話は、ここから来ています。

なお、弱電の配線の多くは小勢力回路として扱われ、強電とは別の施設ルールが適用されます。根拠は 内線規程の解釈と解説【098】小勢力回路の施設 にまとめてあります。

② 工事区分 ― 弱電は関わる人が多い

ここが今回の中心です。強電なら、まず電気工事業者が引きます。ところが弱電は、同じ1本のケーブルでも引く人が違うのです。

弱電は関わる人が多い同じ1本のケーブルでも、引く人が違う電気工事配管・ボックスケーブルラック幹線・電源成端まで通信事業者引込〜MDF回線側の機器責任分界点あり什器・内装業者OAフロア内什器まわりの配線家具付属の配線機器業者・警備カメラ・入退室専用機器の設置調整と試験「たぶん誰かがやる」がいちばん危ない。境界は図面と表で決めるHARITAの設計室

電気工事が担うのは、多くの場合配管・ボックス・ラック、そして電源まで。回線側は通信事業者、OAフロアの中や什器まわりは内装・什器業者、防犯カメラや入退室は機器業者や警備会社 ― という具合に分かれます。

この分担でいちばん危ないのが「たぶん誰かがやる」という状態です。誰の見積にも入っていないまま工事が進み、竣工間際に発覚する。テナント工事のA・B・C工事の区分は テナント電気設備の基礎知識 A・B・C工事の違いと分電盤の区分 にまとめてあるので、考え方の土台としてどうぞ。

③ 区分を決める手順

区分を決める5つの手順① 弱電で何を入れるかを並べるLAN・電話・TV・放送・IP・カメラ・入退室② 設備ごとに担当を決める電気/通信事業者/什器/機器業者③ 境界を「どこまで」で書く配管まで/成端まで/機器設置まで④ 電源の面倒は誰が見るかHUB・機器の電源はたいてい電気工事側⑤ 区分表にして図面と一緒に配る口頭で決めた区分は必ずズレる区分が決まってはじめて、自分の設計範囲が確定するHARITAの設計室

ポイントは③と④です。境界は「どこまで」で書く ― 配管まで、成端まで、機器設置まで、調整まで。「LANは通信業者」とだけ書くと、配管を誰が入れるかが決まりません。

そして電源。HUB、カメラ、インターホン親機、放送アンプ。これらの機器は動かすのに電源が要ります。機器は他社、電源は電気工事というパターンが多いので、機器表と電源の位置を突き合わせておかないと、コンセントのない場所に機器が付きます。コンセント編の第1回でやった「何が挿さるか」の話が、ここでも効いてきます。

最後に区分表にして図面と一緒に配る。口頭で決めた区分は必ずズレます。図面の種類と役割は 新人講座 第4回 電気設備図面の種類 をどうぞ。

まとめ

  • 強電が運ぶのは電力、弱電が運ぶのは情報。効いてくるのは距離とノイズ
  • 弱電は更新周期が短い。「あとで替わる」前提で計画する
  • 弱電の配線は小勢力回路として扱われることが多い。施設ルールは別
  • 関わる人が多い。電気/通信事業者/什器/機器業者で境界が変わる
  • 境界は「どこまで」で書く。配管まで/成端まで/機器設置まで
  • 機器は他社でも電源は電気工事、というパターンが多い

よくある質問

Q1. 工事区分は、いつまでに決めればいいですか?
A. 早ければ早いほどよいのですが、現実には設計中に何度も動きます。だからこそ「今の時点での区分」を文書にして共有し続けることが大事です。決まっていない項目は「未定」と書いておく。空欄にすると、誰も気づきません。

Q2. 他社工事の配管まで、こちらで入れる必要がありますか?
A. 案件によりますが、建物に埋まるもの(躯体内の配管・ボックス)は電気工事が入れるのが一般的です。あとから追加できないからです。逆にOAフロアの中のように、あとで自由に配線できる場所は他社に委ねやすい。「あとで足せるか」で線を引くと、判断がぶれません。

Q3. 弱電は詳しくないのですが、どこから覚えればいいですか?
A. 機器の型番から入ると迷子になります。「何を、どこからどこへ運ぶ設備か」だけ押さえてください。LANは情報を、TVは電波を、放送は音を、インターホンは呼び出しを運ぶ。運ぶものが分かれば、必要な経路と機器はあとから付いてきます。

次回予告

第2回は「配管・配線ルート」。弱電で最大の保険である空配管の話をします。強電との離隔、EPSとOAフロア、そして「更新できる建物」にするための余裕の残し方。連載全体の地図は 設計・施工マニュアル からどうぞ。

→ 公開しました:第2回 配管・配線ルート ― 空配管という、いちばん安い保険

次に読むならこれ【弱電設備の設計マニュアル③】LAN・電話 ― 情報コンセントとMDF/IDF設計マニュアル