【EV充電・再エネ設備の設計マニュアル④】蓄電池と自立運転 ― 容量ではなく、何を止めないか
「蓄電池は何kWh入れればいいですか」。この質問には、そのままでは答えられません。
容量は結果であって、出発点ではないからです。停電したときに何を動かし続けたいのか。それが決まらないと、必要な出力も時間も決まらない。
合言葉は「容量ではなく、何を止めないか」。
kWとkWhは、別のことを表している
蓄電池のカタログには2つの数字が並びます。混同されやすいので、最初に整理します。
- kW(出力):同時にどれだけの電力を出せるか。何を動かせるかを決める
- kWh(容量):ためられる電力量。どれだけ長く動かせるかを決める
たとえば冷蔵庫・最低限の照明・通信機器を合わせて0.5kW、これを12時間動かしたいなら必要な容量は6kWh。出力は0.5kWで足ります。
ところが同じ建物でも、動かしたいものにエレベーターや空調が入った瞬間、必要な出力は十数kWに跳ね上がります。容量が同じでも、出力が足りなければ起動しません。とくにモーター負荷は始動時に定格の数倍の電流を要求するので、ここを見落とすと「容量は十分なのに動かない」という結果になります。
特定負荷か、全負荷か
動かす対象が決まったら、次はそれをどう回路として切り出すかです。方式は2つあります。
- 特定負荷方式:停電時に生かす回路をあらかじめ決めておき、専用の分電盤(非常時用分電盤)にまとめる。蓄電池はその盤にだけ電気を送る
- 全負荷方式:建物側の主幹を切り替えて、建物全体を蓄電池につなぐ。どのコンセントも使える
全負荷のほうが自由に見えますが、注意点があります。全負荷でも、蓄電池の出力を超える使い方はできません。停電中に何も考えずに使えば、あっという間に出力上限に達して停止します。「全部使える」ではなく「どのコンセントからでも使えるが、合計には上限がある」というのが正確な理解です。
設計としてやることは、どちらの方式でも本質的に同じです。停電時に生かす回路を決め、それを図面と盤の中で識別できるようにする。特定負荷なら盤を分け、全負荷なら「この回路は非常時も使える/使わないでほしい」を表示や運用で伝える。
切替時間 ― 瞬断を許せるかどうか
もうひとつ、カタログの隅に小さく書かれているのに設計を左右する項目があります。停電を検知してから、蓄電池からの供給に切り替わるまでの時間です。
多くの蓄電池システムでは、この切替に数秒かかります。系統が止まったことを確認し、単独運転でないことを判断し、切り替える。安全のために必要な時間です。
つまり停電の瞬間、建物の電気は一度落ちます。照明が消え、パソコンが落ち、機器が再起動する。数秒後に復帰しますが、その数秒で困るものがあるかどうかが分かれ目です。
- 瞬断してよいもの:照明、冷蔵庫、コンセント、換気。数秒消えても実害は小さい
- 瞬断が致命的なもの:サーバ、ネットワーク機器、医療機器、生産設備、制御装置。落ちると復旧に時間がかかったり、データやワークが失われたりする
後者がある場合、蓄電池だけでは足りません。無停電電源装置(UPS)を機器の直前に置き、その先を蓄電池が支えるという二段構えになります。UPSが数秒をつなぎ、蓄電池が数時間を支える。役割が違うので、どちらかで代替はできません。
置く場所が決まらないと、機種も決まらない
蓄電池は、決めた容量をそのまま置ける設備ではありません。場所の条件で選べる機種が絞られます。
- 重量:容量が大きくなるほど重くなる。屋上や中間階に置くなら構造の確認が要る。建築側との調整は早いほどよい
- 温度:リチウムイオン電池は高温に弱く、寿命が縮む。直射日光の当たる屋外や、熱がこもる機械室は避けるか、換気・空調を計画する
- 換気と離隔:機器の発熱を逃がす経路と、周囲に確保すべき保守スペース。壁に寄せて置けない製品が多い
- 法令上の扱い:一定容量以上の蓄電池設備は、自治体の火災予防条例により消防機関への届出が必要になる。設置場所の構造や離隔にも条件が付くことがあるので、容量が大きい計画では所轄への事前確認を組み込む
- 避難経路:廊下や階段に張り出す設置は避ける。増設のたびに通路が狭くなっている建物は珍しくない
とくに重量と温度は、あとから変えられません。「屋外に置けばいい」と考えていたら日射で寿命が縮む、「機械室が空いている」と思ったら熱がこもる。置き場所は、容量を決めるのと同じくらい早い段階で押さえてください。
非常用だけではない、もうひとつの使い方
ここまで停電時の話をしてきましたが、蓄電池にはもうひとつ役割があります。平常時のピークカットです。
契約電力は、その月の最大需要で決まります。1日のうち数十分だけ跳ね上がる時間帯があるために、契約全体が高くなっている建物は珍しくありません。その山の部分だけ蓄電池から出せば、契約電力を下げられます。
第1回で「太陽光を載せてもEVの分は相殺できない」と書き、「重ねるには蓄電池が要る」と付け加えました。それがこの働きです。日中に発電した電気を蓄えて、夕方以降の充電需要に回す。時間をずらすことで、はじめて2つが重なります。
ただしトレードオフがあります。ピークカットで毎日充放電すれば、そのぶん電池は消耗します。非常用として温存すれば長持ちしますが、平常時の効果はゼロです。どちらを主目的にするかで、容量も制御の設定も変わります。両方を欲張るなら、非常用に残す容量を決めておく設計が要ります。
まとめ
- 容量は結果。出発点は「停電したとき何を止めたくないか」
- kWは何を動かせるか、kWhはどれだけ長く動かせるか。容量が足りても出力が足りなければ起動しない
- モーター負荷は始動時に定格の数倍を要求する。出力の見積もりで見落としやすい
- 特定負荷でも全負荷でも、出力の上限からは逃げられない。全負荷は「どこからでも使えるが合計に上限がある」
- 非常時用分電盤は新築時に分けておく。既存に後付けすると配線の引き直しになる
- 切替には数秒かかり、その間は停電する。瞬断が致命的な機器にはUPSを併用する
- 重量と温度はあとから変えられない。置き場所は容量と同じくらい早く押さえる
- 一定容量以上は消防機関への届出が必要。所轄への事前確認を工程に組み込む
- 非常用とピークカットは両立しにくい。どちらが主目的かを最初に聞く
よくある質問
Q1. 停電時にエアコンを使いたいと言われました。
出力の確認から入ってください。エアコン1台でも起動時には大きな電流が流れます。蓄電池の定格出力を超えれば、そもそも起動しません。動かせたとしても消費電力が大きいため、容量の減りが速く、他の負荷にしわ寄せがきます。「エアコンを動かすと、他は何時間もたなくなるか」を数字で示すと、優先順位の話に戻せます。
Q2. 太陽光があれば、蓄電池は小さくても大丈夫ですか?
日中に晴れていれば、その通りです。ただし停電が夜間に始まった場合、翌朝までは太陽光の助けがありません。また雨天が続けば充電できません。最悪の条件(夜間開始・曇天)で何時間もたせたいかを基準に容量を決め、太陽光による延長は上積みとして考えるのが安全です。
Q3. 既存建物に入れる場合、いちばん手間がかかるのはどこですか?
多くの場合、非常時用回路の切り出しです。生かしたい負荷が複数の分電盤に分かれていると、配線の引き直しが発生します。次に設置場所で、重量と換気の条件を満たす場所が空いていないことがある。この2点を先に現地で確認してから、容量と機種の検討に入ってください。
Q4. ピークカット目的の場合、効果はどう見積もりますか?
まずデマンドの実績データを取ります。1年ぶんの30分デマンドを見て、年間の最大がいつ・どれだけの高さで・何分続いているかを把握する。その山を削るのに必要な出力と容量が見えてきます。データがないまま容量を決めると、効いていないか、過大かのどちらかになります。
次回予告
第5回は「保護と施工」です。発電設備が入ると、電気は両方向に流れるようになります。そのとき保護協調はどう変わるのか、直流側にどんな危険があるのか、そして接地とSPDをどう考えるか。第1回から第4回までで置いてきた設備を、安全側から見直します。
合言葉は「電気が両方向に流れる」。




