こんにちは、HARITAの設計室です。

動力設備の設計マニュアル、第4回です。前回で始動電流の話をしました。今回はいよいよ、ブレーカーとケーブルを決めるところです。

ここで新人が必ず引っかかる論点があります。「動力の遮断器は、電線の許容電流より大きくてもいい」という話です。電灯回路の感覚で見ると、明らかにおかしく見えます。

その理由を理解するには、まず何を何から守っているのかを分けて考える必要があります。

守っている相手が、そもそも違う

守っている相手が、そもそも違う電線を守る配線用遮断器(MCCB)など短絡したときに、電線が焼ける前に切る担当するのは電気設計主役は「短絡保護」電動機を守るサーマルリレー・電子式など長く過負荷が続いたら止める機器側に付いていることが多い主役は「過負荷保護」動力の分岐回路は、この2つで役割を分けているHARITAの設計室

動力の分岐回路には、性格の違う2つの保護があります。

  • 電線を守る保護 配線用遮断器(MCCB)などが担当します。短絡したときに、電線が焼ける前に切る。これは電気設計が決めます。
  • 電動機を守る保護 サーマルリレーや電子式の過負荷継電器が担当します。長く過負荷が続いたときに止める。機器側に付いていることが多いものです。

つまり短絡保護は電気側、過負荷保護は機器側という役割分担になっています。

電灯回路では、この2つを1つのブレーカーが兼ねています。だから「ブレーカーは電線の許容電流以下」という感覚が身につきます。動力では役割が分かれているので、前提が変わります。

だから、遮断器は電線より大きくてよい

だから、遮断器は電線より大きくてよい1定常の電流は小さい運転中は規約電流。電線はこれに耐えればよい2始動で落ちては困る始動電流で動作しない定格にする必要がある3過負荷は別が見る長引く過負荷は電動機保護装置が止めるこの扱いは規程に定めがあります。適用条件を必ず原典で確認してください「電線より大きい=おかしい」ではない。役割が違うだけHARITAの設計室

理由を3つに分けて整理します。

  • 定常運転の電流は小さい 運転中に流れるのは規約電流です。電線はこれに耐えられればよい。
  • 始動で落ちては困る 遮断器は始動電流で動作しない定格・特性にする必要があります。ここで定格が上がります。
  • 過負荷は別の装置が見ている 長引く過負荷は電動機保護装置が止めるので、遮断器がその役目を負う必要がありません。

この3つがそろっているから、遮断器の定格が電線の許容電流を上回っていても成立します。「電線より大きい=おかしい」ではなく、役割が違うだけです。

ただし、無条件ではありません
この扱いは規程に定めがあり、適用できる条件があります。電動機保護装置が付いていること、組み合わせが規定の範囲であることなど。「動力だから大きくていい」と丸暗記せず、案件ごとに原典で条件を確認してください。

この論点だけを詳しく追いたい方は 三相動力負荷の遮断器定格電流が配線の許容電流より大きくて良い理由 が正面から扱っています。

選ぶ順番が決まっている

選ぶ順番が決まっている1規約電流第2回で出した値2始動方式機器側を確認3ブレーカー定格と特性を選ぶ4ケーブル許容電流で選ぶ5条件で確認布設・こう長最後の「条件で確認」を飛ばすと、表どおりでも成立しないことがある順番どおりに進めば、根拠を説明できるHARITAの設計室

実際の手順を並べます。

  • ① 規約電流 第2回で出した値を使います。
  • ② 始動方式 機器側でどうなっているかを確認します(第3回)。
  • ③ ブレーカー 始動で動作せず、短絡を切れる定格と特性を選びます。
  • ④ ケーブル 許容電流で選びます。
  • ⑤ 条件で確認 布設方法・周囲温度・こう長で成立するかを見ます。

見落とされやすいのが⑤です。早見表どおりに選んでも、実際の布設条件では許容電流が下がることがあります。多条布設、電線管の中、周囲温度が高い機械室。こうした条件で低減が効きます。

こう長が長い場合は電圧降下も確認が要ります。幹線設備の設計マニュアル④ 電圧降下の検証 の考え方が使えます。前回書いたとおり、始動時はさらに深く落ちることも忘れないでください。

選定の根拠は 動力負荷のブレーカーサイズの選定根拠、簡易的な進め方は 動力負荷の種類とブレーカーサイズの簡易算出方法 にまとまっています。

計算そのものは 200V三相誘導電動機の分岐回路サイズ選定ツール200V三相誘導電動機の幹線の太さ及びブレーカーサイズ自動選定ツール で確認できます。

早見表は、条件つきの答え

早見表は、条件つきの答え内線規程 3705-3表 などの早見表出力ごとにブレーカーとケーブルの組み合わせが並んでいるただし、その表には前提条件がある電圧と相始動方式電線の種類布設方法周囲温度条件が案件と違えば、表の答えはそのままでは使えません表番号は版によって変わることがあります。採用している版で確認してください表を引く前に、表の前提を読むHARITAの設計室

動力の選定でよく使われるのが内線規程の早見表です。出力ごとに、ブレーカーとケーブルの組み合わせが並んでいます。

便利なのですが、ひとつ注意があります。表は「ある条件のもとでの答え」だということです。

  • 電圧と相
  • 始動方式
  • 電線の種類
  • 布設方法
  • 周囲温度

これらの前提が案件と違えば、表の答えはそのままでは使えません。表を引く前に、その表が何を前提にしているかを読む。これだけで事故がかなり減ります。

表番号は版で変わります
内線規程は改定されます。表番号だけを覚えて中身を確認しないのが、いちばん危ない使い方です。案件で採用している版を確認してください。特記仕様書で版が指定されていることもあります。

早見表そのものは 動力ブレーカー・ケーブルサイズ選定早見表【内線規程3705-3表】 にまとめています。

現場で切れる場所を、つくっておく

現場で切れる場所を、つくっておく動力盤手元開閉器機器のそばに置く電動機点検や修理のとき、盤まで戻らずに電源を切れる省略できる条件は規程に定めがあります。案件ごとに確認してください守るのは電線と機器、そして触る人HARITAの設計室

もうひとつ、動力回路で出てくるのが手元開閉器です。

目的は単純で、機器のそばで電源を切れるようにしておくことです。点検や修理のたびに動力盤まで戻るのでは、作業になりません。それ以上に、盤で切ったつもりが誰かに入れられる、という事故を防ぐ意味があります。

設置が必要な場合と、省略できる場合があります。省略できる条件は規程に定めがあるので、案件ごとに確認してください。

考え方は 手元開閉器とは? にまとめています。

保護を考えるとき、守る相手は電線と機器だけではありません。その設備を触る人も含まれます。

まとめ ― 保護するのは電線、耐えるのは始動

  • 動力の分岐回路は短絡保護(電気側)と過負荷保護(機器側)で役割が分かれている
  • だから遮断器の定格が電線の許容電流を上回っても成立する。ただし規程の適用条件つき
  • 順番は 規約電流 → 始動方式 → ブレーカー → ケーブル → 条件で確認
  • 早見表は条件つきの答え。前提(電圧・始動方式・電線種類・布設・温度)を先に読む
  • 表番号は版で変わる。採用している版で確認する
  • 手元開閉器は、触る人を守るための装置
今回の合言葉
保護するのは電線、耐えるのは始動。
ブレーカーは電線のために選び、始動に耐えるために大きくなります。

よくある質問

Q1. 電動機保護装置が付いていない場合はどうなりますか?

過負荷保護を誰も担当していない状態になるので、前提が崩れます。その場合は遮断器側で過負荷保護も担うことになり、定格の考え方が変わります。機器に保護装置が内蔵されているか、制御盤に入っているかを機械設備に確認してください。

Q2. 早見表と計算結果が合わないときは、どちらを採用しますか?

まず前提条件が違っていないかを疑ってください。布設方法や周囲温度が表の前提と違えば、計算のほうが実態に合っています。前提が同じなのに合わない場合は、計算の入力値(規約電流、こう長、電線種類)を見直してください。それでも差が残るなら、根拠を書き残したうえで安全側を採るのが実務的です。

Q3. 手元開閉器は必ず設けるものですか?

省略できる条件が規程に定められています。ただし条件に当てはまるかどうかは案件次第です。「小さい機器だから不要」といった感覚では判断しないでください。保守側の運用(誰がどう点検するか)も含めて決めると、あとで揉めません。

次回予告

第5回は「動力盤の構成」です。主幹を置くか置かないか、電灯分電盤との違い、制御回路との取り合い、そして機械室での納まり。ハブの目次でも「動力盤の設計:主幹の要否判断」となっているところです。

合言葉は「主幹は、切る単位を決める」。

次に読むならこれ【動力設備の設計マニュアル③】始動電流という別の顔 ― 動く瞬間だけ、別の機械になる設計マニュアル