【引込・受電設備の設計マニュアル⑤】電力会社との協議・申込み ― 受電日から逆算する
こんにちは、HARITAの設計室です。
引込・受電設備の設計マニュアル、第5回です。ここまでで、受電方式・契約電力・引込ルート・責任分界点が決まりました。図面としては、そろそろ形になっている頃です。
ですが、それだけでは電気は入りません。電力会社と話をして、供給を受ける契約を結ぶ必要があります。今回はその手続きの話です。
この工程は、図面を描く仕事とは性格が違います。相手のある話で、こちらの都合では進みません。だからこそいつ動き出すかがすべてになります。
協議から受電までの、おおまかな流れ
大まかには、事前相談 → 供給検討の申込 → 供給条件の提示 → 受給契約の申込 → 竣工検査 → 受電、という流れになります。
- ① 事前相談 まず話を持っていく段階。ここで供給の見通しをつかみます。
- ② 供給検討の申込 正式に検討してもらいます。
- ③ 供給条件の提示 供給の可否、条件、工事費の負担などが返ってきます。
- ④ 受給契約の申込 条件に合意して契約手続きに入ります。
- ⑤ 竣工検査 構内の設備を見てもらいます。
- ⑥ 受電 建物に電気が入ります。
事前相談で、必ず聞かれること
事前相談は「とりあえず聞いてみる」ではありません。この5つが言えないと、話が前に進みません。
- 用途 何の建物か。事務所か、工場か、共同住宅か。
- 契約電力 どれくらい使うか。第2回で出した数字です。
- 受電希望時期 いつ電気が必要か。工程の起点になります。
- 敷地の図面 どこに建つか。配置図と案内図。
- 引込希望位置 どこから入れたいか。第3回で決めたルートです。
気づいたでしょうか。この5つは、第1回から第4回までで決めてきたことそのものです。連載の順番が「負荷想定 → 契約電力 → 受電方式 → 引込方式 → 分界点 → 協議」になっているのは、この5つを揃えてから相談に行くためです。
逆に言えば、ここまでが固まっていないうちに相談に行っても、「決まったらまた来てください」で終わります。
受電日から、逆に引く
今回の合言葉です。工程は受電日から逆算して組みます。
受電日は、たいてい動かせません。建物の引渡し日が決まっていて、その前に試運転や検査があり、そのためには電気が要る。つまり受電日は建築工程に縛られています。
そこから逆に、竣工検査 → 構内工事 → 受給契約の申込 → 供給検討 → 事前相談、とさかのぼって「事前相談をいつまでに始めるか」を出します。
ここで効いてくるのが、供給検討にかかる期間はこちらでコントロールできないという事実です。設計を早く終わらせても、検討期間そのものは短くなりません。相談が遅れた分は、そのまま受電の遅れになります。
新人のうちは「実施設計が固まってから相談」と考えがちですが、それでは遅いことが多い。基本設計の段階で当たりをつけて、早めに一度話を持っていくほうが安全です。
協議で合意したことを、必ず残す
協議では、いくつもの取り決めが生まれます。あとで「言った・言わない」にならないよう、合意事項は必ず記録に残してください。
- 需給地点 どこで電気を受け渡すか
- 責任分界点 どこから先が自分の責任か(第4回)
- 計量方法 VCT・電力量計をどこに置くか
- 工事区分 どこまでを電力会社がやるか(第3回の引込線/引込口配線の話)
- 費用負担 工事費の分担はどうなるか
とくに工事区分と費用負担は、見積りと工程に直結します。ここが曖昧なまま進むと、着工後に「これはどちらの工事ですか」という話が必ず出ます。
残し方は、図面に描き込むのがいちばん確実です。引込図に分界点と工事区分の線を入れて、協議の記録とセットで保管する。口頭で決まったことは、図面か議事録にしてから次へ進んでください。
時間がかかるのは、こういうとき
供給検討に時間がかかる、あるいは受電が遅れる典型的なケースを3つ挙げておきます。
- 設備の増強が要る 電力会社側で変圧器の増設や電線の張り替えが必要になる場合。工事そのものに時間がかかります。
- 系統に空きがない 接続の順番待ちになることがあります。とくに契約電力の大きい案件で起こります。
- 道路の使用許可 地中引込で掘削や占用の手続きが挟まると、その分の期間が乗ってきます。
近年は2つめが現実味を帯びてきています。データセンターのような大口需要が増え、系統の空き容量が逼迫している地域があるためです。この状況については 「電気が引けない」時代の設計|データセンターの系統接続待ち でも取り上げています。
設計者にできるのは、待たされる可能性がある前提で工程を組むことです。「たぶん大丈夫だろう」で組んだ工程は、遅れが出たときに調整の余地がありません。
まとめ ― 受電日から逆算する
- 流れは 事前相談 → 供給検討の申込 → 供給条件の提示 → 受給契約の申込 → 竣工検査 → 受電。名称と手順は電力会社ごとに違う
- 事前相談では用途・契約電力・受電希望時期・敷地図・引込希望位置を聞かれる。第1〜4回で決めたことそのもの
- 工程は受電日から逆算する。供給検討の期間はこちらで短くできない
- 合意事項(需給地点・責任分界点・計量方法・工事区分・費用負担)は図面か議事録に残す
- 設備増強・系統の空き・道路の使用許可が挟まると時間がかかる。待たされる前提で工程を組む
図面より前に、話があります。
よくある質問
Q1. 事前相談は、誰が行くものですか?
案件によります。設計事務所が行くこともあれば、施工者や施主が行くこともあります。大事なのは誰が行くかを早めに決めて、窓口を一本化しておくことです。複数の関係者がばらばらに相談すると、条件の認識がずれます。
Q2. 供給検討にはどれくらいかかりますか?
案件の規模、電力会社側の設備状況、増強工事の要否によって大きく変わります。数週間で済むこともあれば、系統の増強が必要な場合はもっと長くなります。一律の目安を当てにせず、その案件で実際に確認してください。工程を組むときは、確認できた期間に余裕を足しておくのが安全です。
Q3. 契約電力が途中で変わったら、やり直しですか?
変更の幅によります。小さい変更なら申込内容の修正で済みますが、受電方式が変わるほどの変更(低圧↔高圧)なら、検討からやり直しになります。だからこそ第2回で「契約電力はぎりぎりで組まない」と書きました。数字が動きそうなときは、その可能性も含めて相談段階で伝えておくと、後の手戻りが小さくなります。
次回予告
第6回・最終回は「工事区分と図面化」です。A・B・C工事の考え方、引込・受電まわりを配置図・引込図・単線結線図のどこにどう描くか、そして拾い方まで。連載の総まとめとして、高圧受変電設備の設計マニュアル へ橋渡しします。
合言葉は「境界は、言葉ではなく図面で決める」。→ 第6回・最終回 工事区分と図面化 を公開しました。これで全6回完結です。




