📚 この記事は連載「高圧受変電設備の設計マニュアル」(全14回)の第8回です。前回:第7回 計器用変成器と計器 VT・CT・ZCT・ZPD/資料編:機器別 目的早見表

こんにちは、HARITAの設計室です。第8回は保護継電器保護協調です。

前回の変成器が「測る」係だとすれば、継電器は「判断する」係。そして最後に遮断器が「実行する」。高圧受電設備の保護は、この3段構えで成り立っています

ペンタ
継電器って、事故が起きたら全部いっせいに動くんじゃないんですか?そのほうが安全な気がしますけど…。
はりた
全部動いたら、事故と関係ない場所まで停電するんだ。保護の目標は「止める」じゃなくて「事故のところだけを、最小範囲で切り離す」。今日の主役はそこだよ。

保護は「検出・判断・実行」の3段構え

📐 事故が起きてから遮断されるまで
 事故発生(短絡・地絡・電圧低下)
   ↓
① 検出 CT / ZCT / VT / ZPD
   ↓ (測れる大きさに落とす)
② 判断 OCR(51) / DGR(67) / UVR(27)
   ↓ (整定値を超えたか?)
③ 実行 52T → VCB が開く
   ↓
 事故箇所だけが切り離される
1つでも欠けたら成立しない
CTが壊れていれば判断できず、継電器が誤整定なら動かず、トリップ電源がなければ実行できません。保護は連鎖です。
だから試験する
竣工時と定期点検で保護継電器の動作特性試験を行うのは、この連鎖が今も生きているかを確かめるためです。

OCR(51)― 過電流を判断する

OCR(過電流継電器)は、CTがとらえた電流を監視し、整定値を超えたらVCBに引外し指令を出します。特徴は2つの要素を持っていることです。

要素 狙う事故 動き方 整定するもの
限時要素 過負荷、遠方の短絡 電流が大きいほど早く動く(反限時特性)。小さな過電流はしばらく様子を見る 電流タップ(動作電流)
時間レバー(動作時間)
瞬時要素 近くの短絡(大電流) 整定値を超えたら即座に動く。待たない 瞬時整定電流
なぜ「待つ」要素があるのか
電動機の始動時には、定格の何倍もの電流が数秒間流れます。これでいちいち遮断していたら設備が使えません。
一方、本物の短絡なら電流は桁違いに大きい。だから「大きいほど早く切る」反限時特性が合理的なのです。
この「待つ時間」が、次に説明する保護協調の鍵になります。
誘導形とデジタル形
昔ながらの誘導円板形は、円板が回って接点を閉じる機械式。整定はタップとレバーで行います。
現在の主流はデジタル(静止形)継電器で、多要素を1台に収め、事故電流の記録や自己診断機能も持ちます。
ただし電源が要る点は要注意。図面では制御電源の供給元を確認してください。


DGR(67G)とGR(51G)― 地絡を判断する

地絡保護は、第4回・第7回と一本の線でつながっています。ZCTが零相電流を、ZPDが零相電圧を取り出し、DGRがその両方から判断するという流れです。

📐 GRとDGRの判断のちがい
GR(無方向・51G)
ZCT ──▶ 零相電流 I0
      │
   「大きさ」だけ見る
      ▼
   しきい値を超えたら動作
安価で単純。ただし構外の事故でも電流が流れるため、ケーブルが長いと誤動作しやすい。
DGR(方向性・67G)
ZCT ──▶ 零相電流 I0
ZPD ──▶ 零相電圧 V0
      │
  「位相の関係」を見る
      ▼
 構内向きの事故だけ動作
I0とV0の位相関係から事故の向きを判別。構外事故では動作しないのでもらい事故を防げる
ポイント:ZPDがあるかどうかが、そのままGRかDGRかの見分けになります(第7回)。構内の高圧ケーブルが長い物件ではDGRが事実上の標準です。
整定するもの(代表的な項目)
地絡電流の整定値…どれだけ漏れたら動作するか
動作時間…何秒で引外すか
零相電圧の整定値…DGRの場合、方向判別に使う電圧のしきい値

いずれも電力会社側の地絡保護より先に動くように決めます。ここを外すと、事故のたびに配電線ごと停電=波及事故になります。具体的な数値は物件と電力会社の協議で決まるため、整定値は必ず協議結果に従ってください

UVR(27)とOVR(59)― 電圧を判断する

電圧系の継電器
UVR(27)不足電圧継電器
・停電や電圧低下を検出する
非常用発電機の自動始動の合図になる(第13回)
・電動機の再始動による突入電流を防ぐため、負荷を切り離す用途にも使う

OVR(59)過電圧継電器
・異常な電圧上昇を検出する
・太陽光などの系統連系保護で使われることが多い

どちらもVTの二次側につながります。VTが飛べばこの2つも機能しません(第7回のVTヒューズの話につながります)。


保護協調 ― 事故の場所だけを切り離す

ここが第8回の山場です。保護協調とは、事故が起きたときに事故点にいちばん近い保護装置だけが動作し、上位は動かないようにすることです。

📐 上位ほど遅く、下位ほど速く
【上位】配電用変電所の保護        遅い
   │
   │ PAS / UGS(SOG)
   │
   │ 主遮断装置(VCB+OCR / PF)
   │
   │ 変圧器一次側(LBS+PF)
   │
【下位】低圧のMCCB・ELCB        速い
たとえば低圧の分岐回路で短絡したとします。
・正しく協調が取れていれば → その分岐のMCCBだけが落ちる。他の部屋は生きている
・協調が取れていないと → 主遮断装置まで動作して建物全体が停電。最悪は配電線まで波及

この「どこまで巻き込むか」を決めるのが保護協調です。

📊 保護協調曲線(時間 ― 電流特性)
協調が取れているかは、縦軸に動作時間、横軸に電流をとった対数グラフに各機器の特性を重ねて確認します。
・下位の曲線が常に左下(速く動く側)にあること
・上位との間に時間差(一般に0.3〜0.4秒程度)が確保されていること
・変圧器の励磁突入電流や電動機の始動電流で誤動作しないこと

この図が保護協調図で、第2回で触れた「図面に付いてくる書類」の1つです。電力協議でも求められます。

ペンタ
「速く切れるほど安全」だと思ってました。上位をわざと遅くするんですね…。
はりた
そう。速さの競争じゃなくて、順番の設計なんだ。上位は「下位が仕事を終えるのを待つ」。だから整定値は1台ずつ決めるんじゃなくて、系統全体で決めるんだよ。

単線結線図では、こう描かれる

保護継電器まわりの記載要素
器具番号…51(OCR)、67(DGR)、51G(GR)、27(UVR)、59(OVR)
入力元…CTから51へ、ZCT+ZPDから67へ、VTから27へ。線がどこから来ているかを追う
出力先…52T(引外しコイル)へ。CB形ならここが保護の出口
整定値…図面に併記する場合と、別紙の整定表にまとめる場合がある
制御電源…デジタル継電器の場合は電源供給元

単線結線図では「51」と書かれた小さな箱1つですが、その動作の中身は展開接続図でしか読めません(第2回)。


新人がやりがちなミス 3選

① 整定値を1台ずつ独立に決める
保護は系統全体で1つの設計です。「この変圧器なら何A」と単独で決めると、上位・下位の協調が崩れます。必ず上流から下流までを1枚の協調図で確認してください。
② 継電器が動けば遮断器も切れると思い込む
継電器は接点を閉じるだけ。そこから引外しコイル(52T)まで回路がつながり、トリップ電源が生きていて、初めて遮断器が動きます。動作特性試験だけでなく、引外し試験までが保護の確認です。
③ 設備を増設したのに整定を見直さない
変圧器や負荷を増やせば、電流も短絡容量も変わります。増設は保護協調の再確認とセット。図面だけ描き足して整定はそのまま、というのが最も多い実務の抜けです。

まとめ

第8回のまとめ
・保護は検出(変成器)→ 判断(継電器)→ 実行(遮断器)の3段構え
・OCRには限時要素(大きいほど早く)瞬時要素(即座に)がある
・限時要素が「待つ」のは、始動電流で誤動作しないためであり、協調のためでもある
GRは大きさだけ、DGRは位相まで見て方向を判別する
・UVR(27)は停電検出と発電機始動、OVR(59)は過電圧と系統連系保護
保護協調=事故点にいちばん近い装置だけを動かす設計。上位ほど遅く
・整定値は系統全体で決める。増設したら必ず見直す
✅ 今日のチェックリスト(できたらチェック)

よくある質問

Q. 整定値は自分で決めていいのですか?
地絡保護をはじめ、電力会社側の保護と協調する部分は協議事項です。構内だけで完結する部分(変圧器一次のPFや低圧のMCCB)は設計側で決めますが、それも上位との協調が前提。単独で決めてよい整定値はほぼないと考えてください。
Q. PF・S形には保護継電器がないのですか?
短絡保護はヒューズの溶断特性そのものが継電器の代わりを果たします(第6回)。ただし地絡保護は別で、PAS側のDGRか、キュービクル内のZCT+GRで受け持ちます。「継電器がない=保護がない」ではありませんが、整定の自由度は下がります。
Q. 保護継電器の試験はどのくらいの頻度で必要ですか?
保安規程で定めた頻度に従います。一般には年次点検にあわせて動作特性試験を行い、あわせて引外し回路まで含めた連動試験を実施するのが望ましい形です。継電器は「ふだん動かない機器」なので、試験でしか健全性を確認できません。
Q. デジタル継電器なら誤動作しませんか?
機構部がないぶん機械的な劣化は少ないですが、整定の誤りや制御電源の喪失には無力です。また電子部品には寿命があり、メーカーは更新推奨時期を定めています。「デジタルだから安心」ではなく、何を確認すべきかが変わるだけと考えてください。


次回予告

第9回:変圧器部 ― 容量・結線・台数の決め方
ようやく「変える」ブロックです。なぜ電灯用と動力用を分けるのか、Δ結線とV結線は何が違うのか、二次電圧が105V/210Vである理由、そして変圧器容量をどう決めるのかを扱います。

参考:高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025(日本電気協会)/JIS C 4602 高圧受電用過電流継電器/JIS C 4601 高圧受電用地絡継電装置/JIS C 4609 高圧受電用地絡方向継電装置/JEM 1090 制御器具番号

次に読むならこれ【コンセント設備の設計マニュアル⑥・最終回】図面化と拾い・積算 ― 「あとで拾える図面」で締めくくる設計マニュアル