📚 この記事は連載「高圧受変電設備の設計マニュアル」(全14回)最終回です。前回:第13回 非常用発電設備と系統連系/資料編:機器別 目的早見表

こんにちは、HARITAの設計室です。最終回は書き方編。ここまで13回かけて読んできた単線結線図を、白紙から自分で描くところまで持っていきます。

第1回で「読む力と描く力を1本の連載でつなげる」と書きました。読めるようになった人は、実はもう描けます。足りないのは順番と作法だけです。

ペンタ
読むのはだいぶ慣れました。でもいざ白紙を前にすると、どこから線を引けばいいのか固まっちゃって…。
はりた
固まるのは情報が足りていないとき。描けないんじゃなくて、まだ決まっていないことがあるだけなんだ。まずは集めるものからいこう。

描き始める前に集める6つの情報

これが揃えば、単線結線図は描ける
① 建物の用途と規模…延床面積、階数、テナントの有無、将来計画(第1回・第9回)
② 負荷リスト…電灯・動力・非常用に分けた設備容量(第9回・第10回)
③ 受電方式…架空引込か地中引込か。前面道路の状況で決まる(第4回)
④ 受電設備容量…主遮断装置の形式を決める基準(第6回)
⑤ 電力会社との協議結果…短絡容量、1線地絡電流 Ig、保護の整定方針(第6回・第8回・第12回)
⑥ 特殊条件…非常電源の要求、系統連系の有無、塩害・雷害などの立地条件(第13回)

⑤が抜けたまま描き始めると、必ず描き直しになります。電力協議は早めに動いてください。

作図の8ステップ

📐 白紙から完成まで
① 表題欄と受電条件を書く
  3φ3W 6.6kV 60Hz
   ↓
② 引込部 PAS / UGS、CH
   ↓
③ 受電部 VCT・Wh → DS → LA
      → 主遮断装置(VCB / PF・LBS)
   ↓
④ 計測と保護 VT・CT・ZCT・ZPD
       → 51・67・27
   ↓
⑤ 高圧母線を引く
   ↓
⑥ 母線からぶら下げる
  変圧器バンク/コンデンサ回路
   ↓
⑦ 低圧配電部 主幹 → 分岐 → 負荷名称
   ↓
⑧ 仕上げ 接地・凡例・注記・予備
上から下へ、一度だけ通る
電気の流れる順に描けば、行ったり来たりしません。第1回の6ブロックがそのまま作図順です。
③と④は分けて考える
まず主回路(電気が通る道)だけを描き切る。計測・保護は後から枝として足す。同時にやると混乱します。
⑧を軽視しない
接地・凡例・注記が抜けた図面は、読み手が判断できない図面です。ここまでが作図。
💡 コツ:まず「骨」だけ描いて全体を通す
いきなり定格や整定値を書き込もうとすると、途中で止まります。
1周目は機器記号と接続だけで最後まで通す。2周目で定格を入れる3周目で名称・注記・凡例
この3周方式なら、途中で情報が足りなくても手が止まりません。


レイアウトの作法

読みやすい図面にするための約束
① 電気の流れは上から下へ…受電が上、負荷が下
② 線はできるだけ曲げない…折れ曲がりが少ないほど追いやすい
③ 交差を減らす…やむを得ず交差するときは、見誤らない表現にする
④ 同種の機器は高さを揃える…変圧器バンクの記号は横一線に並べる
⑤ 相の配置をそろえる…三相回路は、左右なら左から第1相・第2相・第3相・中性相(JEM 1134を準用)
⑥ 凡例は決まった位置に…その図面で使う記号を必ず一覧に
⑦ 余白を残す…将来の増設を描き足せる余地を残しておく

③〜⑤は、三線結線図・展開接続図でより効いてきます。

三線結線図へ展開する

単線結線図が固まったら、必要に応じて三線結線図に展開します。やることは「1本の線を3本に戻す」――ただしその過程で、単線では省略していた情報を決める必要があります。

展開のときに決めること
① 変成器の個数…CTは2個か3個か。VTはV-V結線か(第7回)
② 極性…CT・VTの一次と二次の向き。方向性のあるDGRでは死活問題(第8回)
③ 変圧器の結線…Δ-Δ、Δ-Y、V-Vのどれか。中性点の扱い(第9回)
④ 相の配置…どの相をどこに描くか。JEM 1134を準用してそろえる
⑤ 接地の位置…B種をどの端子に落とすか(第12回)

単線結線図で「書いていなかったこと」が、そのまま三線結線図で決めるべき項目になります。第2回の「わからないことの列」が、ここで効いてきます。

展開接続図へ展開する

主回路から制御回路へ
展開接続図は、制御電源の一方から他方へ、動作の順に横へ並べて描きます。
① 保護の流れ…51 → 52T(引外し)
② 表示の流れ…52a → 表示灯(入)、52b → 表示灯(切)
③ 警報の流れ…52b や 86 → ブザー・警報接点
④ 操作の流れ…操作スイッチ(3)→ 52C(投入)
⑤ インタロック…相手の 52b を直列に入れる(第13回)

第3回で覚えた器具番号と補助記号(52a・52b・52T・52C)が、ここで全部使われます。展開接続図が読めれば、設備の動きが読めるということです。


セルフチェックリスト ― 描き終わったら自分で点検する

提出前に自分で見つけられるミスは、自分で見つけましょう。各回で扱ってきた項目を、作図の観点でまとめました。

✅ 単線結線図 セルフチェック20項目
■ 全体




■ 引込・受電




■ 保護





■ 変圧器・低圧・力率





■ 接地・予備電源


連載を終えて ― 14回の地図

ここまでたどってきた道のりを、1枚に整理します。図面を読むときに立ち返る場所として使ってください。

テーマ この回の核
第1回 目的と用途 受ける/測る/守る/変える/整える/備えるの6つの役割
第2回 図面の種類と役割 4つの図面は「答えてくれる質問」が違う。竣工図で判断する
第3回 記号の読み方 図記号=なにモノか/文字記号=なんて呼ぶか/器具番号=なにをするか
第4回 引込部 責任分界点と、波及事故を出さないためのPAS・UGS
第5回 受電部① 測る→切り離す→守るの順に並ぶ理由
第6回 主遮断装置 CB形とPF・S形。定格電流ではなく定格遮断電流で選ぶ
第7回 計器用変成器 高圧を「測れる大きさ」に落とす。CT二次開放は厳禁
第8回 保護継電器と協調 検出→判断→実行。保護は速さの競争でなく順番の設計
第9回 変圧器部 電灯と動力を分ける理由。容量は需要率・不等率で絞る
第10回 低圧配電部 ブレーカーは電線を守る。負荷名称が図面の質を決める
第11回 力率改善 SRの6%は、第5調波を誘導性側に追い出すための値
第12回 接地 B種だけ目的が違う。速く切れるなら抵抗値は緩めてよい
第13回 予備電源・系統連系 逆充電と単独運転。構外に迷惑をかけないという思想
第14回 作図とセルフチェック 6ブロックがそのまま作図順。3周方式で描き切る
ペンタ
最初は暗号にしか見えなかった1枚が、いまは「ここは守る場所」「ここは配る場所」って読めます。…なんか、感慨深いです。
はりた
ここからが本番だよ。図面は、10年後の誰かへの手紙だ。自分が書いた1枚が、いつか誰かの停電作業を助ける。そう思って描けば、粒度も注記も自然に決まってくる。おつかれさま。


まとめ

第14回のまとめ
・描く前に6つの情報を集める。とくに電力協議の結果がないと描き直しになる
・作図順は第1回の6ブロックそのまま。上から下へ一度だけ通る
3周方式…1周目は骨(記号と接続)、2周目は定格、3周目は名称・注記・凡例
・主回路を描き切ってから、計測・保護を枝として足す
・三線結線図への展開では、単線で省略していた情報を決める(個数・極性・結線・相配置)
・展開接続図では器具番号と補助記号がすべて使われる
・提出前にセルフチェック20項目で自分の図面を点検する

よくある質問

Q. 手描きとCAD、どちらで練習すべきですか?
最初の数枚は手描きをおすすめします。CADはコピー&ペーストができるぶん、意味を考えずに配置できてしまうからです。手で描くと「なぜここにこれを置くのか」を毎回考えることになります。構造がつかめたらCADへ移ってください。
Q. 過去図の流用はよくないことですか?
流用そのものは実務では当たり前です。問題は「なぜそうなっているか」を確認せずに流用すること。容量も、受電方式も、協議結果も物件ごとに違います。流用するなら、この連載のセルフチェック20項目で全部見直す——それが安全な流用の仕方です。
Q. この連載の次は何を勉強すればいいですか?
3方向あります。①計算を深める(短絡電流、保護協調、変圧器容量、幹線サイズ)。②法令を体系で押さえる(電技解釈・内線規程・高圧受電設備規程)。③現場を見る(年次点検に同行し、図面と実物を突き合わせる)。
とくに③は効きます。図面で読んだものを実物で見た瞬間、知識が経験に変わります。
Q. 全部は覚えきれません…
覚えなくて大丈夫です。この連載は手元に置いて引くためのマニュアルとして作りました。機器別 目的早見表と、この回のセルフチェック20項目をブックマークしておいてください。必要なときに引ければ、それで仕事はできます。
📋 連載「高圧受変電設備の設計マニュアル」全14回+資料編
第1回 高圧受変電設備とは何か ― 目的と用途
第2回 設計図書の種類と役割
第3回 図記号・文字記号・器具番号の読み方
第4回 引込部 ― 責任分界点とPAS・UGS
第5回 受電部① 計量装置・断路器・避雷器
第6回 受電部② 主遮断装置 CB形とPF・S形
第7回 計器用変成器と計器 VT・CT・ZCT・ZPD
第8回 保護継電器と保護協調
第9回 変圧器部 ― 容量・結線・台数の決め方
第10回 低圧配電部 ― 幹線・MCCB・負荷名称
第11回 力率改善設備 ― SC・SRと6%の根拠
第12回 接地 ― A種〜D種の目的
第13回 非常用発電設備と系統連系
第14回 作図手順とセルフチェック(本記事)
資料編 機器別 目的早見表

参考:高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025(日本電気協会)/内線規程 JEAC 8001/電気設備の技術基準の解釈/JIS C 0617 電気用図記号/JEM 1090 制御器具番号/JEM 1134 交流の相及び直流の極性による器具及び導体の配置と色別/JIS C 4620 キュービクル式高圧受電設備

次に読むならこれ【コンセント設備の設計マニュアル⑥・最終回】図面化と拾い・積算 ― 「あとで拾える図面」で締めくくる設計マニュアル