新人の学習ルート 8. 接地の考え方を身につける
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技術図書館接地は何のためか|流すのではなくそろえる感電は触れた2点の電位差で起きる。保護・機能・雷保護の3つの目的で、求められることが変わるこの資料をスライドで見る資料一覧を見る
この記事は連載「接地・雷保護の設計マニュアル」(全5回)の1本です。
接地の3つの目的と、目的ごとに効いてくる要求をまとめた記事の全体像
接地は何のためにあるのかを解説。地面に流すのではなく電位をそろえるという考え方、3つの目的、A〜D種が目的の分類ではない理由まで。

こんにちは、HARITAの設計室です。

今回から新しい連載「接地・雷保護の設計マニュアル」を始めます。

接地は、電気設備のなかでいちばん「なんとなく」で流されやすいところだと思います。図面には接地極の記号が並び、仕様書には抵抗値が書いてある。でも「なぜその値なのか」「なぜここに打つのか」を聞かれると、答えに詰まる。

理由のひとつは、接地という言葉が3つの違うものを指しているからです。第1回は、そこを分けるところから始めます。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 接地は、何のためにやる工事ですか
  • 図面のその抵抗値は、どこから来た数字ですか
  • 通信機器のアースを、他の設備と一緒にしてよいですか
ペン太ペン太
アースって、電気を地面に捨てるための工事ですよね?
はりたはりた
そこが最初のつまずきどころ。捨てるんじゃなくて、電位をそろえるための工事なんだ。
ペン太ペン太
そろえる、ですか。
はりたはりた
人が感電するのは電気に触れたからじゃない。触れた2点に差があるから。だから差を小さくする。
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。

危ないのは「電気がある」ことではない

トピック1:電位差がなければ、感電しない
危ないのは「電気がある」ことではない接地がない機器の金属部≠大地電位に差があるので、触れると人の体が電流の通り道になる感電するのは、電位差があるから接地がある機器の金属部≒大地電位が近いので、人の体にはほとんど電流が流れない接地は、電位をそろえる工事接地は「電気を捨てる」ためではなく「差をつくらない」ためHARITAの設計室

まず、感電がなぜ起きるのかを確認します。

人が感電するのは、電気に触れたからではありません。触れた2点のあいだに電位差があり、その差によって人の体に電流が流れるからです。電位差がなければ、そこに電圧がかかっていても人体に電流は流れません。

機器の外箱が絶縁不良で充電したとき、外箱と大地のあいだには電位差が生まれます。そこに人が立って触れると、人が電流の通り道になります。

接地は、この外箱の電位を大地の電位に近づけておく工事です。差が小さくなれば、人体に流れる電流も小さくなります。

「電気を地面に捨てる」ではありません
接地線に電流が流れることはあります。地絡電流を流して漏電遮断器や過電流遮断器を動作させるのも、接地の大事な役割です。
ただしそれは手段であって目的ではありません。目的は「危険な電位差をつくらないこと」。この順番を取り違えると、抵抗値だけを追いかけて肝心の導通やボンディングを見落とします。

感電のしくみそのものは 新人講座 第15回 接地(アース)のきほんと接地線サイズ でも扱っています。

接地には、3つの目的がある

トピック2:アースは3種類ある
接地には、3つの目的がある1保護接地人を守る露出金属部の電位を大地に近づける2機能接地機器を正しく働かせる基準電位をつくるノイズを嫌う3雷保護用接地雷電流を散らす大きな電流を安全に大地へ逃がす同じ「アース」と呼んでいても、求めているものが違いますどの目的の接地なのかを、先に決めるHARITAの設計室

同じ「アース」と呼んでいても、求めているものは3種類あります。

保護接地 人を守るための接地です。露出した金属部の電位を大地に近づけ、地絡が起きたときに保護装置を確実に動作させます。いちばん基本になるものです。

機能接地 機器を正しく働かせるための接地です。電子機器や通信機器が信号の基準にする電位をつくります。人の安全のためではなく、機器の動作のためにあります。

雷保護用接地 雷電流を大地へ安全に散らすための接地です。ここだけは「大きな電流を流す」ことが正面の目的になります。扱う電流の桁が違うので、要求も別物です。

実務でこの3つが混ざるのは、1つの接地極が複数の目的を兼ねることがあるからです。兼ねてよいかどうかは第3回で扱います。

ここまでのポイント
  • 感電が起きるのは「電気に触れたから」ではなく、触れた2点に電位差があるから
  • 接地は、外箱の電位を大地の電位に近づけて、その差を小さくする工事
  • 同じ「アース」でも、保護接地・機能接地・雷保護用接地の3つがある
  • 1つの接地極が複数の目的を兼ねることがあるので、実務では3つが混ざりやすい

目的が違えば、求めることも違う

トピック3:目的が違えば、要求も違う
目的が違えば、求めることも違う保護接地守る相手人効いてくる要求確実に低い抵抗と、切れない導通機能接地守る相手機器の動作効いてくる要求ノイズの少なさ。他系統との分離雷保護用接地守る相手建物と設備効いてくる要求大電流に耐える断面と、等電位化「とりあえずアースを取る」で済まないのは、ここが違うからですひとくくりにすると、どこかで足りなくなるHARITAの設計室

3つを並べると、効いてくる要求が違うことが分かります。

  • 保護接地は、確実に低い抵抗と、切れない導通が要る。端子1本の緩みで成立しなくなる
  • 機能接地は、抵抗値よりノイズの少なさが効く。他系統から回り込む電位変動を嫌う
  • 雷保護用接地は、大電流に耐える断面と、周囲との等電位化が要る

「とりあえずアースを取っておく」で済まないのは、ここが違うからです。どの目的の接地なのかを先に決めないと、何を満たせばよいのかが決まりません。

接地抵抗値が規定を満たしていても端子の緩みで導通が切れれば保護が成立しないことを示した図
抵抗値は測れる指標のひとつ。保護接地で効くのは、値よりも導通

たとえば通信機器のアースを、保護接地と同じ感覚で他の設備と一緒にしてしまうと、抵抗値としては合格でも機器が誤動作することがあります。逆に、ノイズを嫌って何もかも分けると、今度は系統間に電位差ができて別の問題が起きます。

接地を分離した場合に系統間へ電位差が生じ、共用して等電位化すると差が小さくなることを比べた図
分けた結果、系統間に電位差ができることがある
ペン太ペン太
通信機器のアースを他の設備と一緒にしたら、誤動作したことがあります。
はりたはりた
抵抗値は合格でも起きる。機能接地が求めているのは値じゃなくてノイズの少なさだからね。
ペン太ペン太
じゃあ全部分ければいいんですか。
はりたはりた
それが次の落とし穴。何もかも分けると、今度は系統間に電位差ができる。判断の基準は第3回で。

A種〜D種は「目的」の分類ではない

トピック4:A種〜D種は目的の分類ではない
A〜D種は「目的」の分類ではないよくある誤解A種=いちばん厳しい接地D種=いちばん軽い接地だから重要な機器はA種にする実際の決まり方何に施すか(対象)と使用電圧で区分が決まる設計者が好みで選ぶものではない区分ごとの中身は既存の記事にまとめてあります。この連載では区分の先を扱います種別は入口。設計の中身はその先にあるHARITAの設計室

ここで、よくある誤解をひとつ潰しておきます。

A種・B種・C種・D種は、接地の目的による分類ではありません。「何に施すか(対象)」と「使用電圧」で区分が決まります。設計者が重要度を見て好きに選ぶものではない、ということです。

区分ごとの中身と接地線サイズは 接地線の太さ早見表と接地工事の種類 に、種別ごとの解説は A種・B種・C種・D種 にまとめてあります。受変電設備の中での使い分けと、B種だけが他と性格の違う理由は 高圧受変電設備の設計マニュアル⑫ 接地 が正面から扱っています。

この連載が扱うのは、区分の「先」です
種別が決まったあとにも、決めることは残ります。接地極をどこに何本打つのか、共用するのか分けるのか、何と何をボンディングするのか、雷保護とどうつなぐのか。この連載はそこを扱います。
ここまでのポイント
  • 保護接地は低い抵抗と切れない導通、機能接地はノイズの少なさ、雷保護用接地は大電流に耐える断面と等電位化
  • どの目的の接地かを先に決めないと、何を満たせばよいかが決まらない
  • A種〜D種は目的の分類ではなく、「何に施すか」と「使用電圧」で決まる区分

この連載で扱うこと

トピック5:全6回の地図
接地・雷保護の設計 6ステップ1接地の目的流すのではなく、そろえる2接地極と抵抗抵抗値は土が決める3共用と分離分けるほど安全とは限らない4等電位ボンディング電位差をゼロに近づける5雷保護の全体像外部と内部は別の話6SPDと図面化図面に残して引き継ぐ上の段が接地そのもの、下の段がつなぎ方と雷地面に流すのではなく、電位をそろえるHARITAの設計室

全6回の流れです。

①接地の目的(今回)で3つの目的を分け、②接地極と抵抗で「どこに何本打つか」と抵抗値の実際を見ます。③共用と分離でつなぐ・分けるの判断、④等電位ボンディングで電位差そのものへの対策。⑤雷保護の全体像で外部と内部の役割分担を整理し、⑥SPDと図面化で他人が読める形にして終わります。

上の段が接地そのもの、下の段がつなぎ方と雷、という構成です。

数値の扱いについて
この連載では、接地抵抗値・土壌抵抗率・離隔距離・SPDの定格といった具体的な数値を断定的には書きません。現地の土や建物条件で変わるものが多く、規程の項番も版によって変わるためです。判断の材料と確認先を示すところまでを担当します。

まとめ

トピック6:ここまでのまとめ
  • 感電が起きるのは電位差があるから。接地は電位をそろえる工事
  • 「地面に捨てる」ではない。電流を流すのは手段であって目的ではない
  • 接地には保護接地・機能接地・雷保護用接地の3つの目的がある
  • 目的が違えば要求も違う。どの目的の接地かを先に決める
  • A種〜D種は目的の分類ではない。対象と使用電圧で決まる区分
  • この連載は、区分が決まったあとの「どこに・何と・どうつなぐか」を扱う
今回の合言葉
地面に流すのではなく、電位をそろえる。
接地の話で迷ったら、まずこの一点に戻ると判断がつきます。

よくある質問

トピック7:よくある質問

Q1. 接地抵抗値さえ満たしていれば大丈夫ですか?

足りません。抵抗値は測れる指標のひとつにすぎません。保護接地では、接地線が確実につながっていること(導通)のほうが実際の事故に直結します。端子の緩み1か所で、抵抗値が合格でも保護は成立しなくなります。

Q2. 機能接地は、保護接地と一緒にしてはいけないのですか?

一律に禁止されるものではありません。むしろ共用したほうが電位差ができにくく有利な場面もあります。判断の基準は第3回で扱いますが、「分ければ安全」という思い込みだけで決めないのが大事です。

Q3. 雷保護用接地は、他の接地とつないでよいのですか?

現在の考え方では、分離するのではなく等電位化する方向が基本になっています。雷電流が流れたときに系統間で大きな電位差が生じることを避けるためです。詳しくは第4回と第5回で扱います。

Q4. 既存建物の接地が図面と違うことがあります。どうすればいいですか?

改修案件ではよくあります。まず現状を測って記録するのが出発点です。図面のとおりだと仮定して設計を進めると、施工段階で必ず食い違いが出ます。測定値と、どこにつながっているかの実測を先に押さえてください。

既存建物で図面の接地と現地の実測が食い違う例と、測る・たどる・決めるの手順を示した図
改修案件では、図面ではなく実測から始める

次回予告

トピック8:次回は「接地極と接地抵抗」

第2回は「接地極と接地抵抗」です。接地極をどこに何本打つのか、抵抗値がなぜ思ったように下がらないのか、下がらないときに何ができるのか。そして測定と記録の話をします。

合言葉は「抵抗値は設計ではなく、土が決める」。→ 第2回 接地極と接地抵抗 を公開しました。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。