📚 この記事は連載「高圧受変電設備の設計マニュアル」(全14回)の第9回です。前回:第8回 保護継電器と保護協調/資料編:機器別 目的早見表

こんにちは、HARITAの設計室です。第9回でようやく、6つの役割のうち「変える」ブロックに来ました。変圧器部です。

単線結線図の中央に、丸が2つ重なった記号が並んでいるところ。なぜ変圧器は1台ではなく、何台も分けて置かれているのか――ここが分かると、図面の下半分が読めるようになります。

ペンタ
変圧器って、大きいのを1台置けば済みませんか?3台に分かれてると、値段も場所も増えますよね…。
はりた
いい質問。答えは「負荷の性格が違うから」。エアコンが起動したたびに事務室の照明がちらついたら、誰も納得しないでしょ。分ける理由はそこにあるんだ。

変圧器の仕事は「電圧を変える」だけではない

変圧器が果たしている2つの役割
① 電圧を変える…6,600Vを、照明やコンセント動力が使える電圧へ落とす
② 高圧と低圧を絶縁で切り離す…一次巻線と二次巻線は電気的につながっていない。磁気で結合しているだけ

②は見落とされがちですが重要です。絶縁されているからこそ、低圧側は「別の世界」として扱える。逆に言えば、この絶縁が破れる(混触)と、低圧側に高圧が入ってきます。それを防ぐのがB種接地工事で、第12回で扱います。

なぜ電灯用と動力用を分けるのか

項目 電灯用(単相変圧器) 動力用(三相変圧器)
二次電圧 単相3線式 105V/210V 三相3線式 210V
つなぐ負荷 照明、コンセント、OA機器 空調機、ポンプ、エレベータ、厨房
負荷の性格 小さな負荷が数多く、比較的一定 起動時に大きな電流が流れる
分ける理由 動力の起動で電圧が一瞬下がっても、照明がちらつかないようにするため。あわせて、片方を停電させてもう片方を生かす運用ができる
📖 なぜ二次電圧が「105V/210V」なのか
実際に使う電圧は100V/200Vですが、変圧器の定格二次電圧は105V/210Vです。
これは幹線や分岐回路で生じる電圧降下をあらかじめ見込んでいるため。変圧器の出口で210Vにしておけば、末端の機器に200V前後で届きます。
図面に「6600/210V」「6600/210-105V」と書かれていたら、出口の電圧であって、使用電圧ではないと読んでください。

結線の読み方 ― Δ・Y・V

📐 主な結線と、その意味
Δ―Δ(デルタ)
△ ─ △
動力用の標準。第3調波が環流して外に出にくい。1台が故障してもV結線として運転を続けられるのが強み。
Δ―Y(スター)
△ ─ Y
二次側に中性点が取れる。三相4線式(240/415V級)にでき、大規模ビルの幹線を細くできる。
V―V(ブイ)
V ─ V
単相変圧器2台で三相をつくる。3台分より安いが、出力はΔ結線3台の約57.7%にとどまる(2台の合計容量に対する利用率は約86.6%)。
図面での見分け方:変圧器記号のそばに Δ Y V の印か、「3φ Δ-Δ」のような注記が入ります。単線結線図では省略されることも多く、その場合は三線結線図で確認します(第2回)。
📎 V結線の容量計算は、当サイトに専用の解説があります。
→ 単相変圧器2台をV結線変圧器にすると何kVAで使えるの?


変圧器容量はどう決まるか

「負荷の合計=変圧器の容量」ではありません。全部の負荷が同時に全開で動くことはないからです。実務では次の順で絞り込みます。

📐 容量を決める4ステップ
① 設備容量を積み上げる
  照明・コンセント・空調・動力…を全部足す
   ↓ ×需要率(同時には使わない)
② 最大需要電力を出す
   ↓ ÷力率、÷不等率(ピークもずれる)
③ 必要な変圧器容量[kVA]を求める
   ↓ 標準容量へ丸める+将来分を見込む
④ 台数と1台あたりの容量を決める
標準容量(kVA)…10・20・30・50・75・100・150・200・300・500 …
計算値が180kVAなら200kVAを選ぶ、という具合に標準容量へ丸めます。中途半端な容量の変圧器は基本的に作られません。
📎 需要率の適用や具体的な計算手順は、当サイトの個別記事で詳しく解説しています。
→ 変圧器容量の選定・計算方法と需要率の適用基準
→ 変圧器の過負荷運転と容量の検討方法
⚠ 大きすぎる変圧器は「損」をする
余裕を持たせすぎると、無負荷損(鉄損)を24時間365日払い続けることになります。変圧器の損失は、負荷に関係なくかかる無負荷損と、負荷の2乗に比例する負荷損(銅損)の合計。
全損失がいちばん小さくなるのはこの2つが釣り合う負荷率で、一般的な変圧器では40〜60%程度に収まる設計が経済的とされます。
「とりあえず大きめ」は、電気代で毎年跳ね返ってきます。

油入か、モールドか

項目 油入変圧器 モールド変圧器
絶縁・冷却 絶縁油に浸す エポキシ樹脂で固める(乾式)
価格 安い 高い
防災性 油があるため制約が出やすい 難燃性で有利。屋内に置きやすい
保守 絶縁油の管理・分析が必要 油の管理が不要。清掃が中心
設置 防油堤などの配慮が要る場合がある 発熱が大きく換気設計が重要
📎 選定の判断基準と、2026年から効いてくるトップランナー基準の話はこちら。
→ 油入変圧器とモールド変圧器の違いと選定方法
→ 【2026トップランナー変圧器 第1回】制度の全体像


単線結線図では、こう描かれる

変圧器バンク1つ分の記載要素(上から順に)
① 一次側開閉器…LBS(+PF)。定格と「ストライカ引外し付」
② PF(ヒューズ)…変圧器容量に応じた定格。励磁突入電流で溶断しない選定が必要
③ 変圧器 T…相数(1φ/3φ)、容量(kVA)、電圧比(6600/210V など)、結線(Δ-Δ など)
④ 二次側計器…CT+電流計、電圧計
⑤ 二次側主幹…MCCB または ACB(第10回)
⑥ 負荷名称…一般照明、一般動力、非常照明 など
📎 一次側開閉器とヒューズ容量の選び方は早見表つきの解説があります。
→ 変圧器一次側開閉器(PC・LBS)の選定方法とヒューズ容量早見表
→ 変圧器の励磁突入電流と有効的な対策方法

新人がやりがちなミス 3選

① 設備容量をそのまま変圧器容量にする
需要率・不等率を使わずに積み上げると、実際の2倍近い容量になります。過大な変圧器は初期費用も鉄損も無駄。「同時には使わない」を数字にするのが設計です。
② 単相3線式の不平衡を見ない
電灯用の単相3線式は、2つの相に負荷を均等に振り分ける必要があります。片寄ると中性線に電流が流れ、電圧も偏ります。内線規程では設備不平衡率30%以下が原則です。
→ 変圧器の設備不平衡率30%以下にできないときの対策
③ 二次電圧を100V/200Vと書いてしまう
変圧器の定格二次電圧は105V/210V。図面に100V/200Vと書くと、電圧降下の検討をしていないと受け取られます。出口の電圧と使用電圧は別物です。

まとめ

第9回のまとめ
・変圧器は電圧を変えると同時に高圧と低圧を絶縁で切り離す
・電灯用と動力用を分けるのは、動力の起動で照明をちらつかせないため
・二次電圧105V/210Vは、電圧降下を見込んだ「出口の電圧」
・結線はΔ-Δ(標準)/Δ-Y(中性点が取れる)/V-V(2台で三相・出力は約57.7%)
・容量は設備容量 →(需要率)→ 最大需要電力 →(不等率)→ 標準容量へ丸める
・大きすぎる変圧器は無負荷損を払い続ける。負荷率40〜60%程度が経済的
・油入は安価、モールドは防災性で有利。ただし換気設計に注意
✅ 今日のチェックリスト(できたらチェック)


よくある質問

Q. 電灯と動力を1台にまとめることはできますか?
技術的には可能ですが、おすすめしません。動力の起動電流で照明がちらつくほか、片方だけを停電させる運用ができなくなります。小規模で動力がごくわずかな物件では、単相変圧器1台にまとめる例もあります。
Q. V結線は「安くて得」ということですか?
2台で三相を作れるので初期費用と設置スペースは有利ですが、Δ結線3台に比べて出力は約57.7%にとどまります。同じ出力を得るには1台あたりを大きくする必要があり、必ずしも割安とは限りません。容量が中途半端になりやすい点も含めて比較してください。
Q. 将来の増設分はどれくらい見込むべきですか?
一律の正解はありません。建物の用途と、増設が実際に起こりうるかで判断します。テナントビルや工場のように用途変更が見込まれるなら余裕を、用途が確定した施設なら現状に合わせるのが基本。余裕は変圧器容量ではなく、盤のスペースや主遮断装置の容量で確保するという考え方もあります(第6回)。
Q. 変圧器の一次側にヒューズが入っているのはなぜですか?
その変圧器で事故が起きたときに、そのバンクだけを切り離して他を生かすためです。主遮断装置まで動作させないための、下位の保護にあたります。第8回の保護協調がここでも効いてきます。

次回予告

第10回:低圧配電部 ― 幹線・MCCB・負荷名称の書き方
変圧器の二次側から先です。主幹と分岐の考え方、MCCBの選定、そして「負荷名称をどの粒度で書くか」という、地味ですが図面の質を大きく左右する話をします。

参考:高圧受電設備規程 JEAC 8011-2025(日本電気協会)/内線規程 JEAC 8001/JIS C 4304・JIS C 4306(配電用変圧器)/エネルギーの使用の合理化等に関する法律(トップランナー制度)

次に読むならこれ【コンセント設備の設計マニュアル⑥・最終回】図面化と拾い・積算 ― 「あとで拾える図面」で締めくくる設計マニュアル